ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第150話 宿命の前夜

 

 

 

「ーーーコロニーメンデル。こいつは開戦前にバイオハザードを起こして破棄されたコロニーだ」

 

L4コロニー群も目と鼻の先に迫ったところで、アークエンジェル、クサナギ、ヒメラギに合流したエターナルに乗るバルトフェルドは、自分たちの行く先を開示した。

 

「このメンデルの事故はオレも記憶にある。けっこうな騒ぎだった。でもま、そのおかげか一番損傷は少ないし、とりあえず陣取るにはいいんじゃないの?」

 

そもそもL4コロニーは開戦前のバイオハザードに加えて、開戦後にアジア共和国が管理下に置く資源衛星「新星」ーー後のボアズを巡って苛烈な攻防戦が繰り広げられ、その影響はL4コロニー群に致命的な損害を与えた。

 

いわば宇宙の戦場跡。一時的に隠れるにはうってつけの場所だろう。

 

「当面の問題はやはり月でしょうか?現在、地球軍は奪還したビクトリアから次々と部隊を送ってきていると聞いています」

 

そう呟くPJにマリューも不安そうに頷く。

 

「プラント総攻撃というつもりなのかしらね?」

 

《虎の子のモビルスーツの量産と、ナチュラルでも扱えるOSが手に入ったんだ。当然だろうな》

 

ヒメラギの艦長の任に就くハインズも、マリューの抱く不安と同じことを考えていた。付け加えるようにハインズの部下たちも怒りの声をあらわにする。

 

《元々それがやりたくて仕方ない連中がいっぱい居るようだからな。青き清浄なる世界の為にってな》

 

《味方を焼き殺そうとしてまで、なにが青き清浄なる世界だ。そんなもの糞食らえだ》

 

アラスカ、そしてパナマ。同胞の命すら省みらずに殺戮兵器を投じた地球軍、戦えぬ無力な者に銃を突きつけて虐殺するザフト軍。その凄惨たる現状を眺めながら、ラクスは暗い影を落としながら溢れるように呟いた。

 

「皆さまも、とてもお辛い目に遭われたのですね」

 

そういうラクスに、それでもとPJは笑顔を見せた。

 

「それで探すきっかけができたんだ。俺たちが信じる、俺たちの信じた明日を」

 

何が正しいか、間違っているかじゃない。自分たちは何のために戦い、何を求めて戦っているのか。その先の答えを見つけるために地球軍やザフトを離れ、自分たちはここにいる。その想いにハインズや仲間たちも頷いた。

 

「それにコーディネイターを討つことのどこが、青き清浄なる世界の為なんだかな。そもそも、その青き清浄なる世界ってのが何なんだか知らんが、プラントとしちゃあ、そんな訳の分からん理由で討たれるのは堪らんさ」

 

《互いの憎しみが、連動して動く歯車になってるようにも思えるな。この戦争そのものが》

 

バルトフェルドの呟きにハインズも同じように言葉を紡いだ。

 

「プラントもナチュラルなんか既に邪魔者だっていう風潮だしな、パトリック議長は。当然防戦し、反撃に出る。二度とそんなことのないようにってね。それがどこまで続くんだか」

 

「酷い時代よね」

 

「でも、そうしてしまうのも、また止めるのも私達、人なのです。いつの時代も、私達と同じ想いの人も沢山居るのです」

 

誰もが目を覆いたくなる世界の惨状を前に、ラクスは毅然とした言葉で自身の行く先とあり方を示す。

 

《憎しみを原動力にするなら、誰かがその連鎖を歯を食いしばって断ち切らなければならない。それが我々、大人の役目だと自負しているよ》

 

それが、このどうしようもない戦いを始めてしまった俺たちの世代のケジメだと、ハインズは呟く。そうしなければ、この連鎖は延々と続くだろう。

 

「創りたいと思いますわね、憎しみのない時代を」

 

ラクスの小さな呟きに、その場にいる誰もが望む未来の姿を思い描いて、彼らは向かう先であるL4コロニーを見つめた。

 

 

////

 

 

エターナルの後部にある展望ルームで、アスランは1人、流れていく星空の大海を眺める。その視線は不安に揺れ動いていて、アスラン自身の顔色も良いものではなかった。

 

「こんなとこに居たのかよ」

 

そんなアスランを見つけたのは、カガリだった。オーブの赤いジャンパーを袖に通した彼女は、ふわりと無重力に体を浮かべてアスランの隣へと降り立った。

 

「お前、頭ハツカネズミになってないか?」

 

しばらく、沈黙するアスランの横顔を眺めていたカガリは怪訝な表情を浮かべて思わず呟いた。

 

「は、ハツカネズミ?」

 

「こう、一人でグルグル考えてたって同じってことさ。だからみんなで話すんだろ?だから、自分で抱えずにちゃんと来いよ」

 

今頃エターナルのブリッジで行われている作戦会議。この四隻の今後を決める大事な話し合いの場だ。そんな中で、自分の考えを抱え込んで黙られてると、気にしたがりのカガリにとっては心配のタネとも言えた。

 

「…すまない」

 

そう言ってアスランは包帯に巻かれた肩に手をやる。それを見たカガリも、悲しげな顔をしてアスランを気遣った。

 

「…痛むのか?」

 

「大丈夫だ」

 

そう即答するアスランに、カガリは呆れたように息をついて「あのなぁ」と口を開く。

 

「それ。やせ我慢っていうんだぞ?」

 

カガリは手すりを持っていた手を離して、優しくアスランの肩から腕にかけて撫でる。その手からはたしかに、暖かさがアスランへ流れ込んできた。

 

「痛いよな…お父さんに撃たれたんじゃ」

 

そんなカガリの言葉は、凝り固まったアスランの心を優しく解し、彼自身の中で繰り返していた言葉のダムをいとも容易く決壊させた。

 

「俺は…父を止められもしなかった。今更ながらに思い知る。俺は何も出来ない。何も解ってなかったと…」

 

思い出すのは憎悪に塗れた父の顔。銃口を向ける冷たい父の瞳。まるで物を見るような心のない視線。それをつぶさに思い出すたびに、アスランの心は酷く磨り減っていく。

 

「そんなの、みんな同じさ!解った気になってる方がおかしい!」

 

そんなアスランのネガティブさを吹き飛ばすように、カガリは無重力の中へ浮かぶと、大げさなジェスチャーをしてアスランの前に立った。

 

「カガリ?」

 

「お父さんのことだって諦めるのは早いさ!まだこれから、ちゃんと話し出来るかもしれないじゃないか!」

 

彼女の言葉に、アスランは目を見開く。

 

そうだ。

 

何を勝手に諦めている。

 

何を勝手に失望している。

 

まだだ。

 

まだ話して一度目でしかないじゃないか。

 

父と息子。心で会話すると言えど、長年互いに心を知ろうともしなかった関係だ。そんな相手に一度の話でわかり合おうとするなんて、無理な話だ。

 

だから、話さなければならない。

 

もっと多くを。もっと時間をかけて。

 

そう思えば、アスランの中にあった暗い影のような気持ちは、すっかり無くなってしまっていた。

 

「だからこんなところで一人ウジウジしてないでな…ってうわっちょ……!」

 

そう言葉を続けていたカガリを、アスランは何も言わずにただ抱きしめる。無重力の中で、行き場を見失ったカガリの手が宙を彷徨う。そんな中で、アスランは優しげな声でカガリに言葉を繋いだ。

 

「ごめん。カガリ…ありがとう。元気、出たよ」

 

その一言で、カガリの戸惑っていた様子は消える。彼女は優しげに微笑むと、アスランの背中に手を回して、強く抱きしめてくれるアスランの頭をゆっくりと撫でた。

 

「そうか…よかった」

 

 

 

////

 

 

 

「クロト・ブエル。強化インプラントステージ3。X-370の生体CPU。個人データは全て削除」

 

ブリッジを出た中尉は、艦内の閲覧可能の資料を眺めながら、アズラエルが所持する戦力の見極めに精を出していた。

 

「オルガ・サブナック。X-131の生体CPU。ステージ2。やはり個人データは無し」

 

画面をスクロールして、アズラエルが連れてきたあのパイロットーーメビウス隊の情報を見つめる中尉は、サザーランド大佐の指示を受けて、彼の動向を監視する役目を任されている。

 

サザーランド大佐にとって、ビジネスパートナーであったアズラエルが裏切ろうとしている。その証拠を見つけてきてほしいと。

 

ブルーコスモスシンパの中でも比較的に若く、中尉という立場を持つ自分を信頼して、大佐はこの密命を命じてくれた。そのプライドと精神力で、中尉はバーフォードの詰るような言葉を耐えて、ここにいる。

 

「シャニ・アンドラス。ステージ4。X-252の生体CPU。個人データ無し」

 

ブーステッドマン。

 

地球連合軍がコーディネイターとの殲滅戦争にあたり、投薬、特殊訓練、心理操作により兵士としてコーディネイター以上の身体能力を持たせたナチュラルを作り上げる計画。

 

好戦的で、一般的なナチュラルのパイロットをはるかに凌駕し、身体能力も高く、そして特殊な兵装を搭載した搭乗機の高機能性を制御可能となる、まさに万能のパイロット製造と言えた。

 

彼らは例外なく、地球連合軍の上層部にMSの部品の1つ「生体CPU」と見なされ、過去の経歴はすべて抹消されることになっている。

 

「パイロットではなく装備か。消耗パーツ扱いとはな」

 

そう言っておぞましい実験内容を見つめながら、中尉は口元に手を覆った。

 

たとえば、外科手術で脳内や分泌腺内にマイクロ・インプラントを埋め込む。

 

たとえば、人工的に調剤された物質である「γ-グリフェプタン」は、若い青年の頭蓋骨を麻酔なしで切り開いて、切開した時に分泌されるホルモンから生成される。

 

たとえば、時には手足を切り落としたパイロットをモビルスーツに搭載した。

 

などなどーー表に出せば社会問題どころではない人外非道なことが行われている。

 

しかしその結果、超人的な能力を有することができるが、反面、脳内麻薬とほぼ同じ効果を持つグリフェプタンは凄まじい禁断症状を起こす。

 

作戦中に突発的な発作を起こして作戦継続が困難になる場合があり、兵士として運用する上では致命的な問題点も抱えている。

 

そして、この点は地球連合軍にとってブーステッドマンの脱走や裏切りなどを防ぐ効果が期待でき、実際に薬物投与を受けられず禁断症状に苦しむことを恐れ、嫌々ながらも命令に従う姿がこの資料には克明に描かれていた。

 

ここまではアズラエルがオーブ侵攻前までに提出していた経過報告と同じだが、問題はこの先の情報だった。

 

「そして、リーク・ベルモンド。元メビウスライダー隊所属パイロット。後期インプラントステージ4。X-001、リベリオンの生体CPUであり、3人の指揮機能をもつ、と」

 

これだ。この情報に中尉は頭を悩ませていた。

 

彼は元々、グリマルディ戦線を境に設立されたメビウスライダー隊に所属するトップガンだ。

 

ブーステッドマンは戦災孤児などを幼少期から洗脳教育、外科的な手術を行って作られる強化人間。

 

どうにも矛盾が生じるのだ。なぜ、宇宙のトップガンであった彼がブーステッドマンになったのか。そして、どうやってインプラントステージ4へとたどり着くことができたのか。

 

詳細は他の3人と同じものであったが、中尉はどこか納得できない様子だった。

 

「こそこそと調べ回るのが趣味なんですかね?」

 

資料室に佇む彼の背後から、そんな声が轟く。驚いて後ろを見ると、護衛の兵士と艦長を後ろに引き連れたアズラエルが、逆光となった通路の光を後ろに背負いながら、笑みを浮かべて自分を見ていた。

 

その表情に、中尉は一種の恐怖を覚えた。

 

「アズラエル理事」

 

「後どのくらいですかね、L4は」

 

何事もないように呟くアズラエルに、中尉は周辺図を展開して今の航路がどこなのかを何故か必死になって探した。さっきまで見ていた狂気の産物を忘れようとするように。

 

「間もなくです。しかし、自分は未だ賛成しかねますが。その、何の根拠もなくL4へ向かうというのは」

 

中尉は話題をそらすために、ドミニオンに赴任してからずっと考えていた疑問をアズラエルに投げかける。すると、彼はまるで見下すような、嘲笑うような笑みを浮かべては肩をすくめた。

 

「僕の情報は確かですよ。それが根拠だ。別に何の根拠もない訳じゃあない」

 

「しかし!プラントからの情報など罠かもーー!!!」

 

「フリーダム、ジャスティス、ホワイトグリント。それが例の機体のコードネーム」

 

中尉の声を、アズラエルは手にした情報のままに伝えて言い終わる前に黙らせた。

 

「そいつ絡みでナスカ級が3隻、L4へ向かっているっていうんです。ほんとだったらお終いでしょ?だから行くんですよ」

 

そう言葉を続けてアズラエルは、片目を閉じて品定めするような目つきで中尉を見つめた。

 

「いいですか?貴方がどう上から指示を受けて僕らのところに来たのかは問いません。けどね、その上にはもっとこの戦争全体を見ながら、考えたり指揮したりする人間が居るんですよ」

 

まるで彼の意思など眼中にないと言うように。まるで彼の尊厳などあるわけないと伝えるように。アズラエルははっきりとした声でそう伝えると、呆気にとられて呆然と立ち尽くす中尉の元へと歩み、肩に手を置いてにこやかに微笑む。

 

「僕の要請を聞くようにって言われたでしょ?そこんとこ、忘れないでほしいもんですけどね」

 

じゃ、せいぜい頑張ってくださいね、とアズラエルは踵を返す。呆けてしまった中尉を一瞥したバーフォードは、つくづくアズラエルは上手いものだと心の中で賞賛した。

 

今頃、隔離された部屋の中で4人でクロトの好きなゲーム、オルガが見たがっていた映画、シャニが3人のためにチョイスした、さまざまなミュージシャンのライブ映像を見るなど、ポッと出た休暇を楽しんでいるであろうリークたちをバーフォードは想像する。

 

暗い資料室の中で、中尉が目を通していたのは、アズラエルがわざわざ研究者を呼びつけて精巧に作らせた嘘の報告書だ。しかも、アズラエル財団と中央研究所、地球軍の上層部まで目を通し、判子も刻印されているという真実とも言える虚像。

 

中身はどうあれ、リークの教導の元、目覚ましい活躍を見せる3人の性能に疑う余地は無く、ナチュラルはそういうものだと決めつけている上層部を騙すには打って付けの代物だ。

 

そんなものを堂々と提出するアズラエルの肝の太さと言えばーーー彼が悪党と自負する一幕をバーフォードは肌で感じながら、その可笑しさを心の中で嚙み殺すのだった。

 

 

////

 

 

《弾薬や物資はエターナルに突っ込めるだけ持ってきてはある。その後の補給ルートも、プラントに残ってる連中が繋げてくれる手はずになってるからな》

 

L4コロニー群、メンデルの港に入港した四隻は、まだ出たばかりの翼の調整をするエターナルと、アストレイのOSを宇宙用に調整するオーブ軍、そして周辺警戒と偵察を担うアークエンジェルと役割が別れることになった。

 

「偵察隊が出たぞ!敵が来るとしたら港の正面だ!各員、いつでも出れるようにスタンバっておけよ!!」

 

偵察を任せられた機体がアークエンジェルから宇宙へと飛び立っていく。彼らはコロニーメンデルの港の反対側に展開して、死角になりやすいエリアをカバーする役目を負うことになっている。

 

「艦の最終調整はあとどのくらいかかりますか?」

 

そんな喧騒に紛れる中、エターナルへやってきたフレイ率いる整備班に、ラクスが無重力に髪を遊ばせながら降り立ってきた。

 

「ウチのクルーでも最低でも5時間ってところね」

 

エアロックの中で、作業用ツナギの上を脱いで袖を腰に巻きつけ、タンクトップ姿というワイルドさを出しているフレイは、引き連れてきたクルーを見渡して簡潔に答えた。

 

「そうですか、しかし驚きました。フレイさんが整備員をしてらっしゃるなんて」

 

地球、オーブ、ザフトの混成整備班がそれぞれの持ち場に飛んでいくのを見つめるフレイに、ラクスが驚いた様子で問いかけると、フレイは照れ臭そうに困ったように笑った。

 

「パパが知ったら卒倒しちゃうかもね」

 

たしかに、ラクスと別れた頃はまだ高官の娘、いわゆるご令嬢という側面が強かったが、低軌道から地球に降りて、フレイもすっかり快活になったものだ。

 

点検項目で質問してくる作業員へ的確に指示を出すフレイの姿は、もはやプロの整備員と言えた。

 

「ーーお元気そうでよかったです」

 

「ラクスも。大変だったみたいだけど、またこうやって会えて私も嬉しいわ」

 

そう言って、フレイは持っていた工具を腰に巻いてあるベルトへ、矢継ぎ早に差し込んでいく。

 

「ねえ、フレイさん」

 

「んー?」

 

「私たち、お友達、ですよね?」

 

そう弱々しく呟いたラクスを、フレイは目を見開いて見つめる。しばらくの沈黙の後、フレイは真剣な眼差しでラクスを見つめて、手を差し伸ばした。

 

「そこに置いてある工具セットを取ってくれたら、だけどね?」

 

そう言ってウインクを飛ばすフレイにラクスは呆気に取られてから、可笑しそうに目尻に涙を貯めるほど笑ってしまう。

 

「ふふ、そういうところ私は好きですわ」

 

ひとしきり落ち着いたラクスへ、世界の歌姫にお褒め預かり恐悦至極でございます、とフレイは腰から垂れる作業着の上着をスカートのようにたくし上げて、令嬢らしく頭を下げると、それが面白かったのかラクスはまた堪らずに吹き出して、少女らしく鈴をコロコロと鳴らすように笑うのだった。

 

 

////

 

 

《はあ、凄いもんだね。ピンクのお姫様》

 

そう言ってムウ率いるモビルスーツ部隊は、エターナルからクサナギ、ヒメラギへ、そして港から少し離れたアークエンジェルに向かって運び出した物資を輸送している。

 

「少佐!そんなことは私達がやります!」

 

宇宙用の調整を終えて出てきたアサギが駆るアストレイが、そんな作業に従事しているムウたちを見てギョッと目を剥いた。そんなアサギにムウは大丈夫大丈夫と手を振る。

 

《いいんだよ。これも訓練の一つでね》

 

そう言うムウの後ろには、ナチュラル用に書き換えたOSが搭載されたアストレイに乗る、地球軍のパイロットたちがいた。

 

《そうそう、機体も動かさないとデータも取れないからさ》

 

《君達だって宇宙でのシミュレーション経験あるんだろ?子供にばっかデカい顔させとけるかってね》

 

そう言って親指を立てて笑うパイロットたちは、アサギたちを横目に慎重に物資を各艦へと運び込みながら、自らのパイロットとしての技量を高めていくため、訓練に励んでいくーー。

 

 

////

 

 

アークエンジェルのモビルスーツデッキでは、フレイと別れたハリー率いる整備班が忙しく動き回っている。

 

そんな中で、ラリーの隣に降り立ったハリーは、姿を少し変えたホワイトグリントを見上げていた。

 

「装甲をパージしたホワイトグリントは、胴体部の装甲を残して他もパージさせることになりました」

 

そう覇気のない声で呟くハリー。なんだか不満げな彼女の言う通り、ホワイトグリントは先のクルーゼとの戦闘で破損した片腕、片足の装甲を両手両足共々取り払い、わずかに格闘性能を取り戻した姿となっていた。

 

ホワイトグリントが手に渡ってから使用されていたビームマシンガンはクルーゼ戦で破壊され、今は応急的ではあるが、フリーダムとジャスティスの予備ビームライフルを両手に備えている状態だ。

 

「ハリーにしては控えめな改良点だな」

 

率直なラリーの感想に、「私も不本意だよ」と苛立ってるようにハリーは呟く。

 

「その鬱憤をトールのメビウスに回してるだけよ。それに、ホワイトグリントはまだ本当の姿になっていない」

 

トールの魔改造メビウスはさておき、ハリーの言う通り、ホワイトグリントはまだ本当の姿にはなっていない。今の姿も完全なパージを施していないハリボテのような姿だ。

 

しかしながら機動性は高く、反射能力も申し分ない。ハリーが手ずから改造を加えようにも、非常に取り扱いに困る機体であるには変わりはなかった。

 

「ここで武装面を充実させても、ラリー用にセッティングされてる機体なんだから、本来のスペックを妨げる不安もあるんだからね」

 

「すまないな、何から何まで」

 

ハリーの話を聞いていたラリーは、ホワイトグリントを見上げながら小さく呟く。そんな改まって言うラリーに、ハリーは驚いたように目を点にして隣に立つラリーを見つめた。

 

「何を唐突に…これが私の仕事なんだから」

 

そう。これが自分の仕事だ。

 

パイロットが帰って来られる可能性を少しでも上げるために、ハリーは機械弄りをするのだ。

 

だからーー。

 

「だから、次も無事に帰ってくるのよ。そうじゃなきゃ、許さないんだから」

 

「ああ、了解した」

 

そう弱々しく言うハリーに、ラリーは柔らかく笑みを浮かべながら、そのくしゃくしゃになった頭を優しく撫でてやる。

 

運命のコロニーメンデルの戦いは、すぐそこに迫ってきているーーー。

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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