こんな場所ではございますが、改めて読んで下さっている皆様に感謝の意を。
本当にありがとうございます。
皆様おはようございます。私の居るライン戦線は現在午前三時。えぇ、まだ朝日すら拝んでいませんが素晴らしい朝です。
フランソワ共和国が夜襲なんぞをしかけてきたせいで、私はこの時間にたたき起こされ治療に当たることになりました。
――やっぱりデグレチャフ殿を呼び戻して頂けませんかね?
彼女はエレニウム九五式を携えて一時ライン戦線に居ましたが、それはそれは見事な活躍振りにございました。
あれはもはや戦闘ではなく、蹂躙や虐殺に近いものであり、流石は『白銀』と兵士達の士気も上がっていたのですが……居なくなった途端にこれとは、いやはや、我らがライヒはこの先大丈夫なのでしょうか。
「軍医殿! すぐに治療を!」
私の二回り上程の年齢の軍医助手に言われ、私は向かいます――戦場へ。
「軍医殿? 病棟はこちらではありませんが?」
「病棟には私以外の軍医もいるのでしょう? そちらは任せておけば良いのです。私は戦場で治療を致しましょう」
「っ!? き、危険です!!」
「我らがライヒのために危険を顧みずに戦って下さっている兵士達を、自らは安全な場所で運ばれてくるのを待て、と? 運ばれてくるまでの間に亡くなってしまうかもしれないのですよ?」
普段からこのような動きを取っていれば、デグレチャフ殿が戻ってきた際に同じ事をしても咎められないはず。
デグレチャフ殿の側に居られる可能性があるなら、私はどんなことだって致しますよ。
「ですが!?」
「怖いのであれば貴方は病棟に行って頂いて結構。私は一人でも治療出来ますので」
そう言うと何やら苦悶と葛藤の表情を見せた助手でしたが、失礼します。と頭を下げて病棟の方へと走って行ってしまいました。
……腰抜けめ。
さて、一人で愚痴っても仕方がありませんし、しっかり仕事をするとしましょう。
申し遅れました、私、フリューア・アーデルハイト軍医であります。
エレニウム九十五特式の力もあり、無事に軍医へと昇格致しました。
そうそう、最近は『白翼』なんて二つ名で呼んで頂けているようです。
あるいは『天使』と。
まぁどう呼ばれようが気にはしないのですが、『白銀』と並ぶ『白翼』というのは実にときめくものがございます。
おっと、この事を考えると自然と頬が緩んでしまいますね。
これから向かうのは阿鼻叫喚の死地ですので引き締めねば。
「皆さん無事ですか?」
遠目からでも分かる横たわった人で形成された絨毯の端に立ち、応急手当をしている衛生兵の一人へと声を掛けますと、
「軍医殿! 無事ではありますが……もう」
「病棟へ送るべき人たちは?」
「すでに搬送済みです。……残った人たちは……」
兵士に聞こえぬように小さい声で報告してくる衛生兵。
ちゃんと判断しているようですね。
病棟と言っても数に限りは有りますし、物資や薬も有限です。
助かる見込みの無い兵士は間引きよろしく諦めなければならない場面もあり、この衛生兵はそれをしっかりと行ってくれていたようです。
誰もが嫌がる汚れ役ですが、誰かがやらねばならない仕事でもあります。
それを行ってくれていたというのは本当に助かりますね。
「軍医殿は……間引きに?」
現在の病棟の状況を把握し、どの兵士を運ぶか。
それを判断するために来たとどうやら思われたようです。
「いいえ? 私は治療に来ました」
もちろん答えはノーですし、その言葉を聞いた衛生兵は驚愕し危険である。と先ほどの助手と似たようなことを言ってきましたが無視です。
「皆さん! 我らが帝国を侵さんとするフランソワ共和国と戦って下さった優秀な皆さん! ここで死ぬのが果たして本望でありましょうか!? 守るべき家族は? 憎き敵兵は? 心残りは確実にゼロでございますか!?」
呻き声しか無かったその場所に、私の声が通ります。
「そんな筈が無いでしょう? 帰らねばならない筈です。復讐せねばならない筈です。心残りしか無い筈です!」
精神論は好きではありませんが、死にたくない。と思っている患者は治りが早いとデータに出ています。
ならば、治療の前に生きたいと思わせるのもまた、軍医の仕事なのです。
「私に任せて下さい! 既に死を悟った方も居るでしょう! ですが、たとえ『奇跡』と呼ばれようとも、私はその『奇跡』を起こして見せます!」
既に何度も戦場で治療はしています。そして、それを奇跡と評されたことも知っています。
『天使』の二つ名の由来がそこにあり、戦場では『天使』と呼ばれることの方が多いのはそのためです。
そんな、兵士にとってしてみれば幼い『天使』の言葉は、どうやら活力になるようです。
子が居るから。子が産まれるから。結婚するから――死ねぬ。と。
「ですので皆さん! 一旦、
私のその言葉を聞いて、呻き声はいつの間にか笑い声へと変わります。
安心感からか、はたまた死ぬの禁止宣言が面白いのかは分かりませんが、兵士の表情からは絶望感が消えました。
「神の奇跡は偉大なり。誉れ高きその名を讃え、永遠の信仰を誓う。我は常に神と共にあり、神もまた常に我らを見ていて下さる。我ら子羊に――安寧を」
エレニウム九十五特式を起動し術式を展開。
自然と口から出る神への言葉は辺りに心地良く響き、手を動かせる兵士は手を合わせ祈っています。
暴走寸前の術式を制御し私の両手へ。――さて、治療するとしましょう。
銃弾を浴びて内臓の損傷と多量出血中の兵士に手を当てれば、体内に残った銃弾は飛び出てきて、みるみる顔色が良くなりますし、片腕を吹っ飛ばされた兵士に手を当てれば、一瞬のうちに脇に置いてあった吹き飛んだ手がくっつきます。
重傷? 重体? それらを治せるからこその奇跡。
これこそが神の御業なのです。
見てはいても、聞いてはいても体験してみると信じられない。
そんな表情の兵士達は自然に私へ向けて手を合わせます。
私が九十五特式を用いた術式にて治療しているときは、背中に小さな羽が生えるそうで、それもまた『天使』と呼ばれる
「これが……『奇跡』」
もはや動かず放心状態の衛生兵が呟く間にも一人、また一人と見捨てられていたはずの兵士が起き上がり手を合わせています。
時間にして五分程度でしょうか? 横たわっていた全ての兵士達の治療が終わりました。
いくら含有魔力が多いとはいえ、『奇跡』を起こし続けると疲れますね。
早く部屋に戻って寝たい所です。
「では皆さん、また勇ましく戦場で暴れて下さい。我らライヒに仇なすものに鉄槌を」
頭を下げそのように言うと、全員が敬礼を持って見送ってくれました。
これであの兵士達はこれまで以上に奮闘することでしょう。
これも全て、『神の御業』のお陰であります。
むさ苦しい男しか居ないような戦場で癒やしを求めるのは果たして異常でしょうか?
そんな事を考える連中ばかりだからこそ、癒やしが無い。という可能性は?
皆様ご機嫌よう、フリューア・アーデルハイト軍医であります。
聞くところによれば私に治療されたいが為に無謀にも突撃して重傷を負うような兵士が出てきたらしいですが、私に言われてもどうすることも出来ません。
私は今まで通りのことをデグレチャフ殿が来るまで続けるつもりでありますから、止めたければデグレチャフ殿を軍学校から呼び戻して頂きたい。
次回 幼女軍医 第七話 「息抜き」 ではまた、病院で。