「第二防衛ライン、突破されました!」
司令部からの報告に、アークエンジェルのブリッジの緊迫感が更に増した。戦線は徐々に押し込まれつつあり、チャーリーに展開するオーブ艦隊も少なからず被害を受け始めていた。
「カンナヅキ、航行不能!ミナヅキ、轟沈!」
前衛に出ていたミサイル艦と迎撃用の戦艦が潰され、穴が空いたエリアから一気に敵が流れ込んでくる。マリューは即座に面舵を命じ、空いた穴のフォローへとアークエンジェルを配置させる。
「ヘルダート、てぇ!弾幕!!友軍の援護に入る!」
断続的だった地球軍のモビルスーツの攻勢が、ここにきて一気に勢いを増したように思えた。その波はバターからチャーリーへと流れてきており、勢い付いた敵のモビルスーツ隊の編隊が、こちらの艦隊を食い破ろうと部隊を集結させているという報告も届いている。
「敵増援、来ます!」
来た…!
サイの声に、マリューは敵の部隊の先頭で旗を振る強者の気配を敏感に感じ取る。
アークエンジェルのモニターが捉えたのは、地球軍の量産型、ストライクダガーとは異なる外見を持つ二機が、こちらに向かってくる映像だった。
『ふん、雑魚が!死に腐れ!』
『基本もできていないのね、坊やたち』
一機は片腕に大型のビームサーベル、他にもスナイパーライフルを中心とした遠距離武器、ECMを装備した狙撃に特化した機体、もう一機はライフルと狙撃用スナイパーライフルを装備したシンプルな武装構成の機体だ。
共にシンプルな機体ではあるが、調整には膨大な資材が投じられており、機体のレスポンスは他のダガー系のモビルスーツを圧倒的に凌駕している。
彼らこそが、サザーランドが用意した黄色部隊のパイロットたちだった。
「なんだあの機体…!オーブ艦隊とアストレイ隊が!」
二機は異様な風体と、ほかの地球軍のモビルスーツとは違う動きを見せながら、次々と輸送船の甲板上で戦うアストレイ隊や、艦船へ狙撃攻撃を行い、それらを撃破していく。
あの二機に好き勝手にされれば、オーブ艦隊の全滅もありうる。しかし、頼みのモビルスーツ部隊は物量戦に押されて身動きが取れない。
どうする…!!
《カノープスからエンジェルハートへ!戦局はチャーリーとバターが重なりつつある!こちらから艦隊へ援護支援を送る!》
考えあぐねているところに、バターを守備するガルーダ隊を補助しているAWACS、カノープスからの通信が入った。すると、通信の直後に暴れまわっていた二機のモビルスーツへ、ビームライフルとビーム砲の閃光が降り注いだ。
「でぇえええい!!」
バターから援護に来たのは、イザークの駆るデュエルとディアッカのバスターだった。二機は輸送船の合間を飛び交いながら二機へ攻撃を仕掛け、アークエンジェルの甲板上に着地する。
「デュエルとバスター!?援護に来てくれたのか…!」
今の攻撃に刺激されたのか、オーブ艦隊を的に暴れまわっていた黄色部隊の二機のモビルスーツが、こちらへと照準を定める。
『ほう、少しは骨のあるやつが来たか!』
『ふん、相手をしてあげるわ。光栄に思いながら死になさい』
向かってくる二機を見て、イザークもディアッカも、相手は手練れだと空気を張り詰めさせる。気を抜けば食われるのはこちらだ。
「とっとと下がれよ!アークエンジェル!」
そう叫んで飛び立った二機は、迫り来る黄色部隊と激闘を繰り広げていくーー。
そして、戦況が劣勢になっているのはチャーリーやバターだけではない。
「ええい!!数だけは一丁前にぃ!!」
ダフでは、断続的に投入される際限ない地球軍のモビルスーツ部隊相手に、グリフィス隊が大立ち回りを強いられていた。
降り立ったストライクダガーをビームサーベルで引き裂きながら、ムウは流れ出る汗をヘルメットの外へと追いやる。休んでる暇など有りはしない。
「少佐!?マユラ!ジュリ!援護するわよ!!」
「了解!!」
アストレイR型を駆るアサギたちにも疲労が目に見えて現れ始めており、戦況は悪い方へと動き出していた。
////
(リーク…その機体に乗っているのは、お前なのか?)
ラリーはホワイトグリントの中で、幾度も交差するリベリオンの影を見つめながら、そんなバカバカしいことを考えてしまった。
自分とキラは、たしかに大気圏へ落ちていくリークを見たというのに、リベリオンと交差を積み重ねていくごとに、信じられないと思っていたことが現実味を帯びてきているのが分かった。
飛び方、交差の仕方、そして何よりも戦況の見極めがうまい。憎らしいほどにタイミングがリークと似ているように思えてしまう。
時折聞こえる、ラリーにしか聞こえない声。それすら頭の中でリークだと叫ぶ自分がいるほどに、ラリーの思考は混乱状態にあった。
「くそっ!!確証が持てないとこんなものか…!!」
声だけでは、やはり判断は難しい。もし、リークではなかったら?その場合のデメリットがあまりにも大きするのだ。彼らの背後にはブルーコスモスに通ずるムルタ・アズラエルもいる。
迂闊な真似をすれば、自分だけではなく、キラやトールーーそしてオーブそのものを危険に晒してしまう危険性があった。
「ええい!こいつら!手強い!」
旋回とマニューバーを繰り返し、トールやキラとのコンビネーションを織り交ぜても、あの四機を落とすことはできない。そんな確信めいたものすら感じるほど、相手にする四機は強者であった。
「いい加減に!」
「ウザい!!」
「できるな!!このぉお!!」
鉄球と曲がるビームを避けて、ラリーは更にホワイトグリントを加速させていく。翼が軋もうが関係ない。ここで出し惜しみをすればすぐさま落とされるのは自分だ。
キラとトールも同じ気持ちだった。一瞬たりとも気は抜けない。そんな緊張感が、ラリーたちを支配していた。
「フリーダム…キラ!」
そんな〝箱庭〟と化した空戦空域を見つめながら、ジャスティスに乗るアスランは苦しげに声を詰まらせる。
フリーダムがオーブに降りた情報を早々に掴んだアスランは、マルキオ導師をたまたま訪ねる事になり、目と鼻の先で始まってしまったオーブ会戦を見つめることになってしまっていたのだ。
目まぐるしく飛び交いながら苦戦を強いられるメビウスライダー隊を見つめながら、アスランは操縦桿を握りしめる。
〝アスランが信じて戦うものはなんですか?戴いた勲章ですか?お父様の命令ですか?〟
それとも母の無念のため?
それとも父の気持ちを守るため?
それとも…自分がナチュラルを憎んでいるから?
アスランは瞑想するように目を閉じて、自分の思考をたどる。答えはーー自分が本当に果たすべき使命はーー。
〝アスラン、あなたの心に従いなさい〟
「こいつらぁああ!!」
それはほんの僅かな油断だった。フォビドゥンの背後から影のように現れたレイダーが放つ鉄球を、キラは捌き切れなかった。
「でぇえええい!!」
シールドで何とか受け止め、致命傷は避けたが、そこで生まれた隙はどうしようもない。目の前に迫るフォビドゥンが、ビーム砲へエネルギーを収縮させていくのがわかった。
「キラ!!」
ラリーとトールもキラの窮地に気がつくが、モビルアーマーと戦闘機では、その間に飛び込んで庇うことはできない。ラリーはホワイトグリントの高機動ユニットをパージするために、トリガーに指をかける。
間に合え…!!
その瞬間、上空から紅い閃光が飛来し、フリーダムの前へと割って入ってきた。
その影はフォビドゥンから放たれたビームを受け止め、シールドで弾かれたビームの閃光は大空の中へと飛散していく。
「なにぃ!?」
驚くクロトが目にしたのは、紅い…新たなモビルスーツだった。
(な、なんだ……このモビルスーツは……!)
一番驚愕しているキラへ、現れたモビルスーツはデュアルアイでフリーダムを一瞥すると、すぐさま戦闘態勢へと入る。
「このぉ…なんだてめぇは!」
「へぇー、まだ居たんだ、変なモビルスーツ」
驚いていたのか、二機の動きもわずかに単調になっていたものの、思考を切り替えてすぐに四機によるフォーメーションへと戻り、再び激しい空中戦が始まった。
《こちら、ザフト軍特務隊、…アスラン・ザラだ。聞こえるか、メビウスライダー隊!ホワイトグリント!フリーダム!乗っているのはキラ・ヤマトだな?》
そんな空中戦の中、現れた機体ーージャスティスは、フリーダムを援護しながら機体専用の通信チャンネルへアクセスをしてきた。
相手は、アスラン・ザラだ。
「アスラン…!?」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
キラの驚きを、レイダーの鉄球が引き裂く。
「どういうつもりだ!ザフトがこの戦闘に介入するのか!?」
《俺は…軍からはこの戦闘に対して、何の命令も受けていない!!》
レイダーを翻弄したジャスティスの傍から、トールのスーパースカイグラスパーが通り抜け、迎撃し、ジャスティスには今度はカラミティが迫る。目まぐるしく戦う相手が入れ替わっていた。
「うらぁぁ!!」
「ちぃい!しつこいんだよ、お前らぁ!!」
《この介入は…俺個人の意志だ!》
カラミティのビームを弾いて、アスランはフリーダムに乗るキラに向かって大声で伝えた。従った自分の心の答えを。
《キラ!今度ははっきりと言ってやる!俺は…お前を助けたい!!助けに来たんだ!!》
「アスラン…!」
「なんだか知らねぇが!てめぇも瞬殺!!」
アスランが加わり4対4となった空戦は、激しく、激流のようにビームとスラスターの軌跡を空へ刻み、近くで戦っていたオーブ、地球軍のモビルスーツのパイロットたちの視線を釘付けにしていた。
「おい、なんだよあれは?!」
「友軍機か!?」
本来なら戦わなければならないというのに、その八機の戦闘に魅入られて、両軍のパイロットは戦闘中だというにも関わらず、戦いを忘れてしまっていた。
「紅い……モビルスーツ」
「くそったれが!なんて機動戦をしてやがる!」
「別の連合軍機か?」
「いや、違う…だが、フリーダムを…メビウスライダー隊を援護しているぞ!」
スーパースカイグラスパーとホワイトグリントを追い立てるリベリオン、フリーダムとジャスティスを相手取るレイダーとフォビドゥン、そんな戦況を判断するために補佐に回っていたカラミティに乗るオルガは、苛立ったように叫んだ。
「何遊んでんだよ、お前ら!」
胸部のビーム砲が火を吹き、その一閃がホワイトグリントの高機動バーニアをかすめる。
「くっ!」
「レイレナード大尉!!」
ラリーもまた、このめまぐるしい空戦の中で消耗していた。トールは空になった増槽とバルカン砲を捨てて、黒煙を上げたホワイトグリントの援護へ入る。
「相手は手強い!オルガ!クロト!シャニ!フォーメーションを組んでやるんだ!!」
「了解!!」
四機が集結する隙に空域のギリギリへ後退したラリーは、高機動ユニットのダメージを確認しながらモニターを見つめた。
「くそぉ!!さすがにあの三人は…それにあの機体も…あれは!?」
それはたまたまだった。オノゴロ島、モルゲンレーテ社のはずれにある山道。避難民を乗せる海岸線まで続く一本道を、四人の人影が必死に走っているのを、ラリーは目撃したのだ。
////
「ハァハァハァ…父さん!」
シンは必死に走っていた。先頭を行く父から離れないよう、後ろを走る母と妹を離さないように、ただ必死に走っていた。
「あなた…」
「大丈夫だ、目標は軍の施設だろ。急げ、シン!」
攻撃開始時間に遅れる形で、シンの家族は脱出船に向かって走っていた。父と母の研究データを持ち出し、要らぬものは消去するためにモルゲンレーテの研究施設に立ち寄ってしまったのが、致命的なミスであった。
頭上にはモビルスーツが降下しているのが見え、遠くでは信じられない速さで交戦する八機のモビルスーツの姿が見える。
「キャー!」
その八機のうちの一機が、自分たちの上空すれすれを飛び去っていく。父と母が庇うようにシンたちをしゃがませるが、その風圧は戦争の恐怖を思い知らせるには十分だった。
「母さん!」
「ハァハァ…マユ!頑張って!!」
震える足を懸命に動かして走る妹と母親。ふと、走っている振動で、妹が肩から下げるポーチから、折りたたみ式の携帯端末が山道の下へと落ちてしまった。
「あー!マユの携帯!」
それに気付いた妹がとっさに足を止めてしまう。
「そんなのいいから!!」
「いやー!」
母が手を引くが、まだ幼い妹は言うことを聞かずにその場に佇んでしまった。シンは自然と山の斜面を降りる選択をした。大事な妹の携帯だ。避難船にたどり着いてから文句を言われるのも面倒くさい、そんな感覚だった。
パッと空が光った。
えっとなりシンが振り向くと、モビルスーツから放たれたビーム兵器が、この山道の近くに着弾する様子が一瞬だけーーしかし、鮮明に見えた。
直後、衝撃。轟音。
吹き飛ばされたシンは、そのまま山道から崖下まで落ちていき、地面に体を打ち付けられた。
「だ、大丈夫かい!?君!!」
崖下はすぐに、オーブ軍の避難船乗り場だった。シンは強く頭を打っていて、意識が朦朧とする。
あれ?今の衝撃は?
父は?
母は?
妹はーー?
その思考が駆け巡った瞬間、シンは立ち上がり、家族がいるであろう山道を見上げる。
すると、そこにはーー
「モビル……スーツ…?」
そう呼称するにはあまりにも大きく、あまりにも硬い。
まるでそれはーーーー城壁だった。
キャラデザイン
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他キャラも見たい
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キャラは脳内イメージするので不要