幼女軍医   作:瀧音静

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久しぶりの気がしますが一週間以上間隔開けてないので誤差です。
えぇ、誤差。


報酬

 たった一個大隊規模の援軍。

 しかし、その援軍で戦況を一変させたという事実に大隊以外の人間はこぞって驚愕していることでしょう。

 一変といっても、撤退濃厚から前線押し上げへと変わった程度で、我らが『白銀』率いる大隊にとっては圧勝という訳ではありませんが、少なくとも“程度”と呼べる戦功ではないかと思われます。

 尤も、あのデグレチャフ殿ならば、そう口にしても不思議には思いませんが。

 

「さて諸君。演習とは違った実戦はどうだったかね? 恐怖したか? それとも戦慄、あるいは拍子抜けだったかね?」

 

 敵前線部隊を退かせ、爆撃機をいくつか撃墜し、観測所すらも破壊した我ら大隊の面々は、現地防衛にあたっている部隊から祝福を受けている真っ最中であります。

 そんな宴会、あるいは懇親会とでも言うべき場で、デグレチャフ殿の最初の一声がこれ。

 大隊以外の方々はみな、呆気にとられているようであります。

 

「恐怖、戦慄した者についてはその心を忘れるな! 我らが敵は、いつ、いかなる時にその牙を剥いてくるか分からん。警戒は常々しておかねばならん。そして、拍子抜けした者は己の能力を過信するな! こちらの前線が崩れ、相手が警戒を緩めた時に、たまたま我らがあたることが出来たのだ。正面から戦うときは今回のように行かないと思え!」

 

 成果を上げたのに、飛んでくるのは気を引き締めさせるような叱咤(しった)

 慢心は身を滅ぼす。と言う考えのもとにデグレチャフ殿は言われているようで――であるならばこの後に続くであろう私が言葉を発する機会の時に、彼ら大隊には感謝を伝えましょう。

 

「とはいえ、戦果を上げたのは事実であるし、なにより諸君らの働きに対し、このような場を設けてもらったのだ。各員、今日だけはハメを外して楽しみ給え。以上」

 

 目の前にあるのは普段戦場では食べることが出来ないほどのごちそう。

 どうやら現地の部隊が、デグレチャフ殿の言うとおり、大隊の働きを労うために自腹で用意してくれたのだとか。

 デグレチャフ殿もああ言っておりますし、私も楽しませていただくとしましょう。

 

 

「ふぅ。今回の戦果は上々だったな」

「ご不満のようですが、爆撃機を撃墜しておいて、なお足りませんか?」

「どれだけ倒した。撃墜した。よりも、どれだけ敵国に痛手を負わせたか、が重要。そういう意味では今回は人的資源と爆撃機程度しか消耗させることが出来なかった」

 

 周りに挨拶をし、巡り巡ってようやく食事にありつき始めたデグレチャフ殿は、不満げに口にしながら、私の傍へと来てくれました。

 

「程度の概念について説明を。我ら一般人からしてみればその戦果は誇れるものであると思いますが?」

「アーデルハイト殿が一般? ……我ら帝国の人的被害の一割を白紙に戻す働きをしている軍医殿を、程度という括りには入れられんよ」

「では、『白銀』の二つ名を持つ大隊長殿にもまた、程度という表現は似合いません」

「だといいが」

 

 ポテトとソーセージをフォークでつつきながら遠くを見つめるデグレチャフ殿は、どこか物足りない様子。

 そう言えば一つ。デグレチャフ殿に、と預かっていたものがあったのでありました。

 

「デグレチャフ殿、これを」

「ん? ――――これは!?」

 

 服の裾に隠し持っていた一本のボトル。

 寒い地域に行くにあたり、体温確保の名目で物資リストに入れていたのですが、本部よりも現地の物資集積地から拝借した方が早かったもので。

 書類手続き諸々を先ほど終え、一番小さいボトルをここに持ってきておいたのでありました。

 こちらも現地部隊の皆様のポケットマネーであることは内緒であります。

 

「ワインであります。いくらこのような場であっても、流石に上司が飲まねば皆飲むことを躊躇うでしょう」

「……しかしだな――」

「年齢を気にするというのであればお気になさらず。軍医として、私が許可を出したことにしてしまえば、咎められるのは私になるかと」

「……いいのか?」

「構いません。――尤も、デグレチャフ殿が飲みたいのであれば、ですが」

 

 これだけ戦果を上げ続ける軍人に、何故に一つも報酬が、対価が支払われぬのか。

 ずっと疑問だったのでありますが、ここに来て一つ、結論に達しました。

 支払われぬのなら、私が与えてしまえばいいのです。

 私の思う見合った対価を、私の持てる全ての力を駆使して。

 

「あぁ! アーデルハイト殿! 恩に着るぞ!!」

 

 浮かない顔をしていたデグレチャフ殿は表情を一変。

 破顔し、眩しい笑顔を私に向けて、嬉しさを表現するためか抱きついて来てくれました。

 当然私はフリーズ。体の動きも思考も止まり、ただただその幸せな時間を噛み締めることしか出来ず。

 

「早速だがこいつを楽しんでくるよ。どうやらまだ乾杯が済んでいないらしいからな!」

 

 ボトルを受け取り、他の大隊のメンバーのところへと走り出したデグレチャフ殿の後ろ姿を眺めながら、私は、甘く熱っぽい吐息を誰にも聞かれぬように吐き出したのでありました。




こんにちは。現在とある奇襲作戦を決行中のターニャ・フォン・デグレチャフ少佐率いる魔導大隊専属軍医、フリューア・アーデルハイト軍医中尉であります。

皆様、眼下に広がるのが、北方特有のフィヨルドであります。
こんな雄大な自然の中で戦争をしなければならないなんて、本当に嫌になりますね。
人間が人間らしくあれない世界を救おうとする我らが神に祝福あれ。

次回、幼女軍医「フィヨルドの攻防」 ではまた、戦場で




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