ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第8話 決死の脱出戦(前半)

 

 

ムウのメビウス・ゼロを先頭に、俺たちはアークエンジェルから飛び立つと、そのまま一直線にヘリオポリス外に出られる出口へと舞い上がった。

 

「コロニー全域に電波干渉。Nジャマー、数値増大!」

 

「チィ。やっぱこっちが出てくまで、待つ気はないか、あの野郎~」

 

レーダー解析を行ったリークからの報告に、ムウは苛立ちを隠さずに毒づく。クルーゼとムウの因縁は深い。そして俺とも。俺たちは多くの仲間をあいつに墜とされている。毒づきたくなる気持ちも充分に理解できた。

 

「最大推力なら、入り口付近で捉えることはできます」

 

それだけが幸運だった。

ヘリオポリスに侵入されてから戦闘となれば、今通っているトンネル内か、コロニー内での戦闘になる。そうなれば、ヘリオポリスへの被害は免れなかっただろう。

 

「隊長、やはり奴ら…またヘリオポリス内で仕掛けてくるつもりですか?」

 

リークがそう言う。普通ならばコロニー内の戦闘など戸惑うはずだ。いくら巨大なコロニーと言えど、それは酸素が入った筒でしか無い。内側で戦い外壁が壊れれば、それは風船のように破裂して崩壊するだろう。

 

そんな多くの人命を危険にさらす場所で戦闘なんて…実行する人間の気がしれない。

 

「でも楽だぜ?こっちは発砲できない、向こうは撃ち放題だ」

 

ムウはそんな人間性が相手にあるという期待は早々に捨てていた。そもそもの話、G兵器を奪取するにしろ、奴らは港やコロニー内の主要な設備に攻撃を行なっているのだ。そんな倫理観を持っているなら、あんな作戦を実行しようとも考えないはずだ。

 

つまり、ザフトにとってこのヘリオポリスはすでに敵地。破壊してもなんの痛みも覚えない。そんな感覚で攻撃してくるのだろう。

 

「くそが、コロニーの人はどうなっても構わないって言うのか…気に入らねぇ」

 

「口が悪いぞ、ライトニング1。と言っても、気持ちは分かる。けど、奴らにとってヘリオポリスは裏切り者だ。コロニーが危ないから外で戦いましょう、なんて交渉は通じないぜ?」

 

「わかってますよ、ライトニングリーダー」

 

「各機、そろそろ出口だ。エレメントを組め。フォーメーション、「スターダスト」。反対側にアークエンジェルが出るまで、奴らを端から食っていくぞ…!!」

 

ムウの言葉に答え、俺たちは編隊を整える。出口で待ち伏せをしているであろうザフトのジンに対応するため、俺はメビウスのコアユニットだけ反転させて、後方の警戒に入った。

 

「前方に敵反応…!?いえ、ミサイル!?」

 

ムウと俺に挟まれるように編隊を組んでいたリークが、慌てた様子で告げた。

 

「ブレイク!ブレイク!!」

 

俺たちは編隊を解き、各機で回避行動に移る。港と言っても物資運搬用の出入り口だし、正規の入り口以外にも、先のザフトからの攻撃でジンが侵入するために爆破したであろう細い抜け道が出来上がっていたので、俺たちはミサイルの剛熱を避けてヘリオポリス外へ出ることが出来た。

 

「なんてこった!港が吹っ飛んだぞ!!」

 

ミサイルが着弾したヘリオポリスの港は完全に破壊されていた。あれじゃ、戦闘が終わっても物資の搬入機能は絶望的だ。

 

《ちぃ!ハエどもがぞろぞろと!!入り口で潰せはしなかったか!!》

 

《気をつけろ、ミゲル!!奴ら、流星だ!!》

 

編隊を組み直す俺に、二機のジンから発せられた声が聞こえた。ミゲル・アイマン…確かSEEDの冒頭で、キラに落とされたパイロットの名だ。

 

《たかがナチュラルのくせに二つ名など…生意気なんだよ!!沈めー!!》

 

一機のジンが、肩に背負うほどに大きいビーム砲の銃口をこちらに向け放った。

 

「ビーム砲!?うわっ!!」

 

ギリギリのところでリークが野太いビーム砲を避けたが、それは俺たちの背後にあるヘリオポリスに直撃し、コロニーの外壁に大きな穴を穿つ。

 

「なんてこったい!拠点攻撃用の、重爆撃装備だぞ!あんなもんをここで使う気かっ!?」

 

「もっとコロニーから引き離さないと…!!」

 

ムウとリークの叫びが聞こえる。だが、俺はそれよりも、もっと恐ろしい物と目が合っていた。

 

赤を基調にした可変型モビルスーツ。

 

作中で幾度となく、ストライクと激闘を繰り広げたモビルスーツ。

 

「G兵器…!?もう実戦投入してきたのか!」

 

しまった…!!あれはアスランのイージス…!!くそぉ、完全に失念していた…!!俺は自分の記憶力の無さに失望した。グリマルディ戦線からの戦いで、過去の現実だった世界の記憶が薄れていたとは言え、こんな初歩的な出来事を忘れていたとは…!!

 

「コロニー外壁に直撃!!」

 

「野郎!!」

 

メビウスライダー隊が迎撃をするが、その攻撃をジン二機やイージスはひらりひらりと避けていく。こちらは、敵機がヘリオポリス内部に侵入しないように翻弄するので手一杯だった。

 

ある瞬間、ミゲルのジンを攻撃しようとしたムウの手が止まった。

 

《ん…?ははっ!奴らめ!!各機!!コロニーを背にして戦え!!あいつら、コロニーの損害にビビって撃ってこないぞ!!》

 

ムウが攻撃を躊躇ったのは、敵がコロニーを背にしていたからだ。攻撃が外れれば、コロニーに被害が及ぶ。それに気づいたミゲルが、勝利を確信したような高笑いを上げた。

 

「この、ゲス野郎が!!」

 

ミゲルの声に応じて、コロニーに近付こうとする一機のジンに、俺は接敵した。メビウスの機動力を最大限に引き出して、俺は敵機を翻弄して行く。

 

《み、見えない…!!どこに行った!!》

 

《オロール!!右だ!!》

 

誰の声か、ちょうど俺が敵機の右後ろを取ったタイミングだった。右か!!と、オロールは聞こえた声に従って、ジンの矛先を俺へ向けていく。

 

「もう遅い…!」

 

その瞬間、オロールのジンが持っていたミサイル、そして機体の中心部にレール砲が直撃した。手元にあったミサイルが爆発し、さらに胴体を穿たれ、ジンは閃光へ包み込まれて行く。

 

《うわぁああああ!!!》

 

爆散したジンを屠ったのは、外側から狙撃したリークのメビウスと、ムウのメビウス・ゼロだった。

 

二人は旋回するように飛行しながら、俺が翻弄するオロールのジンを狙撃できるポイントへ向かい、わずかな間で敵機を撃ち抜いたのだ。

 

《オロール!!!クッソーー!!!》

 

怒り狂ったミゲルはビーム砲を連射する。

 

それらはことごとく外れてはいたが、何発かがヘリオポリスの外壁へ直撃していた。

 

「くそ、このままじゃヘリオポリスが…!」

 

なんとかしてビーム砲を止めなければならない。だが、他のジンや、タイミングよく妨害してくるイージスが邪魔で、ミゲルのジンに近づくことは困難だ。仮に近づいたとしても、オロールのジンを落としたような手はもう使えない。

 

どうする…!

 

その時、俺たちが出てきた物資搬入用の港とは違う、整備用のドックが併設してある港から、派手な爆発が起こった。

 

なんだ?アークエンジェルは反対側の港から脱出する手はずになっているので、ここで爆発が起こるなど…。新手か、と意識を集中するが、そこから現れたのはーーー。

 

「アークエンジェル…!!?」

 

反対側へ脱出しているはずの、アークエンジェルだった。

 

 

////

 

 

ブリッジの艦長席にはマリューが座り、慣れない様子で下士官へ指令を発していた。

 

「これより、メビウスライダー隊を援護します。ヘリオポリス隣接宙域からの脱出を最優先とする。戦闘ではコロニーを傷つけないよう留意せよ!」

 

アークエンジェルの各兵装が臨戦態勢を整えて行く。本来ならば、アークエンジェルはメビウスライダー隊が囮になっている間に、同隊の母艦が待っている反対側の港へ脱出、ヘリオポリスを離脱する予定だった。

 

だが、マリューもナタルも、戦場で起こり、自分たちが耳にした眉唾物の噂話を信じられるほど、楽観主義者ではない。

 

所詮はモビルアーマー編隊に過ぎない彼らだ。まともにやりあっても勝算は限りなく低い。

 

メビウスライダー隊が全滅すれば、すぐにでも敵はコロニー内を突っ切り、こちらを追ってくる。ジンだけではなく、整備やデータ収集が終われば、G兵器も追撃に投入してくるだろう。

 

そうなった場合、こちらには艦の兵装と、パイロット不在のG兵器しかない。その後に待ち受ける未来を予想するのは容易かった。

 

アークエンジェルを援護に向けようと、マリューに進言したのはナタルだった。

 

今なら戦力に余力があることを利用し、敵部隊に打撃を与えることができる。それが出来なくとも、不意を突いた攻撃ならば、ザフトの攻勢を崩すこともできるだろう。そのあとは味方戦力を回収し離脱すればいい。ならばと、ナタルはそうするべきだと考えたのだ。

 

そして、マリューがそれに同意したのは、もう一つ理由があった。

 

《3番コンテナ開け!ソードストライカー装備だ!》

 

アークエンジェルのハンガーで、マードック指揮の下、ストライクへ武装が装着されていく。

 

「ソードストライカー?剣か。今度はあんなことないよな」

 

そのコクピットに乗っていたのは、戦争は自分たちとは関わりがないと、戦うことを拒絶していたキラだった。

 

 

////

 

 

「キラ!!本当に行くのかよ!!」

 

ラリーたちが出撃した後、攻勢に出るべきだと進言するナタルとマリューのやり取りを見たキラが、何を思ったのか「僕がモビルスーツに乗れば、戦えるんですよね」と言い出したのだ。

 

さっきまで、モビルスーツに乗ることも、戦争に加担させられることも拒絶していたはずなのに、なぜ?キラを止めようとするサイの疑問はそれだけだった。

 

「そうだよ、軍人さんもここに避難してろって」

 

「言い方は最悪だったけどな」

 

カズイもトールもミリアリアも、止めるサイと同意見だ。出なくていい、足手まといだと言われたのに、なぜキラは出ようとするのか。

 

「みんな…うん、確かに僕も避難しておきたい。だけど…」

 

キラの脳裏に、ラリーが言った言葉が反復する。

 

【引き金を引いておいて、自分は関わりないですと言う君より戦える】

 

その言葉は、自分は戦争とは無関係、巻き込まれた哀れな民間人だと思っていた自分に、重い罪悪感を思い出させた。

 

「僕は、引き金を引いたんだ。そしてコロニーに穴を」

 

仕方がない、命令されたんだ、皆を守るためだった、敵を撃つ為だったんだ。そういって自分に言い訳をして、あの大穴を開けた罪悪感から逃れていた自分がいた。

 

冷静に考えれば、あの場所には民間人がいるシェルターがあったかもしれない。誰かが避難していたかもしれない。

 

あの一撃で、無関係な誰かを殺しているのかもしれない。

 

それを自覚して、考えるだけで、キラの手は震えた。

 

「それは、お前が責任を感じることじゃないって!軍人が無理やりお前を…」

 

「けど撃ったのは僕なんだよ、サイ。みんながこんな目にあったのも、僕がここに居るのも、僕が、あのモビルスーツに乗って、引き金を引いたからなんだ」

 

この罪悪感を知った以上、あの軍人から言われたように、ここにうずくまって避難していたら、自分はこの罪悪感を一生背負っていくことになる。そんな気がした。

 

それに、キラにもナタルの言い分は、共感はできないが理解はできていた。

 

「ここにあるモビルスーツを動かせるのは僕しか居ないから。それに、もし、あの人たちが負けたら、僕が出ないと、皆が危険な目に遭う。だから…」

 

誰かに頼っていても、どうにもならなかったから、自分はOSを書き換えて、モビルスーツの席に座った。そうしようと決めたのは他でもない、自分だった。

 

だから――。

 

「キラ…」

 

サイから見ても、その時のキラは普段見せないような顔をしていた。

 

キラは自分の中では、自己責任や罪悪感を理由にして、論理的に戦おうと言う気持ちを整理しているようだったが、サイから見れば、キラはーー。

 

 

////

 

 

「接近する熱源1。熱紋パターン、ジンです!」

 

出てきたアークエンジェルへ、一機のジンが迫る。

 

「チッ、ストライク、発進させろ」

 

「ナタル!!」

 

「周辺迎撃だけです!!行けるな!!」

 

《は、はい!》

 

ナタルの声に応えて、キラが駆るソードストライクがアークエンジェルから飛び立つ。

 

それと同時に、オペレーターがメビウスライダー隊と交戦する一機のモビルスーツを見て、息を呑んだ。

 

「はっ!一機はX-303、イージスです!」

 

「…もう実戦に投入してくるなんて!」

 

《アークエンジェル!!聞こえるか!!動揺してる暇はないぞ!今は敵だ!あれに沈められたいか!》

 

音声回線で叫んだムウの言葉に、マリューは動揺を抑えて指示を頭の中で整理した。

 

「…コリントス、発射準備。レーザー誘導、厳に!フェイズシフトに実体弾は効かないわ!主砲、レーザー連動。焦点拡散!」

 

 

////

 

 

「ライトニング1!!ラリー!!アークエンジェルから!!」

 

何もかもが予想外だった。いや、ある意味原作知識の通りではあったが、そうならないために自分たちが港で囮役をやっているというのに…こうもうまくいかない物なのか…!!

 

「ストライク!!あのバカ…なんで出てきたんだ!」

 

おまけに釘を刺したはずのストライクも、原作同様にソードストライカーで出てくる始末だ。

 

原作でのキラは、まだ民間人。

パイロットとしても、人間性でも不安定だ。

 

俺やメビウスライダー隊といった特異要素がある以上、彼が原作通りに生き抜く保証はどこにもないのだ。

 

ああ言えば出てこない、こうすれば何とかなると考えた自分たちのプランが全て水泡に帰した。

 

「ムウさん!!援護に向かえますか!」

 

俺やリークが向かうよりも、原作でヘリオポリス内で戦闘していたムウとの方が、生存の可能性は上がるはずだ。

 

なにより、俺は接近戦特化でストライクのようなモビルスーツのサポートには向かない。

 

「だけど、お前!!」

 

「ここは俺が押さえます!出てきた以上、やるしかないです!ムウさんはストライクのサポートを!リーク!お前と俺でエレメントだ!行けるな!」

 

「しんがりは任せて下さいよ!!」

 

「…ちぃっ、生き残れよ、お前ら!」

 

それだけ言って、ムウは編隊から離れ、アークエンジェルとストライクの下へと飛び立っていく。

 

さて、俺たちの仕事は、目の前の二機のモビルスーツの足止め。そして出来るなら撃破だ。

 

 

 

 

「ボウズ!!聞こえるか!!」

 

「は、はい!」

 

「なんで出てきたかはこの際聞かん!俺とエレメントを組め!!」

 

「エレメント…?」

 

「あぁもう!とにかく、俺と連携するぞ!!生き残るぞ!!」

 

 

ヘリオポリスでの戦闘は、さらに混乱を極めていく――。

 


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