この回で、フリューアちゃんが普段どれくらい無茶してるかとか、ぶっ飛んでるかを理解してもらえるかと。
え? 本編で理解してる? ……そりゃあそうか……。
「うぅ……」
「今治療しますのでしばしご辛抱ください」
顔の半分と片腕を吹き飛ばされた兵士。
吹き飛ばされた腕は回収されておらず、顔の半分もどうしようもない損傷。
私に出来ることは、傷口を塞いで化膿を防ぎ、何とか生き長らえることが出来るようにと『奇跡』を振るう程度。
私にもう少し力があれば、あの兵士をまた戦場へと送り出すことが出来るのですが、今の私では生存させるだけで精一杯です。
……義腕などがあればいいのですが、そんなものを開発するくらいなら武器の方が優先されるでしょうし、望み薄。
「治療は終わりました。……ですが、私の未熟さゆえにここまでしか出来ません」
「……未熟? 冗談だろう? 俺は死を覚悟したぞ? それをこうして生かしてもらえている時点で未熟なんかじゃあない」
「ですが、腕や顔は修復できていません」
「命あっただけで儲けものだろう。片腕となったって役割はある。戦場に立てぬなら、その戦場で立つ仲間を支援する場所に就くさ」
己の弱さを恥じ、自分の実力を正直に告白すると、片腕となった兵士はニッカリと笑われました。
そして、残った腕で、私の頭を撫でてくださいます。私が気に病まないように、と。
その優しさに涙が零れそうになった時、遠くで鈴の音が鳴りました。
重篤な兵士が運び込まれたという合図であり、同時に、私を呼ぶ鈴の音であります。
「呼ばれましたので向こうへ行ってきます。あとの処置はお任せします」
そう他の軍医に告げ、私は鈴の音の発信地へと、速足で向かうのでした。
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「なぁ、軍医さん」
「どうした?」
「あの子は――『天使』は、どれほど働いているんだ?」
「何故そんなことを聞く?」
「俺は三日前にも運び込まれてきた。その時も、あの『天使』に治してもらった。戦場だから負傷した兵士はひっきりなしに運ばれてくるだろう? あの子は、ちゃんと休んでいるのかと思ってな……」
「…………もう五日目だ」
「…………は?」
「『天使』は、五日間ぶっ続けで治療をされている」
「マジかよ……」
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ようやく運び込まれてくる兵士の方々の数が一段落し、小休止。
部屋へと戻り、支給されたパンをかじって、持参したスープと共に胃に流し込みます。
なるだけ短時間で食事を済ませようと考えた私は、先日貰ってデグレチャフ殿と半分こしたハーブを使い、スープを作って持ってきています。
久しぶりの料理でしたが、何とか飲めるようには作れました。
……まぁ、具材は適当に切って、トマトとハーブをぶち込んだだけですので、そこまで変な味にはなり得ないのですが。
……とはいえ、流石に今回は疲れました。何日起きっぱなしであったかは覚えていませんが、魔力が底をつきかける程度には連続で治療していたわけですし。
眠れるうちに眠っておきましょう。
そう考えて目を閉じた私は、眠りの世界に落ちるまで、そう長い時間は必要ありませんでした。
*
目を覚ませば知らない天井……ではありませんね。
医務室の天井です。はて? 私は自室で寝ていたはずなのですが……。
「目が覚めたみたいですね」
私に気付き、軍医が声をかけてきます。
「私は?」
「誰? と続けるわけではなさそうだな。部屋に呼びに行くとぐったりとしていて脈が弱まっていた。極度の疲労だったので運び込ませてもらったよ」
「あ……」
「心当たりしかないだろう? まぁ、働き過ぎだ。『奇跡』の力は分かっているが、もっと大事にしなさい。ここで君が亡くなっていたら、これ以降救えたはずの命が皆、救えなくなる。無茶をするなとは言えないが、もう少し、君自身の体は労わりなさい」
「……はい」
「君の所属する部隊の部隊長がとても心配していた。もう少ししたら面会に来るだろう」
それまでは寝ておきなさい。と、ずれた布団をかけなおしてくれた軍医殿の優しさに甘え、私はもう一度眠りの世界へと落ちました。
*
「全く、軍医が過労死とは笑えんぞ」
「申し訳ありません」
「別に責めているわけではない。ただ、アーデルハイト殿は一人で抱え過ぎだ。アーデルハイト殿しか軍医が居ないわけでも、治せないわけでもない。……いや、アーデルハイト殿が治療した方が国も兵士も助かるは助かるのだが」
目を覚ませばベッドの脇にはデグレチャフ殿が見舞いに来てくれていて。
心配をかけましたと声をかけると、安堵した表情を見せ――そこからお説教タイム。
流石にもうしませんって。次からは三日くらいで休息を取ります。
「軍医殿が居なければ我々の部隊の生存力も下がる。ついでに、嘆かわしいことだが士気もな」
「へ?」
「やられても完全に治してもらえる。その心理が、大胆な行動や踏ん切りのついた行動の元になり、動きから迷いが消える。アーデルハイト殿は、もはや我らの部隊に無くてはならない存在なのだ」
ひょっとして私、デグレチャフ殿に求められております?
そうならば私、今ここで死んでも――、
「だから、勝手に死ぬことを許さん。貴官が我が部隊の隊員全員に死ぬことを許可しないように、貴官の死は私が許可しない」
いえ、死にません――死ねません。
デグレチャフ殿が私に『死ぬな』と命令されたのです。隊長の命令は絶対。ならば、どうして私が死ぬことが出来るでしょうか?
「分かったら早く完治して戻ってこい。もう二三日安静にしている必要があると軍医から聞いた。自分の体調を整えることを最優先にしろ。いいな?」
「はい!」
「ついでに何か欲しいものがあれば用意するが?」
「……では、お言葉に甘えて――スープを、作っていただけませんか?」
*
「セレブリャコーフ中尉、ちょっと」
「どうされました?」
「この前私が風邪をひいたときに貰ったスープがあっただろう? あれのレシピを教えてほしくてな」
「体調を崩されたんですか?」
「私じゃない。が、崩したやつがいてな。何か欲しいかと尋ねたら、スープをねだられた」
「そういうことでしたらお安い御用です! 今日にでも家に行きますよ!」
「ああ、頼む」