ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第115話 舞い降りた自由と閃光

 

《こちら、ライトニング2、キラ・ヤマト!援護します!今のうちに退艦を!》

 

「キラ…君…?」

 

アークエンジェルに届いた映像を見て、誰もが固まっていた。

 

ブリッジの目の前に降り立ち、翼を広げてアークエンジェルを守ったそれに乗っていた人物がーー紛れもなく、自分たちの知る人物であったから。

 

「キラ…?」

 

ミリアリアの戸惑うような声が響くと、サイが嬉しそうに目を細めた。間違いない。見間違えるわけがない。ザフトのノーマルスーツを着ているが、彼は間違いなく、自分たちが知る友人だ。

 

「キラだよ!」

 

キラ!生きてたのかよ!こんちくしょう!とブリッジから喜びの声が上がると、クルー全員が沸き立つように喜び合う。

 

キラはその様子を見て、ホッと胸を撫で下ろす。よかったーー今度は間に合った。そして、キラは前を向いた。

 

まだ戦いは終わっていない。すぐ近くでは大気圏を突破してから別れたラリーが、孤軍奮闘するスカイグラスパーの援護に向かっていた。

 

 

////

 

 

グゥルに乗るデュエルと戦闘を繰り広げるトールの目の前を、見たこともない影が横切った。

 

それは、戦闘機にしてはあまりにも大きく、モビルスーツにしてはあまりにも速い。影は鋭く旋回すると、そのシルエットを露わにする。

 

純白の装甲に、両翼についたブースターが特徴的で。その機体ーーホワイトグリントは、推進剤が尽きた両翼のブースターユニットをパージすると、折りたたまれていた翼を展開して、大気圏内用の飛行形態へと変形した。

 

「そこのスカイグラスパー!今のうちに早く離脱を!」

 

トールは、コクピットに備わる通信モニターに映った人物を見て驚愕した。パイロットスーツはザフトのものであったが、その顔と目を見間違えることはない。

 

「レイレナード大尉…?」

 

死んだと思っていた相手が、いきなり現れた。それも見たこともないーー戦闘機ーーいや、モビルアーマーに乗ってだ。

 

「お前…ラリーか!?」

 

キラの通信を受けて、まさかと思い、AWACSであるエンジェルハートの通信を使ってムウがホワイトグリントに通信を繋げる。見知った顔を見て、ラリーは安心したのか嬉しそうに笑った。

 

「隊長!?良かった……無事だったんですね!!」

 

「ばっかやろう!!そりゃあこっちのセリフだ!!心配かけやがって!!」

 

「ラリーさん!!」

 

三人はその再会を心から喜んでいた。特にムウは、目尻に涙まで浮かべてラリーの無事を喜ぶ。あんな簡単に死ぬやつではないと思ってはいたがーーまさかこうやって戻ってくるとは思いもしなかった。

 

すると、ラリーは戸惑うデュエルを牽制しながら、トールの方を見て問いかける。

 

「トールか!!アイクも一緒か!?」

 

トールがパイロットなら、複座にはアイクが乗っているはずだ。そう問いかけるラリーに、トールは表情を曇らせる。

 

「いえ…ボルドマン大尉は…」

 

暗く言葉を濁したトールに戸惑い、ラリーはムウの方を見たが、ムウも顔を悲痛に歪めて首を横に振った。そうかーーと、ラリーは顔を伏せて瞑目する。

 

「トール」

 

そして顔を上げて、トールに微笑みかけた。

 

「よく頑張った。ここから先は任せろ」

 

「…はいっ」

 

トールは込み上げてくるものを必死に噛み殺して頷く。悲しむのはまだ後だ。今は、目の前の状況をどうにかするのが先だ。

 

ラリーは機体を旋回させて改めて今の状況を精査し始めた。

 

「マリューさん!早く退艦を!」

 

突然の二人との再会に呆気にとられていたマリューは、キラの声を聞いて冷静になるように自分を律し、今の状態を明確に伝えるために、思考を整理しながら口を開いた。

 

「ーー本部の地下に、サイクロプスがあって、私達は…囮にっ…!作戦なの!知らなかったのよ!だからここでは退艦出来ないわ!もっと基地から離れなくては!」

 

「アークエンジェルの損害は!?外から見たら酷い有様だぞ!!」

 

「エンジェルハートよりメビウスライダー隊へ!状況は最悪だ!損傷がひどい!稼働率も40パーセントを切った!このまま範囲外に逃げられるかどうか…!!」

 

ラリーの言葉に答えたのは、再会に喜ぶ心を抑えていつもの声色に戻った、エンジェルハートオペレーターであるトーリャだ。

 

「守備隊には俺たちと同じように、切り捨てられた連中も多くいる!このまま見捨てるわけにも…」

 

ムウが言うように、ここに残っているのは非主流派や、反ブルーコスモスの人間。サザーランドからしたら目障りな捨て駒でしかない人員ばかりだ。仮にアークエンジェルだけ逃げ切れたとしても、足が遅い彼らは間違いなくサイクロプスに巻き込まれるだろう。

 

ラリーは少し思考を巡らせてから言葉を紡ぐ。

 

「ライトニング1より、エンジェルハートへ!隊長!そのサイクロプス、データは取ってきたんですか?!」

 

「あ、あぁ!概略図だが、規模を測定するための配置データならある!」

 

「制御ユニットはそこから割り出せますね!?敵の情報は!!」

 

「メインゲートに取り付かれたところだ!突入されるまでもう時間は!ーーまさか!?」

 

ムウの驚いた声と、マリューの「えっ」という間の抜けた声が通信機越しに聞こえてくる。地球に降りてきて早々だが、この危機的状況を打開するにはこれしかない。

 

「逃げられないなら、止めるまでだ!!」

 

ラリーはなんと、アラスカ本部に突入してサイクロプスを止めようと提案したのだ。

 

「むーー無茶だ!?状況から見て、起爆スイッチを握ってるのはアラスカ本部の上層部の人間……いつ作動するかもわからないのに!」

 

「なら、ここで諦めるか?!」

 

悲観的なナタルの言葉に、ラリーは一喝する。ここで諦めて、逃げられるかわからない道を進むか、それとも、諦めず足掻き全員が助かる道を選ぶか。まだザフトの主力は、アラスカのゲートで止まっている。

 

姑息な連中のことだ。半分以上が誘い込まれない限り、サイクロプスは起動しないだろう。つまり、チャンスは今しかない。

 

「俺はゴメンだ!!もうたくさんだ!!だから戻ってきたんだ!!」

 

ラリーはそう叫ぶと、デュエルを蹴散らしてホワイトグリントを旋回させる。アラスカ本部を行き先に定めた。今は議論してる時間すら惜しい。

 

「俺はアラスカ本部へ!隊長は持ち込んだデータ解析を!!トールとキラはアークエンジェルの援護!!この機体なら間に合わせられる!!」

 

「了解……って、トール!?」

 

キラがフリーダムを舞いあがらせようとした最中、トールが引き止める間も無く脇を抜け、飛び出していったラリーの機体に追従していく。

 

「俺も行きます!!この機体ならついていけます!!それだけ広大な装置なら、二手に分かれた方がいい!!」

 

「よぉし!落ちるなよ、ルーキー!!ラミアス艦長は脱出した守備隊の救助を!!」

 

それだけ言い残して、ラリーは追従するトールと共にアラスカ本部へと機体を飛ばしていくのだった。

 

 

////

 

 

《ザフト、連合、両軍に伝えます!アラスカ基地は、間もなくサイクロプスを作動させ、自爆します!》

 

ラリーたちを背に、キラはフリーダムの翼を展開すると、すぐにマルチロックシステムを起動させる。ハイマットモードになったフリーダムは、四つの武器を展開するや、閃光を走らせてザフトのモビルスーツの武器や腕を破壊し、戦闘力を奪い取っていく。

 

《両軍とも、直ちに戦闘を停止し、撤退して下さい!繰り返します!アラスカ基地は間もなくサイクロプスを作動させ、自爆します!両軍とも直ちに戦闘を停止し、撤退して下さい!!》

 

広域放送で呼びかけながら、キラはフリーダムを舞いあがらせた。その声はアークエンジェル艦内にも響き渡る。

 

「この声は…!」

 

ハンガーでトールの帰りを祈っていたフレイが、ハリーと顔を合わせた。この声は間違いなくキラだ。となるとーー

 

「アラスカに飛んでいった機体ーーまさか」

 

ハリーは胸を高鳴らせる。

 

どうか、どうか、自分の描いた思いが本当であるように願う。フレイはキラが生きていたことに喜び、今まで聞いたこともない黄色い声を上げている。

 

そんなアークエンジェルのブリッジで、敵の戦闘力を奪う戦いをするフリーダムを見つめながら、マリューはその背中に見とれていた。

 

「キラ君…」

 

彼は一体、どこで何を見て、あの戦い方と力を手に入れたのか。淀みも迷いもないキラの声に、マリューは心に浮かんだ疑問に揺れるばかりだった。

 

『下手な脅しを!!』

 

そんなフリーダムに、急に現れたホワイトグリントに弄ばれていたデュエルが迫る。キラはすぐにフリーダムを反転させて、デュエルと相対した。

 

「デュエル!!」

 

〝逃げ出した腰抜け兵がぁぁ!!〟

 

その叫びで、大気圏に落ちていくリークのメビウスの姿が、キラの脳裏に蘇る。

 

デュエルから放たれたビームサーベルをシールドで受け止めて、キラは黒い感情が湧いた自分の心を見つめた。

 

『イザーク!!』

 

すぐ後ろには指揮官用のディンに乗ったディアッカと、隠密仕様のディンに乗るニコルがいる。イザークは雄叫びのような声を上げて、フリーダムに斬りかかる力を強めていく。

 

『このおおお!!訳の分からないことをおお!!』

 

《止めろと言ったろ!死にたいのか!》

 

接触回線で、自分と変わらない若い声がデュエルのコクピットに響くや否や、フリーダムはデュエルのサーベルを弾き飛ばした。まだまだぁ、とイザークが肩に備わるリニアガンを撃ち放つと、フリーダムは即座に宙返りでリニアガンを躱し、ビームサーベルを抜き放って無防備になったデュエルへ迫った。

 

『なにぃ!?ううわぁぁ!!』

 

やられる……!!悪魔のようなストライクのデュアルアイがフラッシュバックし、金縛りにあったような感覚に陥ったイザークだったが、フリーダムのビーム刃は下に逸れて、デュエルのグゥルを叩き切った。

 

『ぐわぁぁ!』

 

真っ二つになったグゥルの上で体勢を崩したデュエルを、フリーダムは後方にいる二機のディンの元へと蹴り飛ばした。

 

《早く離脱しろ!もう止めるんだ!》

 

デュエルを受け止めた二機のディンにも聞こえるように叫んだキラは、ほかのザフト陣営を止めるために再び飛翔していく。

 

『イザーク!!無事ですか!?』

 

ニコルの呼びかけに、イザークは視線を落としたままだった。フリーダムのビームサーベルが迫った瞬間、相手はまるでコクピットを避けるように切り返して、グゥルを破壊した。

 

(あいつ…何故…)

 

こちらは殺すつもりでいたのに、なぜ?

 

そんな疑問がイザークの中に芽生え、止むことのない自問自答が繰り返されていくのだった。

 

 

 

////

 

 

エンジェルハートよりメビウスライダー隊へ!こちらでのアラスカ基地の構造解析が完了した!

 

サイクロプスはジョシュア最深部、その中心部に配置されている。最深部に到達して、サイクロプスを破壊することは不可能だが、それを停止させる手立てはある。

 

サイクロプスを起動させる発動機が、グランド・ホロー外周に8箇所設置されていて、起爆モジュールによりその全てが点火されることで、サイクロプスが稼働する仕組みになっている!

 

つまり、8箇所の発電機の内、半分以上を破壊すれば、サイクロプスへ送られる電力は半減し、本来の威力は発揮できなくなるだろう。

 

簡易的な計算だが、最低5箇所の破壊が必要だ!

 

8箇所の発動機へは、メインゲートの脇にある、地下へ続く搬入トンネルから近づくことができる。

 

ライトニング1、ライトニング3はグランド・ホローのメインゲートへ突入。搬入トンネルの入り口を破壊し突破、内部に侵入して二方向から発動機を破壊してくれ!

 

構内は広いが、遮蔽物が多い。それに、トンネルはそれぞれの入り口から一本で繋がっているため、中でライトニング1とライトニング3がすれ違うことになる。

 

チャンスは侵入してから一度きりだ。

 

まともに考えれば成功率は限りなく低い。だが、達成できなければここにいる全員が死ぬことになる。

 

君たちが最後の望みだ。

 

頼んだぞ、メビウスライダー隊!!

 

 

 





トール・ケーニヒの一人で出撃初任務

・守備隊とアークエンジェルの護衛と敵モビルスーツへの迎撃
・アラスカ基地の搬入トンネルに突入して発動機を破壊し、トンネル内でホワイトグリントとすれ違って脱出する

うーん、この

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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