ズタズタになった守備隊の防衛網を抜けた、シグーとジンで構成されたデルタ隊は、アラスカ基地の代名詞とも言える地下都市「グランド・ホロー」に続くゲートを確保しつつあった。
『こちらデルタ隊!たった今ゲートを突破した!これより内部へ侵攻をーー』
隊長機であるシグーに乗るパイロット、パトリック・J・ホークは、後方の司令部に通信を飛ばしていると、今まで適切な経路を指示していたオペレーターが何かを感知したようだった。
《待て、デルタ隊。後方より熱源二つーーこれは、戦闘機か?速いぞ》
『ああ?外の守備隊は全員が降伏した筈だが…』
後方の部下が肩をすくめてそう答える。
確かに、指令系統も崩壊した外の戦車隊などの多数が白旗を上げたことで、デルタ隊は欠員を出すことなくここに辿り着けた訳だが、そんな後方から敵機が来ているだと?
『地球軍の戦闘機とーーあれはなんだ!?』
振り返ると、グランド・ホローに続く狭い通路トンネルの中を、二機の戦闘機ーーいや、一機は戦闘機よりも大きく、シルエットからしてもモビルアーマーに近い。
そんな二機がこちらめがけて突っ込んできていたのだ。
《聞こえるかザフト兵!!アラスカ本部に突入するな!この基地の下にはサイクロプスが仕掛けられてる!!》
『なにぃ!?』
『でまかせを!』
部下たちが噛み付くようにそう言うが、広域通信で喋りかけてきた相手は気に留める様子もなく、シグーとジンの頭上を飛び越えていく。
《ただちに戦闘を中止して離脱しろ!アラスカ基地はすでに地球軍にとっては戦略的価値なんて残っていない!いいか!!離脱するんだぞ!!》
部下のジンがライフルを構えたが、2機は鋭く旋回するとメインゲート脇にある封鎖された通路トンネルへミサイルやビーム兵器を打ち込み、空いた隙間から飛び込んでいった。
それも目にも留まらぬ速度で。
『は、速い!捉えられない……!!』
『奴ら、あんな狭いトンネルに突っ込んでいったぞ!!追うか!?』
やけに好戦的な部下に、ホークは叱咤を飛ばす。こちらの任務はあくまでグランド・ホローの制圧だ。それにーー。
『バカ言え!あんな狭いところで、あの速度で飛べるわけないだろ!?俺だったら1分も保たない!!』
見る限り、モビルスーツが一機通れるかどうかの狭さだ。そんなところに高速域で突入などすれば、いくらモビルスーツとは言え一溜まりもあるまい。そう答えたもう一人の部下の言葉に、ホークはただ頷くだけだった。
////
《エンジェルハートよりメビウスライダー隊へ!概算だが、ザフト勢力のグランド・ホローへの侵攻率をHUDに表示した》
トーリャの言葉に続くように、ラリーとトールが目にするヘッドアップディスプレイに、新しいゲージが追加される。すでに5パーセントと表示されているゲージが、サイクロプス起動までのカウントダウンだ。
《この侵攻率が50パーセントを越えるまでに発動機を最低5箇所、破壊してくれ!》
トールは機体を維持しながら、なんとかトンネル内を突き進んでいる。ラリーが提供してくれたアルテミス内部の飛行訓練などをシミュレーションでは行なっていたが、実際にやってみれば感覚が大違いだ。
長く続く通路上で街灯や表示板を避けながら、二人はトンネルを突き進んでいく。
《一つ目がもう近くに迫ってきている。発動機と言っても巨大な蓄電池の様なものだ。破壊すれば膨大な電力が放出されるため、機体の電子機器になんらかの影響が及ぶ可能性がある。その時は機器ではなく、目視に頼って飛行してくれ》
////
「本当にサイクロプスが地下にあるのか!?」
地下施設の防衛をする戦車隊は、通信を聞いていた若い士官の言葉に驚きを隠せないでいた。
「あぁ、俺たちは見たんだ!ここに残されたのは、主流派じゃない奴らばかりだし」
キラの通信を聞いた士官は、確認のために最寄りの指令詰所に向かってみたが、中はもぬけの殻で、すでにサイクロプスの遠隔起爆のシークエンスが開始されていることに気がついたのだ。
「くっそー!サザーランドの奴め!地上にいる邪魔者を餌にしてザフトを葬るつもりかよ!」
隊のメンバーが怒りをあらわにして、停止している戦車の履帯を蹴り上げる。
ここには、前線の防衛で傷ついた負傷兵も運び込まれているというのに、その全てがザフトをおびき寄せるための餌でしかないとはーー上層部の連中は、どうやら自分たちの命など微塵も興味がないのだろう。
「だが、メビウスライダー隊がいる!彼らが今、この地下でサイクロプスを止めるために飛んでいるんだ!!」
通信を聞いていた士官には希望があった。なんと、メビウスライダー隊がサイクロプスを止めるために、こちらに来ていると言うのだ。
「はぁ!?嘘だろ、ここは地下だぞ!?」
「ああ、しかもグランド・ホロー外周の、物資搬入トンネルの中を飛んでるらしい」
その情報を聞いて、隊のメンバーは更に目を剥いて驚いた。
「正気か!?あんなところ、戦闘機で飛ぶようなスペースがあるのか!?」
搬入トンネルとはいえ、あそこは陸路からの物資を配達するための通路でしかない。あるのは整備された舗装道路を通すためのトンネルくらいだ。
そんな中を戦闘機で飛んでいるだと?それを想像しても、正気とは思えなかった。
そんな中で、戦車隊の隊長はある決断を下す。
「信じられないが、彼らが飛んでいるなら、我々にもやれることをやるしかない!」
しばらくして、グランド・ホローに侵入してきたザフトのモビルスーツは、背に備わるスラスターを吹かしながら都市部へと降下してきた。
よし、前進と、戦車隊が建物の陰からモビルスーツ部隊の前へと姿を現して行く。
何機かのジンが戦車隊に銃口を向けたが、隊長機であるシグーが手を上げてそれを制した。出てきた戦車隊の全てが白旗を掲げていたのだ。
《侵入したザフト軍!直ちに引き返せ!!ここにはサイクロプスがある!!溶鉱炉に飛び込んでるようなもんだぞ!!》
隊長はハッチから身を乗り出すと、戦車に備わる拡声器を使ってザフトのモビルスーツ部隊に呼びかけた。
『ちぃ!!でまかせを言ってるだけだろ!?』
そう接触回線で話すザフト兵たちだが、デルタ隊のメンバーが、ざわざわと自分たちの置かれている状況の不味さを理解し始めていた。
『しかし、彼らの教えてくれている情報ーー搬入トンネルに飛び込んでいった戦闘機の言ってたこと…辻褄は合います!』
『だが、敵拠点の中心部だぞ?!』
そう言う部下たちに、隊長であるホークは自分が今まで感じてきた違和感を伝える。確かに、敵の守りも手薄で、統率も取れていない。地球軍最大の地上拠点だと言うのに、ここまで来るのに何ら苦労はなかった。
確かに、我々には誘い込まれたようにも思える。
『くそ!味方すらも囮にしてーーナチュラルどもめ…なんて作戦を立てやがる!!』
ダンっとコクピットに手を打つジンのパイロット。彼が見たのは、安全を確保した戦車隊の兵士たちが建物の中から負傷兵を運び出している姿だった。
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狭いトンネルを飛び抜けるホワイトグリント。掠りそうになる機体をなんとか維持しながら、ラリーは目的の場所を目指していた。
「トール!!遅れるなよ!」
「言われなくとも!!」
反対側から突っ込んでいるトールも、ラリーと同じように経路を進んでいた。すると、長く続いた細いトンネルの一部が開けた場所へと飛び出た。
「見つけた!!一つ目の発動機!!」
外周部の壁に埋まる発動機を確認すると、二人はそれぞれに備わった兵装を展開して、発動機に狙いを定める。
《破壊しろ!だが、破壊後の電波障害には留意しろよ!》
ホワイトグリントに備わるミサイルと、スカイグラスパーに接続されたランチャーストライカーのアグニが火を吹き、その火線は真っ直ぐと発動機を捉えた。
「よぉし!直撃だ!」
ほぼ中心を撃ち抜いた攻撃により、発動機は火を噴く。そして内包された電力が行き場を失い、ひらけたトンネル内に凄まじい電力が放出されていく。さながら、雷をその身に受けたような衝撃だ。
「う、うわぁああ!?ディスプレイが!!」
放電を受けて機体は傾き、復帰してもディスプレイの表示がまるで砂嵐のようになっている。戸惑うトールにラリーは声を発した。
「落ち着け、ルーキー!前をよく見ろ!機器に頼らず目で飛ぶんだ!」
「りょ、了解!!」
バブルキャノピーから見える景色を食い入るように睨みつけて、トールは機体を飛ばした。ラリーのホワイトグリントも、少なからず影響を受けており、モニターに視界を頼るコクピットは、時折映像が乱れていたが、ラリーは映像から距離感を頭にインプットし、機体を狭いトンネルへと突っ込んでいく。
《侵攻率が20パーセントを超えた!残り6つ!!目標の破壊を急いでくれ!!》
トーリャの焦る声に了解と返して、二人は更に奥地へと進んでいく。サイクロプス起動までの、残された時間は僅かだ。
キャラデザイン
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他キャラも見たい
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キャラは脳内イメージするので不要