ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第107話 流れる流星

 

 

さわやかな風。

 

暖かな木漏れ日。

 

管理され尽くした世界の片隅で、ラリーは目を覚ました。

 

知らない天井だーーなんてことを考えながら体を起こす。不思議と痛みはない。倦怠感も。まるで普段通りに眠りについて、そして普段通りに起床したような感覚。心地良さまである。

 

ただ、普段と決定的に違うのは、自分が地球軍の制服の下に着るアンダーウェア姿ではなく、治療しやすそうな病院服であること。そして手首に繋がれた大層太い点滴の管だ。

 

さて、外を見ればどこか遠くから人の喧騒が聞こえてくる。さらに目を凝らせば、ここが地球ではない証ーーー砂時計型のコロニーである、プラント特有の建造物が見てとれた。

 

つまり、ここはオーブでも、地球でもなくーープラントなのだ。

 

「目が覚めたか?」

 

ぼんやりと外を眺めているラリーの後ろから、静かに声がかけられる。

 

振り返ってみれば、ザフトの軍服でも、オーブの作業着でもない、私服のクルーゼが、たった今マーケットにでも行ってきましたとでも主張するような紙袋と、それに満載された食料を携えて、ラリーの後ろに立っていた。

 

それを見た途端、ラリーは惚けていた顔から一気にウゲェという顔に変わった。

 

「ラウ・ル・クルーゼ」

 

咄嗟に身を動かして、クルーゼとは反対方向の床へと着地したラリーは、点滴を外すと外からここが何階なのかを確認する。よし、3階くらいなら何とか飛び降りても生きてはいるだろう。クルーゼが自分を始末しなければだが。

 

そんな警戒心むき出しなラリーを見て、マスクを外しているクルーゼは少し可笑しそうに笑ってから、紙袋を近くのテーブルに置いた。

 

「その怪我でよく動けるな。だが無理はしないほうがいい。動けなくなっても知らんぞ?」

 

それだけ言ってから、クルーゼは見舞い人用に置かれたソファに座って、なにかの報告書を端末で見始めてしまった。

 

「……あれから、どうなった」

 

しばらくの沈黙の後、大人しくベッドに腰掛けたラリーが、クルーゼに問いかける。まるでラリーの言葉を待っていたかのように、クルーゼはラリーと向き合った。

 

「地球軍の新型弾道ミサイルーーモルガン」

 

ふと、クルーゼが言った言葉で、ラリーの脳裏にある光景が蘇ってくる。突如として空が光って、膨大な熱と衝撃にさらされた時のことを。彼は端末を閉じて呆れたように言葉を続けた。

 

「スパイからの調査で得られたのはコードネームだけだったが、それにしても凄まじい威力だったな。君の機体、そしてストライクは、あの攻撃で致命的なダメージを負ったのだよ」

 

「キラは…みんなはどうなった」

 

そこまで知っているなら、とラリーは構わずに、クルーゼにストライクのパイロットであるキラの安否を聞いた。

 

自分がここにいる以上、クルーゼがここに自分を連れてきた以上、知らないはずがない。するとクルーゼは、少しばかり悩むように額に手を当てた。

 

「キラ・ヤマトーーか。驚いたよ。まさかあの機体に乗っていたのが、彼だったとはね。運命とは実に皮肉だ」

 

「まぁ今の私にとってはどうでもいいことだがね」と、あっけなく言うクルーゼに、ラリーは肩透かしを食らったようだった。あれだけ固執していた自分の生まれを、まるで他人事のように話すなんて…。

 

気を取り直してと、クルーゼはキラの痕跡をラリーに語った。

 

「彼はマルキオ導師が回収したのちに、オーブにいたバルトフェルドがプラントに運んだ。君は私が匿っているがね?なにせ賞金すらかかっているのだからな」

 

君をここに運び込むのにはそれはもう、苦労したものさと笑うクルーゼに、ラリーは自分の体にかかっていたシーツを握り締めながら問うた。

 

「なぜ、俺を助けた」

 

その言葉に、クルーゼの表情が固まる。そうだとも、おかしいんだ。クルーゼにとって、自分は倒すべき相手だ。

 

彼が言う通りなら、俺がなんらかの方法で死ねば、クルーゼは本来のあり方のように世界を憎み、世界を破滅へと向かわせるように動けると言うのにーーなぜ、彼は自分を助けたのか。

 

「言ったはずだ。俺を殺せるのはお前だけだと。なら、なぜ助けたんだ。答えろ」

 

目の前に落ちる勝ち星をなぜ捨てたのか。自分の味方すらも欺いて、自分をここに匿ってまで…。

 

「言葉通りさ。君を倒せるのは私だけだ。故に、あんな卑怯な結末を私は認めない」

 

クルーゼは真っ直ぐな目をしてラリーの言葉に答えた。

 

「ブルーコスモス、地球軍。そんなくだらない思惑に乗って君という楔を失うことなど……私には耐えられなかった」

 

あの兵器はアラスカで開発されたと聞く。アークエンジェルがアラスカを目標としているにも関わらず、彼らは同胞めがけて、あの非情な兵器を放ったのだ。

 

そんな下劣な相手にラリーを殺させる?そんな真似、クルーゼは許さなかった。

 

もし、あのミサイルでラリーが死んでいたら、いかなる手段を用いてもアラスカを陥落させ、ミサイル発射を主導した高官を血祭りにあげて、ブルーコスモスすべてを皆殺しにする自信もあった。

 

「君が死ぬ時は、私と満足した戦いの中で私に討たれるときだけだ。それ以外は認めない」

 

少し前までなら、戦場で誰かに殺されたなら、それも仕方がないと思えていたがーーあの爆発の中でも、殺すと明言した自分すら庇おうとしたラリーを見て、クルーゼは考え方を変えたのだ。

 

この男を殺す権利、それを許されているのはこの世界で唯一、自分一人だけだ。

 

「ふん、とんだ変態だな」

 

「それは君もだろ?ラリー」

 

少し引いたように笑うラリーに、クルーゼもまるで少年のような笑みを浮かべて答えた。

 

「目が覚めたようだね。ラウ」

 

ふと、病室にもう一人の客人が現れる。その人物はクルーゼの隣に立つと、その特徴的な長い髪を揺らしながら、ベッドに腰掛けるラリーに会釈をした。

 

まさかーーとラリーが目を見開いていると。

 

「紹介するよ、君の治療に協力してくれた人物だ。そして、君が私を討ったときに、君に全面協力を約束してくれる人物でもある」

 

「はじめまして、流星。私の名はギルバート。ギルバート・デュランダルだ」

 

突然の訪問、失礼するよ。患者の容態が気になってねと、張り付けたような笑みを見せるデュランダルの言葉に、ラリーはただ固まっていた。

 

この先の未来で、政治手腕を振るう重要な人物と、こんな形で邂逅を果たしてしまうとは……。

 

そんな風に戸惑っているラリーの元へデュランダルは歩み寄ると、腰を下ろしてラリーの顔を覗き込んで、こんなことを聞き出した。

 

「さて、出会って早々に悪いが単刀直入に聞こうーーー君は、〝宇宙人〟なのかな?」

 

 

////

 

 

「入港管制局より入電。オメガスリーにて誘導システムオンライン。シークエンス、ゴー」

 

アラスカに入港していくアークエンジェルを、地下深くにある司令室から見つめるのは、この基地の司令塔である上層部の人間たちだった。

 

《シグナルを確認したら、操艦を自動操縦に切り替えて、少尉。後は、あちらに任せます》

 

《誘導信号確認。ナブコムエンゲージ、操艦を自動操縦に切り替えます》

 

通信をするアークエンジェルの音声を聞きながら、一人の高官が呆れたように、アークエンジェルを侮蔑の瞳で見つめる。

 

「アークエンジェルか、よもや辿り着くとはな。厄介な船だよ、あれは…今まで討ってきたザフトの怨念でも取り憑いているのかね」

 

「ふん!護ってきたのはコーディネイターの子供ですよ」

 

そう吐き捨てたのは、ウィリアム・サザーランドだ。

 

「そうはっきりと言うな、サザーランド大佐。だがまぁ、土壇場に来てストライクとそのパイロットが、MIAと言うのは幸いでしたな」

 

あぁ、その点だけは感謝している。サザーランドは捗々しい成果を挙げられなかったモルガンの性能結果を思い返しながら、それだけは自分たちにとって利になったと納得している。

 

「……悔しいですが、GATシリーズからもたらされるデータは今後、我等の旗頭になるべきものです。しかしそれが、コーディネイターの子供に操られていたのでは話にならない」

 

「確かにな。所詮奴等には敵わぬものと、目の前で実例を見せられているようなものだ」

 

「全ての技術は既に受け継がれ、更に発展させていきますよ。今度こそ、我々の為に」

 

コーディネーターなどという野蛮人の台頭する時代は終わる。アークエンジェルがもたらしたデータがあれば、ナチュラルでもモビルスーツは動かせるはずだ。

 

そうなれば、あとはこちらのものだ。宇宙で苦言を呈するハルバートンも、兵士の中で憧れである流星の逸話も必要なくなる。

 

(それに、宇宙の動きも気になるところだ。こんなときに視察だと…?ハルバートンの奴め、何を考えている)

 

アークエンジェルが砂漠の虎を撃破してから、宇宙の様子はてんで情報が入手できなくなっていた。元から宇宙と地上は足並みが揃っていなかったとはいえ、ここまで不透明な動きを見せるのは初めてだ。

 

「大佐、アズラエル氏にはなんと?」

 

側近の言葉で思考を一時切り上げる。モルガンの成果の中に、ストライクだけではなく、流星のメンバーも含まれていたようだが……まぁ、仕方あるまい。新しい力には犠牲がつきものだ。

 

それに、モルガンを打ち上げたのは、アラスカから離れた古いミサイルサイロからだ。そこの職員を切り捨てれば、ここに繋がる手かがりなどすぐに消える。あとは好きなようにカバーストーリーを用意すればいいさ。

 

「問題は全てこちらで修正する、と伝えてあります。不運な出来事だったのですよ、全ては。そして、おそらくはこれから起こることも。全ては、青き清浄なる世界の為に」

 

 

////

 

 

デトロイト。アズラエル財団、秘密工廠。

 

「はい、はい。あぁ、その件はよくわかってますよ…ええ。わかりました」

 

その一画にある専用の執務室で連絡を受けていたアズラエルは、少し疲れた様子で受話器を置いた。

 

「よく言いますね。不運な出来事だったとは…」

 

ペラリと内部通報者が持ってきた弾道ミサイルの情報を眺めながら、アズラエルは全く興味がないような目をサザーランドの写真に向けていた。

 

「全く…やるならやるで完璧に隠し通せばいいものを…これだから軍人というものは嫌いなんですよ…」

 

「アズラエル理事、そろそろ」

 

扉から入ってきたのは、普段のスーツ姿ではないアズラエル財団の作業服姿の側近だ。

 

どうやら自分の期待するような成果を見ることができるようだ。そうでなければ、側近がわざわざ呼びに来るようなことはしない。

 

「ああ、わかってますよ」

 

アズラエルはスーツの上着を羽織ると、少し髪を整えて執務室を後にするのだった。

 

 

////

 

 

宇宙空間。

 

慣れ親しんだその戦場で、リークは自分の息遣いだけを感じて宇宙を駆けていた。

 

操るはメビウス。

 

それも、自分がメビウスライダー隊にいた時に施していた特別チューンを施したものだ。設定を技術者に教えると「本当にこんな数値で、メビウスを飛ばしていたのか?」と、呆れられたが、リークにとってそれが当たり前だったのだ。

 

《くぉんのぉおおおお!!!滅殺!!》

 

目の前を黒い影が横切ると、大型の可変翼を持った黒いモビルスーツが、リークめがけて手に装備する鉄球を射出する。

 

「遅い!!」

 

リークは素早くメビウスを切り返すと、まるでツバメのように、軽やかでありながら鋭い軌道を描き、鉄球を撃ち放ったモビルスーツの背後へ回り込む。

 

《ちぃ!!背後を取られた!!シャニ!!》

 

《任せて……》

 

今度現れたのは、緑色の大型モビルスーツだ。覆いかぶさる形で備わるユニットには、高密度のエネルギーが蓄えられており、それは曲線を描くビームとして放たれる。

 

取った!と緑色のモビルスーツが確信するも、メビウスはフレキシブルなブースターを回転させるや、曲がるビームを紙一重でかわして、そのビームに沿って最短距離で詰めてきたのだ。

 

《嘘だろ!?》

 

思わずそんな言葉が出てしまう。緑色のモビルスーツまであと少しと言うところで、メビウスとモビルスーツの間に幾多の砲線が通過する。

 

《うらぁああああ!!落ちろおおおお!!》

 

紺色のモビルスーツは両肩、腕、シールドに備わるビーム兵器をこれでもかと乱射しているが、姿勢を立て直したメビウスは、その一線一線を軽やかに躱して魅せる。

 

「吐き出すだけじゃ落とせるものも落とせないよ!!もっとよく狙うんだ!敵は待ってくれないぞ!」

 

《くっそー!!なんで全然当たんねぇんだよ!!》

 

がむしゃらに撃っているわけではない。紺色のモビルスーツはしっかりと狙って撃っているというのに、その全てが掠りもしない。

 

やがて砲戦をくぐり抜けたメビウスは、一瞬だけ紺色のモビルスーツの視界から消えると、真下からパイロットの眼前に姿を現したのだ。

 

《なにぃ!?》

 

断末魔の声を放つ間も無く、HEIAP弾を改良した弾頭が、紺色のモビルスーツのコクピットを容赦なく貫く。

 

『オルガ・サブナック。コクピット直撃。撃墜判定』

 

《くっそぉー!!》

 

《オルガ!この間抜けーーはっ!!》

 

可変して悠々と飛びながら余裕を見せていた黒色のモビルスーツーーいや、モビルアーマーの上空。パイロットが気付いた頃には、すでにメビウスがこちらの無防備なエンジン部分を目指して突貫してきていた。

 

いつのまにーーとパイロットは考えたが答えは簡単だ。

 

紺色のモビルスーツがやられた混乱に乗じて、すぐさま離脱したメビウスが旋回して戻ってきただけだ。

 

「よそ見しない!!」

 

そう叱咤して打ち込まれた弾丸は、黒いモビルスーツのエンジンを易々と吹き飛ばした。

 

『クロト・ブエル。エンジン直撃、撃墜判定』

 

《こんのぉおおお!!》

 

最後に残った緑色のモビルスーツがメビウスを追いかけるが、モビルスーツとモビルアーマーでは、加速性も機動性も圧倒的にモビルアーマーの方が上だ。銃撃戦になれば、緑色のモビルスーツがメビウスを捉えるのは至難の業だった。

 

曲がるビームも打ってみるが、カスリもしない。お返しと言わんばかりに打ち返されるビームライフルの閃光を、覆いかぶさるユニットで防いでいるとーー。

 

「シャニ!もっと機体の特性をよく理解して動け!ビームを弾くシステムは完全な防御壁じゃないぞ!」

 

その言葉にハッとしてレーダーとモニターを見たが、すでにメビウスの機影は見えなくなっていてーー。

 

《ど、どこに…うわぁ!!》

 

まるで眼前にクモ糸で降りてきたかのように現れたメビウスによって、緑色のモビルスーツはコクピットを閃光に包まれるのだった。

 

『シャニ・アンドラス。コクピット直撃、撃墜判定』

 

 

////

 

 

「くっそー!!今日も全敗かよ!!」

 

「やられた…」

 

そう言ってシミュレーター機器から這い出てきた二人、クロト・ブエルと、シャニ・アンドラスは疲れ切った体を冷たいフロアに投げ打った。

 

すると、先に出ていたオルガ・サブナックが疲れ切った二人にペットボトル飲料水を手渡す。

 

「いやいや、3人ともあのOSでよく動かせてるよ」

 

3人が喉を潤していると、格納庫に吊るされたメビウスからリークが意気揚々と降りてきた。

 

ここはアズラエル財団が保有する、新型モビルスーツの実験場だった。機材は豊富にあるし、このようにシミュレーターまで完備されている。

 

 

ただ、メビウスだけは標準機しか登録されていなかったため、レスポンス設定を合わせたリークのメビウスを直接シミュレーターに繋いで、3人の教導を行なっていたのだ。

 

「兄さんにそう言われても、全然実感わかねぇんだよなぁ」

 

まだ不完全なOSとはいえ、かなりの精度になった自信はあったが、この2日に一度の模擬戦で、毎回毎回伸びてきた鼻をへし折られた上に、金槌で打たれているように思えた。

 

「兄貴の動きが異次元すぎるんだよ…ほんと…」

 

「兄ちゃん、人外」

 

「こら、シャニ。人にそんなこと言うんじゃ……いや、僕も割と使ってたか…」

 

3人からのブーブーというクレームを受け流していると、リークの背後から一人の拍手が鳴り響く。

 

「素晴らしいですねぇ、やはり僕の目に狂いはありませんでしたよ」

 

「アズラエル理事」

 

スーツ姿で現れたアズラエルに、リークは敬礼を打つと、やめてくださいよと彼は困ったように笑った。

 

「アズラエルさんで良いと言ってるでしょう?ベルモンド中尉ーーいえ、上級大尉と言いましょうか」

 

そう言うアズラエルに、リークは驚いた顔を見せた。

 

「階級上がったんですか?」

 

デトロイトの病院で目が覚めてからリハビリをして、この3人の教導を始めてから、自分は一度も戦場に出ていないというのに。するとアズラエルはリークの肩に軽く手を置いた。

 

「ブーステッドマンとはいえ、3人の隊長を務めるのが中尉というのは、貫目が足りないでしょう?」

 

3人はアズラエルが兼ねてから用意していた生体CPU。いわゆる強化人間ーーブーステッドマン。幼い頃からの洗脳染みた教育と訓練、そして投薬によって、空間認識や処理能力を後天的に向上させる処置をした、生きる兵器ーーーだったわけだが。

 

「しかし…よくぞここまで育てたものです。投薬処置を打ち切ったというのに、彼らの戦績は前よりも良くなってきている…」

 

リークが教導する条件として出したのが、「彼らをモルモット扱いしない」、「投薬治療はしない」、「自分と彼らを親しみやすい関係にする記憶操作をしたのち、記憶改竄はしない」、「教導内容は口出ししない」といったもの。

 

彼の要望通りに、オルガたちにとって彼を兄という位置付けにしてから、その全てをリークに一任したわけだがーー結果はすぐに現れた。

 

まず彼がやったのは、スピアヘッドによる高G、高負荷内での状況判断の訓練だった。最初の頃はすぐに失神していたが、リークの献身的な態度と良好な関係性から信頼が生まれ、慣れた頃にはマニューバをしながら数学の問題を解けるくらいの情報処理能力が身についていた。

 

アズラエルからしたら、絶対体験したくないことだが。

 

そこからは、モビルスーツの知識だけではなく、戦場でのチームワーク、状況によって変動する戦況の見分け方、空戦時のフォーメーション、地上戦でのフォーメーション、あらゆる知識を彼は3人に教え始めたのだ。

 

そのどれもが、流星たるリークが体験し、実感したもの。そのすべてが地球側に圧倒的に足りていない知識として、高純度の成果をもたらすものとなった。

 

「3人とも、今日の訓練はここまでだ。食堂に行っておいで」

 

「兄貴!あとでゲームで白黒つけるからな!」

 

「新しいCDの感想会…」

 

「映画化されたジュブナイル本!一緒に見るの忘れんなよ!」

 

そうしたそれぞれの言葉に「はいはい、忘れないから行った行った」と返しながら、リークは三人を食堂へと向かわせた。

 

「ベルモンド上級大尉、君は一体どんな魔法を使って彼らを育てたのですか?」

 

「〝目で見えるものに頼るな。見えるものを別のものに例えて認識すれば、処理の時間が減る〟」

 

「ほう、興味深い言葉ですね?」

 

「僕の上官の言葉ですよ。流星ーーラリー・レイレナードの」

 

そういう時、リークは決まって寂しそうな顔をする。ここに入ってからと言うもの、唯一連絡ができるのは、アジアで暮らす妹たちとの定期通信くらいだ。

 

早くラリーに、自分の無事を伝えたいものだ。

 

「一度、会ってみたいものです」

 

アズラエルが静かな声でそう言ったのを聞いて、リークは緩やかに微笑んだ。

 

「会えますよ。破天荒な人ですけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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