と言っても、あの終わり方から続きなど出来るはずもないので、あまり描写していなかった日常回というか。
幼女戦記食堂みたいなノリで、フリューアちゃんを動かしたいなと。
それにお付き合いいただければ幸いでございます。
困惑
「は! ――休暇でありますか?」
「そうだ……と言ってもそんなに長くは与えられんが、ここ最近貴官は働き過ぎだ。そのうち倒れるぞ」
「ですが、我らがライヒの為に戦い負傷された方々は――」
「大丈夫だ。君を休ませるために、研修中も含めて軍医がダース単位でここに派遣される事になった。……国の上層部も君の疲弊をそれだけ心配しているということだ。大人しく休むといい」
「は! では、お言葉に甘えさせていただきます!」
敬礼し、野戦病院から引き上げる準備をすべく、私は治療室を後にします。
……とはいえ、休暇ですか。何分いただくのが初めてなもので、私は一体何をすればいいのか皆目見当もつきません。
少ない私物を鞄に詰め、入りきらない程に残っている嗜好品はどうしましょう?
自分で食べるにも限界がありますし……。そうですね、私の代わりに派遣される軍医の方々にお配りくださいとでも言づけておきましょう。
久しぶりに。それこそいつ振りかも分からないぶりに、自宅へと帰ることとしましょう。
*
申し遅れました、フリューア・アーデルハイト軍医中尉であります。
我らが『白銀』率いる即応魔導大隊専属軍医。『白翼』、あるいは『天使』。ほとんどを、『奇跡』と呼ばれる者であります。
大隊が出撃していないときは暇であり、何ならその大隊には現在休暇が与えられておりまして。
まぁその休暇に私も含まれては居たのですが、私は休暇申請なんて出していないんですよね。
なので、一番近くの野戦病院へと赴き、日々治療に明け暮れていたのですが。
そんなことせずに休め、と上からのお達しです。
私の身を案じての事でしょうが、そうならば私をデグレチャフ殿と同じホテル、同じ部屋の同じベッドにと手配していただけた方が、何億倍も効果があるのですが……。
――いえ、訂正いたします。興奮して眠れないことが確定するので逆効果ですね。
さて、自宅へ帰ってきたはいいものの、どうせ帰らないと思って本当に何もないんですよね。
目立つ家具はベッドのみ。キッチンは未使用ですし、何なら食器すらありません。
基本どこかの病院へ行ってまして、寝食ともにそこで済ませていたので特に不自由してなかったんですよね。
……さしあたって、まずは最低限日常生活ができる程度のものを買い揃えることとしましょう。
……何往復することになるでしょうか。考えると憂鬱であります。
*
「しかしあれだな、長すぎる休暇というのも考え物だな」
「そうですか? 休めるのはいいことだと思うんですけど……」
「休んでいるのならいいが、長いと腑抜ける奴らが出てくる。休暇明けの任務はいつも以上に気を引き締めとかねばならん」
「なるほど……」
「ん? あの後ろ姿は――」
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こ、困ったであります。両手が塞がってまともに買い物ができないであります。
まさかこのような事態になるとは……。
「珍しいなアーデルハイト殿。街中で貴官の姿を見るとは」
いきなり私にかけられた声。その声の持ち主など分かりきっています。
というか、私の事をアーデルハイト殿と呼ぶ方を一人しか知りませんし。
「デグレチャフ殿――」
助かった。そう思って声の方向を振り返った私は何とも裏切られた気分になりました。
……デグレチャフ殿。その隣にいるセレブリャコーフ中尉と何をしておられたので?
よもや、私以外とデート――などとは言いませんよね?
「って、なんだそのハーブの量は。買ったのか?」
「いえ、別の物を買おうと歩いていたら声を掛けられ、息子が世話になったと渡されまして……」
「あー……なるほど。確かにお礼をしたくなるだろうな……」
私が両手いっぱいに抱えたハーブ。それを見たデグレチャフ殿は、どうしたのかと問われ。
正直に起こったことを話せば納得したご様子。
私的には全く理解できません。ただ私が出来ることを帝国の為にやっているだけなのであります。
今からでも返却した方が……。
「大人しくもらっておけ。私もたまにそうやってもらうことがある。無下に突き返すほどの物でもあるまい?」
「はぁ……」
私の考えを先読みされ、釘すら刺されてしまったため、貰うしかないハメに。
これで買い物をするための一往復が増えました。
……そうだ!
「デグレチャフ殿、この量は私一人では到底使いきれません。分けっこしませんか?」
「む、いいのか? 乾燥させたり加工させたりすれば長期保存できるが……」
「次がいつ帰って来られるかわかりませんので、出来る限り早く使い切りたいのです」
「ふむ……。それもそうか。頂いて帰るとしよう。――が、貰いっぱなしもよくないな」
デグレチャフ殿へと分ければいいんですよ。何も私一人で消化する必要はないわけです。
そしてそれは見事に成功。デグレチャフ殿は受け取ってくれることに。
ですが……何かを考えておられるようで。
「時にアーデルハイド殿。食事はお済みかね?」
「いえ。買い物を済ませてからと思っていたのでまだでありますが……」
「では私がご馳走しよう。それでハーブを貰うこととチャラだ」
なんてことを言われました。
別にそこまでせずともよいのに……。
ハーブを渡すときに手が少し触れあうとか。
ハーブのいい香りだ、と私の匂いを嗅ぐとか。その程度で十分でありますのに。
「では私は食材を買って来よう。……そうだな、セレブリャコーフ中尉」
「!? ひゃ、ひゃい!!」
「不意を突かれ過ぎだろう……。貴官はアーデルハイト殿を私の家まで案内してやってくれ。買い物を済ませ次第私も戻る」
「了解しました!」
そんなやり取りの後、マーケットへと走り出すデグレチャフ殿。
食材を買ってくる? 家まで案内?
つまり、どこかのお店で食べるのではなく、
……え、好き。結婚しましょう?
「さて、では軍医、行きましょう!」
私が夢のような現実に浸っていると、セレブリャコーフ殿から声をかけられました。
あぁ、そうでした。この方がいるんでした。
さて、どうしてくれましょうか。
「にしても、珍しいですね」
「? 何がでしょう?」
「少佐殿ですよ。普段はご自分で料理などなさらないのに」
「――!!?」
そ、そ、それはつまり――私が特別ということでありましょうか!?
い、いえ! お、お、落ち着きましょう。自惚れてはいけません。
きっと……そう! デグレチャフ殿の気まぐれのはずであります!
決して私に特別な感情など――えへ。
*
ふぅ、食材はこんなものか。
それにしてもタイミングがいい。ちょうど前回買ったハーブが切れかかっていたところだ。
それをあのような形でアーデルハイト殿が持ってきてくれたというならば、喜んでいただこうじゃないか。
ハーブティーの新しいレシピも試してみたい。
パッとしか確認していないが、かなり豊富な種類があった。
ムニエル用の魚だけではなく、ソーセージも買っていこう。
ここにビールやワインなどがあれば文句なしなのだが、流石にこの見た目では売ってもらえない。
まぁ、酒は売ってくれないが、この見た目で得することもある。
アーデルハイト殿のように……とはいかないが、割引やおまけをしてくれるところがある。
十分に買い込んで、数日はハーブを堪能するとしよう。
ちなみにですが、フリューアちゃんは料理は出来ないわけではありません。
修道院に居た頃は、年長だったこともあってお手伝いなどをやっていました。
しかし、軍に入ると時間に追われる日々。
自炊する時間があるならパンをかじりながら治癒をする、という、大人が引くレベルで献身的に働いていたので、そんな暇がなかっただけです。
なので、料理は出来ます(ネタにするので二度目の宣言)。