誰がやり始めたのか。
いつの間にか、グランド・ホローに侵入していたザフト兵たちは、負傷した地球軍の兵士たちの脱出の手伝いをしていた。
『とにかく乗せられるだけ乗せろ!グランド・ホローから脱出するんだ!!』
どこかから持ってきた大型搬送車の荷台に、負傷兵を詰め込むだけ詰め込んで、ジンがそれを両手で抱えてグゥルに乗り込むと、グランド・ホローの外へと飛び立っていく。
《無理だ!!今から出てもサイクロプスの効果範囲からは逃げられない!!》
負傷兵の誰かがそう言ったが、シグーに乗るホークはそんな泣き言を拡声器で一喝した。
『黙っていろ、ナチュラル!!俺たちは諦めない!!こんなところで死んでたまるか!!俺には故郷に残ってる家族がいるんだ!!』
まだ年頃の二人の姉妹を、妻に託して自分はここにいる。こんなところで死ぬ気など、ホークには更々無かった。
負傷兵の救助のためにジンから降りていた部下が、白旗を上げている戦車隊の兵士にふと言葉をこぼした。
『血のバレンタインーー俺はあの日に、恋人を亡くした。正直に言えば…お前たちを憎んでるが…』
《それを言うなら、俺やこいつも、エイプリルフールクライシスで家族を亡くしたんだ》
お互い、知らないところで傷ついている。知らないところで癒えない傷を抱えて、この戦争に加わっているのだ。三人がそれぞれ目を合わせていると、ザフト兵が疲れたようにため息をついた。
『よそう。俺たちが辞めない限り、こんなことが続くんだ。くそっ!胸糞悪いぜ!!』
とにかく、今はここから逃げることが先決だと、ザフト兵はジンに乗り込むと、満載になった負傷兵の搬送車を持ち上げて、グランド・ホローから後退していく。
《怪我人から順に搬送しろ!大丈夫だ!メビウスライダー隊がやってくれる!!》
そう言って現場の指揮をする戦車隊の隊長は、心の中で願った。
神よ。もしこの世界に貴方がいるのなら、どうか。どうか。我らに時間をお与えください。
////
《目標2!破壊確認!侵攻率、40パーセント!!》
互いが二つ目、計4つを破壊したラリーたちは、電子機器を狂わせながらも更に奥へと機体を飛ばしていく。
「飛ばせ飛ばせ!!ここで死のうが、間に合わなければ全員死ぬぞ!!」
ラリーの言葉を受けて、トールも更に速度を上げていく。ここで間に合わなければ、自分たちだけではない。アークエンジェルや取り残された守備隊も全滅する。
この瞬間、この時に、彼らの全てが懸かっている。
「うおりゃああああああ!!」
急げ。
急げ急げ急げ!
逸る気持ちをグッとこらえて、トールは正確な操縦でトンネルの中を飛行していく。最後の目標まで、あと少しだ。
////
パナマの暗い司令船の中で、ウィリアム・サザーランドはザフトの動向を見つめながら、卑しい笑みを浮かべていた。
そうだ。集まってこい。宇宙の野蛮人たちめ。
そちらが必死に制圧しようとしているそこなど、もはや何の戦略的価値はない。残してきたのは、サザーランドが厄介だと思っていたハルバートン側の将官たちだけだ。
彼らを葬れれば、地上から宇宙にシフトしていくであろう戦いを、自分の手の中で操ることができる。戦争が終われば、権力は思うがままだ。
「そろそろですな、よろしいですか?」
ザフトの侵攻具合が半分に達しようとしている頃合いで、サザーランドは各上層部の人間たちに目配せをした。彼らもサザーランドと同じように、サイクロプスの起爆キーを手に持っている。
「この犠牲により、戦争が早期終結へ向かわんことを切に願う」
そして、自分にとっての輝かしい未来へのスタートを。
////
もう限界だ!と泣きそうな声を出すトールに、ラリーは落ち着けと怒声を発する。
《侵攻率、48パーセント!!》
ギリギリ首の皮だ。いつ足元からサイクロプスが発動するかもわからない。けれど、ここで諦めたら全てが終わる。
まだ動いている。まだ飛べている。
まだ生きている。
だから、ラリーは足掻くと決めた。
これから先を、少しでもマシにするために。
「目標確認!!見つけた!!」
トールも同タイミングで最後の発動機を捕捉している。
「ターゲット、ロック!!」
目標の射程距離まであと少しだーー!!
遠くでは、サザーランドたちが起爆キーをスイッチに挿入していく。
「蒼き清浄なる世界の為に」
ターゲットアイコンが赤へと切り替わった。ラリーはミサイルを、トールがアグニを同タイミングで放った。
「当たれええええ!!」
「3、2、1………」
パナマのオペレーターのカウントがゼロになった。全員がモニターを注視する。サザーランドはニヤリとほくそ笑んだ。
だがーーー。
《エンジェルハートより、ライトニング1!!最終目標、破壊確認!!発動機の電力不足で、サイクロプスの出力は足りていないぞ!!繰り返す!サイクロプスは不発だ!!》
間に合った。ラリーとトールは深く息を吐いて、コクピットシートに体を埋める。
しかし、まだ油断はできない。残り二つの発動機には、起爆シークエンスが入っているのだ。
「よっしゃあああ!!残り一つも破壊するぞ!トール!!」
「了解!!」
二人は機体をグンと加速させると、最後のエリアにあった発動機も完全に破壊したのだった。
「な、なぜだ?サイクロプスが……」
「そんな、バカな!!」
サザーランドは不発に終わったサイクロプスを見て、司令を下すテーブルに拳を叩きつけた。
なんということだ。どこまでも忌々しいコーディネーターどもめ。どんな手段を使ったかわからないが、そちらがサイクロプスを食い止めたというならばーーーこちらにも奥の手はある。
「すぐにミサイル艦を呼び出せ!!」
サザーランドはその時、後の彼の命運を大きく分ける、悪魔の決断を下したのだった。
////
《やった!!やったぞ!!サイクロプスが止まった!!メビウスライダー隊がやったんだ!!》
グランド・ホローが沸き立つ中、エンジェルハートのトーリャとムウたちは、まだモニターの中でトンネルを飛行するラリーたちに意識を集中していた。
《いや、喜ぶのは早い!!ライトニング1!!もう少しでブレイクポイントだ!!ライトニング1!ライトニング3!!聞こえるか!?》
そう声をかけるが、返ってくるのは発動機からの放電影響を受けた雑音だけだ。それはラリーとトールも同じであり、お互いの通信をする手段が、最後の最後で失われてしまっていたのだ。
「くそ!電子障害で通信機もダメか!!トール!!ちゃんと避けろよ!!」
「レイレナード大尉!!どうか避けてください!!」
二人が交差するポイントはすぐそこだ。それまでに通信の回復は間に合わない。ラリーとトールは真っ直ぐに前を見据えてトンネルを突き進んでいく。
《交差する!!3、2、1ーーー!!!》
互いが迫ったのは、ほんの一瞬だった。トールのバブルキャノピーすれすれを、ラリーのホワイトグリントがクリアしていくーー。
その瞬間は、世界の全てが止まっているかのように思えた。
「「イィイイヤッホォオオオウ!!!!」」
歓声を上げて二人はついにすれ違った。一つになり、離れていく反応を見て、今度こそトーリャとムウたちは歓声を上げたのだった。
《やったぁ!!》
《ふぅーー…見事だ、メビウスライダー隊》
搬入トンネルを飛び出した二人を待っていたのは、負傷兵を運んでいるザフトのモビルスーツ隊だった。
《ホントだ!!本当にやりやがったぞ、あの大馬鹿野郎ども!!》
『あんな狭いところに平然と入っていけるなんて…なんて技量だ』
地球軍の兵士も、ザフトの兵士も、それぞれの立場を忘れたかのように、偉業を成し遂げたラリーとトールに賞賛を浴びせていく。
『信じられねぇ…これがメビウスライダー隊…』
『なぁお前ら、こんな狡い手を使う地球軍なんか辞めてザフトに来ないか?歓迎するぜ!!』
軽口すら叩くザフトのパイロットたちや、ラリーたちに口笛を吹いて賞賛する負傷兵たち。そこにはもはや、敵と味方という垣根など存在しなかった。
全員の脱出を確認した地球軍の将官が、広域通信で地球、ザフトそれぞれに宣言をした。
《アラスカ基地は放棄!地球軍、ならびにザフト軍も戦闘停止!速やかに撤退だ!!》
『ここは奴らに免じて戦いはやめだ!』
『いつか会えたら、一杯奢らせてくれ!!』
鳴り止まない歓声の中で、ザフトと地球軍に囲まれた二人は、アークエンジェルが待つアラスカ沖へ、ゆっくりと飛んでいく。
だが、戦いはまだ終わっていなかった。
////
「全軍、撤退を開始ーーーいや、待って下さい。これは…?パナマより、複数の飛翔体を確認!!」
負傷兵やザフトのモビルスーツを受け入れるアークエンジェル。そのブリッジで異変を察知したサイが、搬入作業を見守るマリューへ声を荒げて報告した。
「なんですって!?」
「この速度……弾道ミサイル!!」
《モルガンか!!》
周辺警戒も兼ねてアークエンジェルの外を飛んでいたホワイトグリントから、ラリーが顔を強張らせて、打ち上げられたミサイルの正体を見抜く。
「モルガンってーーまさかあのミサイルか!?」
ムウが驚愕の声を上げる中、いち早くミサイルへ向かって飛び上がったのは、キラのフリーダムだった。
「キラくん!?」
《くっそーー!もうやめろー!!そこまでして、敵を滅ぼしたいのかーー!!》
《トール!!まだ行けるな!?あのミサイルを落とすぞ!!》
《了解です!!あのミサイルはボルドマン大尉の仇だ!!》
フリーダムに続いて、ホワイトグリント、スカイグラスパーもモルガンの迎撃に向かう。マリューはすぐに広域通信を開いた。
《撤退中の全部隊に告げます!!パナマ方面から放たれたミサイルは、強力な対地ミサイルです!!直撃したら、島の形が変わるほどの威力を有してます!!迎撃可能な隊はミサイルの撃破を!!繰り返します!!》
その声を聞いたデュエル、そして補給を受けていたディアッカたちのディン。
『あのミサイル…!!』
その威力を肌で感じていた三人は、コクピットに滑り込んで、イザークは新たに乗り込んだグゥルで、ディアッカたちはディンで大空へと舞い上がっていく。
『撃ち落とせー!!』
誰かの号令が。ザフト軍と地球軍の艦船からハリネズミのような迎撃砲が、飛来してくるモルガンの群れへと放たれていく。
《くそー!!サイクロプスを止めたと思ったのに!!》
『パナマにいる奴らは、どうあっても俺たちを消したいようだぜ!!』
メビウスライダー隊や、イザークたちの奮戦のおかげか、空には大きな青白い玉がいくつも浮かび上がったが、撃ち漏らしたミサイルが次々とアラスカへ着弾していき、土地の形を大きく変えていくのが見えた。
『とにかく撃て!!残弾全部吐き出せ!!撃ち落とせ!!銃身が焼き付いても構わん!!』
《対空ミサイル!!斉射〝サルボー〟!》
《ザフトも地球軍も関係ない!今は生き残ることだけを考えろ!!》
『撃て撃て撃て!!』
海上に集結していた二つの軍勢は一致団結して、ミサイルの迎撃に全神経を集中させていく。各艦では、負傷兵の受け入れが急ピッチで進められていた。
『撤退だ!!急げ!!』
『急げ急げ急げ!!』
そんな中、1発のミサイルはアラスカ基地のほぼ中心点に着弾。それはモルガンの威力を表した揺れから、さらなる大きな揺れへと変貌していく。
「アラスカ基地に直撃!!これは…うわぁ!!」
大規模な熱量を観測したオペレーターのデータを見て、マリューは戦慄した。モルガンが直撃したのはーー地上最大規模の地球軍拠点が誇るーー巨大な武器庫だ。
「基地の武器庫に打ち込んだのか!?総員!対ショック姿勢!!」
そう叫んだ瞬間、二つの勢力は大きな揺れに襲われーーーアラスカには巨大な爆発の煙が空高く上がるのだった。
キャラデザイン
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他キャラも見たい
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キャラは脳内イメージするので不要