幼女軍医   作:瀧音静

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ちょっと期間が空いた気がすると感じた読者の皆さん!
全部存在Xのせいです!!
作者のせいではありません!! 存在Xのせいなのです!!




始まりの大隊

「――デグレチャフ……殿?」

「ん? アーデルハイト殿ではないか。一体どうしt……あー」

 

 何をしているのかと問いました私の言葉に、何やら逆に質問を浴びせようとして一人で納得されたデグレチャフ殿。

 いえ、私は現状の説明を求めているのですが?

 何故私以外の方とそのように楽しそうに会話をしておられたのでしょうか?

 

「参謀本部は随分と気を遣ってくれる。――アーデルハイト殿、こちら、副官のヴィクトーリヤ・セレブリャコーフ少尉だ。以前バディを組んでいた」

 

 あ、なるほど。その方を消してくれと。軍医として、秘密裏に。理解しました。

 

「紹介に与りましたヴィクトーリヤ・セレブリャコーフ少尉です。……大尉殿、こちらの方は?」

 

 敬礼をしとぼけたように首を傾げたセレブリャコーフ少尉は私のことをデグレチャフ殿に尋ねます。

 さぁ、デグレチャフ殿。言ってあげて下さい。彼女に引導を渡す者との説明を!

 しかし、デグレチャフ殿の口からは私が望んでいる言葉は出てきませんでした。

 

「フリューア・アーデルハイト軍医殿だ。私を助けた『奇跡』、と呼んだ方が解りやすいか?」

「そうだったんですか!? てっきり、その……男性の軍医に助けられたものと……」

「少尉は軍情報誌を読まないのかね? そちらでしっかりと特集ページが設けられていたぞ?」

 

 あの雑誌をデグレチャフ殿も読んでいるということでしょうか。

 何やら恥ずかしくなってしまいますね。

 

「デグレチャフ殿から紹介して頂きました、フリューア・アーデルハイト軍医であります。参謀本部より、デグレチャフ殿が率いる大隊から一兵の戦死者も出すなとの命令を受け配属されました」

「その大隊の事なのだがな……」

「まさか……この部屋を埋め尽くしている書類が応募者なんて言いませんよね?」

 

 いくら『白銀』たるデグレチャフ殿が人気とはいえ、ここまでの数は……。

 

「一応ダース単位の応援を要請したんですけどね……」

 

 セレブリャコーフ少尉が苦笑いしながら書類の一山を持って自身の机の上へと移動させます。

 これを……全て審査すると?

 ――過労死しませんかね? あ、ですが過労死寸前で私を頼りぐったりとしたデグレチャフ殿を、治療のために抱いたまま数日間過ごせると考えれば、この状況も実は神からの祝福なのでありましょうか。

 ……お邪魔虫が一人居ますが。

 

「と言うかこれだけの数をどう選考したら大隊の数まで絞れるのやら……全く、帝国の軍人とは解らんものだな」

「それだけ魅力的な募集要項だったのですから、仕方ありませんよ」

 

 手を動かしながら口を動かすお二人とは違い、私は今現在仕事がありません。

 軍医ですから負傷兵がいるはずも無いので当然と言えば当然ですが。

 

「書類だけの審査でどの程度まで減らす気で?」

「まぁ、半分も減ってくれればいいが――応募者が軒並み中尉やらで正直あまり数は絞れては居ないな」

「私より階級が上の人たちですからね」

 

 私の一言で現実を思い出させてしまいましたか、二人が苦笑しながら手を止めます。

 むぅ……大隊は編成して頂かねばデグレチャフ殿の側に居続ける事が出来なくなってしまいそうなのですよね。

 時間が掛かるようなら戦場へ戻されてしまうことなど、火を見るよりも明らかです。

 

「書類審査ではデグレチャフ殿に付いていくことが出来るか、というのは解りませんし、いっその事全て実習審査にしてみては? もちろん、相応に厳しい内容で」

「この書類の山の人数全てを率いてか? そんな余裕は我が帝国には無いよ」

「えぇ。ですので、実習審査を行う方達を決める審査を行えばいいのです。私は戦場を知らないので解りませんが、デグレチャフ殿ならば何か思い当たるのでは? 人数がある程度絞れ、かつ戦場での必須技能を試せるという方法を」

「ふむ……。なるほど」

「大尉殿? 何をするおつもりですか?」

 

 私の進言を聞いたデグレチャフ殿は何やら考え込んでしまい、悪い予感でもしたのかデグレチャフ殿の顔をのぞき込んだセレブリャコーフ少尉は、頬を引きつらせたようです。

 デグレチャフ殿の、恐怖を感じるような笑みでも見たのでしょう。

 あんなに素敵な笑みですのに……ね。

 

「よし、応募者を部隊毎に分け、二人組にしてとある場所に呼びつけよう。そこで審査をするとしよう」

 

 どうやら何か閃いたようで、すぐに作業に取りかかる二人を見て、私にも何か出来ることが無いかを尋ねます。

 

「デグレチャフ殿、何か手伝いますか?」

「そうだな。……では、秘蔵のアレを貰えるか?」

「お安いご用です。ついでに、一つ嗜好品も持ってきますね」

 

 デグレチャフ殿がお望みとあれば、私はコーヒー程度、いくらでも差し出しましょう。

 負傷兵のストレス発散、不安の解消の為と、結構な量支給されておりますし。

 ストレスや不安なども『奇跡』にかかれば払拭されるので、ここ最近は持ち歩くのも苦労する程の量が溜まっております。

 嗜好品のチョコレートもまた、同じです。

 一度口にしたところ、あまりの美味しさに我を忘れてしまい一人で食べきってしまった事を反省し、ちゃんと食べる量を決め日々チビチビと消費しておりました。

 デグレチャフ殿の口に合うといいのですが。

 

「聞いたか少尉。軍医殿は我らのために自らの支給品を分けて下さるそうだ。頑張らねばならんなぁ」

「大尉殿もそうですが、軍医殿も見た目とは裏腹にしっかりしておられますね。……私は嗜好品はすぐに消費してしまうので……」

 

 後ろ耳にそんな会話が聞こえまして、セレブリャコーフ少尉に淹れるコーヒーに毒でも仕込もうかと考えましたが、今居なくなるとデグレチャフ殿の大隊編成が遅れ私も戦場に戻されかねませんので、グッと堪えましょう。

 ――全ては『白銀』の為です。




こんばんは。
自分と会話している相手にいきなり横やりを入れ、会話の方向を変えられる事に苛立ちを覚えることはありませんか?
もう何度目か解らないその行為に私はうんざりしているところです。

申し遅れました、フリューア・アーデルハイト軍医であります。
私を取り巻く環境はどうやら、私が望んだ方向に向かいつつあるようですが、慢心も、希望的観測もよろしくありません。

全ては神の意志。神に祈るのです。

次回 幼女軍医第九話 「過酷なる選抜」 ではまた、病院で

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