ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第117話 サイクロプスを討て 2

 

 

誰がやり始めたのか。

 

いつの間にか、グランド・ホローに侵入していたザフト兵たちは、負傷した地球軍の兵士たちの脱出の手伝いをしていた。

 

『とにかく乗せられるだけ乗せろ!グランド・ホローから脱出するんだ!!』

 

どこかから持ってきた大型搬送車の荷台に、負傷兵を詰め込むだけ詰め込んで、ジンがそれを両手で抱えてグゥルに乗り込むと、グランド・ホローの外へと飛び立っていく。

 

《無理だ!!今から出てもサイクロプスの効果範囲からは逃げられない!!》

 

負傷兵の誰かがそう言ったが、シグーに乗るホークはそんな泣き言を拡声器で一喝した。

 

『黙っていろ、ナチュラル!!俺たちは諦めない!!こんなところで死んでたまるか!!俺には故郷に残ってる家族がいるんだ!!』

 

まだ年頃の二人の姉妹を、妻に託して自分はここにいる。こんなところで死ぬ気など、ホークには更々無かった。

 

負傷兵の救助のためにジンから降りていた部下が、白旗を上げている戦車隊の兵士にふと言葉をこぼした。

 

『血のバレンタインーー俺はあの日に、恋人を亡くした。正直に言えば…お前たちを憎んでるが…』

 

《それを言うなら、俺やこいつも、エイプリルフールクライシスで家族を亡くしたんだ》

 

お互い、知らないところで傷ついている。知らないところで癒えない傷を抱えて、この戦争に加わっているのだ。三人がそれぞれ目を合わせていると、ザフト兵が疲れたようにため息をついた。

 

『よそう。俺たちが辞めない限り、こんなことが続くんだ。くそっ!胸糞悪いぜ!!』

 

とにかく、今はここから逃げることが先決だと、ザフト兵はジンに乗り込むと、満載になった負傷兵の搬送車を持ち上げて、グランド・ホローから後退していく。

 

《怪我人から順に搬送しろ!大丈夫だ!メビウスライダー隊がやってくれる!!》

 

そう言って現場の指揮をする戦車隊の隊長は、心の中で願った。

 

神よ。もしこの世界に貴方がいるのなら、どうか。どうか。我らに時間をお与えください。

 

 

////

 

 

《目標2!破壊確認!侵攻率、40パーセント!!》

 

互いが二つ目、計4つを破壊したラリーたちは、電子機器を狂わせながらも更に奥へと機体を飛ばしていく。

 

「飛ばせ飛ばせ!!ここで死のうが、間に合わなければ全員死ぬぞ!!」

 

ラリーの言葉を受けて、トールも更に速度を上げていく。ここで間に合わなければ、自分たちだけではない。アークエンジェルや取り残された守備隊も全滅する。

 

この瞬間、この時に、彼らの全てが懸かっている。

 

「うおりゃああああああ!!」

 

急げ。

 

急げ急げ急げ!

 

逸る気持ちをグッとこらえて、トールは正確な操縦でトンネルの中を飛行していく。最後の目標まで、あと少しだ。

 

 

 

////

 

 

パナマの暗い司令船の中で、ウィリアム・サザーランドはザフトの動向を見つめながら、卑しい笑みを浮かべていた。

 

そうだ。集まってこい。宇宙の野蛮人たちめ。

 

そちらが必死に制圧しようとしているそこなど、もはや何の戦略的価値はない。残してきたのは、サザーランドが厄介だと思っていたハルバートン側の将官たちだけだ。

 

彼らを葬れれば、地上から宇宙にシフトしていくであろう戦いを、自分の手の中で操ることができる。戦争が終われば、権力は思うがままだ。

 

「そろそろですな、よろしいですか?」

 

ザフトの侵攻具合が半分に達しようとしている頃合いで、サザーランドは各上層部の人間たちに目配せをした。彼らもサザーランドと同じように、サイクロプスの起爆キーを手に持っている。

 

「この犠牲により、戦争が早期終結へ向かわんことを切に願う」

 

そして、自分にとっての輝かしい未来へのスタートを。

 

 

////

 

 

もう限界だ!と泣きそうな声を出すトールに、ラリーは落ち着けと怒声を発する。

 

《侵攻率、48パーセント!!》

 

ギリギリ首の皮だ。いつ足元からサイクロプスが発動するかもわからない。けれど、ここで諦めたら全てが終わる。

 

まだ動いている。まだ飛べている。

まだ生きている。

 

だから、ラリーは足掻くと決めた。

これから先を、少しでもマシにするために。

 

「目標確認!!見つけた!!」

 

トールも同タイミングで最後の発動機を捕捉している。

 

「ターゲット、ロック!!」

 

目標の射程距離まであと少しだーー!!

 

遠くでは、サザーランドたちが起爆キーをスイッチに挿入していく。

 

「蒼き清浄なる世界の為に」

 

ターゲットアイコンが赤へと切り替わった。ラリーはミサイルを、トールがアグニを同タイミングで放った。

 

「当たれええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3、2、1………」

 

パナマのオペレーターのカウントがゼロになった。全員がモニターを注視する。サザーランドはニヤリとほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

だがーーー。

 

《エンジェルハートより、ライトニング1!!最終目標、破壊確認!!発動機の電力不足で、サイクロプスの出力は足りていないぞ!!繰り返す!サイクロプスは不発だ!!》

 

 

 

間に合った。ラリーとトールは深く息を吐いて、コクピットシートに体を埋める。

 

しかし、まだ油断はできない。残り二つの発動機には、起爆シークエンスが入っているのだ。

 

「よっしゃあああ!!残り一つも破壊するぞ!トール!!」

 

「了解!!」

 

二人は機体をグンと加速させると、最後のエリアにあった発動機も完全に破壊したのだった。

 

「な、なぜだ?サイクロプスが……」

 

「そんな、バカな!!」

 

サザーランドは不発に終わったサイクロプスを見て、司令を下すテーブルに拳を叩きつけた。

 

なんということだ。どこまでも忌々しいコーディネーターどもめ。どんな手段を使ったかわからないが、そちらがサイクロプスを食い止めたというならばーーーこちらにも奥の手はある。

 

「すぐにミサイル艦を呼び出せ!!」

 

サザーランドはその時、後の彼の命運を大きく分ける、悪魔の決断を下したのだった。

 

 

////

 

 

《やった!!やったぞ!!サイクロプスが止まった!!メビウスライダー隊がやったんだ!!》

 

グランド・ホローが沸き立つ中、エンジェルハートのトーリャとムウたちは、まだモニターの中でトンネルを飛行するラリーたちに意識を集中していた。

 

《いや、喜ぶのは早い!!ライトニング1!!もう少しでブレイクポイントだ!!ライトニング1!ライトニング3!!聞こえるか!?》

 

そう声をかけるが、返ってくるのは発動機からの放電影響を受けた雑音だけだ。それはラリーとトールも同じであり、お互いの通信をする手段が、最後の最後で失われてしまっていたのだ。

 

「くそ!電子障害で通信機もダメか!!トール!!ちゃんと避けろよ!!」

 

「レイレナード大尉!!どうか避けてください!!」

 

二人が交差するポイントはすぐそこだ。それまでに通信の回復は間に合わない。ラリーとトールは真っ直ぐに前を見据えてトンネルを突き進んでいく。

 

《交差する!!3、2、1ーーー!!!》

 

互いが迫ったのは、ほんの一瞬だった。トールのバブルキャノピーすれすれを、ラリーのホワイトグリントがクリアしていくーー。

 

その瞬間は、世界の全てが止まっているかのように思えた。

 

 

「「イィイイヤッホォオオオウ!!!!」」

 

 

歓声を上げて二人はついにすれ違った。一つになり、離れていく反応を見て、今度こそトーリャとムウたちは歓声を上げたのだった。

 

《やったぁ!!》

 

《ふぅーー…見事だ、メビウスライダー隊》

 

搬入トンネルを飛び出した二人を待っていたのは、負傷兵を運んでいるザフトのモビルスーツ隊だった。

 

《ホントだ!!本当にやりやがったぞ、あの大馬鹿野郎ども!!》

 

『あんな狭いところに平然と入っていけるなんて…なんて技量だ』

 

地球軍の兵士も、ザフトの兵士も、それぞれの立場を忘れたかのように、偉業を成し遂げたラリーとトールに賞賛を浴びせていく。

 

『信じられねぇ…これがメビウスライダー隊…』

 

『なぁお前ら、こんな狡い手を使う地球軍なんか辞めてザフトに来ないか?歓迎するぜ!!』

 

軽口すら叩くザフトのパイロットたちや、ラリーたちに口笛を吹いて賞賛する負傷兵たち。そこにはもはや、敵と味方という垣根など存在しなかった。

 

全員の脱出を確認した地球軍の将官が、広域通信で地球、ザフトそれぞれに宣言をした。

 

《アラスカ基地は放棄!地球軍、ならびにザフト軍も戦闘停止!速やかに撤退だ!!》

 

『ここは奴らに免じて戦いはやめだ!』

 

『いつか会えたら、一杯奢らせてくれ!!』

 

鳴り止まない歓声の中で、ザフトと地球軍に囲まれた二人は、アークエンジェルが待つアラスカ沖へ、ゆっくりと飛んでいく。

 

 

 

 

だが、戦いはまだ終わっていなかった。

 

 

 

 

////

 

 

 

「全軍、撤退を開始ーーーいや、待って下さい。これは…?パナマより、複数の飛翔体を確認!!」

 

負傷兵やザフトのモビルスーツを受け入れるアークエンジェル。そのブリッジで異変を察知したサイが、搬入作業を見守るマリューへ声を荒げて報告した。

 

「なんですって!?」

 

「この速度……弾道ミサイル!!」

 

《モルガンか!!》

 

周辺警戒も兼ねてアークエンジェルの外を飛んでいたホワイトグリントから、ラリーが顔を強張らせて、打ち上げられたミサイルの正体を見抜く。

 

「モルガンってーーまさかあのミサイルか!?」

 

ムウが驚愕の声を上げる中、いち早くミサイルへ向かって飛び上がったのは、キラのフリーダムだった。

 

「キラくん!?」

 

《くっそーー!もうやめろー!!そこまでして、敵を滅ぼしたいのかーー!!》

 

《トール!!まだ行けるな!?あのミサイルを落とすぞ!!》

 

《了解です!!あのミサイルはボルドマン大尉の仇だ!!》

 

フリーダムに続いて、ホワイトグリント、スカイグラスパーもモルガンの迎撃に向かう。マリューはすぐに広域通信を開いた。

 

《撤退中の全部隊に告げます!!パナマ方面から放たれたミサイルは、強力な対地ミサイルです!!直撃したら、島の形が変わるほどの威力を有してます!!迎撃可能な隊はミサイルの撃破を!!繰り返します!!》

 

その声を聞いたデュエル、そして補給を受けていたディアッカたちのディン。

 

『あのミサイル…!!』

 

その威力を肌で感じていた三人は、コクピットに滑り込んで、イザークは新たに乗り込んだグゥルで、ディアッカたちはディンで大空へと舞い上がっていく。

 

『撃ち落とせー!!』

 

誰かの号令が。ザフト軍と地球軍の艦船からハリネズミのような迎撃砲が、飛来してくるモルガンの群れへと放たれていく。

 

《くそー!!サイクロプスを止めたと思ったのに!!》

 

『パナマにいる奴らは、どうあっても俺たちを消したいようだぜ!!』

 

メビウスライダー隊や、イザークたちの奮戦のおかげか、空には大きな青白い玉がいくつも浮かび上がったが、撃ち漏らしたミサイルが次々とアラスカへ着弾していき、土地の形を大きく変えていくのが見えた。

 

『とにかく撃て!!残弾全部吐き出せ!!撃ち落とせ!!銃身が焼き付いても構わん!!』

 

《対空ミサイル!!斉射〝サルボー〟!》

 

《ザフトも地球軍も関係ない!今は生き残ることだけを考えろ!!》

 

『撃て撃て撃て!!』

 

海上に集結していた二つの軍勢は一致団結して、ミサイルの迎撃に全神経を集中させていく。各艦では、負傷兵の受け入れが急ピッチで進められていた。

 

『撤退だ!!急げ!!』

 

『急げ急げ急げ!!』

 

そんな中、1発のミサイルはアラスカ基地のほぼ中心点に着弾。それはモルガンの威力を表した揺れから、さらなる大きな揺れへと変貌していく。

 

「アラスカ基地に直撃!!これは…うわぁ!!」

 

大規模な熱量を観測したオペレーターのデータを見て、マリューは戦慄した。モルガンが直撃したのはーー地上最大規模の地球軍拠点が誇るーー巨大な武器庫だ。

 

「基地の武器庫に打ち込んだのか!?総員!対ショック姿勢!!」

 

そう叫んだ瞬間、二つの勢力は大きな揺れに襲われーーーアラスカには巨大な爆発の煙が空高く上がるのだった。

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
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