幼女軍医   作:瀧音静

27 / 32
お ま た せ 。

幼女な軍医しかないけど、いいかな?


勝利の使い方

 内から溢れるは灼熱の痛み。

 喉を焼く、温い液体。

 自身の身体に起こった症状から察するに……肺でも撃ち抜かれてしまったようです。

 とはいえ私を狙い、撃ち抜いた弾丸を止められるほど、筋肉も、厚みも無い私の身体ですし……。

 当然、治療していた正真正銘の民間人にも、私の身体を貫通した弾丸は突き刺さります。

 あぁ、困りました。

 これでは民間人の死傷者ゼロの公約を果たせぬではありませんか……。

 右半身を潰されていた民間人を、治療後すぐに別の治療をするはめになるとは。

 中々運がありませんね……。

 

「主よ――っ!」

 

 あぁ、そうでした。

 肺を貫かれているのでありました。

 声など出せようはずがありませんね。

 

(主よ。我らの目の前で、救いを求める羊に安寧を。その偉大なる力を持って、奇跡を発現させ給え)

 

 頭の中で神への賛美を謳い、エレニウム特式が歪に音を立てるのを確認。

 右手に魔力が宿った感覚を合図に、鮮血が吹き出る民間人の胸へ、手を添えます。

 心臓を貫通し、突き抜けずに停止……。

 最悪……ではありませんか。

 左手で衣服ごと胸の肉を切断。躊躇わずに開いて撃ち抜かれた心臓さんとこんにちは。

 その心臓も開いて私ごと撃ち抜いた弾丸さんとご対面。

 感動でもない対面は瞬時に済ませ、指で摘まんでそこら辺へポイ。

 右手と左手、両手で包み込むように心臓を掬い上げ、生成……。

 ですが、手が震えてうまく出来ませんね……。

 私の出血も酷いようで……何だか寒くなって参りました。

 

「軍医殿! 大丈夫か!?」

 

 ――っ!

 そうです……デグレチャフ殿の為に、この市民は救わねばならぬのです。

 震えている場合では……ありませんね。

 彼女の言葉を胸に、無理矢理に奮い立たせれば、苦戦していた心臓の形成も、驚くほどに簡単に出来てしまいました。

 そのまま開いた胸も縫合し、流した血も補填して。

 最後に胸をノックして鼓動を再開させれば――。

 ふぅ……私の仕事は完遂出来たようでありますな。

 

「やめろ!!!」

 

 辺りに響くのはデグレチャフ殿の声でも、大隊の方々の声でもなく……。

 どうやら共和国軍側の声のようで――。

 

「ぎっ!?」

 

 今度は右肩を撃ち抜かれてしまったようです。

 あぁ、笑えてくるくらいに、痛いものでありますなぁ。

 

「軍医殿!!」

 

 撃ち抜かれて吹き飛ばされた私のもとへ。

 『白銀』殿が舞い降りてくださいました……。

 

「すぐに自分にも『奇跡』を――」

 

 デグレチャフ殿、そのような顔をなさらないでください。

 他の大隊の方々がその表情を見ると……不安になってしまうでしょうに。

 そもそも、自身の命はいらぬ、と神の奇跡を願った私であります。

 それがどうして、その神の奇跡を自分の身に振るえますでしょうか。

 ……どうやら、私はここまでのようです。

 震えが止まらず、力が入らず。

 眼は霞んでほとんど何も見えなくなってきました……。

 最後に。

 最後に――デグレチャフ殿の顔を見ることが出来て……私は満足です。

 デグレチャフ殿の腕の中で絶えることが出来、私は幸せです。

 ですので、ですのでどうか、

 

「私の……死を――。……()()……してください」

 

 

 力が抜け、急に重くなる肉体。

 徐々に消えゆく体温は、その存在が、居なくなったことを如実に表していた。

 

「少佐……殿」

 

 一体何と声を掛ければいいのか。

 それほどまでに軍医を抱くデグレチャフの背中は、荒んで見えた。

 

「……大隊各員、退避だ。司令部より掃討戦へ移行との連絡が入った」

 

 しかし、デグレチャフはこれまで通り、極めて平常的な口調で各員へと伝達した。

 

 

 その日、ライヒのとある場所には、これでもかと人が押しかけた。

 場所は教会。

 その場所には、その日の主役である少女、フリューア・アーデルハイト軍医少佐の遺体が安置されていた。

 最後に……『白翼』を、『天使』を、と休暇中や入院中で動ける者。

 家族や愛する人、仲間を彼女に救われた者など、そのほとんどが彼女に手を合わせに来たのだ。

 軍発行の情報誌、その号外。

 突如として無料で配られたソレに書かれていたのは、我らがライヒの為に尽力していた、まだ幼い天使の……訃報だった。

 ある作戦に従事し、治療に当たっていたところ、あろうことか治療中に敵からの狙撃を受け。

 それでも自分の身を顧みずに治療を終えた直後、さらに狙撃され……やがて力尽きる。

 残酷で、生々しいその映像に、ライヒの人間全員が憤った。

 国際法すら無視したその野蛮な行為は到底認められぬ、と。

 許していいはずが無い、と。

 葬儀に参加した全員が、彼女の無念を晴らすために、と喜んで税金を徴収された。

 休暇を謳歌していた者は即座に上に掛け合い、共和国軍との戦線への参加を熱望し。

 入院中の者は悔し涙で枕を濡らした。

 動けぬ自分が情けない、と。

 自分は助けて貰っておきながら、彼女の為に動けない……と。

 

「どこまでが予想通りだね?」

 

 そんな上がり続ける報告を受けたゼートゥーアは、目の前で微動だにしない葬儀の立案者へと一言、尋ねた。

 

「はい。……いいえ、全て小官の予想外であります」

「しかし、葬儀を行うことを提案したのはデグレチャフ少佐だ。何故その考えに至った?」

「はい。彼女の……フリューア・アーデルハイト軍医少佐の遺言であります」

「遺言……か」

 

 どう見ても少女にしか見えぬその体躯で、方や前線に出続け戦果を挙げる者。

 方や負傷兵をおびただしい程治療し、前線維持に貢献した者。

 そのどちらもの思考が、ゼートゥーアに取って掛け替えのない物になっていたようにさえ思う。

 数々の論文にてソレを残したデグレチャフと違い、論文を残せるような環境に居なかったアーデルハイトを、今更ながらに悔やんだ。

 

「では、私はこれにて」

「もう行くのかね?」

「彼女に階級で追いつかれてしまいました。これでは立つ瀬がありませんので」

「そうか」

 

 望んでいなかったであろう二階級特進。

 故に少佐と――デグレチャフと肩を並べる階級になった彼女は、今後その階級は上がることは無い。

 そんな少女に一礼し、弔砲を背に教会を後にしたデグレチャフは、先んじて済ませていた別れと共に、強い想いを胸に秘める。

 この――クソッタレの戦いを終わらせてみせる、と。

 

 

 はて? 見覚えの無い天井であります。

 ――へ? こ、ここはどこでありますか!?

 どうして私、赤ちゃんになっているでありますか!?

 

「あら? フローレンスが起きたみたい」

 

 フローレンス? どなたでありましょうか?

 ……真っ直ぐに私の方へと歩いてくる? まさか……まさか私がフローレンス!?

 一体全体何がどうなっているのでありますか!?




はい。
と言うわけでこちらで完結と言う事になります。
感想で尋ねられたりして普通に答えていましたが、フリューアちゃんの元ネタは婦長ことフローレンス・ナイチンゲールでありまして……。
ぶっちゃけ現実離れした数々の事をしている辺り、大分ファンタジーよりな方なのですが、こうして幼女戦記の世界の人間が転生してきた、となれば多少納得出来ませんか?

という作者の妄想でありました。
書いててかなりかなーり楽しかったです。

と言うわけで一先ず幼女戦記二次創作は完結と言う事で、今後は止まっている他の二次創作を書いていく次第。
新作の構想も練りつつやっていきますので、これからもよろしくお願いするであります!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。