というか皆様お久しぶりです。とりあえずこの日を逃しては書けないネタなので急遽ぶち込むことをお許しください。
「去年の誕生日はダキアの連中とのスポーツだったな。いや、ハイキングか。……それを今年は後方で迎えることが出来るというのは、非常に喜ばしい事だよ」
「今日を休暇にするために、鬼の様な行軍や戦闘をしておられたのですから当然でしょうに。……ヴァイス中尉なんて帰還するなり過労で倒れたんですからね?」
長テーブルの一角。デグレチャフ殿の隣に腰を掛け、豪勢な料理を前にし、そんな他愛もない会話。
「しかしヴァイスも休暇と聞けば目を輝かせていたぞ?」
「別の戦場に向かうために鬼行軍をしたと思われていたんですよ」
「私はそこまで戦闘狂ではないぞ?」
「ダウト」
そんな状況でもいまだ料理には手を付けず、カメラマンが入ってくるのを待っているわけでありますが、一体どれだけ待たせるのでしょうか。
というわけで皆様お久しぶりです。フリューア・アーデルハイト軍医中尉であります。
今現在我々は中央本部の食堂に居ます。
はい、デグレチャフ殿も当然一緒です。
今回呼ばれたのはプロパガンダの為でありまして、どうやら軍の上部は自分とデグレチャフ殿の誕生日が同日であることに目を付けたらしく、『誕生会』と称して招集をかけてきました。
流石にこれにはデグレチャフ殿も断ることが出来ず、渋々といった感じで出席することになりました。
普段の軍服ではなくフリルのついた可愛らしい服装。
デグレチャフ殿が赤と黒の服に対し、私は白と青のこれまた可愛らしい服装があてがわれています。
ドレスでないのが悔やまれますね。ドレスであればウェディングドレスと解釈することも出来ましたのに……。
さて、軍の皆様は私たちにおめかしさせて一体どうしようというのか。
私たちが可愛い洋服を着て、料理を美味しそうに食べ、ケーキに喜び、そして――軍服と白衣に戻る姿を撮影するとのこと。
その狙いは先ほども申した通りプロパガンダ。
『白銀』であるデグレチャフ殿、『白翼』たる私、それぞれの年相応の写真を雑誌に載せることで、メッセージとする腹積もりの様です。
「娘ほどの年齢の子供が前線で戦っている、活躍している」、「貴様らの子供たちにも同じ思いをさせるのか」。
大人たちにはそうしたメッセージを含ませて。
「君たちと同じくらいの子供でも活躍できる」、「彼女たちがその証拠だ」。
私たちの様な子供にはそう焚きつけるように。
意図を汲み取ったデグレチャフ殿は感嘆の声を上げていましたよ。
……自分がフリフリの可愛らしい服を着ることになるなど予想はしてなかったようですが。
「申し訳ございません! 遅れました!!」
ようやくカメラマンがご到着の様子。正直待たされてお腹が背中と逆転しそうになるほどです。
「ではまず、お二人とも笑顔でこちらを」
そう言われてニッコリ笑顔を。
「――あ、すいません。もう一度。笑顔が少し固いのでもう少しリラックスをお願いします」
恐らくデグレチャフ殿でしょうね。私はどれだけでも付き合いますけど。
というわけで、それから三回ほど撮り直し、笑顔で正面を向いた写真は撮影終了。
続いて食事のシーンの撮影になりました。
――これが非常に役得というか、私へのご褒美の様なシチュエーションばかりでございまして……。
お互いへの「あーん」は当たり前、デグレチャフ殿がケチャップを頬に飛ばしてしまい、私がそれを拭うという、恋人ごっことも呼べる行動をカメラマンが平気で要求してくるわけでありまして。
思わず舌で直接舐め取ろうとして思いとどまったり、デグレチャフ殿からの「あーん」に硬直して思考が飛んだり。
彼女が使っていたフォークにしゃぶりついて離れなかったりと、今思えば恥ずかしい行動をし過ぎていました。
食事の後は当然デザート。
クリームたっぷりのバースデーケーキを出され、今度は私が口周りをクリームで汚してしまい。
それをやれやれとデグレチャフ殿に拭き取ってもらえたというご褒美の上乗せでありました。
その後に出されたコーヒーと紅茶を二人で飲むころにはようやく正常に思考が戻り、デグレチャフ殿と共に纏う空気を引き締めまして。
あ、そうそう。バースデーケーキにはロウソクが立てられていたのですが、そのロウソクに付いた火をデグレチャフ殿は一息で消そうと意地になりまして。
肺の限界まで空気を吐き出した結果、顔を真っ赤にしてプルプルと震えておられたのが非常に愛くるしかったであります。
酸欠になって倒れていただければ、人工呼吸をしましたのに……残念です。
「それでは、それぞれ軍服と白衣に着替えてもらって、最後の撮影になります」
と言われ、別室にて普段の白衣へと着替えます。
普段の、と言っても、一度も誰も袖を通してないような、純白の白衣でありまして。
こんなものがあるなら現場に回して欲しいと思ったのは内緒であります。
さて、白衣に着替えまして取られた写真はと申しますと、使った事のない聴診器を用い、喘鳴や鼓動を聞いているふりをする写真や、カルテを片手に問診しているふりをする写真など。
おおよそ私が普段しない行動ばかりを撮影され、何だか納得がいかない気もします。
デグレチャフ殿も銃を構えている写真や敬礼をしている写真など。
暴発防止にトリガーに指をかけていないわけでありますが、そんな写真を撮って一体何になるというのか。
……とはいえ、トリガーに指をかけているとデグレチャフ殿は無意識に引きかねませんので仕方ありません。
カメラマンはどんなになっても治せはしますが、カメラの方は私にはどうすることも出来ませんし。
そんな不完全燃焼だった撮影会も終わり、会場を後にするときの事です。
「アーデルハイト殿、この後の用事はあるか?」
と、デグレチャフ殿に声をかけていただきました。
「いえ、特に何もありませんが?」
「さっきのような場では楽しめなかっただろう? これから私の家に来ないか?」
「行きます。行きましょう」
「では、待っているよ」
何と、デグレチャフ殿の家に御呼ばれしたではありませんか。
これはもう、この日を記念日にするしかないではありませんか。
とウキウキでスキップしてデグレチャフ殿の家を訪ねると、
「はーい」
デグレチャフ殿以外の声が中から聞こえてきます。
「はい。あ、軍医殿、お待ちしておりました」
と、中から出てきたのはセレブリャコーフ殿。
ナゼアナタガココニ?
追伸、デグレチャフ殿と私の誕生会の様子を掲載した雑誌は飛ぶように売れ、増刷がかかる事三回。
中には、実用、観賞用、保存用と三冊買う人も居たとかいなかったとか。
……実用って、一体何に使っているのでありましょうか?
どう考えても年端も行かない子供を戦場に送り出しているという事で非難が集まるとか、ターニャちゃんはそんなことしない! なんて感想もあるかと思いますが、目を瞑ってください。
たまにはフリューアちゃんとイチャイチャさせたかったんです。