ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第9話 決死の脱出戦(後半)

ヘリオポリス戦の少し前。

 

それはラリーとリークがアークエンジェルにて自機の整備を行っていた時の話だ。

 

「おいおい、お前さんマジでこんなもんを付けるつもりか?」

 

二機のメビウスを眺めていたマードックが呆れたように言った。

 

ラリーのメビウス・インターセプターの武装は、バルカン砲とレール砲、そして4基のミサイルだ。だが、先の戦闘でラリー機のミサイルは2基消費し、そのミサイルハンガーは空になっている。

 

「バジルール少尉には許可を頂いてます。おそらく、極度の混戦と接近戦が予測されますから」

 

ラリーの機体をせっせと弄るのは、元々整備員だったリークだ。基本的な補給は完了していたが、不足したミサイルを補う事と、ラリーからの指示もあって、リークはミサイルラックに「ある物」を固定する作業に勤しんでいる。

 

「だからって、こんなのをモビルアーマーに付けてどうにかなるもんなのか?」

 

マードックから見ても、リークが取り付けようとする「ある物」は、モビルアーマーから見て無用の長物。宇宙航空戦で戦闘をするメビウスにはあまりにも不似合いに思えた。

 

「自分はもともと、マードックさん達と同じ整備員でした。パイロット不足でメビウスに押し込められて、ザフトのモビルスーツがウヨウヨいる戦場に放り出されたんです」

 

「あんた、よく生きてたよな」

 

「でしょう?もともと整備員でしかなかった自分が、今は助けてもらった恩人たちと同じ部隊でメビウス乗りをやってるんですよ」

 

リークは手を止めずに、淡々と自分の過去を思い出していた。死んでこいと言われたような作戦に放り出された素人が、今こうやって生き残って戦っている。それが何を意味するのか。

 

「つまり、どういうことだ?」

 

「あの人たちが凄いってことです。自分は、仲間を信じるだけですよ」

 

自分は、彼らに付いて行っただけ。もちろん、運良くパイロット適性があって、そして死ぬ気で追従してきたわけだが。それでも付いて行っているだけ。

 

そんな自分がこうやって生き残れているということは、それだけ彼らが自分を生きながらえさせているのだ。

 

今なら流星と呼ばれる彼らの凄さが分かる。

 

「リーク、付けられたか?」

 

ふと、後ろから補給作業を終えたラリーが声をかけてきた。リークは最後に動力ケーブルが露出しないようにカバーを付けて作業を終えた。

 

「ばっちりですよ、ラリー。けど使用はなるべく控えて下さいね?バッテリーに直結してるとは言え、テストなしの使用になりますから。使うときは天使のように繊細に、悪魔のように大胆に、ですよ?」

 

「了解だ」

 

リークの言葉と、彼が取り付けてくれた「ある物」を見て、ラリーは満足そうに答えた。

 

 

////

 

 

ヘリオポリス外壁部。

 

《チィー!!素早い!!なんなんだよ、コイツ!!》

 

ミゲルが操るジンと、俺のメビウスは高速度の接近戦をしながら絡み合うように飛び回っていた。

 

《気をつけろ、ミゲル!!アイツらはクルーゼ隊長と戦って生き残ってる!!迂闊な真似は…》

 

《うるさい!たかが、ナチュラルのモビルアーマーなど!!》

 

ナチュラルを軽視するミゲルは、あくまでも自分の方が優位だと考えて戦闘を行なっている。それに、しつこく絡み合って手に入れた攻撃のチャンスも、ミゲルがコロニーを背にしている為、迂闊に攻撃ができないときている。

 

「くそー!!コイツ強い!!ライトニング1!!」

 

「ぐぁぁあ…くっ、ライトニング3は現状を維持!落とされるんじゃないぞ!」

 

高速度域のハイマニューバは人型であるジンは易々と行えるが、俺の駆るメビウスは違う。推力方向を四方八方へ向け直し、前進や後退、反転、旋回を入り混じらせて軌道を描いている。体に掛かる負荷も想像を絶するものだ。

 

「もっとだ…もっと近づかないと…!」

 

それでもまだ届かない。

 

射撃をすれば、敵を怯ませることはできるが、コロニーを傷つけてしまう。コロニーを傷付けず、敵を屠るには方法は一つしかない。リークが取り付けてくれた「アレ」を使うしか…!

 

ミゲルも、得体の知れないメビウスを近づけさせないように、射軸が重なればビーム砲を放った。なんとかコロニーの外側へ逸らそうとはいるが、それでも何発かはコロニーにビームが直撃している。

 

「ちぃ…!あのビーム砲が無ければ…ビーム?」

 

そこで、俺はあることを閃いた。

ビームは光学兵器であり、直線方向にしか進まない。曲がるビームが出るのはまだ先だ。

 

「ならば!!」

 

俺は一気にミゲルから離れ、コロニーを背にする相手へ一直線に進む軌道を取る。

 

《なにぃ!射線正面だとぉ!!死にに来たのか!!》

 

直線上にいる俺めがけて、ビーム砲が火を吹いた。それは俺がイメージし、望んでいた理想のラインで。

 

「ぐっ…がぁ…う…おおおお!!!」

 

俺はフットペダルと操縦桿を全力で引きしぼる。途端に、機体は螺旋を描くような軌道を描き始める。

 

バレルロール。

進行方向を変えないまま、軌跡を螺旋のようにズラして敵機の攻撃を避けるマニューバ。

 

俺は全神経を研ぎ澄まし、ミゲルが放ったビームを紙一重で避け、相手の許へと迫った。

 

《ば、バカな…今のを…避け…!?》

 

兵装選択、動力バッテリーに接続、電圧定格値…!!メビウス下部に設けられたミサイルラック。そこに取り付けられたのは、ミサイルでも、ビームライフルでもない。

 

本来ならばエールストライクの背部に取り付けられている近接用のビーム兵器。俺は機体を半回転させて、腹をジンに見せるように接近して行く。

 

「いけぇーー!!!」

 

メビウスのバッテリーから供給されたエネルギーで、本来の半分ほどではあるがビームサーベルの柄から光刃が出現する。

 

ミゲルのコクピットカメラを鮮やかに照らした刃は、そのままジンの上半身と下半身を引き裂き、真っ二つにした。

 

《うわぁああああああ!!!》

 

交差した背後で、ミゲルの叫び声が響き、ジンの爆発とともに、それは聞こえなくなった。

 

 

////

 

 

黄昏の魔弾、落ちる。

 

それは相手勢力を混乱に陥れるには充分な効力を発揮した。

 

《アスラン!ミゲルがやられた!》

 

《ミゲル…!!くそっ!!》

 

すぐにでも、ミゲルを落とした忌々しいモビルアーマー部隊を追撃したいところではあるが、自動迎撃とは言え、ハリネズミと化しているアークエンジェルの対空能力に加え、モビルアーマー部隊からこちらへ迎撃に出たメビウス・ゼロ、そして地球軍側のG兵器「ストライク」の連携が、マシューのジンと、アスランのイージスを釘付けにしていた。

 

《くそー!!ミゲルとオロールをよくも…!》

 

ビーム砲を装備したマシューのジンが、ビームを連射しながらストライクへ接近して行く。

 

「これ以上、コロニーを傷つけさせるわけには…!」

 

二度目の戦場。そして宙域での戦闘だというのに、キラの精神面はともかく、操縦は淀みなく、そして冷静であった。放たれる乱雑なビームを避け、肩に装備されたビームブーメラン「マイダスメッサー」を引き抜き、投げ放った。

 

《なに!?》

 

放たれたブーメランは湾曲した軌跡を描き、がむしゃらに接近してきていたジンの両足を引き裂く。ジンは足に備わるスラスターの姿勢制御を失い、ストライクめがけ、背後を見せるようにくるりと回転した。

 

「僕は…僕は…うわぁあああああ!!」

 

躊躇う心を振り払って、キラはジンの肩口から腹部へなぞるように対艦刃「シュベルトゲベール」で切り裂く。ジンはしばらく稲妻を迸らせ、閃光と化す。

 

《マシュー!!》

 

アスランの悲痛な叫びも、キラには届かなかった。コロニーに穴を穿ち、戦いは嫌いだと言いながら、自分は再びストライクに乗り、そしてまた引き金を引いた。今度は明確に、誰かの命を奪った。そんな罪悪感から、キラの思考はわずかな間だが、空白に落ちる。

 

僕は、一体、なにをやっているんだ…。

 

「ストライクがやったのか!やるじゃないか、ボウズ!」

 

側を飛行するムウが、呆然としたキラに呼びかける。キラの体は即座に反応し、呆ける思考とは別にストライクを的確に操っていく。

 

《キラ…お前は…その機体に…》

 

僚機すべてを失ったアスランは、圧倒的とも言える地球軍の勢力と、幼馴染が乗っているかもしれないG兵器を歯がゆい瞳で眺める。

 

《撤退しろ、アスラン》

 

そんなアスランの機体へ通信をしてきたのは、自分の後方で待つザフト艦の艦長アデスだ。

 

《艦長!ですが…》

 

《ええい!見てわからんか!お前一人ではどうにもならん!》

 

アスランの抗議をアデスは一蹴して、これは命令だとさらに語気を強くして言い放つ。ジン二機を落とされ、さらに敵のモビルスーツも戦闘ができるとなれば、いくらなんでも分が悪すぎる。

 

《くっ…了解…!》

 

アスランはモビルアーマー形態に変形すると、ヘリオポリスの宙域から一気に離脱していく。ストライクに乗るキラも、メビウスライダー隊も、それを見送るだけだ。

 

誰から見ても、ザフトの敗北だった。アデスは悔しそうにアスランが捉えたメビウス編隊を睨みつける。

 

《モビルアーマー三機でジン二機…そしてG兵器か。くそ…凶星"ネメシス"め…!!》

 

この日、「流星」に加え、メビウスライダー隊にもう一つの異名が加わることになったのだったーー。

 

 

////

 

 

「ひ、引いていくのか…」

 

「そりゃな。相手も鹵獲したばかりのG兵器を残すようなバカな判断はしないさ」

 

撤退していく紅いG兵器を見送るキラは、ムウの声を聞いた途端、ずるずるとコクピットシートの中でずり落ちる。今回も全く余裕が無かった。

 

見送ったあのモビルスーツに、もしかして自分の幼馴染が乗っているかもしれない。

 

そんな思考すら、今湧いてきているのだから、自分がどれだけ切迫して操縦していたのか、今更になって自覚する。

 

「ライトニング1、お見事でした。しかし、あれはヒヤヒヤものでしたよ」

 

「あそこで引いてくれて良かったよ。こっちも燃料がギリだ。まったく、ビームサーベル一回でバッテリーの三割が削れるなんてな…」

 

敵が引いたことで、少し離れていた場所で戦闘を繰り広げていた二機のメビウス編隊も、キラやムウの下へ集った。あれだけの戦闘の後だというに、通信越しに聞こえた声は、穏やかなものだった。

 

これが、戦争。

 

自分を叱咤したパイロットや、隣にいるムウも、こんな戦闘を何回も経験しているのだろうか。

 

「ほんとに、モビルアーマーでジンを…凄いな…この人たち…」

 

気がつくと、キラはそんなことを呟いていた。

 

ストライクのコクピットで、ほんの僅かに見たラリーのメビウス機の動きは、キラから見ても尋常では無かった。彼が言った言葉は嘘じゃ無かったのだ。もしかしたら撃ち落とされるかもなんて考えた自分がやけに恥ずかしく思う。

 

「ストライク。乗っているのは君だろう?キラ・ヤマト」

 

「は、はい」

 

純白のメビウスが自分に近づいていることに、キラは気づかなかった。通信機越しに聞こえた声は、まさに自分を叱咤したパイロットの声だった。

 

「君が何で出てきたのか、俺はそれを聞かない。だが――」

 

また何か言われるのだろうかと、キラは身構えていたが

 

「君が出てくれて、俺たちは生き残ることができた。礼を言わせてくれ」

 

掛けられたのは、感謝の言葉だった。

あまりの予想外の言葉に、キラは言葉を失う。

 

「まったく素直じゃねーな、ラリーは」

 

「全くです。自分がメビウスライダー隊に入ったときも、確かこんな感じでした」

 

「茶化すなよ、二人とも」

 

はっはっは、と笑うムウ。やれやれと言った風なリーク。そして茶化されて照れ臭そうに反論するラリー。

 

これが。

 

この人たちが――地球軍のパイロット。

 

知らないうちにキラが抱えていた罪悪感や、喪失感のようなものは薄れていた。

 

「よし、帰投しよう」

 

ラリーの声に反応して、三機のメビウスはアークエンジェルへの帰還軌道に入る。キラも慌てて、ストライクを追従させていくのだった。

 

 


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