幼女軍医   作:瀧音静

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この回、独自解釈や独自設定のオンパレードです。

ひょっとすると作中を矛盾する描写があるかも知れませんが、優しく温かな目で見てください(土下座)


神の御業

 どうやら困った事になってしまったようです。

 いつまで経ってもまともに動かないエレニウム九十五試作型にとうとうデグレチャフ殿は我慢の限界のようで、いつものように爆発はすれど、自力で歩いて医務室までやってきた途端に溜まっていたものを吐き出すかのように捲し立て始めました。

 

「ほんっっっっっっとうにうんざりだ! 大体出来もしない空想の理論をいつまでも、いつまでも押しつけられ続けよくもまぁここまで持ったものだと自分で自分を褒めてやりたいくらいだ!!」

「デ……デグレチャフ殿?」

「そんな私の意思は無視し続けるというのにちょっと欠陥品だと事実を口にしただけでしつこくいつまでもいつまでも取り消せ取り消せと……あー!! ムシャクシャする!!」

「あ、頭でも打ちました?」

「いいや。……今回はさっさと安全装置(セーフティ)を起動させた。――が、何故そんなことをしたのかとあのマッドから言われたことで堪忍袋の緒が切れた」

 

 えぇと、……どこの何が切れた、と? 私に治せる部位でしょうか?

 

「巻き込んでしまった手前遠慮もあったが、流石にこれ以上は私の命に関わる。振り回してしまって悪いが、本気で転属願いを提出する」

 

 申し訳無いという気持ちで一杯の表情で私の手を握りそのようなことを言ってくる『白銀』のご尊顔を見れば、誰がそれに異を唱えましょう?

 

「デグレチャフ殿は今や我がライヒの英雄なのです。英雄が技術研究の為に死ぬのを、誰が妥当と判断するでしょうか?」

「すでに何度か待遇改善願いを提出してはいたが……ことごとくを無視されている」

「……ドクトルがドクトルなら上も上。という事でしょうか」

「流石に今回ばかりは少々きつい内容で届け出を出す。……どうなるかは分からんが、無視出来るものではないだろう」

 

 さて、困った事に我らが『白銀』は私の手の届かない所へと向かってしまいそうなのです。

 このままデグレチャフ殿の要求が承認されてしまえば、彼女の望む安全な後方勤務へと一直線となってしまうかも知れません……。

 私はどうすれば、どうすれば私の治療を求め続けるデグレチャフ殿と一緒に過ごせるのでしょうか。

 ……やはり戦場に――それも前線に戻って貰うのが一番でしょうか。

 次に私を側に置きたがるような、理由も作らねば……。

 例えばそう、いつ爆発するか分からないような魔導核――――あぁ……つまり、あのエレニウムが完成すればいい訳ですね。

 しかしどうすれば……。

 

「そこまで考え込むほどに軍事病棟というのは嫌なのか?」

 

 思い切り考え込んでしまっていた私の顔をのぞき込んでいたデグレチャフ殿に、そう声を掛けられてしまいました。

 まさか正直に「いつでもデグレチャフ殿がズタボロになって私の元へと帰ってくる環境を作り出すにはどうすればいいか思案していた」なんて言えるはずもなく、ありそうな適当な言い訳でも並べておきましょう。

 

「戦場の常とはいえ、兵士の弱音や呻き声の響く建物を好きになるというのは……私にとってはレベルが高すぎます」

 

 全員がデグレチャフ殿ならば、私は自ら率先してその建物に引きこもるでしょうが。

 

「む、確かにそうだな。……一応、一緒に掛け合ってみよう」

 

 何やら納得してくれたようで、私のことも合わせて口添えして貰えるようです。

 私はデグレチャフ殿の側に居られるだけで良いので、人事部も扱いが楽でしょうね。

 

「では、私は一旦部屋に戻り書類を提出してくる。今のうちから荷物をまとめておいた方が良いと思うぞ」

「そうします。では、ドクトルに見つかりませんように」

 

 気をつける。そう言って出て行った矢先にドクトルの声が聞こえてきたことを考えれば、部屋の外で待機でもしていたのでしょうか。

 喚き散らす声が徐々に遠くなっていると言うことは、デグレチャフ殿に文句を言いながら追いかけているに違いない。

 何かしら攻撃を加えたい気持ちもありますが、私は私の思うとおりに行動させて頂きましょう。

 私はデグレチャフ殿に気付かれぬように、ドクトルの後を追いました。

 言い合いの後、怒りにまかせて乱暴に部屋のドアを閉めるデグレチャフ殿を確認し、怒りの収まらぬドクトルが研究室へ戻るのを尾行して、研究室に入る直前で声を掛けます。

 

「ドクトル、少しお時間頂けますでしょうか?」

「ん? 何だね君は。私は忙しいんだ! 研究に関係の無い事ならば帰ってくれ給え!」

「その……デグレチャフ少尉の意見でありまして」

 

 もちろん嘘っぱちなのだが、被験者の意見というのは研究者にとって無くてはならず、有りすぎて困るものでも無い筈だ。絶対に飛びついてくる。

 私の考えは見事に的中していたようで、

 

「何かね? 手短に言い給え!」

 

 追い払う姿勢から話は聞く、という姿勢へ。

 さて、後はうまくいくか次第です。

 

「実は、私の治療術式と先ほど試された九十五試作型が似ている。と零されまして」

 

 具体的にどこが。や、何が。とは言わない。

 それを言わなければ必ず、

 

「具体的には? 感覚で言うのならばデータを取らせ給え。それを私が判断する」

 

 このようにやって見せろとなるはずなのだ。

 さて、実際に起きた神の奇跡の産物を見せれば、この者も神を信じるはずです。

 神は信じるものを救ってくださる存在。

 この者が神を信じれば、きっとあの()()()も完成するはずです。

 

「では、失礼致します」

 

 言うが早いか両手にそれぞれのエレニウムを握りしめ、いつも通りの治療術式を展開。

 普段のように目の前に患者が居るわけでないのであまり魔術の感覚は掴めませんが、私が見せたかったのは暴走寸前で奇跡のように制御される演算宝珠です。

 ここからこの気狂いが何かヒントを掴んでくれれば……。

 

「まさか……。二機のエレニウムの並列起動。軍医用宝珠二機ならまだ分かるが、片方は丙式だぞ!? そんな歪にしかならない制御――しかも安全装置(セーフティ)を付けていては維持できない高出力状態の魔力……。――――奇跡だ」

 

 お、天才とマッドは紙一重とデグレチャフ殿が(おっしゃ)っていましたが、一回の起動を見ただけで何やら理解したようです。

 

「君! 一体どこでこのような制御を教わったのかね? いや、一体誰がこのような扱い方を教えたのかね?」

 

 縋るような目で私の肩を揺らすドクトルへ、私は決心した一言を言い放ちます。

 ――すなわち、

 

()から」

 

 と。

 その言葉を聞いて膝から崩れ落ちたドクトルは、それからしばらく動きませんでした。

 さて、あまり変な行動をしてデグレチャフ殿に見られ、不信感を持たれては彼女の信頼に関わってきますし、そそくさと部屋に戻らせて頂きましょう。

 これで、完成してくれると良いのですが。

 

 

 なんて考えていましたが、物事は大きく動きました。

 予算凍結による事実上の研究打ち切り。

 決定したその事実を受け入れ、悪あがきにしか思えなかった最後のテスト。

 それこそ今までの実験の経緯から、今回も失敗して当然。

 成功でもしたら、もはや神の奇跡とも言えるそんなテストだったのですが、まさか本当に成功するとは。

 融解寸前だった宝珠核は突然制御され、高度一万八千フィートでの生存も確認。

 紛うこと無き神の奇跡に、満足げな二人と不満げな一人。

 結果デグレチャフ殿は、後に呪いの装備と教えてくれた『エレニウム九五式』を手に入れることになったのです。

 安全装置(セーフティ)が取っ払われていたり、他の宝珠とは違う反応をするのはきっと私のせいでは無い筈です。えぇ、決して。

 

「そうだ。君にこれを渡しておこう」

 

 研究も無事に完了し、デグレチャフ殿は案の定戦場へ。

 私は元居た軍事病棟へ戻るために研究所を後にしようとしたときのことです。

 ドクトルが私に何やら差し出してきました。

 

「君が見せてくれた奇跡をもっと大きく、誰からも見やすくなるようにと開発したものだ。失敗続きだった少尉のものとは違い、奇跡的に一発で成功した代物だぞ」

 

 そう、渡されたのは演算宝珠でした。……全く見たことが無い形の。

 

「あえて安定性を捨て、不安定なまま維持するという逆転の発想をする君に合うように、奇数同調に拘った歪な配置にすることで、いつでもそれ一つで君が! 見せてくれた、あの! 奇跡に等しい並列起動と同じ反応を引き起こすように設定した!」

 

 表面の彫刻(レリーフ)は羽を広げた天使が、まるで仕える神に祈りを捧げているようなもので。

 

「君もまた“奇跡”を体現する存在ならば、容易に使いこなせるだろう。このエレニウム九十五特式を! さぁ、私と一緒に神へと祈り、その存在を広めようではないか!」

 

 銀色に輝くその演算宝珠からは、私に力を与えてくださった神の香りが微かに漂ってきました。

 

「……神よ」

 

 思わず手に取ったまま、偉大なるその名を口にし、

 

「ありがとうございます」

 

 感謝の言葉を続けていました。




あぁ。デグレチャフ殿の居ない戦場のなんと退屈な事か。
まさか一日中汗と血と泥にまみれた兵士達に囲まれ、吐瀉物まで吐かれるとは。
デグレチャフ殿の顔を拝見できずに絶望するとは、まだ楽園の気分が抜けないようですね。

さあ、帝国の明るい未来のため、せっせと負傷兵を完治させましょう。
はぁ、失礼。フリューア・アーデルハイト軍医であります。
今年から晴れて軍医になれました。はい、軍医です。

第6話 「フィールドライフ」 ではまた、病院で。
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