これから私は何を心の支えにすればいいのか……。
筋肉か? 筋肉なのか?
耳元で叫ばれたことで思わず首を仰け反らせますが、あまり効果は無いようです。
というか、セレブリャコーフ殿は被弾したショックからか敵が向かっていく存在をどうやら誤認しているようであります。
それとも、もしや本気で心配しているのでしょうか?
前者ならばまだ仕方が無い、という一言で片付きますが、後者であるならば自分たちを率いる彼女を――『白銀』を、少なくとも自らと同じレベルであるという認識なのだとがっかりせねばなりません。
世界中どこを探して、彼女ほどの年齢で彼女ほど国に貢献し、彼女ほど敵国に打撃を与える存在がいると?
全く、そんなアホな事を叫ぶ暇があるのでしたら、私の手を借りず自力で飛んで欲しいものであります。
流石に年齢的に姉と呼べるような相手をいつまでも抱き抱えられるほど、私は強くはありません。
「くそ……がっ……」
撃ち合い圧し合い、最後は華麗に銃剣突撃をきめ、防殻術式を貫いて致命傷を負わせたデグレチャフ殿を確認し、私は急いで戦場を離れます。
じきに砲弾が降り注ぐことになるでしょう。
今回の作戦もまた、これまで通りに成功であります。
……とはいえ、遠巻きに見ましたが、アレではデグレチャフ殿の怪我は、残念ながら期待できませんね。
神はいつまで私を焦らすおつもりなのでしょうか……。
*
悲鳴時々血飛沫日和。
本日も視界良好につき、血で血を洗う激戦が繰り広げられています。
ようやく怪我の見込めぬ協商連合が片付き、おはようからおそようまで怪我人や死体と一緒の最前線勤務。
あぁ、やはり戦場はこうでなくては!
隣で寝ていた戦友が?
朝起きると死んでいることが稀にある。
しかし、ほんの一時間もすれば、何食わぬ顔で持ち場に戻る。
それが私のライン戦線の日常であります。
「大隊各位、支援戦闘だ」
私以外の各員に向けたデグレチャフ殿の通達を聞き流しながら、私は阿鼻叫喚の地獄の中心におりました。
運が悪く即死できなかった兵士達の呻き声。
大の大人が痛みや苦しみ、悔しさを溶かして流す涙。
そんな皆様に何の処置もしてやれぬ軍医や衛生兵のやるせなさ。
あぁ、懐かしきかなライン戦線。
「そしてこちらの方は、
どうあっても助からない事を伝える軍医殿の口調のなんたる重いことか。
そのような事は一切関係ないのでありますが、まぁあえて口にする必要も無いでしょう。
「栄養液はまだ在庫がございますか?」
「はい?」
端的に必要な物だけを聞いたはずですのに、何故聞き返されたのでありましょう?
「全員が衰弱傾向にあります。この様子では、仮に治したとしても満足いく動きが出来ないでしょう?」
「は……はぁ」
どうやら理解しておられない様子。
軍医として、ここにいる兵士達は確実に助からないと、不必要な自信でもあるのでしょう。
しかし、どうやら私を知っている衛生兵殿は、即座に走ってくれました。
これなら、栄養液程度は期待できそうであります。
さて、いつも通り、ここの皆様に活力で漲って貰いますか。
「大変遅くなりました! フリューア・アーデルハイト軍医中尉であります!! 私が不在の間、数えきれぬほどの同胞を失い、そして今、今度は自分自身を失おうとしている皆様方!!」
私が名前と階級を明かすと、目を見開いてこちらを凝視する軍医殿。
えぇと……少しやりにくいのですが。
「申し訳ございません!! 友と同じ所へ、戦争に殺された家族の元へ、と覚悟を決められた事かと思いますが、そのような事、私が許しません!!」
軍医殿は先ほどまで凝視していたかと思ったら、今度は私を拝んでいるではありませんか。
――私は神ではありませんよ?
「死にゆく運命? 神が決めた事? ご冗談を! それを全て受け入れて、何故ここに居るのでしょうか! 自決の手段はいくらでもございます! ならば何故? 貴方方はここで生きながらえておいでですか!?」
多少の煽りを含ませて。
完治したら、その煽りで受け取った感情を――怒りを、敵兵に、敵軍に、敵国に向かわせるように。
「足りないからです! 自分ではなく、相手の悲鳴が! 友を殺した敵兵の血が! 涙が! 絶望が! そして、我らがライヒで帰りを待つ、守るべき存在を安心させるだけの材料が! 全くもって足りていないからです!!」
悲鳴は止まり、嗚咽はかみ殺し。
一字一句私の言葉を余すこと無く噛み締めた兵士達は。
「ではどうするか! 簡単です! もぎ取るのです! 貴方方自身の手で! 銃で! 砲撃で!! 例えこれからいくらやられようと! 四肢は吹き飛び殺してくれと懇願されようと!! 私は死ぬことを許しません!! まだ足りぬ、と戦場に送り返すことを約束致します! 全ての怪我を、傷を、致命傷を治した上で!」
力が残っているものは奥歯を噛み締め、拳を握って戦闘の意思を表明します。
ここまで滾らせれば大丈夫でしょう。
丁度栄養液も届いたようであります。
すぐさま全員に注射するように指示を出し、私は神への祈りを捧げます。
祈りを終え、両手に魔力を宿し、銀になった瞳で兵士達を見回した後、
「それでは皆さん。一旦、死ぬのを辞めましょう」
やはり笑いが起こるその言葉を口にして、私は治療を開始したのであります。
フリューア・アーデルハイト軍医中尉です。
ドレスコードに従い礼装でお目に掛かりたいのでありますが、生憎ここは戦場で私は軍医。薄汚れた白衣でご容赦を。
純白の白衣を着飾れる者など後方にて悠々自適に紅茶でも嗜んでいる研究員くらいでしょうか?
もし違いましたら申し訳無い。何分知識が浅いもので。
次回、幼女軍医「火の試練」 ではまた、戦場で