英語で書くと「dominant」となります。
辞書には「支配的な、有力な、優勢な、支配する、主要な」という意味が載っています。
オーブ首長国連合、オノゴロ島。
休戦状態となった島の中では、逃げ遅れた非戦闘員の保護が続けられている。
グリフィス隊も、アンタレス隊も多くの仲間を失いながらも、生き残った隊員たちが引き上げていく地球軍を見送りながら、非戦闘員の捜索のために住宅地やシェルターがある場所を重点的に捜索していた。
そんな中で、隊員の一人が何かに気がついた。
「隊長!アンタレス1!東側の沖合に反応が…!」
陣頭指揮を取っていたPJが部下が言った方向へ目をやる。そこには、信じられない光景があった。
「戦闘の光…?今は休戦協定のはずだぞ!?」
「戦っているのは……ライトニング隊です!」
のちにグリフィス隊も、アンタレス隊も、ガルーダ隊の誰もが、その光景を目撃することになる。そこで繰り広げられていたのは、歴史に名を残すことになる戦闘機パイロットと、モビルスーツとの戦闘だった。
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『…どうなってんだよ…おい…!』
『離れられない……この私が!?』
奇襲をかけたはずだった二機は、逆に劣勢に立たされていた。
交戦当初の余裕も、一般兵相手のモビルスーツ戦で見せていた力強さも、相手取る二機の前では全くの無意味だと、二人は心の奥底で理解していた。だが、納得できないから戸惑いを隠せずにいる。
トールが相手取ってから数分で、レッドキャップとプロメシュース、その二機のパイロットは相手の異常性を感じ取り始めていた。
動きが違う。
戦い方が違う。
戦いに挑む心が違う。
在り方も、素質も、何もかもが違う。
こちらはモビルスーツ。それも通常のダガータイプよりも遥かにチューンされた特別機だったはずだ。狙えば逃すことのない銃を与えられたはずなのに、そのスコープに敵の姿すら映らない。
戦闘機だと侮っていた敵は、信じられない変則的なマニューバを繰り返し、迫り来る弾丸を紙一重で避け、交差するタイミングでは、的確にこちらが撃たれたくない場所に弾丸を叩き込んでくる。
削られていく精神。弾丸が跳弾し、徐々に破壊されていく機体の装甲に否応無く神経を擦り減らされていく。
そんなトールの足止めに時間が取られているうちに、奇襲の目標であった敵が合流した。
データではモビルアーマーだったはずのそれは、多重装甲に覆われた人型へと変貌しており、外見からは想像もできない機動性でこちらに接近してきたのだ。
「テスト運転には申し分ない」
そう呟いたホワイトグリントのパイロット、ラリーは、トールが追っていた内の一機、プロメシュースに狙いを定めた。
この機体に格闘性能は無いが、代わりに抜群の加速性と機動力、防御性がある。
まるで城壁のように機体を覆う多重装甲には、対ビーム兵器用のコーティングが施されており、まだ拙い地球軍製のビームライフルを受けたくらいではビクともしなかった。
なにより驚くのは、高機動ユニットを装備していた時よりも圧倒的に短距離間のブーストレスポンスが向上していることだった。
機体は左右に振られるように機動を繰り返しながら、従来のモビルスーツにはない加速性を維持しながら敵に接触していく。それはまるで、瞬間的にワープしているような感覚をプロメシュースのパイロットに与えることになる。
亜音速で尚且つ、超重量を誇るホワイトグリントに掠りでもしたら、普通のモビルスーツではひとたまりもない。
狙撃してもビームは弾かれ、ビームサーベルで接近戦をしようとすれば、多重装甲に覆われた亜音速のタックルをくらい、パイロットごと粉砕されるのは目に見えている。
けれど、近づかなければ勝機はない。
プロメシュースの女パイロットは、そんな戦闘に身を投じることになった。
そしてトールもまた、メビウスライダー隊の先輩たちからもらったものをしっかりと引き継いでいる。
ラリーから教わった変則マニューバを繰り返し、アイクから教わった大気の気流を読み取り、機体をわざと流して敵に視覚的な錯覚を起こさせるトールの操縦は、見事にレッドキャップの背後を取り、有利な位置を保持したまま、敵の忍耐力をゴリゴリと削り取っていく。
シールドで防御しようものなら、ストライカーパックに備わるアグニが火を吹き、近付こうにもマニューバで躱され、さらに真横を交差して飛び去っていくのだ。
これほどの屈辱があるのだろうか?
二機のコクピットに座るパイロットは悔しそうに歯で下唇を噛み締めた。
「トール……短期間でここまで……」
偶発的に起こった戦闘だ。それを見つめていた地球軍の同僚であるリークは、戦闘映像を記録しながら、自分が知っていたキラの学友の成長ぶりに驚きを隠せずにいた。
あの動きは完全にラリーと同じ……とは言え、高負荷を要求する変則機動の多用は控えている様子で、その代わりに、ラリーの飛行には無い気流を読んだ卓越した操縦技術が見て取れる。
装甲を脱いだラリーの機体も、モビルアーマーの時とは全く違った方向性の動きを見せていた。
あんな鈍重な多重装甲を全身に纏っているというのに、その重さを感じさせない身軽さを体現している。一瞬、相対するプロメシュースの機体と接触したが、明らかにラリーの機体は傷つかず、プロメシュースの装甲の一部が吹き飛んでいるのが見える。
それほど、ラリーの振り回す機体は重いのだろう。まともにぶつかれば砕かれるのは確実だ。
「マジかよ、これが流星隊ってやつか?」
さっきまで戦っていたオルガたちも、第三者の視点から見た戦闘の様子に目を奪われていた。戦っていた時は必死だった為、状況を把握することは無理であったが、外側から見てわかる。自分たちが相手をしていた部隊は、今まで見てきたどんな相手よりも圧倒的に強く、強烈だった。
「すげぇ」
「華麗だ…」
思わずそういうクロトとシャニの様子に、リークは小さく笑った。メビウスライダー隊の話になると割と早口になるアズラエル理事も、自分たちの過去の戦闘を見ては、こんな反応をしていたのだろうか。
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「キラ」
フリーダムに乗りながら戦闘を見つめていたキラに、ジャスティスに乗るアスランが問いかける。
「あのパイロットたちは…何者なんだ?」
アスランから見ても、二人の動きはソロモン諸島で戦った時よりも洗練されているように思えた。特に、あの戦闘機だ。あの動きはコーディネーターの中でもそうそう再現できるものでは無いだろう。
「大丈夫だよ、アスラン。すぐに慣れるよ」
キラの言葉の意味を理解できずに、アスランは空を見上げた。敵として相対していたら恐怖を覚えていたが、味方になるとこうも頼もしいとはーー。
「はっはっ!トール!あんなマニューバまでやれるようになったのか!」
「大尉たちに仕込まれましたからね!」
二機のモビルスーツの相手をしながら、トールはラリーの声に大声で答える。
〝いいか?トール。無理に機体を動かすな。風を見極めれば、空は俺たちパイロットの味方になってくれるということを忘れるな〟
アイクの言葉が、トールの中に蘇る。
気流を読み取って行う無動力の上昇方法ーー機体の揚力の使い方を後ろに乗りながら叩き込んでくれた。そんな彼のあり方に、トールは憧れ、そうなりたいと思うようになった。
だから、こんな相手に負けるわけには行かない。
『くそが!この俺がーーこんな時代遅れなどに!!』
トールは残弾が僅かになった重突撃機銃を見つめる。相手はモビルスーツだ。気を抜けばこちらがやられる。故にトールは最善の策を講じた。
レッドキャップと交差をした直後に、トールは機体を反転させて敵モビルスーツの直上へと位置を取ると、操縦桿に備わるオプション装備のパージ操作を行う。
残弾を吐き出しながら重突撃機銃はスーパースカイグラスパーから切り離され、その本体はレッドキャップめがけて投下された。
『ちぃ…姑息な真似を!』
もちろん、敵は80mmという弾丸を避けるために回避行動を行う。左右どちらに避けてもトールにとっては関係ない。
敵がこちらから機銃へ意識を向けてくれた段階で、勝負は決まったのだから。
レッドキャップのパイロットがその罠に気付いた時には、すでに手遅れだった。避けて機体を立て直し、姑息な手を使った戦闘機を捕捉した瞬間、コクピットにはアグニの閃光が迫っていたのだから。
『くそが!俺のせいーーー』
機銃を投下したあと、海面すれすれで待ち構えていたトールのスカイグラスパーが放つアグニは、レッドキャップのパイロットの哀れな言葉を言い終わらせる前に、コクピットを貫くのだった。
『そんな!レッドキャップ!?』
僚機を予想外に撃ち落とされたことに衝撃を受けたプロメシュース。それが彼女の運命を決定付けた。
超高機動型のホワイトグリントの前で足を止めてしまった彼女の僅かな隙を、ラリーは見逃さなかった。
「これで最後だ、外道どもが!!」
フットペダルを踏み込み、操縦桿を操るラリーの機体は、足を止めたプロメシュースめがけて突貫する。彼女はすぐに気付いて、自慢の高出力狙撃ライフルでホワイトグリントを撃ち抜こうとした。
閃光が放たれ、弾丸はホワイトグリントへ向かいーーーそして多重装甲に阻まれ空へと弾き飛ぶ。
『うそ……でしょ……』
ホワイトグリントの超加速により生まれた体当たりによって、構えた狙撃ライフルごとプロメシュースは四肢と機体本体を粉砕された。コクピットは原型をとどめないほど大きくひしゃげ、海中へと没していく。
それが皮肉にも、犬と揶揄していた彼女の最期の言葉となったのだったーー。
キャラデザイン
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他キャラも見たい
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キャラは脳内イメージするので不要