幼女軍医   作:瀧音静

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一応生きてます。 ちょっと色々とございまして、少し空けてしまいました。
執筆する瀧音によく言っておきます←


続 フィヨルドの攻防

「何故お止めにならないのですか?」

 

 ルーデルドルフ閣下の部屋に入り、最初に口を開いたのはデグレチャフ殿。

 自分ばかりが意見を言い、参謀本部の人間であるルーデルドルフ閣下が口を挟まないことを不思議に思っているようでした。

 

「現状での全面攻勢など無謀。破綻は目に見えております」

 

 コーヒーのカップを片手に、座らず置かずで口を動かすデグレチャフ殿。

 よほど自分の見解に自信があるのでしょう。口調から実によく伝わってきます。

 そんなデグレチャフ殿に対し、閣下殿は――煙草の煙を吐き、

 

「少佐。私は本音で話がしたい。形式的な意見具申は必要無い」

 

 と言われましたが、デグレチャフ殿からの返答は素っ気ない物で。

 

「閣下、謹んで申し上げますが、小官は参謀将校です。せっかくのご諮問(しもん)ではありますが、先達に対する形式的儀礼上沈黙すべきかと愚考致しますが」

 

 口を開けば批判以外出てこないとの宣言でありました。

 

「中々辛辣な意見表明だな。よろしい、では本題に入ろう」

 

 そこまでは想定済みか、はたまた試したのでありましょうか?

 まるでデグレチャフ殿しかこの空間にいないかのように振る舞われ、話が進みます。

 

「仮に、だ。方面軍の言う攻勢計画を実行するとしたら、どのような意味を見いだす?」

 

 ? 見いだすも何も、短期攻勢で少しでも旗色をよくしようとする蛮勇の類いではないのですか?

 そこに意味などは……。

 しかし、どうも我らが『白銀』の意見は違った様です。

 

「西方、ライン戦線の助攻としては多少の意味を持つでしょう。共和国への攻撃準備が誤魔化せる可能性があります」

 

 けれども、いえ、それでもでしょうか。

 多少、や可能性、という言葉から効果はあまり期待できないようで――、

 

「うまくすれば西方の負担を軽くすることもあり得るのでは?」

「お言葉ではありますが、厳しいかと」

 

 自信を持ったその言い方から、恐らくデグレチャフ殿の頭の中では、既にいかなるパターンも展開済みなのでしょう。

 間髪入れずに答えていく様からも分かります。

 

「ライン戦線に影響を与えるほどの増援を、共和国が送り込むとは思えません」

 

 しかも我が帝国だけでなく、周辺国の動きまでも加味されているようで。

 …………本当に同い年でありましょうか? 不安になってきました。

 

「そのような観点からすると、全面攻勢はあくまで協商連合に対する陽動作戦と見るべきでしょう。前線への攻勢を陽動と見るならば、その真意は敵の後方を抑えることにあるかと……」

 

 吊された地図で自分の考えを示しているデグレチャフ殿ですが、少しその……身丈が足りていないようで。

 必死につま先立ちをし、背筋を如何に伸ばしても、もう僅かほど指し示したい場所には届かないようであります。

 …………私の上に乗られますか? あるいは肩車など――。

 か、肩車!? そんな、デグレチャフ殿の太ももが私の頬に当たってしまうではありませんか!?

 あぁ、こんな事ならば昨晩もっとよく体を洗っておくべきでした!

 いえ、汚れが気になるならば私を踏み台にして貰えばいいだけの話!

 ささ、デグレチャフ殿! 私に助力をお申しつけ下さい!!

 

「ん? 後方?」

 

 そんな私の気は露知らず、何やらご自身で発言した『後方』という単語に引っかかりでも覚えたのか、何やら思案を始めるデグレチャフ殿。

 

「? どうしたのかね、少佐」

 

 少しの間を置き、ルーデルドルフ閣下が尋ねると――。

 

「つまり今回の攻勢計画は――上陸のための攪乱が目的?」

 

 ファッ!? どこからそんな発想に繋がるのでありますか!?

 

「どこで耳にした!?」

「は? 何のことでしょうか?」

「上陸作戦の事だ! ゼートゥーア閣下から聞いたのか?」

 

 ルーデルドルフ閣下の隣にずっと立っておられた方が、驚きながらデグレチャフ殿に聞き返しますが、聞き返されたデグレチャフ殿もまた、驚愕の表情なのが面白いであります。

 ――もちろん、この時の私も驚愕の表情でありましたが。

 

「信じられん」

「驚きだな。一部の将校しか知らない作戦を言い当てるとは……」

 

 今一度確認させて下さい。私とデグレチャフ殿は本当に同い年でありますよね?

 一回りか二回り……いえ、それ以上に離れていると言われても私は信じますよ?

 

「目下の情勢から、一案として有効だと判断したまでであります」

 

 断言しておきましょう、私などがいくら頭を捻ったところで、生涯掛けても辿り着かぬ境地でありましょう。

 それくらいに今回の件は突拍子もないものであります。

 

「やはり貴様を使うことにしよう。二○三大隊は上陸作戦に先立ち、全軍の先鋒だ」

「は! 拝命致しました!」

 

 デグレチャフ殿の敬礼に合わせ、私も敬礼をします。

 すると、ルーデルドルフ閣下の顔がこちらを見ました。

 

「分かるとは思うが今までとは圧倒的に環境が違う。その違う環境でも、最高のパフォーマンスを見せられるようにするのも貴様の役目だ」

「重々承知であります」

「結構。……全く、最近の子達はしっかりしている。爪の垢を煎じて飲ませたい奴らが何名か思い当たるな……」

 

 デグレチャフ殿の爪の垢……?

 誰にも渡しませんよ!? それは全て私の物で、それを楽しめるのは私だけの特権でありますからね!?




相手の何気ない一言が核心を突いていて、不必要な用心をしなければならなくなったという経験はございませんか?
例えば、家族に隠し物の場所を言い当てられたり、など。
如何に心を許した相手とはいえ、見られたくない物の一つや二つは当然あることでしょう。
ご機嫌よう、フリューア・アーデルハイト軍医中尉であります。

私から一つ言わせて頂けるのならば、軍服に縫い合わせるように写真などを肩身離さず持ち歩く事は控えた方がいいかと。
私がいれば死ぬことはありませんが、銃弾が貫通し、恋人や奥さんの頭部が無くなっていると不吉なことこの上ないでありましょう?

次回 幼女軍医「作戦開始」 ではまた、戦場で

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