ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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誤字指摘ありがとうございます。

次回から、ラリーたちが乗っていた地球軍艦が出てきますよ。
オペ子ちゃんと、艦長も出てきます


第10話 拾い物と今後の方針

 

アークエンジェルへ帰投し、軽い水分補給と推進剤の補給を受けたあと、隊長であるムウを除いたメビウスライダー隊は、ボロボロになったヘリオポリス近域の哨戒任務に出発した。

 

「すまないね、キラくん。周辺警戒に付き合わせてしまって」

 

エネルギーにまだ余裕があったキラも、なぜかこの哨戒任務に付き合うことになった。ナタルやマリューは難色を示したが、ムウが「いざという時に手足のように動かせないと。だから慣れておけ」と言ったのがきっかけだ。

 

もっとも、それでついて行くと決めたキラの決断があったからだが。

 

「いえ、大丈夫です。ベルモンド…さん。けど、ザフトは撤退したんですよね?」

 

メビウス二機とストライクは、スラスターを最小限に吹かして、破壊された港やドックから溢れたデブリを避けながら宙を漂う。

 

ナタルやオペレーターが言うように、近辺にモビルスーツなどの反応はない。それでも、当たり前のようにラリーたちは哨戒任務に出た。

 

「ああ、見た目はな。だが相手はあのクルーゼ隊だ。引いたように見せかけて…なんてことも、よくある話だ」

 

キラの問いにラリーがすんなりと答えた。

 

以前にも、撤退したと思っていたらNジャマーとモビルスーツの低出力モードで巧みに近づいてきていた部隊の奇襲を受けたことがあると、ラリーの隣を飛んでいるリークが付け加える。

 

「しかし、なんとかヘリオポリスは守り切れましたね」

 

「外壁に何発も穴が開いて、港の多くが機能不全に陥っていて守れたというならな。これじゃあ復旧に何十年かかるやら…」

 

辺りを見渡せば、たしかにヘリオポリスは原型を留めてはいたが、いたるところにビーム兵器によって穿たれた穴から、土砂や酸素や瓦礫が吹き出しているのが見える。それらを修理するためにやってくる船が接舷できる港も、軒並み破壊されているため、復旧の目処は立ちそうになかった。

 

「すいません…僕も」

 

そう言ってキラは肩を落とした。

彼もまた、自分が引いた引き金でコロニーを傷つけてしまった。その罪悪感を感じているのだろうか。重苦しい雰囲気の中で、リークがゴホンと咳払いを打つ。

 

「あー、まぁ気にしても仕方がないよ、ヤマト君。君はヘリオポリスを守るために戦ったんだ。今はそれでいいんだ」

 

「ぼ、僕は…艦に乗る友達を守るために…」

 

「それでいいんだよ。逆に大義名分を背負って戦うやつの方が信用ならんもんさ。身近な仲間を守るために戦うのも立派な理由だよ。それが結果的に良い方に向かえばそれで御の字さ」

 

リークの慰めの言葉に、キラは呆気に取られた様子だった。

 

「どうしたの?キラ君」

 

「いや、もっと軍人って堅苦しい人だと思ってたんで」

 

ナタルのような軍人らしい人物や、コーディネーターだからという理由で自分に銃口を向けた軍人たちのような、ピリピリとした威圧感や不快感は、この部隊の人間からは感じられない。素直にそう言ったキラの言葉に、ラリーは吹き出した。

 

「はっはっはっ、これくらいじゃないとやってられないさ、パイロットってやつは」

 

「同感です、ライトニング1」

 

さっきまで命をかけた戦闘をしていたというのに…。キラはメビウスライダー隊のパイロットとしての生き様を見ていた。

 

先の戦闘や、彼らの行動を見る限り、メビウスライダー隊は大義名分を掲げた者や、愛国主義の軍人ではない。

 

戦い、生き残り、任務を果たす。

それを第一に考えて戦っているように見えた。

 

コーディネーターであるキラに頼ることもせず、誰に強要される訳でもなく、誰かに当てつけるわけでもなく、彼らは自分たちの生存と、仲間と共に生き抜く、そのために戦っている。

 

その部隊の人間を見て、自分が感じている感情は一体なんなのか。キラにはまだそれが理解できなかった。

 

「さて、哨戒もこれくらいに…いや、待て。前方に熱源反応…それにこの電文…」

 

帰還しようとしたラリーが何かを見つけたようだ。途端に、隣にいたリークのメビウスが鋭く軌跡を描き、索敵行動に移る。キラもストライクのコクピットから外を見渡した。

 

「レイレナードさん!あれ!」

 

そして見つけた。

飛散したデブリに混ざる、一隻の救命ポッドを。

 

 

////

 

 

「で、これからどうするんだ?」

 

ラリーたちが哨戒任務に出てる間に、ムウはアークエンジェルのブリッジで、マリューやナタルを交えた今後の方針について話し合っていた。

 

「本艦はまだ、戦闘中です。ザフト艦の動きは掴める?」

 

「引いていくのは確認できましたが、素直に引いたとは…」

 

「だよなぁ。相手はクルーゼ隊だ。絶対追ってくるだろうなぁ。どう思う?艦長さん」

 

ムウの言葉は、事実だろう。鹵獲したG兵器すら投入して攻撃を仕掛けに来たのだ。確かな損失は与えたが、そんな相手が引き下がるとは考えにくい。

 

「追撃はあると想定して動くべきです。…今攻撃を受けたら、こちらもただでは済みません」

 

マリューの判断に、ムウも同意見だと肩をすくめた。

 

「反対側の港で待つ俺たちの船と合流したとしても、搭載してるのはメビウスライダー隊の補給分しかないから、アークエンジェルへ充分な補給は無理。それに艦もこの陣容じゃあ、戦闘はなぁ。いっそ詰め込めるだけ詰め込んで、最大戦速で振り切るかい?かなりの高速艦なんだろ?こいつは」

 

「向こうにも高速艦のナスカ級が居ます。振り切れるかどうかの保証はありません」

 

「なら素直に投降するか…?」

 

ムウの一言に、マリューはつかの間、硬直する。ムウはバツが悪そうにブロンドの髪を片手でかき回した。

 

「ここはザフトの庭みたいなもんだ。向こうが戦力を整えたらジリ貧になって、すり潰される。投降っていうのも一つの手ではあるぜ?」

 

「なんだと!ちょっと待て!誰がそんなことを許可した!」

 

その時、哨戒任務から帰還したメビウスライダー隊とストライクの収容状況を聞いていたナタルが悲鳴のような声を上げた。

 

「バジルール少尉、何か?」

 

「ストライクとメビウスライダー隊が帰投しました。ですが、救命ポッドを一基保持してきています」

 

「えっ!」

 

ナタルの呆れたため息と、マリューとムウの驚いた声が重なって、無重力に飛散して行く。

 

 

////

 

 

ヘリオポリス崩壊は回避できた。

しかし、無事とは言い難い。とくに港付近はこっ酷くやられているため、救命ポッドが危険を感知してヘリオポリスから離脱したのだろう。

 

キラや俺たちが見つけた哀れな救命ポッドは、エンジンをデブリにやられて漂流していた。

 

「認められない!?認められないってどういうことです!推進部が壊れて漂流してたんですよ?それをまた、このまま放り出せとでも言うんですか!?避難した人達が乗ってるんですよ!?」

 

《すぐに救援艦が来る!アークエンジェルは今戦闘中だぞ!避難民の受け入れなど出来るわけが…》

 

報告をしたキラの反論に、噛み付くかのように言い返すナタル。なんとまぁ軍人らしい言い分ではあるが、彼女には人間的な道徳心は無いのだろうか、そんなことを考えてしまう。

 

不満げに瞳を揺らすキラに黙って、俺はナタルではなくブリッジに居るであろう隊長に聞こえるように通信を開いた。

 

「それが、そうも言ってられないようですよ、フラガ大尉、この電文を見てください」

 

バジルールと絶賛言い合いを繰り広げてるキラは放っておいて、俺はムウへ哨戒中に拾った電文の全文を見せた。

 

《我、アルスター殿のご令嬢を乗せた避難船である。流星の保護を願う…おいおい、まじかよ》

 

アルスターと聞いて、ムウは眉をひそめる。俺やリークも似たような感じだった。

 

名前の主は、ジョージ・アルスター。

 

穏健派だが反コーディネイター運動を行うブルーコスモスの一員であり、外務次官という立場を利用して地球連合各加盟国にコーディネイターの排斥を呼びかけているブルーコスモス内でも相当な権力を有する人物だ。

 

地球軍に所属していれば一度は聞くブルーコスモスだが、俺やリークやムウもブルーコスモスの理念には賛同できない。しかし、そんな相手でも第八艦隊の宇宙戦艦に乗っているとなれば、嫌でも噂が耳に入るものだ。

 

そして、物語の重要人物でもあるフレイ・アルスターの実父。劇中同様に、漂流していた救命ポッドにはフレイが乗っているのだろう。

 

「おそらく、誰かが俺たちをメビウスライダー隊と知ってわざわざ光学通信を」

 

「まったく人気者も辛いものですね」

 

《冗談を言ってる場合じゃねーぞ、リーク。どうすんのよ、まったく…》

 

ナタルが言うように外に放り出せば、全員仲良くブルーコスモスからの嫌がらせが待っているだろう。嫌がらせと可愛く言ったが、正確には「身に覚えのない処罰」、「突然の左遷」、下手をすれば前線送りか―――体にナニカサレルコースだ。

 

《いいわ、許可します》

 

うむむむ、と唸るムウに、凛とした声でマリューが答えた。

 

《…艦長?》

 

《今こんなことで揉めて、時間を取りたくないの。…収容急いで!》

 

《…分かりました、艦長》

 

艦長の一声で、モビルスーツの収容に加えてポッドの搬入も始まり、ハンガーは一気に慌ただしくなっていく。俺やリークがハンガーに入れるようになるのはもう少し先になりそうだ。

 

《…この艦とストライクは絶対にザフトには渡せません。我々は何としても、これを無事に大西洋連邦司令部へ持ち帰らねばならないんです》

 

《艦長、私はアルテミスへの入港を具申致します》

 

「アルテミス?それって、確かユーラシアの軍事要塞だったか?」

 

「通称、傘のアルテミスですよ。ライトニング1」

 

俺とリークの会話に、ナタルが鋭い視線を送ったように見えた。いや、音声通信だから見えないけれど。

 

《現在、本艦の位置から最も取りやすいコースにある友軍です》

 

《でも、Gもこの艦も、友軍の認識コードすら持っていない状態よ?それをユーラシアが…》

 

《アークエンジェルとストライクは、我が大西洋連邦の極秘機密だと言うことは、無論、私とて承知しております。ですが、このまま月に進路を取ったとて、途中戦闘もなくすんなり行けるとは、まさかお思いではありますまい。物資の搬入もままならず発進した我々には、早急に補給も必要です》

 

たしかにそうだな、とムウもぼやいた。裏の港からすでに俺たちメビウスライダー隊の母艦も、アークエンジェルに向けて出航している。幸いにも、ヘリオポリスに到着するまでは小競り合いもなかったので、船には多くの物資が残っている。

 

ただし、それはあくまで「メビウス用」だ。食料や水は何とか分かち合えるが、機密の塊のようなストライクや、アークエンジェル用の弾薬は期待できない。

 

《事態は、ユーラシアにも理解してもらえるものと思います。現状はなるべく戦闘を避け、アルテミスに入って補給を受け、そこで月本部との連絡を図るのが、今、最も現実的な策かと思いますが》

 

《アルテミスねぇ…どう思う、お前ら》

 

「補給を受けられれば御の字でしょうが」

 

「そうこちらの思惑通りにいきますかね」

 

俺とリークの答えに、ムウもだよなぁ、とブリッジで天を仰いだ。

 

《でも…今は確かにそれしか手はなさそうね》

 

不安げなマリューの声を聞きながら、俺たちはただ、搬入作業に沸くハンガーを見つめるだけだった。


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