けどネタ仕込む意味でもあの次回予告は気に入っているので多分止めません。
……ある程度は許容して頂けると私はとても嬉しいです。
見上げる私の目に映るのは、遙か上空へ昇った直後に、恐らく制御不能になったが為にデタラメな動きやきりもみ回転をする我らが『白銀』であり、一瞬その動きが止まったかと思えばお約束のように爆発致しました。
隣にいる人が無線でデグレチャフ殿に呼びかけていますが、意識があろうと無かろうとあの高さから落ちたらまず助からないでしょう。
と言うわけで私、フリューア・アーデルハイト軍医見習いは、持てる限りの全速力で落下地点へと急ぎます。
流石にクッションにはなれませんが、クッションは既に兵站総監部の技術局の方が用意してくれていますし、即座に私は治療するとしましょう。
にしても、毎度毎回の如く同じような結果になっていますが、果たして完成に少しでも近づいているのでしょうか。
新しい演算宝珠、エレニウム九十五式というのは……。
完成しなければその分長くデグレチャフ殿の側に居られることになるので嬉しくはあるのですが、流石に毎回爆発する憧れの存在を見続けるのには耐えられません。
神の奇跡でも起きて、明日にでも――一週間後にでも完成しないものですかね?
「デグレチャフ殿! 意識はありますか!?」
「アーデルハイト殿、残念ながら非常にハッキリしているよ」
毎回の如く何やら苦いものを噛み潰したような顔をこちらに向けながら、鬱陶しそうにそう答えられました。
「身体のどこかで動かない部分は?」
「それも無い。……しかし、いつまで経っても進歩が見えないな、この実験も」
離れているとはいえ、男の目があるところで彼女の火傷の程度を確認するわけにもいかず、一先ずは両手両足の具合だけを確認し治癒術式を展開する。
「他の方に聞かれたら怒られますよ? 特に主任技師のドクトル殿に聞かれたら……」
「あの
過剰な治癒は身体に余計な負担を掛けるため、まずは打ち身を治癒致しまして、
「後は部屋に戻り火傷の具合を確認してからです。……歩けますか?」
「――少し重傷感を出しておこう。肩を貸してくれ」
彼女の手を取り肩に回し、腰を使って彼女の体重をある程度肩代わりし、ゆっくりと歩き出し、
「しかし流石に、これ以上は進歩が見込めないと判断せざるを得ない。……転属願いでも書くか」
我慢の限界を迎えそうなデグレチャフ殿の焦げ臭い匂いを胸いっぱいに堪能しまして、私は彼女の発言を無視致しました。
*
落ち着きなさい。毎回毎回治療の度に興奮していては身が持ちません。
せめてもう少しだけ落ち着きなさい。
例え――例え『白銀』の肌が目の前にあったとしてもです。
普段は絶対に見ることが出来ない腹部、肩から腕にかけてのラインは華奢ながら、銃火器を扱うことが可能な程度には肉が付いています。
そして何より、何よりも!
未だ膨らみすらしていないささやかなピンク色の突起の付いた胸部は私の理性を吹き飛ばすには十分な威力です。
例えそこが火傷によって損傷していたとしてもです。
おっと、いけません。今のデグレチャフ殿は患者なのですから、私は軍医としてやるべき事をしなければなりません。
非常に名残惜しく、残念ではありますが、早急に治療しこの絹のような柔肌に別れを告げなければならないのです。
――――もう一度生死の境を彷徨って頂きたい……。
「? どうしたアーデルハイト殿? もしや今回の傷は悪いのか?」
本音と同じく、悪い顔にでもなっていたでしょうか。不安そうにデグレチャフ殿に尋ねられてしまいました。
「あ、いえ。治すのは簡単ですが、もう何度目の治療なのか……と考えてしまいまして」
二機の宝珠を起動し、幾何学的で歪な魔術反応を発生させ、それを右手へ。
「確かに、アーデルハイト殿にその都度治療して貰っているから良いが、そうでなければ今頃私は全身に包帯を巻いているかもしれん……んっ!」
魔力を帯びた手を火傷に添えたときに、デグレチャフ殿の口から何とも艶めかしいお声が!
……危ない危ない。また理性が飛びかけました。
悟られぬよう何食わぬ顔で術式を起動、手を離す頃には綺麗さっぱり彼女の肌は火傷のやの字も分からぬほどに元通りです。
たくし上げていた上着を戻し、医務室のベッドに腰をかけたデグレチャフ殿は、
「さて、どうせ戻ってもまた実験だ。すこしばかりゆっくりしよう」
そう言って何やら飲むジェスチャーをするではありませんか。
私は黙って頷いて、秘蔵のコーヒーを彼女の為に淹れ始めます。
『白銀』殿と二人、医務室という名の密室……何も起きないはずも無く――。
コーヒーが飲めない私は自分用に紅茶を淹れまして、二つのカップを持ちまして、デグレチャフ殿と並びベッドに腰をかけます。
ティータイムくらいは許されるでしょう。
「あぁ、この場所では唯一これだけが楽しみだよ。治療の件も含めて、アーデルハイト殿の同伴を求めたのは正解だった」
「と言うことは私がこの場所に呼ばれたのは……」
「私のたっての要望だ。いや、切望と言えるかも知れない。どうせ碌な実験ではないと考えていたが、ここまでとは流石に思わなかった」
「安全な後方勤務を望まれていたのでは?」
「そのために必要な経緯だった筈なのだがな。……これでは前線の方がまだマシと思えてしまう」
私としてはどちらに居ても治療が必要でしょうから、どちらでも構わないのですがね。
あぁ、安全な後方勤務はご勘弁願いたい。それではデグレチャフ殿を治療出来なくなってしまいます。
「気乗りはしないが私も軍人。戻って成果の見えない実験に付き合うとしよう」
「いつでも近くに待機しておりますので、存分に」
「怪我をしろ、と聞こえなくもないぞ? まぁ、その通りなのだがな」
二人で声を合わせて笑い、使用したカップを片付けて、引き締まった表情で嫌々ながらも実験場に向かう彼女の横顔を眺めながら、私はふとある考えが浮かびました。
――――この宝珠が完成すれば……デグレチャフ殿はそれを持って前線にいくハメになるのでは? と。
運命とは実に数奇なもので、ほんの少し前まで拒んでいた未来を望んで受け入れてしまうなんて事があることも事実。
皆さんご機嫌よう。フリューア・アーデルハイト軍医見習いであります。
最近問いかけてばかりですが、皆さんは「絶対」というものを信じますか?
「確実」という言葉に含まれた意味を考えたことは?
何故そのようなことを問うのか? と聞かれれば、私がそれをあざ笑うのが好きだからであります。
次回 幼女軍医 第五話 「神の御業」 ではまた、病院で