最低でも月一くらいで更新出来ればいいなぁ……。
ライヒではあまり珍しくもない貧しい修道院。
そこで私、「フリューア・アーデルハイト」は育てていただきました。
日々の畑仕事や出稼ぎ、シスター達との家事手伝いを漫然と、漠然とこなすだけの日々でしたが、今振り返ると貴重な体験だったと思い出せます。
辛くなく、厳しさを感じない生活だったか? と聞かれれば、千切れる勢いで首を横に振るかと思いますが。
しかし、そんな平和というか平穏というような生活は、私が八歳の頃にガラリと変わりました。
当時はあまり分かっていませんでしたが、どうやらその時には開戦前夜の狂熱に国全体が呑まれていたようなのです。
戦争は避けられない情勢だったらしい当時、それこそただの幼子に過ぎない私には、何の力もありませんでした――――いえ、力があるとは知りもしませんでした。
勝手に閉ざされたと決めつけた生きる道を、神は優しく私を導いて下さったのです。
それは、孤児院で行われた健康診断での事でした。
魔力適性検査にて「魔導適正・A」と判断された私は、その場で軍へ志願をしました。
こんな身で国の役に立てるなら、と。
私の勢いに、周囲の大人達が目を剥くほどだったと当時のことを記憶しています。
かくして私は士官学校に入学、軍人としての教育を施されることになりました。
あぁ、そうでした。入学に当たって、
「魔導適性は十分であるが、何故その年齢で志願したのか」
との問いかけがございました。
大人達からしてみれば、八歳の軍人というのは大変珍しいようで、何が私をそこまで突き動かしたかを知りたがっているようでした。
その質問への私の回答は、
「あのままの生活を続けていれば、私はきっと誰の目からも遠ざけられる存在になり果てていたと自覚しています。ですので、そのような存在に堕ちる身ならば、少しでも国のためになり得る軍人として過ごしたいと考えたからです」
であり、ここでも周りから奇異の目で見られました。
しかし、意欲が有り、魔導適性も持ち合わせている貴重な存在を軍として、国としては捨て置け無いが為に、私は晴れて軍人となれました。
――――ですが。
いくら高い魔導適性も、制御できなければ宝の持ち腐れ。
まともな飛行は出来ず、魔力を込めた銃弾は着弾前に暴発。
そもそも銃の反動で転がり回り、連発できないこの身体では、贔屓目に見ても邪魔以外の何者でもありませんでした。
困り果てた教官は、私を衛生兵訓練へと移しました。
厄介払いの為に行った教官の行動は、後の私の人生を大きく変えます。
衛生兵としての訓練を行うに際し、幼女である私が大の大人である負傷兵を担ぐことは敵わず、必然的に応急処置行為が回されるようになりました。
孤児院で毎日のように怪我をする他の子達に数少ない道具で応急処置をしていた経験がここで生き、手際の良さや正確さから軍医としての教育へと変更されました。
軍医助手として、座学で知識を学び、助手として求められる技術をモルモットを切り刻み継ぎ接ぎすることで学び、ようやく実習訓練となりました。
毎日のように運び込まれてくる負傷兵。
中には既に、生きているのさえ不思議な兵も居りましたが、それらも何とか延命させ、家族への最期の言葉くらいは遺せるようにと、軍医殿も含め私たちは努力しました。
もうすぐ実習訓練を修了する。
そう通達が来た直後の事でございました。
当時は「ターニャ・デグレチャフ准尉」とは知らず、ただの自分と同世代の幼女と認識していた彼女が運び込まれてきたのです。
神の奇跡でも起こらない限り、もはやベッドから起き上がれぬような、今すぐに息絶えても不思議では無いその存在が。
結果、神の御業により彼女は一命を取り留め、銀翼突撃章を拝受。
生きている内に授与される方が珍しいそれは、彼女の強さと我らがライヒへの思いの強さの表れ、と言うことでしょう。
さて、独断で行動し、瀕死の「白銀」殿をこの世に留めた軍医訓練生である私があの後どうなったかと申しますと――。
魔力の暴走にも近しい術式をターニャ殿へと施したのですから、いつ彼女の身体に変調が起こるか分かりません。
退院までは彼女に付き添い、経過観察せよ。との命令が下りました。
独断行動を責められるかと思っていましたが、どうやら軍にそのつもりは無かったようです。
どころか独断であれ何であれ、「白銀」を生かしたという実績を重く見て下さったらしく、「特別勲章」を下賜していただき、今現在その勲章は私の胸で輝いています。
「失礼します。白銀殿! フリューア・アーデルハイト軍医見習いであります! 入室の許可を!」
扉をノックし、返答を待ちますと、部屋の中からは微かな呻き声。
「失礼します!」
それを入室の許可だと判断し、入室して施錠しますと、疎ましそうな顔をこちらに向ける白銀殿のお姿がありました。
「アーデルハイト殿、その「白銀」という呼び方は何とかならないのか?」
「? お嫌でしたか?」
「上からそう呼ばれることは我慢するが、私たちは見たところ同世代だ。もっと気軽に呼んで欲しいものだがな」
「そういうことでありましたら……デグレチャフ殿、と」
「それで構わない。それで? 定期診察の時間かね? いつもより早いようであるが?」
デグレチャフ殿と会話をしながら、病室のカーテンを閉めると、疑問が投げかけられました。
「定期診察はもう少し後です。本日は……このようなものを持ってきました」
そう言って白衣の下に隠して病室に持ち込んだものを見せれば、デグレチャフ殿の顔が瞬時に明るくなります。
「そ、それは……まさか……」
「はい。コーヒー豆です」
銀翼突撃章授与式。そこに同じく特別勲章を授与される私も呼ばれており、その式の後には撮影や食事会が催されるとのこと。
その食事会で出てくるであろうコーヒーを飲まないのは失礼になってしまいますし、口に含んだとして苦みで吹き出してならない、と軍医殿から「舌を慣らす」目的でいただいた物になります。
そう説明したところ一刻も早く飲みたいと興奮していたデグレチャフ殿の表情が曇ります。
「どうかしましたか?」
「あー……いや。撮影……か」
「嫌なのですか?」
「あまり得意ではない」
「デグレチャフ殿は見目麗しくありますからきっと映えますよ。撮影の際には化粧でおめかしをして、衣装も合わせるんですから」
そう言うと一層表情が苦々しい物に変わりました。……コーヒーの味でも想像したのでしょうか?
「とりあえずコーヒーを淹れますね。少しお待ちください」
「すまないな。何せ左足と左腕を骨折していて動けないんだ」
「骨折した
すぐに表情は柔らかい笑みに戻り、そんな冗談を言ってきます。
治療直後に診察した結果、完治していると診断したのですが、その時既に意識が戻っていたデグレチャフ殿から「休みが欲しいから虚偽の診断結果にしてくれ」とお願いされ、私はそれに従いました。
期間にしてどれくらいかは分かりませんが、彼女は平穏な時間を手に入れたとのことです。
とはいえどこに人の目があるか分かりませんので、いついかなる時も私はデグレチャフ殿に手を貸すようにしていました。
コーヒーを淹れ終え、彼女を抱え上げながら状態を起こし、彼女の前へカップを持って行きますと、
「あぁ、良い香りだ。本物のコーヒーというのはやはり良い物だな」
カップを掴みもせず、自分だけ香りを楽しみ始めましたので、私は抗議します。
「デグレチャフ殿? 空いている右手で持って頂けますか?」
「ああ、すまない。心を躍らせすぎて忘れていたよ」
そう言ってようやくカップを私の手から取りあげた彼女は、ゆっくりと口を付け、コーヒーを含みました。
「ああ……素晴らしい。コーヒーをこうして楽しめるというのはなんたる贅沢か。もうしばらく入院していたい気分だ」
「本当は仮病はダメなんですからね? 今回は骨折が一瞬で治るなんて誰も信じていないので可能でしたが……ゲホッ!?」
言いながらコーヒーを口に含むと、思い切りむせました。
鼻をくすぐる香りと、想像を絶する苦みに。
「あぁ、勿体ない。アーデルハイト殿はコーヒーの良さが分からないようだ」
その言葉の真意は、「君が飲めないのならば仕方が無い。勿体ないから私が代わりに飲んでやろう」という事でしょうか。
いまだ咳き込みながらもカップを置き、呼吸を整えるために数度胸を叩きます。
うぅ……頭がクラクラします。
「これが食事会本番でなくて良かったな。軍医殿に感謝しておかねば」
等と言い、一人優雅にデグレチャフ殿はコーヒーを飲み続けますが、これは人間が飲むものなのでしょうか。
一口飲んだだけで目眩と頭痛が起きているのですが……。
後に軍医殿にこの事を言ったところ、私はコーヒーで酔う体質との疑惑が掛かり、コーヒーを口にしてはいけないと診断されてしまいました。
デグレチャフ殿が一人でコーヒーを楽しんだ後、ほとんどが意味の無い診察を終え、経過良好のサインを診断書に残し、私はデグレチャフ殿と様々な会話をして一日を終えました。
やぁ、世の不条理な物事に寛容と言う名の無頓着な皆様、無関心に人を殺すのはどんな気分ですか?
ご機嫌よう、フリューア・アーデルハイト軍医見習いであります。
いきなりですが、貴方のすがる理性は健全ですか?
自分の身体の事は理解していますか?
一つお伺いしたいのです。神を讃える覚悟はお有りですか?
或いは、神を信じ続ける決意はお有りですか?
第三話 「神がそれを望まれる」 ではまた、病院で。