ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第14話 エースの真髄(前)

《オービットからメビウスライダーへ、前方から一機!急速にそちらに接近してくる!注意せよ!》

 

キラには見えていた。遥か向こうから一つの光がこちらに近づいてくるのが。それは徐々に輪郭を帯びて行き、機体の色も鮮明に見えてくる。

 

「紅い…モビルスーツ…」

 

《ナンバー特定…イージスだ!》

 

モビルアーマー形態で高速巡航するイージスの中で、アスランは目前に捉えたストライクを見据える。

 

《キラ…本当に、君なのか…!》

 

炎に包まれた中で再会した幼馴染。優しくて、優秀で、ぼーっとしている…自分のよく知る親友。

 

彼が、モビルスーツに乗って自分の前に居るのか。そんなことを信じたくはない…だから確かめなければ…。

 

「あのモビルスーツに乗っているのか…アスラン…!」

 

それは相対するキラも、同じ気持ちだった。

 

 

 

////

 

 

 

《ヴェサリウスからはもうアスランが出ている。後れを取るなよ!》

 

《ふん!あんなやつに!》

 

接近してくるモビルスーツ。

地球軍が開発した「対モビルスーツ用」兵器。

 

デュエル、バスター、ブリッツ、そしてイージス。

 

アークエンジェルと行動を共にする以上、避けては通れない敵だ。

 

《敵、迎撃可能域に突入!》

 

《弾幕!艦首回頭!アークエンジェルの後方に着く!敵機を近づけさせるな!ミサイル発射管、6番から9番、スレッジハマー、てぇ!13番から18番へビーム撹乱剤装填!1番から5番へコリントス装填!スレッジハマー再装填急げ!残ったミサイルも時差で発射しろ!》

 

鋭く反応したのは、護衛艦クラックスだ。モビルスーツが射程距離に侵入した瞬間に容赦のない迎撃行動を取っている。

 

モビルスーツの迎撃戦では、どれだけ早く迎撃できるかが要になってくる。反応が少しでも遅れれば、懐に潜り込まれてしまう。そうなれば、近接攻撃能力を持たない艦船は、モビルスーツの良い的にしかならない。

 

《敵、モビルスーツ群、散開!》

 

クラックスの迎撃を避けて散開するG兵器。

それらの投入に動揺するアークエンジェルは、まだ迎撃行動をとっていない。

 

《アークエンジェル!!CIC!何をしてる!死にたいのか!》

 

オービットからの叱咤で、アークエンジェルのCICは慌てて司令系統を取り戻して行く。

 

《敵機へレーザー誘導!ミサイル発射管、13番から18番、てぇ!続いて、7番から12番、スレッジハンマー装填!19番から24番、コリントス、てぇ!》

 

ナタルの声と共に、アークエンジェルもモビルスーツの迎撃行動を開始して行く。

 

 

////

 

 

散開したモビルスーツを相手取りながら、俺たちは高速機動で相手の出方を窺っていた。こちらが機動戦で不利なのは明白。ならば、先攻するよりも相手の行動を観察し、後攻で打って出る方が理にかなっていた。

 

「あの紅いモビルスーツ…。アスランが、乗っているのか…?」

 

《キラ…君なのか?そのモビルスーツのパイロットは…》

 

互いに交差するように飛び回りながら、キラもアスランも、互いの出方を観察しているようだった。だが、彼らと違って他のザフトの面子は好戦派が多い。

 

《ディアッカとニコルは飛び回るモビルアーマー共を!俺はアスランとモビルスーツをやる!》

 

《分かりました》

 

《ええー?》

 

《文句はなしだディアッカ。相手は流星、でかい獲物だろ?》

 

そのやり取りを皮切りに、イザークのデュエルが戦闘の口火を切った。放たれたビームライフルを避けはするが、デュエルとイージスの動きは、完全に編隊からストライクを引き剥がすものだ。

 

「チィッ!」

 

俺はハイマニューバを用いて、無防備に近づいてくるデュエルへ、バルカン砲を命中させるが、怯むどころか何食わぬ顔でこちらに反撃をしてくる。

 

「くそったれ!やはり豆鉄砲ではどうにもならんか!」

 

「ライトニング1!敵機が6時の方向から!ブレイク!」

 

リークの言葉で、操縦桿を絞り、俺は死角から攻撃してきたイージスのビームを避けて、二機の元から離脱する。

 

《避けるのか!?今のを!?》

 

イザークとアスランの驚愕の声が聞こえるが、今はそれどころじゃない。モニターを見ると、着いてこれないストライクがみるみる編隊から剥がされていく。

 

「くそー!やはり分断しに来たか!」

 

ある程度のところで、デュエルとイージスが、バトンタッチするようにストライクの元へと向かっていく。俺たちの目の前には、バスターとブリッツがいた。

 

「ライトニング3!そっちに二機のモビルスーツが行った!とにかく逃げ回るんだ!こっちの2機はなんとかする!」

 

「けど!アークエンジェルが!!」

 

ちらりと、クラックスとアークエンジェルを見るがあちらは後方から迫る敵艦との対艦戦闘へ突入していた。もし、デュエルかイージスが二隻の戦艦へ向かえば、ひとたまりもない。

 

故にだ。

 

「ライトニング3!なるべく敵機を船から離すんだ!動き続けろ!自分のできることを精一杯やるんだ!」

 

その刹那、バスターから放たれたビーム砲が俺の脇を掠める。通信機の向こうで、リークとキラが何かを言っているが、それを聞く余裕はなかった。

 

「チィ!G兵器…バスターか!」

 

《流星とか偉そうに呼ばれてるけどさ!》

 

バスターを駆るディアッカが、そう偉そうに言葉を放つ。

 

二つ装備された武装。その一つである350mmガンランチャーが俺へ砲口を向けている。めいいっぱいブースターを使って旋回するが、そう簡単に逃してはくれない。

 

《モビルスーツに、モビルアーマーが勝てる訳ないでしょ!》

 

それはどうかな。俺はヘルメットの中で呟いた。旋回で圧迫される体をなんとか動かして、バスターの周りを飛び回る軌道から、攻撃してくる相手に向かう軌道へ、機体を急制動させた。

 

「ぐぁああ…175…105…94…射出可能速度…安全距離カット…微速点火…!!」

 

急制動で機体が震えるが、モニターの正面にはバスターが写った。その瞬間に、バスターから電磁レールガンの散弾が放たれる。

 

「こりゃまた、オペ子に怒られるな…!」

 

そして俺も、指にかけていた引き金を引いた。

 

ドガァン!派手な音と閃光。そして爆炎が上がり、ディアッカが見ていたモニターは真っ白になった。

 

《グゥレイトォ!流星もチリ星に…》

 

「ーーーぐぁあ…!!しかし…散弾ではなぁ!!」

 

モニターにザザっとノイズが走る。散弾が爆風で逸れ、機体の表面を舐めるように跳弾し、甲高い音を奏でる。散弾のカーテンと爆煙を切り裂いて、俺はバスターに接敵する。

 

その一部始終を見ていたブリッツのパイロット、ニコルは戦慄した。

 

敵のモビルアーマーがやったこと。それは散弾を放ったバスター目掛けて、同タイミングでミサイルを放つことだった。

 

本来、宇宙用の巡航ミサイルは、投下後に自機へ接触しないために、安全距離を空けてからブースターへ点火し飛翔する仕組みになっている。

 

だが、モビルアーマーから放たれたミサイルは、投下と同時にブースターに火がついたのだ。モビルアーマーの鼻先でバスターの散弾とミサイルがぶつかり合い、ミサイルは爆散。

 

モビルアーマーは、ミサイルが開けた散弾のトンネルを抜けて、バスターの目の前へと出たのだ。

 

《ディアッカ!》

 

《いぃ!!?》

 

俺は目前に迫ったバスターへ、レール砲を向けた。

 

現行の兵器では、ランチャーストライクのアグニとソードくらいしか、フェイズシフト装甲には太刀打ちできない。

 

だから、俺は装甲にダメージを与えることを考えていなかった。

 

「いくら外装が硬かろうと…!」

 

距離はほぼゼロ距離、レール砲から放たれ、弾丸が最高速に達する位置にバスターを捉えている。そのタイミングで俺は引き金を絞った。

 

《ハッ!!モビルアーマーの攻撃程度で…!》

 

いつもよりも大きい反動で暴れるメビウスを制御しながら、俺はバスターを見つめた。バスターに直撃したレール砲の弾頭は、ただの炸裂弾ではない。G兵器投入も視野に入れていたからこそ、ハリーやドレイク艦長が承認した特殊な弾頭を使っている。

 

《うあぁあああ!!》

 

着弾の衝撃波は凄まじく、ディアッカの情けない叫びと共に、バスターは上半身をのけぞらせ、宇宙空間でクルクルと舞った。

 

「フェイズシフト装甲…化け物染みた硬さだな。だが、HEIAP弾は有効のようだ!」

 

HEIAP弾。

 

旧世紀から実在するこの弾頭の用途は装甲目標の破壊であり、直撃したときにのみ、その特殊な効果が発揮される。

 

着弾時に先端部に内包された焼夷剤に火をつけ、爆薬の起爆を誘発させる。ここまでは通常の榴弾と変わらない。

 

重要なのは、焼夷剤に加えて非常に可燃性の高い化合物にも同じく引火するというところだ。炸裂によって燃料が一気に熱エネルギーに変換され、爆発的に膨張する圧力と3,000℃の高温を発生させる。

 

さらに砲弾内部のタングステン弾芯が標的の装甲を貫通し内蔵されている炸薬に点火し被害を拡大させるというものである。

 

バスターを見る限り、フェイズシフト装甲の破壊はできなかったが、高熱によるダメージとタングステン弾芯による衝撃は充分な効果を発揮したようだった。

 

《ディアッカ!下がって!》

 

《くそ…熱でセンサーが…》

 

一時的なショックで操作がおぼつかないバスターを庇うように、ブリッツが前衛に出る。しかし好機を逃すつもりはない。今度はリークの機体がバスターへ標準を定めている。

 

「もう一発!」

 

《舐めるな!そう何度も当たるかよ!》

 

リークの放った砲弾をひらりとかわしたバスターは、すぐさま体勢を整える。HEIAP弾の弱点は構造が複雑な上に化合物を内包しているため、弾速が著しく低下するところにある。G兵器並みの運動性があれば、簡単に避けられてしまうため、確実に当てるためには、さっき俺がやったように超至近距離から打ち込むしかない。

 

「チィ!!素早い!」

 

バスターとブリッツ、そして二機のメビウスの戦いは高速戦へ突入していく。バスターもブリッツもビーム兵器で応戦するが、高速域での戦闘ではモビルアーマーに分がある。

 

《当たんねー!なんだよ、コイツの機動性は!》

 

《これが、モビルアーマーの動きなんですか!?》

 

そういう二人の声を聞くこちらとしては、かなり辛い消耗戦を強いられていた。ハイGマニューバは負担が大きい。俺もリークも無駄口を叩く余裕すらない。

 

「…撃て!撃ち続けろ…!装甲は丈夫でも中身は人間だ!衝撃で怯ませるしかない!」

 

俺の声に、リークが苦しげな声で了解と答える。早く、状況を打開し、ストライクに…キラを援護しなければ…。

 

 

 

 

 

 


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