ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第121話 パナマの狂気

 

パナマ基地。

 

北米大陸と南米大陸の境にある、パナマ運河付近にある地球連合軍の基地だ。

 

マスドライバー施設「ポルタ・パナマ」がある基地で、月面プトレマイオス基地に対する補給路の一つであり、C.E.17年に大西洋連邦と南アメリカ合衆国の共同国家プロジェクトとして建設された。

 

《ハラルド隊、ハリソン隊発進完了。セリザワ隊、クリューガー支援隊、発進開始します》

 

東アジアのカオシュン宇宙港、アフリカのビクトリア宇宙港が陥落し、地球連合軍に残された最後の大規模宇宙港。

 

そのパナマ運河の沖合。

 

地球軍の基地から目と鼻の先に集結していたザフト軍は、パナマ基地攻略作戦に向けて、着々と準備を推し進めていた。

 

「しかし、これだけの戦力でパナマを落とせだなどと、本国も無茶を言う」

 

集まったザフト勢力を眺めながら、作戦司令官はそんなことを口走る。先のアラスカ基地への電撃作戦「スピットブレイク」が失敗に終わり、受けた混乱は計り知れない。

 

昨日合流した生き残りの突入部隊も、少なからず損害は出しているし、火器管制やモビルスーツの整備も間に合っていない。

 

そんな浮き足立った状態でパナマの基地を抑えに行くとはーープラントの最高評議会も無理難題を言ってくれるものだ。

 

「しかたありますまい。調子に乗った奴等の足下を掬っておかねば、議長もプラントも危ない」

 

そう答える他の指揮官の言葉に、わかっていると司令官は返す。地球軍にとって、ここが最後の宇宙と地上の橋渡し場だ。今潰しておかなければ、後々に厄介なことになるのは目に見えている。

 

「宇宙への門を閉ざし、奴等を地球に閉じこめる。その為にもパナマのマスドライバーは潰しておかねば……」

 

「グングニールは?」

 

そう問いかけると、モニタリングしていた下士官が頷いて答える。

 

「予定通りです」

 

グングニールは、強力なEMP発生装置であり、電離層の乱れを引き起こす事により、通信や精密機器を使用不能にする対電子機器用特殊兵器。

 

パナマに閉じこもるモグラ叩きには打って付けの兵器だ。

 

しかし、それを運用するにも問題はある。

 

「降下までにグングニールの目標地点を制圧できるかね?」

 

その問いかけに、司令官は僅かに帽子を深く被って呟く。

 

「ーーーアラスカの二の舞を演じることだけは避けねばな」

 

 

 

////

 

 

「なんですって!?パナマが!?」

 

オーブの諜報部から受けた連絡に、マリューは驚愕した声を上げる。確かに、パナマにザフトの目標が移るとは考えてはいたが、いくらなんでも早すぎる。

 

「未明から攻撃を受けている。詳細は、まだ分からんが」

 

「やはり目的はマスドライバーか……くそ!」

 

「アラスカで…あんなことがあったのに…!」

 

ムウの苛立つような声も尤もだ。ここで地球軍の最後のマスドライバーを取られたら、地上組は後がなくなる。それこそ形振り構っていられなくなるほどに。

 

「地球軍の主力隊も、今はパナマだ。ザフトも必死さ。君等には、複雑だな」

 

そう言うキサカの顔も複雑だった。

 

なにせ、もしもパナマが陥落したら、地上に残っている最大のマスドライバーは、オーブの物になるのだから。

 

その一報は瞬く間のうちに広がり、アークエンジェル艦内のみならず、避難してきた守備隊にも伝わることになる。

「PJたちは!?」

 

「時間的にも、合流していておかしくないはずだ」

 

ハインズの元に集った地球軍の下士官たちは、伝えられた情報に思わず顔をしかめていく。

 

「くそー!!アラスカであんなことがあったのに……ザフトは何を考えてやがる!!」

 

「おちつけ!!とにかく、今は情報を待つしかないだろう!!」

 

しかしながら、アラスカで総崩れになった指令系統が建て直されていない今、パナマの地球軍主力部隊とザフトがぶつかれば、泥沼の戦闘が起きることは明白だ。

 

そうなれば、傷つくのは誰だ?否応無く戦線に向かっていくザフトの兵隊たちの顔が、彼らの脳裏から離れようとしなかった。

 

「中佐!!彼らのことを知らないふりなんてできませんよ!!」

 

スピアヘッド部隊の空母であるスプレッドの艦長が、ハインズの前に出てそう叫んだ。周りを見ても、今にも飛び出して行きそうな面構えをした下士官ばかりだ。

 

ハインズは深く息をついて、地球軍の帽子を被ってから姿勢を正した。

 

「ーーー動ける艦を集結し、パナマに向けて出る。私はウズミ様と交渉する。各艦はSOS信号を!白旗を上げ、ザフト、地球軍双方の救出にあたれ!敵対するなら撃て!これは命令だ!」

 

了解!!という答えで、オーブのドックは騒がしくなっていく。

 

あとは、指揮官である自分の仕事だ。

 

ハインズは責任を取るため、すぐにオーブの首脳陣へ繋がるホットラインへ連絡し、これから自分たちが向かおうとする意味と、行く先をウズミに伝えるために喉を唸らせるのだった。

 

 

////

 

 

 

「敵モビルスーツ部隊、第2防衛ラインへ到達!」

 

「第3中隊!第3中隊!どうした!?応答せよ!」

 

ザフトがパナマに侵攻して僅か一時間。地球軍主力部隊は劣勢に立たされていた。

 

いくら指揮系統が乱れているとはいえ、相手は自由度が高いモビルスーツ、こちらは戦車と高射砲、良くて戦闘ヘリと戦闘機部隊だ。

 

物量で押し返そうとしても、向こうの方が戦闘に対してのレスポンスが遥かに良い。

 

「くっそー!第13独立部隊を展開しろ!」

 

そこでパナマの司令官は決断を下した。その指令を聞いて、側近が複雑そうに表情を歪める。

 

「よろしいのですか?」

 

その問いに、司令官は当然だと答える。すでに上層部の連中は宇宙へ逃れている。となると、自分が宇宙に向かうためには、何としてもこの基地を死守し、ザフトを追いかえさなければならない。

 

彼にとって背水の陣だ。手段を講じるために思考を巡らせる暇はなかった。

 

「何のために作ったモビルスーツ部隊だ!奴等に我々の底力を見せてくれるわ!」

 

そして同時刻。

 

《コースクリア!グングニール、投下されます!》

 

パナマの遥か上空にある軌道上では、惨劇を引き起こす悪魔の兵器の投下準備が完了しようとしていた。

 

 

////

 

 

PJを含めたアラスカ突入部隊は、パナマ沖合に集結していたザフト軍に合流したのち、制圧目標地点を確保するための、上陸作戦を言い渡されていた。

 

モビルスーツの機動性に物を言わせてパナマ基地沿岸部に上陸したPJが操るシグーは、同僚のジン2機と共に、異様な空気に満たされたパナマ基地へ続く森林区域を見渡していた。

 

何度か、こういった空気を味わったことはあったが、この空気が漂う場所では決まって良いことなど無かった。

 

例えば戦車部隊に待ち伏せされたり、隠れている歩兵部隊が設置した罠に遭遇したりと。

 

「ホーク隊長…これは…」

 

「迂闊に飛び込むなよ。何があるか分からん」

 

冷や汗を流す同僚を落ち着かせつつ、PJたちはゆっくりと森林区域を進んでいく。

 

すると、自分たちから南に逸れたところで、逃げる戦車隊をなぶり殺しにするようにライフルを放つジンが、意気揚々と森林区域を突き進んでいるのが見えた。

 

「ふん!叩き甲斐のないーーなんだ!?」

 

レッドアラート。それに気づいた段階で手遅れだった。

 

森の影から放たれた緑色の閃光にジンの上半身が包まれると、パイロットの叫びが聞こえる間も無く、ジンは爆散した。

 

「あれはっ!モビルスーツ!?」

 

僚機のジンがカメラで捉えたのは、明らかに人型を模した影だった。PJは素早く機体を翻して、現れた人型の影にライフル弾を打ち込むと、影は容易く倒れて爆散した。

 

「ストライクとか言う地球軍のモビルスーツか?」

 

何も知らない他のジンも集まってくる。しかし、それが罠だと気がついたのは、先ほど目にした人型の影に、辺りを囲まれている光景に気付いた時だった。

 

「いや、違う!こいつらは……!!」

 

その瞬間、四方八方から緑色の閃光が走り、取り囲まれたPJたちに襲いかかってくるのだった。

 

 

////

 

 

ストライクダガー。

 

ザフトの前に現れたのは、地球連合軍初の量産型モビルスーツであるダガーの簡易生産型だ。

 

小型で取り回しの良いビーム兵器を標準装備している事により、ザフトのモビルスーツに対して大きなアドバンテージを持った機体は、操縦面もGAT-X型に比べて大きく改善されていた。

 

OSもナチュラルが操縦可能な新型を搭載。

 

これによって、低錬度のパイロットでも充分に性能が発揮できるようになっている。

 

『へ!もう好きにはさせないぜ!』

 

教導訓練も途中ではあったが、ナチュラル初のモビルスーツとあって、与えられた第13独立部隊の士気は高かった。

 

『調子に乗るなよ!コーディネイターが!』

 

取り囲んだ陣形から逃げ出したジンに、ビーム刃を展開したストライクダガーが迫り、今まで手こずっていたジンをあっけなく撃破していく。

 

しかし、相手もやり手がいる。すぐに状況を理解した隊長機であろうシグーは離脱しながら、僚機の退路を確保するために、練度の低い機体を優先的に狙って行っているのが分かる。

 

しかしだ。

 

こんな短期間の教導で、自分たちはザフトのモビルスーツと渡り合えている。

 

勝てる。憎きコーディネーターどもに。

 

その湧き上がる勝利への渇望と憎悪がパイロットたちを鼓舞し、モビルスーツを躍動させていく。

 

 

////

 

 

「ほぉ、地球軍のモビルスーツ部隊。フォスター隊の前面に展開されたな?」

 

モニターを眺める司令官は、その突発的な事態にも関わらず冷静さを保っていた。たしかに、地球軍が量産型のモビルスーツを建造している情報は、ザフトの諜報部から連絡を受けていたし、あれだけ脅威となったストライクを有した足つきがアラスカにたどり着いたのだ。

 

その豊富な戦闘データを元に、急造したモビルスーツのOSを間に合わせたのだろう。

 

しかし、それも想定の範囲内。作戦内容に変更は無かった。

 

「ーーかえって有り難いですな。地球軍、虎の子のモビルスーツ、共にグングニールの餌食にして差し上げよう」

 

多少のEMP対策が施してあるといっても、程度は知れたものだ。それすら食い尽くすグングニールが発動すれば勝負は決する。

 

そして、その駒はすでにチェックへと差し掛かっていた。

 

しかし、司令部が状況を予測していたとしても、そのしわ寄せが来るのはいつも前線で戦うパイロットたちだ。

 

「くっそー!!地球軍のモビルスーツだと!?情報には無かったぞ!!」

 

PJを含めたザフトのモビルスーツ隊は、連絡に無かった地球軍のモビルスーツ相手に動揺を隠せずにいた。

 

「でえぇえええい!!」

 

そこで活躍したのが、地球軍から奪取したデュエルを操るイザークや、ストライクとの戦闘経験があるニコルやディアッカ達だった。

 

押され気味なPJたちよりも前に出た彼らは、押し入る地球軍のストライクダガーを次々と撃破して行く。

 

「舐めるなぁ!ブリキのモビルスーツがぁ!」

 

ストライクや流星に比べたら動きが単調だ。ニコルたちも素早い反応でストライクダガーから放たれるビームライフルの閃光を躱して、コクピットにライフルを打ち込んでいく。

 

そんな地球軍とザフトの激戦が繰り広げられる最中ーー。

 

「よし!キャニスター12番装着完了!たっぷり喰らえナチュラル共!」

 

地上に降りたグングニールは、ひとりのジンのパイロットの命と引き換えに起動されたーー。

 

 

////

 

 

起動したグングニールから強烈な電磁衝撃波が発生した瞬間、事態は決した。

 

ザフト側の兵器はEMP対策を施しており影響を受けないが、連合軍は即時に施設、兵器が使用不能となったのだ。

 

『機体が!』

 

『動かない…!動きません!隊長!』

 

まるで糸が切れた人形のように立ち尽くすストライクダガーたち。そして司令部やマスドライバーすらも、強力な電磁波の影響を受けて、全てがブラックアウトしていく。

 

「決まったな……艦隊、艦砲射撃開始!目標は敵司令部だ!!」

 

その指令がザフト全軍に通達される。動けなくなった敵の中枢部を、パナマ運河に展開したザフトの艦隊で制圧するのが、今作戦の最後の仕上げだ。

 

「なに!?艦砲射撃だと!?グングニールは!」

 

その一報を受けたPJは、驚愕して伝令に来たジンの肩を掴み、接触回線で声を荒げた。湾岸部から来たパイロットも戸惑った様子で頷く。

 

「はい!正常に作動し、パナマ基地の指令系統はもう…」

 

グングニールが発動した以上、パナマの電子機器はすでに使い物にならない。Nジャマーでレーダーの目さえ潰されて、頼りの電子機器すら潰したというのにーー。

 

PJはバンっとコクピットのモニターに拳を打ち付けた。

 

「勝負は決した。なのに撃つのか…我々は…!」

 

その懺悔のような呟きは、遠くから放たれた艦砲射撃の砲音と、地球軍の司令部が轟音を上げて破壊される音によってかき消されていくのだった。

 

 

 

 

そうして、パナマの攻略作戦は終了した。

 

 

 

 

グングニールの電磁衝撃波の影響で、パナマのマスドライバーも超電磁レールが破壊されており、これで地球軍の宇宙へかかる橋は全て落とされたことになる。

 

電子機器も破壊されたので、満足にコクピットも開けないストライクダガーを前にして、PJは今後のことを考えていた。

 

宇宙に上がるすべを無くしたとはいえ、地球軍はこんなにも短期間で自分たちと張り合えるモビルスーツを用意したのだ。しかも、実弾に頼るライフルではなく、ビーム兵器の量産も成功させている。

 

今はとにかく、パナマの状況の確認と、停止した地球軍のモビルスーツの解析が先だ。

 

そんなことを考えていた時。

 

 

 

 

ジンのライフルの撃鉄が弾けた。

 

 

思わず、銃声がなった方向に視線を動かすとーーー1機のジンが、無防備に立つストライクダガーのコクピットを、ライフルで蜂の巣にしていたのだ。

 

「はっはっはっは。いい様だな、ナチュラルの玩具共!!」

 

広域通信で発せられた声。

 

抵抗もできず、コクピットから血を流して倒れるストライクダガー。

 

なにを……やっているんだ……!!

 

そうPJが声を荒げようとした瞬間、隣にいたもう1機別のジンが、ストライクダガーに構えていたライフルの引き金を引く。

 

「血のバレンタインで、姉が死んだんだ!報いを受けろ!ナチュラルどもめ!」

 

それを皮切りに、至る所で銃声が鳴り始めた。

 

なんだ?

 

なにが起こっている。

 

なにをしている。

 

一体ーーーなにをーーーしているんだ!!!

 

「やめろ!敵はもう動けない!勝負はついた!」

 

そう言って棒立ちのストライクダガーを撃とうとするジンを、僚機とともに押さえつけて止めようとするが、接触回線から相手の反論する声が聞こえてきた。

 

「なんだとぉ!?貴様ぁ!ナチュラルの味方をするのか!?裏切り者め!」

 

その声に、冷静さなど無い。まるで狂気に取り憑かれたような声だ。到底、ザフトの軍人とは思えない憎悪にまみれた声に、PJは驚きを隠せずにいた。

 

「違う!こんなことをして、何になるんだよ!!」

 

何もならないはずのにーーーそれでも、放たれた最初の一撃から狂気は湧き上がり、止められなかった。

 

「はん!ナチュラルの捕虜なんか要るかよ!」

 

白旗を上げて施設から出てくる地球軍の兵士たち。中には負傷兵もいる。そんな相手に銃口を向けるジンを、アラスカから生き延びたジンが横から割って入って阻止した。

 

「やめろ!相手は人間だぞ!!」

 

武器も持たず、降伏しているんだぞ!!それを撃つのか!!正気か!!!

 

そう叫んでも、相手は聞く耳を持とうともしなかった。

 

「ナチュラルに人権なんかあるかよ!!」

 

「そうだ!あいつらは滅ぼさなければならないんだ!!」

 

そこにあったのは凄まじい憎悪だった。

 

最初の一発が始まりのように、決壊したダムのように。投入されたザフト兵たちの心にある憎悪が溢れ出したように思えた。

 

彼らには最早、軍規も何も無かった。条約を無視し、投降する兵士たちに発砲する。それはもう戦争ではなく、一方的な虐殺だ。

 

「お、お前たち……なにを……」

 

狂気に塗れていくザフト兵を目の当たりにしたPJは、止めることすら忘れてしまいそうになった。

 

そんな中ーー。

 

「やめて下さい!こんなこと……こんな……!!」

 

ニコルの声が、広域通信であたりに広がる。気がつくと、アラスカの生き残りたちと、憎悪に暴走するザフト兵の間で争いが起こっていた。

 

邪魔をするならお前たちも敵だ!!誰かのそんな怒声が響き、こちらにも凶弾が飛んでくる。

 

「くそ!!見境なしかよ!!馬鹿どもが!!」

 

僚機とともに飛び上がったPJは、改めて混迷するパナマの様子を見渡すことになる。あるところでは、並べられた地球軍の兵士たちがライフルで撃ち殺され、あるところでは歩き廻りながら逃げ惑う兵士を撃ち殺していくジンがいる。

 

「くそぉ!やめろよ!!お前ら!!」

 

ディアッカもディンで接近して、虐殺を行うジンを取り押さえる。しかし、相手は向こうの方が多い。一機止めても他がすぐに兵士たちに襲いかかっていた。

 

「俺たちは……赤服の俺たちは……こんな……くそっ、くそぉおおおお!!!」

 

イザークは叫びながら、デュエルのビームライフルで殺戮を楽しむジンのライフルを打ち抜き、頭部を破壊したりと、行動不能に追いやるように行動していく。

 

アラスカを生き延びた誰もが、その暴走を必死に止めようとしていた。

 

その時、僚機から信じられない通信が入った。

 

「隊長!!島の南東から飛翔体が!!」

「何!?」

 

パナマの南東ーーー山脈地帯を挟んだ場所から、何かが打ち上げられていくのが見えた。あれは、基地から発射されたものではない。そもそも、電子機器を破壊されたパナマ基地からミサイルを発射するなど不可能だ。

 

となれば、答えは最悪の回答に行き着く。

 

PJはすぐに広域通信でザフト軍へ呼びかけた。

 

「こちら、パトリック・J・ホーク!聞こえている全機に告げる!!モルガンが来る!!繰り返す!!モルガンが来る!!残存戦力は緊急上昇!!高度を上げて離脱せよ!!」

 

それを聞いたアラスカの生き残りたちはすぐに持ち場を放棄し、グゥルや僚機のディンに掴まってパナマの沖合や上空へと大急ぎで退避していく。

 

「イザーク!!」

 

「あのミサイルをまた!?」

 

「パナマにはまだ兵士がいるんだぞ!?」

 

イザークたちも上空へ避難するが、眼下では狂気に飲まれ、殺戮を楽しむザフト兵たちがまだ残っているのが見えた。

 

そして、一定高度に上がったと同時。パナマと、ザフト指揮官たちが乗る艦隊の真上で、まばゆい光が花火のように広がった。

 

 

 

////

 

 

 

「よろしかったので?」

 

パナマを脱し、宇宙へと逃れたサザーランドに

結果を報告しにきた側近は小さな声で問いかけると、サザーランドは何でもないような顔で答えた。

 

「あそこまで制圧されれば、我々にとっての戦略的価値はあるまい。それならばーー尊い犠牲をもってして、成果を残して貰わねば…ね」

 

結果を見て、彼は満足する。

 

パナマは見事にザフトを釘付けにし、そこに放たれたモルガンによって、のうのうとパナマを制圧しにきたザフト軍を一掃できたのだが。

 

 

 

////

 

 

ハインズが許可を取り付けて出航したユーラシアの救助隊は、変わり果てたパナマの姿を目撃することになった。

 

「あ、あぁあ……」

 

島の形は変わり、そこにマスドライバーや、軍施設があった形跡はほとんど残っていない。まるで写真で見た核が打ち込まれた後のような、そんな凄惨たる状況が眼前に広がっている。

 

「こんな……こんなことが……!!」

 

ここまでするのかーーー地球軍は。

 

こんな酷いことを、平然とできるのかーー。

 

そんな思いが誰もの中にあった。こんなことが許されるのかと。その光景を見て、誰もが生存者は絶望的だと思い始めていた時。

 

「おい!向こうに救難信号が出ているぞ!!」

 

通信官が甲板に駆け上がってきて、そう叫んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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