前回までの綺麗なフリューアちゃんのままがいい人はひょっとしたら……。
しかし、そのためのタグっ!
きっと着いてきて頂ける皆様ばかりだと勝手な期待で心を満たしている次第です。
皆様おはようございます。フリューア・アーデルハイト軍医見習いであります。
あれからデグレチャフ殿が退院なされるまでの間、毎日のようにお話をしておりました。
私と変わらない年齢ながら、私より確実にライヒへ貢献されているお方。
なので私の胸に宿った尊敬の念は、ごく自然な事だったのでしょう。
少しでも彼女のことを知ろうと、様々な質問を投げつけてしまった、と今更ながら悔いる次第であります。
さて、そんな私の質問を躱すためか、就寝の際にこのような言葉を口にしていました。
「早起きは三文の得だ」
と。
三文というものが残念ながら分からなかった私に、些細な事、と説明を入れた彼女は、私に背を向けるように布団にくるまってしまいました。
その日はあまり実感をしなかったのですが――デグレチャフ殿が退院なされて数日後の今日。
何の気なしに早めに目が覚め、眠い目を擦り眠気覚ましに散歩でも、と町を歩いていますと、ありました。……得が。
町に当たり前のように売られている軍発行の情報誌。
現在の我らがライヒの戦況や他国との関係まで、一般人に知れ渡って良い程度の情報をある程度脚色して書かれた情報誌のその表紙に。
一杯におめかしした衣装を身に纏い、金髪碧眼を眩しく輝かせながらこちらににっこりと笑みを向ける『白銀』殿のお姿が!!
幼いながらもエースとなったターニャ・デグレチャフ少尉その人が!!
私の目に飛び込んで来たのです。
周りの人たちが引くほどの勢いでその雑誌を購入し、胸に抱いて頬ずりしながら一目散に自室に戻り、本日の勤務時間までデグレチャフ殿を眺めていた事は言うに及ばないでしょう。
脇に小さく『白銀を救いし奇跡』との見出しで私の姿も表紙にありましたが、私を載せるスペース全てをデグレチャフ殿に割いて欲しかった所です。
ツーショットに見えなくもないのでこれはこれで嬉しいのですが。
デグレチャフ殿とは対照的な、銀髪紅眼の私がなんだか場違いな気がしてなりません。
そんな事を考え、モヤモヤとした感情を抱いているときでした。
不意に扉がノックされ、集合時間にはまだ早いながらも、急患か? と思いそそくさと支度をして扉を開けますと、
「フリューア・アーデルハイト軍医見習いだな? 配属の内示が出ている」
軍服を着た方にそう言われ、差し出された内示を手に取って、
「拝見いたします」
内容を確認すると――――驚くべき内容だった。
そもそも未だ見習いである私に配属の内示などそうそう出ない事は少し考えれば分かることで、つまり何かしらの思惑がある配属が決められたと言うことに他ならない。
そしてその思惑は内容を読めば一発で分かりました。
私の配属先は、兵站総監部。
そこで行われる新型演算宝珠のテストを行う、ターニャ・デグレチャフ少尉の治療。
すでに怪我をすることが確定であるかのようなその内示に僅かにだけ戸惑いましたが、そんな戸惑いより今一度デグレチャフ殿のお側にいけるとはなんたる光栄かと心を踊らせました。
同年代の私を側に置いておけば、そのテストが過酷なものであってもある程度耐えてくれるだろうという打算的な上の意向を理解した上で、それを建前にデグレチャフ殿の専属軍医とも言える立場になれるなら私は喜んでその内示に従いましょう。
「治療器具などは向こうにあるのでしょうか?」
「一般的な器具や薬については備蓄があるそうだ。それと、貴殿用にこれを預かってきた」
そう言って渡されたのは軍医殿達に支給されている宝珠でありました。
「貴殿はこれと自身の持つエレニウム丙式を並列起動させデグレチャフ少尉を救ったと記録されている。必要な物なのだろう?」
「はい。ありがとうございます」
救ったのは私ではなく神なのですが、熱弁したところで聞き届けて貰えるとは思いません。
大人しく私が治したということにしておきましょう。
信じない相手にはどんなに諭しても眉唾と切って捨てられるだけなのです。
「配属命令を受領致します」
「うむ。くれぐれも銀翼を地に落とすなよ。絶対に死なせてはならん」
「はい。我が命に代えても」
言うだけ言って立ち去った上官の足音が聞こえるまで敬礼を崩さず、足音が聞こえなくなったことを確認して部屋のドアを閉め、ドアにもたれかかるように身体を安定させ――――こみ上げてくる笑いをなんとかかみ殺すのに苦労いたしました。
ライヒが決めた内示が死ぬ恐れのあるテストなどと、恐らくデグレチャフ殿は聞かされていないでしょう。
一つ、彼女が知らない事を私が知れたという事実がたまらなく嬉しいのであります。
我らが銀翼に会えることが決まり、私は即座に配属移動の為の荷造りに取りかかりました。
出来れば、今度はもう少し長く入院出来るような怪我をして貰いたいものです。
治すのは一瞬ですし、そちらの方がデグレチャフ殿は長く休め、私は長くデグレチャフ殿の側に入れますし……WINWINではありませんか?
本人の前では口が裂けても言えやしませんが。
何かにすがらねば正気を保つことすら難しいこのご時世に、「自分」という一本筋の通った考え方で世を生き抜いていらっしゃる皆様にいきなりで申し訳ありませんが、質問させてください。
正義とは何とお考えですか?
ご自身の考える正義は、他人にとっても正義と言えますか?
いつまでも掲げ続けた正義は、風化し時代遅れになっていませんか?
申し遅れましたフリューア・アーデルハイト軍医見習いであります。
犠牲を無くす為に払う犠牲と、無秩序な場所で失われゆく命は果たして等価でございましょうか。
最近何かと考えるのです。何を信じ、何を切り捨てるか、を。
次回、幼女軍医 第四話 「神がそれを選ばれた」 ではまた、病院で。
流石にアニメ一話の進行具合を一話にぶち込むと凄まじい文量になりそうだったので、3~4話でアニメ一話相当くらいにしようと考えました。
アニメの内容次第で話数は前後するかも知れませんがどうかよろしくお願いします。