幼女軍医   作:瀧音静

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毎回のように誤字や指摘をいただいており感謝の日々であります。
ああいうのは何故か自分で確認しているのにも関わらずに無くならないというたちの悪いもので。
何かあればこれからもよろしくお願いします。


過酷なる選抜

「全く……四組くらいは受かると思っていたが――」

 

 十四組目の原隊送りを出したところでデグレチャフ殿が頭を抱えながらため息をつきます。

 コーヒーをすすり、チョコレートを口に運ぶ手が時間経過毎に早くなっているのは、苛つきの表れでしょうか?

 

「参謀本部から選抜を急げとの要請が……」

「こんな無能共を編成しては治療の嵐で軍医殿が倒れてしまうぞ。……仕方が無い。参謀本部に現状がどれだけ酷いか自身の目で確認して貰うとしよう」

 

 ん? 今もしかしてデグレチャフ殿に心配していただけた?

 私の身体にふさわしいこの小さい耳には、ハッキリと軍医殿が倒れてしまう。と届いたのですが?

 

「どうするのですか?」

「そのままの意味だよ。……そうだな。軍医殿にも少々手伝って貰うこととしよう」

 

 あぁ、何やらいたずらでも思いついたかのような悪い笑顔を――無邪気で素敵な笑顔をしてらっしゃいます。

 何をさせられるかは分かりかねますが、『白銀』殿の命令ならば私はどのようなことだって致しましょう。

 ……ですので、先ほどの私を心配した言葉をもう一度口にして頂けないでしょうか?

 今度は逃さず録音いたしますので……。

 

 

「失礼いたします」

 

 敬礼し扉を閉め、不満な顔のままその部屋を後にする士官殿。

 部屋の中で何を言われたかは分かりませんが、あの顔を見るに不合格でしょう。

 さて、私の番ですが……。

 デグレチャフ殿からは部屋に入れば分かるとしか言われませんでしたが、はてさて私に何をさせるのやら。

 

「失礼いたします! フリューア・アーデルハイト軍医であります! 入室の許可を!」

 

 ノックし部屋の中からの返答を待つと、デグレチャフ殿から入ってよろしい。との声が。

 声に従い入室すると、目の前には気難しそうな顔をしたデグレチャフ殿の姿が。

 

「あぁ、すまない軍医殿。先ほど退室した者に合格との通知をしてきては貰えないだろうか? 何やら勘違いをしているみたいでな」

 

 ため息交じりにそう言ったデグレチャフ殿ですが、もしかして私は遊ばれているのでしょうか?

 目の前に居るデグレチャフ殿は、私の受信するデグレチャフレーダーに反応いたしません。

 と言うことは目の前のデグレチャフ殿は本人では無く、恐らく光学術式による幻影と言った所でしょうか?

 この程度の小細工で、私の想いは逸らせませんよ?

 

「それは別に構いませんが……これは何かのおふざけか、あるいはいたずらでありますか?」

「何のことかね?」

 

 目の前の幻影はとぼけるようですが、残念。既に本物のデグレチャフ殿を私のレーダーは捉えています。

 壁の模様も分断した不自然極まりない左側壁。

 その奥から、私の崇拝するデグレチャフ殿のオーラを感じ取りました。

 そちらへ向けて一目散にダッシュ。

 案の定壁などにはぶつからず、通り抜けてデグレチャフ殿、及び参謀本部の方々と思われる皆様と、セレブリャコーフ殿がこちらを見ておりました。

 

「このように軍医殿ですら看破出来る文字通り子供騙しのような細工ですが、これまでの結果は資料にある通り」

「貴官が散々不合格を突きつける理由も納得だな」

「この程度、魔導師ならば見破れて当然。――ですが、現在三十九組中三十三組が騙されて原隊復帰となりました」

 

 全く、我らが『白銀』を感じることが出来ない無能がそれほどまでにいようとは……。

 一度しっかり教育してやらねばならないようですね。

 

「――再教育の時間が必要です」

 

 私が考えている間に話は進んでいたようですが、どうやらデグレチャフ殿も私と同じ考えの様子。

 

「具体的には?」

「一ヶ月ほど」

 

 一ヶ月……それだけの期間があれば文字通り魂に覚えさせれば簡単でしょう。

 死ぬ程度に刷り込んで、死んだら私が蘇生させるだけの簡単な作業です。

 

「馬鹿なっ!? 新兵の教育にも二年は掛かるぞ!?」

 

 周りの者が驚く中、恐らく一番偉いであろう方がデグレチャフ殿に許可を出します。

 

「構わん。この際、多少手荒でも再教育してやれ」

 

 そこまで言って出て行った参謀本部の方々を敬礼で見送り、彼らの後ろ姿を見やった後にデグレチャフ殿へと目を向ければ――先ほどよりも何倍も素敵で無邪気な笑みを浮かべるデグレチャフ殿のご尊顔が拝めました。

 

「さて、言質は取った。参謀本部のお墨付きだ。全員を死ぬ程度にしごいて再教育してやろう」

「ひぃっ!?」

「ご安心下さい。()()()()しません」

「うむ。期待しているぞ、軍医殿」

「はい。たとえ死んだ方がマシだと思えるプログラムであろうとも、決して死なせません。過労? 自殺? 考えられる死因はまだありますが、ご安心を。()()()()()()()()()()

「あぁ、軍医殿がいてくれて何よりだ。早速志願者達へ再教育を行う場所の案内をせねばならん」

 

 ご機嫌に部屋を出て行くデグレチャフ殿を追いかけ、手伝う旨を伝えると、『頼んだよ』と肩に手を置いて頂きました。

 私達の後を顔面蒼白になり、死んだような、怯えたような表情のままセレブリャコーフ殿が歩いてきますが、――よもやセレブリャコーフ殿も再教育対象者なのでしょうか。

 ――――もしや……絶好の機会なのでは?

 




皆様、とうとうこの時がやって参りました。
私があの『白銀』殿と恐れ多くも肩を並べて飛行し、バディを組むその時が!!

失礼、平静を欠いておりました。フリューア・アーデルハイト軍医であります。
デグレチャフ殿の再教育プログラム、どう考えても完遂出来る者が居ないように思えますが、そこは私が補えという事でありましょう。
そうデグレチャフ殿が言うのであれば、私は身を粉にして働いて見せましょう!

次回、第十話「白銀と天使」 ではまた、病院で
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