ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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キャラデザが出来たので掲載します!

アイザック・ボルドマン

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ドレイク・バーフォード

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第103話 ソロモンの戦い 3

 

トールにとって、ラリーこと流星の機動戦という概念が、彼にとってのパイロットのスタートだった。

 

誰もが驚く異常性。絶対に耐えられないと思うような機動と負荷。そこから得られる爆発的な機動力。その全てがトールにとってのパイロットとしての一歩だった。

 

砂漠で初めてラリーの後ろに乗った時の感覚。それに耐えられてしまったのがトールだ。普通なら、その爆発的な機動力に不安を覚えるものだ。

 

機体の負荷、破損。そして自分への負担。暗くなっていく視界。そんな不安要素など、トールは知らない。その全てを置き去りにする速さと機動戦を知っている。そして自分はそれに耐えることができる。

 

あとは、自分の技術を背中を追う彼らに追いつかせるだけだ。

 

「キラ!ソードを射出するぞ!」

 

イージスの足から伸びるビームサーベルをスウェーバックで躱し、そのままカウンターをするようにアグニの後部で殴り飛ばしたストライクの背後に、ソードストライカーを投下する準備を整えたトールがキラに向かって叫んだ。

 

「トール!!いいタイミングだ!!」

 

グゥルから落ちたイージスを見下ろしてから、キラはエネルギーが僅かになったランチャーストライカーをパージすると、そのままレーザー通信でソードストライカーに難なく換装し、イージスが墜落した岩肌が剥き出しの無人島へ降下していくのだった。

 

 

////

 

 

戦況としては申し分ないものだった。

 

ブリッツとイージスは中破、ディンはその飛行能力を失い、被弾したバスターに抱えられる形で退いている。ナタルは改めてメビウスライダー隊の力に感服する。相手はコーディネーター。しかも宇宙から追ってくるほどの手練れだというのに、こちらの損害はほとんど無いのだ。

 

「撃ち方止め!敵は敗走気味だ。メビウスライダー隊も深追いするな!」

 

故に、ここで深追いと欲を出してはいけない事をナタルは理解していた。敵は打ち倒すよりも被弾させ、疲弊させた方が効果的に退かせることができるというのを、ナタルはドレイクのやり方から学んでいたのだ。

 

生かさず、殺さず、そして相手が諦めるのを待つか、無闇に突っ込んできたところを撃つか。どちらにしても、こちらとしての損害は少なくて済む。

 

戦いもひと段落ついたと肩から力を抜いた時だった。

 

「中尉!南西から飛翔体を確認!」

 

その声に、ナタルの肩は即座に固まりモニターを見るオペレーターの方へと視線を向けた。

 

「なんだと!?ザフトの攻撃か!?」

 

「いえ!この方位…地球軍の勢力地からです!!」

 

「なに!?」

 

飛翔体。その言葉を聞いてナタルの思考によぎったのは、ザフトが使ったSWBMだった。Nジャマーで正確な座標ロックができないため、今現在打ち出される弾道ミサイルなどの飛翔体があるとするなら、それは広範囲に被害をもたらす兵器以外考えられない。

 

しかし、なぜ地球軍が?ザフトも交戦するこちらに向かって打ったのか?そこで思い当たるのがーーー体の良いミサイル性能のテスト。ナタルの顔から血の気が引いていく。

 

「飛翔体!高度を上げてます!弾着予測地点は…この海域です!!既存爆撃範囲から位置を出します!」

 

そう言って効果範囲が表示されるが、あくまでそれはSWBMのデータから算出された憶測でしか無い。未知のミサイル。それに地球軍側から打ち出されたとなると、予測などあてになるものでは無い。

 

どうするーーー!!

 

「ナタル!艦を退かせて!何か嫌な予感がするわ!」

 

そんなナタルの迷いを読み取ったのか、マリューが大声でそう伝えてきた。取舵!高度を上げて空域を離脱!そう指示を出すマリューにナタルは待ったをかけた。

 

「しかし艦長!メビウスライダー隊が!」

 

特にストライクがまずい。弾着予定位置のほぼ真ん中にいるのだ。ミサイルがSWBMと同じ性能なら何とかやり過ごせるだろうがーー。、

 

「ストライクには防御を!空中からの炸裂弾に注意するように通達を!戦闘機も緊急離脱!!」

 

 

////

 

 

鉄が切り裂かれる音が辺りに響いた。

 

シュベルトゲベールを構えたストライクが、満身創痍になりながらもまだ戦おうとするイージスの頭部と残った腕、そして足を切り飛ばしていたのだ。

 

「もう下がれ!君達の負けだ!」

 

刃を構えながら、キラはあえてイージスのコクピットへ通信を繋げた。敵はまさに崖っぷち。ブリッツの装備は無くなり、ディンも空を飛ぶ術を失い、バスターは得意の間合いを潰されている。

 

キラがそれでも通信を繋げたのは説得するためではない。最後通告だ。

 

「止めろアスラン!これ以上戦って何になるっていうんだ!」

 

「何を今更!討てばいいだろう!お前もそう言ったはずだ!お前も俺を討つとーー言ったはずだ!」

 

そのアスランの言葉に、キラは異様に腹が立った。まるで命を何とも思っていない。自分の命も、相手の命も。キラはその沸き立つ感情のまま、アスランに向かって叫んだ。

 

「この分からず屋!アスラン!ここで僕らが殺しあっても戦争は終わらないんだぞ!!人が死んでいくんだぞ!これからも!この先も!!」

 

ここでアスランを討つ。それで何が変わる?何が起こる?戦争は終わる?戦争の終わりに近づくか?

 

答えはノーだ。

 

何も変わらない。何一つとして、変化はしない。ただ、キラにとって自分の手で親友を殺したという真実だけが残る。その真実はキラを死ぬまで苛むだろう。そんなことに何の意味があるんだ。

 

「だがーー俺には…俺にはこれしか残っていないんだ!!」

 

その声色は、今まで聞いた兵士であるアスランの物ではなかった。最後に別れてしまったーー親友であったアスランの心の叫びだった。

 

「母を殺された憎しみで引き金を引いた俺には…もうこれしか!!」

 

残っていないんだ。そう絞り出すようにアスランは灰色に染まっていくイージスの中で頭を下げた。父の悲しむ姿を見て、母が居なくなったことから逃げるように憎しみに走って。

 

何も残らない。何も変わらない。何も帰ってこない事をわかっているのにーー自分にはそれしか残っていない。それ以外に生きる道を見失っているのだから。

 

そんなアスランを黙って見つめるキラの元へ、通信が入った。

 

《エンジェルハートよりライトニング2!!聞こえるか!?ライトニング2!!南西から飛翔体を確認した!脅威は不明!すぐに防御態勢に入るか離脱しろ!》

 

トーリャの言葉を聞いて、キラはすぐに遠い空を見上げた。そこには、まだクルーゼと死闘を繰り広げるラリーのスピアヘッドの姿があった。

 

 

////

 

 

「うりゃああああ!!」

 

《でやぁああああ!!》

 

二人の戦いはまさに死闘だった。

 

ラリーの放ったミサイルを、クルーゼは着弾寸前にフルジャケットユニットのパーツをパージし、ミサイルにぶつけて避ける。

 

その爆炎から浮き上がると、お返しと言わんばかりにビーム砲の雨をラリーに向けるが、その嵐をラリーは卓越した機動力で全て躱し、さらにバルカン砲でビーム砲を穿った。

 

火を上げたビーム砲をクルーゼはすぐさま切り離すと、空いた隙間からディンのライフルを構えて、今度はスーパースピアヘッドの代名詞と言える補助ブースターを撃ち抜く。

 

「ーーーっ!!はぁ!!」

 

《このぉ…!!ぐはぁ!!》

 

火を噴く補助ブースターの最後の残り火を吹かして、ラリーはクルーゼのディンへ急接近して、グゥルのブースターを使った巨大な推進ユニットを、翼端に備わるビームサーベルで切り裂く。

 

お互いにユニットを切り離して飛翔すると、離れたユニットは同じタイミングで爆散して空の彼方へと散った。

 

「いい加減にしろよ!お前!!」

 

《そちらこそ!そろそろ苦しいのではないか!?私は平気だがな!!》

 

ディン・ハイマニューバとスピアヘッドとなった二人の機体は、雲の間を猛スピードで切り抜けて、互いの武器を駆使し、命を削っていく。

 

きりもみ、旋回し、マニューバを使い、AMBACを使って、回り込み、追い抜き、背後を取り、射線に入った時、ほんの僅かでも相手を仕留められる瞬間があるならば、弾丸を撃ち合う。

 

「嘘言え!この変態がぁ!!!」

 

《君に言われたくはないなぁ!!流星ぃ!!》

 

貰った!!とラリーの射線がディンの翼を捉えるが、クルーゼはとっさに身を翻す。しかし完全に避けることは叶わずに、ディンの足がラリーのビームサーベルによって切り裂かれる。

 

そのまま切り揉むかと思ったら、クルーゼは姿勢が崩れた状態から、なんとラリーの機体に狙いを定めてライフルを打ち込んだ。弾丸はエンジンとボディを貫き、片側のエンジンが黒煙を上げて、掠めた弾丸のせいでビームサーベルが爆散する。

 

「まだまだぁ!!!」

 

《もっとだ!もっと私に魅せろ!!流星ぃいい!!》

 

黒煙がコクピットの中に舞い始めた時、ラリーの機体に緊急通信が入った。

 

《エンジェルハートよりライトニング1へ!聞こえるか!?今すぐその空域を離脱するんだ!いいか!?今すぐにだ!》

 

「なんだと!?けど、今はそれどころじゃ…!!」

 

応答する間もなく、ラリーの機体にクルーゼが迫る。鋭く機体を奔らせて、同じく煙を上げるクルーゼのディンと交差を繰り広げていく。

 

《南西から謎の飛翔体が来る!弾着まであと1分もないぞ!!》

 

歯を食いしばってクルーゼとの機動戦に挑むラリーは、その切羽詰まったトーリャの言葉に応えることができなかった。

 

 

////

 

 

「キラ!早く離脱するんだ!」

 

「とにかくアークエンジェルの元へ行け!高度はあまり上げるなよ!SWBMなら俺たちはおじゃんだ!!」

 

ムウとトール達の機体が退避していく中で、キラはアスランをどうするべきが考えを巡らせていた。

 

四肢のほとんどを失い、フェイズシフト装甲すら失ったアスランの機体を回収することはできるが、こちらもソードストライカーのため全開の出力を以ってしたとしても、アスランを連れて指定範囲まで離脱することは難しい。

 

そう考えを巡らせていたらーー。

 

『アスラン!下がって!』

 

片腕を失いながらも、ランサーダートを手に持ったブリッツがミラージュコロイドを解除して、キラのすぐ近くに姿を現した。

 

アスランの驚いた声が聞こえたが、今は迷ってる時間はない。

 

「ブリッツか…なら!!」

 

キラはブリッツの攻撃を避けると、カウンターを決めるようにパンツァーアイゼンを装備した腕でブリッツの頭部を殴り飛ばした。

 

頭部を殴られて倒れるブリッツを確認して、キラはパンツァーアイゼンのアンカーを射出し、転がっているイージスを掴むと大きく振り回して倒れているブリッツめがけて投げつけた。

 

『うわぁああ!』

 

アスランの叫び声が聞こえるが、とにかく今は退がらせることが先決だ。

 

「早く退け!死にたいのか!」

 

そうキラが叫んだ瞬間、真上の空がパッと明るく咲いたように光った。

 

『アスラン!ニコル!』

 

復旧したグゥルで飛んできたバスターが、イージスを抱えて何とか起き上がったブリッツを半ば抱えるように回収すると、地面に擦れることも構わずに光とは逆方向に向かって速度を上げた。

 

『なんだ!?あの光は…!!』

 

光は雲を打ち払い、空を覆い隠すように広がっていく。今までみたSWBMと似た光だが、明らかに規模が違う。光はそのまま、真下にいたストライクを包み込むと、轟音を響かせて衝撃波をアスラン達に届けた。

 

『うわぁああ』

 

あまりの衝撃にグゥルから投げ出されたディアッカとアスラン達は無様にも岩肌の島を転がっていく。

 

 

////

 

 

その光はトール達にも眩く映った。バブルキャノピーから見える光は信じられないほど明るくてーーそして大きくなっていった。

 

「トール!!衝撃に備えーーー」

 

アイクの叫び声が聞こえた瞬間、機体は横殴りの衝撃波に襲われて、備えていなかったトールの意識を簡単に刈り取った。

 

「クルーゼ!!」

 

光を背にしたラリーのスピアヘッドは、あろうことかその満身創痍な機体の機首を上げて、制御が不能になりつつあるクルーゼのディンへ体当たりを行う。

 

《なにぃ!?》

 

クルーゼは皮肉にも、ラリーに守られる形で衝撃波から逃れていたのだ。スピアヘッドの後部のパーツが衝撃波によって吹き飛んで行き、機体の装甲がディンの頭部に激突していく。

 

《ふざけるな!流星!!私は貴様を討ち!貴様は私を討つのだろう!?庇われるのも、守られる義理もない!!やめろ!ラリー!!》

 

「だが!こんな形でお前と決着などーーー」

 

その声を最後に、ラリーの通信は砂嵐に飲まれていく。

 

《流星!!応答しろ、ラリー!!》

 

突如として起こったその驚異的な爆発は、その海域一帯を光に包んで飲み込み、やがて消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イージスの中で目が覚めたアスランがみた光景は、信じられないものだった。

 

さっきまであった岩肌の島が、光が満ちた場所を中心に巨大なクレーターを生み出していたのだ。

 

まだ意識を失っているディアッカ、ニコルを置いて、アスランはイージスから降り立つ。

 

宇宙用のノーマルスーツを着ていたから良かったものの、あたり一面の空気中の酸素は、気化燃料の爆発によって枯渇している状態だった。

 

アスランはのろのろと、キラの乗るストライクがいた場所の近くに行くと、そこで膝をついた。

 

ストライクのいくつかの部品を残して、キラの乗っていた機体は跡形もなく消えていたのだがらーー。

 

「キラ…!キラぁああああ!!」

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

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