ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第136話 流星と流星 3

「オーブはよく持ち堪えていますな」

 

ナスカ級高速戦闘艦ヴェサリウスの艦長を務めるアデスは、共に地球へ降りてきたクルーゼと共に、カーペンタリアから出航したザフト軍艦船の中にいた。

 

遠くに見えるオーブの戦いの火を眺めながら、隣に座するクルーゼを窺う。彼もまた、最大望遠で映し出されている映像を見つめていた。

 

「あの物量では時間の問題だろう。しかし侮れん国だよ。地球軍がムキになるのも解る。あの見慣れぬモビルスーツどものデータは?」

 

「最優先で取らせておりますが、この位置ですから…」

 

艦の下士官が申し訳なさそうに言うが、たしかにここから見る限りでは、戦闘データとして映像を残すことくらいしかできないだろう。クルーゼはブレて霞む映像の中、モビルアーマーを模した高機動アーマーを脱ぎ捨てたホワイトグリントの姿を見た。

 

ホワイトグリント。白き閃光。

 

数々の戦いの中で呼ばれた自分の二つ名がついた機体。

 

その機体性能は、フリーダムやジャスティスと比べると、動力であるNジャマーキャンセラーからもたらされる無尽蔵に近い動力源では劣るが、加速性能や旋回レスポンスは、二機を上回るものになっている。

 

それに、あのアーマーも高機動ユニットも、クルーゼが手ずから指揮をして組み込んだ〝後付〟だ。

 

(そうか、第1の枷を外したか。まぁ当然だな、ラリー。あるいは君なら…)

 

乗りこなせるかもしれんな、その機体の真の姿を。そう心の中で呟きながら、クルーゼは存分に戦うラリーを眺めて仮面の下でほくそ笑む。

 

あの機体の真価は、まだ先にある。カタログスペックでも、クルーゼですら扱えなかった機体だ。まさに人が乗る事を想定していない機体と言える。あの盾が人の領域に留まる楔というなら、その先は人理を超えた物になる。

 

ああ、ラリー。

 

君が乗りこなせたならば、私にも乗りこなせよう。

 

君と私は常に対等だ。どちらかが上でどちらかが下ということが決定付けられるのは、どちらかの手によって一方が葬られたその時だ。

 

クルーゼはそっと立ち上がると、アデスの脇を通り過ぎて用意された私室へ向かおうとした。

 

「いずれどちらかと相見える時が来るまでお預けか…まぁいいさ、ザラ議長の喜びそうな土産話にはなる。何か変化があったら知らせてくれ」

 

「面白くなさそうですね?クルーゼ隊長」

 

ブリッジから出る通路の縁に手をかけたと同時に、アデスの刺すような言葉がクルーゼに届いた。

 

「そうみえるかな?」

 

振り返るクルーゼに、アデスはややため息をついて、飄々とする彼を見つめた。

 

「自分もあの中に飛んでいって戦いたいですか?あの新型機を引っ提げて、流星と」

 

宇宙からわざわざ持ってきた新型。

 

話を聞く限りでは、地球軍に奪取されたホワイトグリントと同型機であり、高機動ユニットなどを付けられたホワイトグリントとは違ったアプローチをした機体だ。

 

名はーープロヴィデンス・セラフ。

 

仕様を見るだけでも、ホワイトグリント同様に人が乗る事を想定しない機体とも言える。

 

クルーゼはしばしの沈黙を保ってから、アデスに向き直った。

 

「ーーオーブはザフトからの支援も拒否しているからな。仕方あるまい。ある程度見届けたら、私はひとまずカーペンタリアへ帰投する」

 

「また宇宙へ上がるのですか?」

 

そう問いかけるアデスに、クルーゼは頷く。じきに舞台は地球から宇宙へ移るだろう。銃を撃ち合うばかりが戦争ではない。状況や戦況によって、目まぐるしく事柄は変わってくる。

 

すると、クルーゼは普段見せないような笑みを浮かべてアデスに向かって言葉を紡ぐ。

 

「私は探していた。そして手に入れ、芽は育ったのだよ」

 

それはまるで、自分に言い聞かせるように。

それはまるで、歓喜を覆い隠すように。

 

クルーゼはただ、笑みを浮かべてから遠くに見えるオーブの戦いを見た。そうだとも。まだ芽は出たばかりだ。

 

だからーー。

 

「あとは私が、それを刈れるか、どうかさ」

 

 

////

 

 

「離脱命令!?」

 

艦隊の護衛をしていたアークエンジェルの中で、マリューは突如として通達された情報に目を剥いた。地球軍の物量差で戦局は徐々に傾いているというのに、こんなタイミングで撤退?

 

思わずマリューはナタルと顔を合わせたが、彼女もオーブの真意を図りかねていた。

 

「アスハ代表より、アークエンジェルとメビウスライダー隊は直ちに戦線を離脱し、カグヤへ降りろと!」

 

「カグヤ?ってことは…」

 

ノイマンの言葉通り、アークエンジェルに指定されたポイントはーー。

 

「オーブの、マスドライバー施設です!」

 

宇宙へと掛かる架け橋の麓だった。

 

////

 

 

『はあぁぁ!』

 

シャニの雄叫びと共に、屈曲する偏向ビームがフリーダムとジャスティスの合間を走った。

 

「ーーぐぅ…はぁっ!!」

 

その閃光をくぐり抜けたフリーダムは、ビームが通用しないフォビドゥンの武装へシールドを突き出して叩きつける。味わった事のない戦術だが、シャニは冷静に吹き飛ばされた姿勢を立て直す。

 

『チィこいつらぁ…ーーぐはぁっ!!いい加減にぃ!』

 

フォビドゥンへ向かおうとするジャスティスを砲撃で牽制しながら、オルガはヘルメットの中に流れる汗をバイザーを上げて振り払う。シャニも大鎌を構えてシールドバッシュを繰り出すフリーダムと鍔迫り合いを繰り広げていた。

 

『しぶとい!』

 

クロトはモビルアーマー形態でトールのスーパースカイグラスパーを追っていたが、マニューバと気流を併用した複合マニューバのせいで、なかなか攻めきれない。

 

すると、カラミティのコクピットで急に警告音が響き始める。視線をコンソールへ向けると、カラミティの残存エネルギーが危険域手前まで迫っていたのだ。

 

『くっそ!兄さん!もう機体のパワーがヤバい!』

 

『お前はドカドカ撃ちすぎなんだよバーカ!』

 

『んだとぉ!?』

 

『喧嘩はあとでやってくれないかな!?』

 

クロトとオルガの言い合いに釘をさすリークの前では、リベリオンに肉薄するホワイトグリントの姿があった。

 

「よそ見は感心しないな!リーク!はぁあああ!!」

 

ビームマシンガンを連射しながら、その巨体でリークのビームカービンなど御構い無しに、驚異的な速度で突撃してくるラリーに、リークは分厚いシールドを構えて受けて立つがーー。

 

『くぅうう!!』

 

多重装甲と超重量から織りなされるタックルによって、シールドは凹み、リベリオンの腕は高負荷で火花が散る事態に陥っていた。

 

『兄貴!?こんのぉおお!調子にのりやがって!撃滅!!』

 

上空からリークの危機を察して急降下してきたクロトのレイダーが、モビルアーマーから人型へと姿を変えて鉄球を打ち出す。しかし、目標であるホワイトグリントは逃げも避けもしない。

 

「何度も同じ手を喰らうかよ!!」

 

すると、ホワイトグリントはぐるりと宙返りを打つ要領で、迫ってきたレイダーのハンマーを、装甲のついた足で蹴り飛ばしたのだ。

 

『んなぁっ!?蹴り上げやがった!?』

 

真っ直ぐ向かっていたはずのハンマーは明後日の向きへ進み、クロトは慌ててハンマーの方向制御を行っていく。

 

『くそ!この機体の強度…普通じゃねぇぞ!?はっ!!』

 

「そこだぁあ!」

 

ハンマーを戻す僅かな時間。トールはその隙に全神経を注いだ。機体を鋭く旋回させると、ランチャーの代わりに装備していたソードストライカーの武装、ロケットアンカー「パンツァーアイゼン」を射出し、レイダーのエンジン部を捉えた。

 

『ぐはぁっ…羽根つき!!こいつぅ!!』

 

クロトは機体をぐるりと回して、パンツァーアイゼンを振りほどこうとしたが、それは得策ではなかった。トールは、回ったレイダーの動きに合わせて動力を絞り、意図的な失速状態を作ると、機体を反転させてレイダーの真上に陣取ったのだ。

 

ガコンッと、スーパースカイグラスパーの背部のシュベルトゲベールが稼働して、大剣が現れる。

 

「チェストォオオオォオオ!」

 

そのまま急降下したスーパースカイグラスパーは、破砕球「ミョルニル」を持つレイダーの片腕を閃光と共に断ち切ったのだ。

 

そのまま姿勢を崩したレイダーを見て、オルガは目を見開いて叫んだ。

 

『クロト!?おいクロトぉ!!大丈夫か!?』

 

すると、オルガの声に応じるように、レイダーは動きを取り戻してモビルアーマー形態へと変形する。

 

『はっ!僕がこの程度でやられるわけないじゃん!!』

 

『ーーけ!バカが!心配させやがって!』

 

『なんだと!くっ!勝手に乗んなよ!このやろう!』

 

『うるせぇ!とっとと補給に戻れよ!お前もそれじゃぁしょうがねぇだろ!兄さん!!』

 

片腕を失ったレイダーの上にカラミティが着陸する。ブーブー文句を言うクロトを無視して、オルガはホワイトグリントを相手取るリベリオンへ通信を繋いだ。

 

『だね!良い引き際だ!シャニ!引き上げるよ!』

 

迫るホワイトグリントを避けて、ビームカービンで距離を稼いだリベリオンは、フリーダムとジャスティスを牽制していたフォビドゥンと合流する。

 

『ん?終わり?兄ちゃん』

 

シャニの声に頷いて、二機は先に撤退したレイダーとカラミティを追うように太平洋の沖へと飛翔し、姿を小さくしていくのだった。

 

「ハァハァハァ…退いたのか?」

 

「て、手強い…」

 

キラもアスランも、オルガとシャニの相手にすっかり疲弊していた。上空を飛ぶトールも、使い切ったミサイルポッドや増槽を分離してから、深くシートへと埋もれるように息を吐いた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…体…重…」

 

そんな疲弊する三人の前で、ラリーは海面に浮かびながら、去っていったリークたちの部隊を見つめる。

 

「リークのやつ…腕を上げたな…」

 

決定打を打てなかったことに、ラリーは驚きを隠せずにいた。互いにモビルスーツには乗り始めたばかり。きっとまた、戻ってくるだろう。

 

そんなことを考えながら、ラリーは疲れ切ったライトニング隊へ帰投命令を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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