どうも色々重なると更新頻度が減ってしまいますね。
そのくせ白銀の百合の方は更新してるのだから救いようがない。
とはいえ欲望全開の向こうとは違い、こちらは真面目な話なので多少書くのに手こずったり。
……なんですか? 十分真面目でありましょう? 意義があるものは投稿後三十秒以内に作文用紙十枚以上にまとめて持ってくるように。
デグレチャフ殿のお身体のなんとお美しいことか!
思わず工芸品の類いかと疑い、しばし観察してしまい、もの凄く怪訝な顔をされてしまいました。
「前から思っていたのだが、軍医殿は時折私の身体を見ながら物思いに耽っていまいか?」
「気のせいでは?」
「いや、あの思い出すのも忌々しい新型宝珠のテストの時も、何やら傷跡を見て考えていたはずだ」
覚えていましたか……。
ですがあの時はそれらしい言い訳や、話題を逸らしたため、見とれていたことなどは悟られなかったはず。
「もしやとは思うが……、その――姉妹でも居たのか?」
「はい?」
「いや、すまない。踏み込みすぎた質問だとは思ったが、もしやその手で肉親を――姉妹を看取ったのではないかと邪推してな。そう考えると色々と説明がつくものだからな……」
ピンクの突起がギリギリ指に当たらない位置。
けれどももしデグレチャフ殿が動けば、身動ぎすれば、事故的に私の手に触れてしまう位置。
そんな場所に聴診器を当てているのにそのような事を言われれば、動揺するのは当然ですよね?
動揺の結果、手が動いてしまうことは事故ですよね?
結果、聴診器からデグレチャフ殿の肌と擦れる音、突起を通り過ぎる音が鼓膜を震わせたことは、これはもう疑う余地もない事故でありますよね!?
…………一旦冷静になりましょう。何故デグレチャフ殿はそのような事を言いだしたのでしょうか?
「ふふ」
「む? 違ったか?」
一先ず笑った事で、デグレチャフ殿はこちらの顔をまじまじと見てきます。
そんな彼女へ、私が言うのは軍医という立場の言葉。
「例えそうであったとして、それがデグレチャフ殿にどう作用しますか?」
「何?」
「動揺、同情、あるいは哀れみ。どの感情でも、心情でも、それは戦場に必要なものなのでしょうか?」
確かに。小さくそう呟いたデグレチャフ殿は、私の言葉に耳を傾け続けます。
「私は軍医で、デグレチャフ殿は大隊長。軍医の役目には部隊のカウンセリングも入っています。それなのに、どうして逆にカウンセリングをされるようなことを口走るでしょうか? 合っていても、違っていても、私は恐らく、先ほどと変わらずに笑ったはずです」
それが『白銀』の後ろを――裏を支える者の矜持。
何故私が弱音なぞ吐けましょうか。弱いところを見せるでしょうか。
「デグレチャフ殿の対応は、無視。これが妥当でありますよ?」
「そうか……そうだな。失礼した、どうも見た目から幼子のように扱いそうになるが、貴官もまた、『白翼』なのだったな」
どうやら納得していただけたようで、一息吐いたデグレチャフ殿は、
「実は最近食欲不振気味だ。胃の調子が悪いのかもしれん」
「診察しておきます」
「後は頭痛にも悩まされている。気候の変化もあるだろうが、何とかならないか?」
「やってみましょう」
隊員の誰よりも弱いところ――現在自覚している症状を吐き出したデグレチャフ殿。
胃は確かに弱っておりましたので治療致しましたし、頭痛はどうやら眼精疲労からくるもののようです。
マッサージとツボの刺激で大丈夫そうなので施術致しました。
「あぁそうだ、最後になるが――」
診察も触診も問診も終えた頃、にっこり満面の笑みでそう切り出したデグレチャフ殿は……。
「コーヒーとチョコレートを貰えるか?」
歳相応の笑顔で、対極の二つをねだるのでありました。
………………、水が貴重なのはとてもとてもいいことです。
なにせ、デグレチャフ殿を触ったこの手を、しばらく洗う必要がないのですから。
しばらく殺菌消毒は全て魔法で行いましょう。
あの恍惚の時間に触れた感触を、少しでも長く覚えている為に……。
*
航空機内部、そこで一人離れ、腕を組んで待機するデグレチャフ殿は、ポツリと、
「やれなくはない……か」
と呟かれました。
「デグレチャフ殿? それは聞かれると士気に影響するのでは?」
「む、そうだな。軽率だった。注意せねば」
思わず突っ込んでしまいましたが、デグレチャフ殿がそう漏らしたくなる気持ちも分かります。
なにせ今回の作戦では、敵要塞に降下しなければならないのですから。
「目的地付近へ到達。エンジンカット。滑空体勢に入ります」
アナウンスが聞こえ、いよいよ降下まで秒読みと言った所でしょうか。
「総員、降下用意だ!」
「はっ!!」
「繰り返しになるが、今回は奇襲性を重んじる。フィヨルド制圧のタイムリミットは三十分だ。……セレブリャコーフ少尉、貴様も予備指揮官だ。私と各中尉のシグナルをロストした場合、撤退を指揮しろ」
各中尉の中に、どうやら私も入っているようであります。
でなければ、ロスト、に該当する状態にさせやしませんから。
「撤退……でありますか?」
「私と中尉連中を失う時点で、作戦は失敗だろう。そこまで重装備の敵が出てくれば、成算は無い」
中尉連中を失う前に、デグレチャフ殿一人でも失敗でしょう。
『白銀』抜きで帝国が大戦に勝利する未来が見えません。
「全く、鉱山のカナリアの気分だよ」
カナリア……。
つまり鳥かごにて監禁されている気分と同じと?
なんですかそのうらやまけしからん状況は!?
誰ですか!? そんな素晴らしいことを独り占めしようとする不貞の輩は!!?
「さて諸君、航空魔導師としての本領を発揮するときだ。準備はいいな!!」
「はっ!!」
「よろしい――――降下!」
さて、私はどう動きましょうか。
正直デグレチャフ殿が怪我するとは思えませんし、適当に姿を消しつつ各制圧ポイントを回ることにしましょう。
さて、皆様。神の奇跡のお時間であります。
たまに、何気なく決めた事が重大な結果に結びついてしまった経験はありませんか?
普段使う道ではなく、ふとした思いつきで使った道で、慣れていないせいか足を取られて転んでしまったり。
そもそも、普段通りでいいのに、余計なアクションを起こすということは、自分の心が正常では無いのであります。
そんな状況で動けば、そりゃあハプニングも起こるというものでありましょう。
皆様、ご機嫌よう。フリューア・アーデルハイト軍医中尉であります。
私は何故、デグレチャフ殿のそばを離れたのでしょう?
コレもきっと、一時の気の迷いでありましょうな。
次回、幼女軍医「交戦」 ではまた、戦場で