浮遊していたデブリ群は、バーフォードの読み通りにドミニオンを覆い隠してコロニーメンデルへ流れていく。クサナギが浮遊するデブリに絡みつかれてる脇で、周辺警戒を厳にしてきたマリューだが、肝心のドミニオンはまるで神隠しにあったように姿を現さない。
「ドミニオンは!?」
「電子撹乱が激しい上に、デブリが多くて…は!グレー19、アルファにドミニオンです!」
サイの言葉にマリューは目を剥いた。
大急ぎで座標の特定を行い、ドミニオンの姿を確認すると、漆黒のその船はデブリの合間を縫うように現れ、アークエンジェルの武装面が手薄な左側面の後方に狙いを定めている。
「いつの間に!?」
「よーし!側面を取った!バリアント、てぇ!アークエンジェルの足を止める!」
「回避!」
間髪入れずに放たれた攻撃であったが、回避は難しくはない。電磁レールから放たれた閃光をアークエンジェルは減速と転回を巧みに利用して、難なく避ける。
だが、それがアークエンジェルにとっての致命的なミスでもあった。
「なっ!オレンジデルタよりミサイル急速に接近!」
向かってきたドミニオンに対して、アークエンジェルが艦の鼻先を向けようとした最中、機関部、後方側面部が無防備になったのを見計らったように、デブリの中に潜んでいたスレッジハマーが火を吹いて、アークエンジェルへ襲いかかる。
「仕込んでいたのか!?座標計測!即時に迎撃!!」
デブリにミサイルを紛れ込ませていたとはーー!!ナタルの怒号のような指示に対して、CICのオペレーター達はチャフで目を塞がれた自動迎撃では間に合わないと判断し、目視での確認と座標を素早く測定、入力して迎撃のトリガーに指をかけた。
「当たれー!!」
放たれた対空防御用のミサイル、イーゲルシュテルンによって、デブリから現れたミサイルの多くは撃破したものの、その衝撃はアークエンジェルの船全体を激しく揺さぶった。
「ほう、自動照準ではなくセミオートを併用しているのか。反応がいい」
「休憩してる暇を与えるなよ!ゴットフリート、コリントス、てぇ!!継続射撃!テンポは装填速度に合わせろ!」
ドミニオンの中で、ニックが矢継ぎ早に指示を出す中、バーフォードは対応と判断力の早さに感心しながら、敵艦の動きを観察している。
奇襲で心を折るつもりだったが、これは仕留めるとするなら時間がかかる上に、もっと作戦を練らなければならない。それと同時に、成長を見せるマリューとアークエンジェルのスタッフたちに、バーフォードはニヤリとほくそ笑んだ。
「相変わらず、えぐい戦術を考えてらっしゃる」
「戦場とは非道ですからね。正攻法だけでは勝てませんよ。このくらいの戦術、ザフトとの戦闘では日常茶飯事です」
手際の良さと思い切りの良さに、アズラエルが感心したような言葉を投げる。それはバーフォードにとって賞賛と等しい。優勢はドミニオンに傾きつつある艦戦。その光景を一瞥したキラは、なんとも言えない感覚を噛み締めながら苦しげに声を発した。
「バーフォード艦長…!うわっ!」
アークエンジェルの援護に向かおうと身を翻そうとするフリーダムを、カラミティとレイダーの連携が引き止める。
『そっちに行かせねーよ!』
オルガの叫びと同時に、二機はアスランのジャスティスにも狙いを定めた。何とか態勢をーーそう思った矢先に、頭上から大鎌を振りかざしたフォビドゥンが舞い降りてくる。
「くっそぉー!!」
ハイマットモードで自在に軌道を変化させるが、三機の連携に隙はない。武装を展開しようとすれば、実弾とビームの嵐で、点ではなく面で制圧されそうになる。
フリーダムの強みであるマルチロックシステムが完全に封じられ、キラはビームライフル、サーベルと言ったモビルスーツの基本的な戦闘に釘付けにされていた。
////
《黄色部隊!すでに戦闘は始まっている!我々の任務はアークエンジェル、そしてそれに同伴している艦と目撃者の排除だ!!》
メンデルの戦闘を目の前に置く黄色部隊の母艦、アガメムノン級艦「シンファクシ」は、モビルスーツデッキへと誘うハッチを解放していく。艦長の声が艦内に響き渡るのを聞き流しながら、黄色部隊のパイロットは特殊に作成されたダガー系のモビルスーツに乗り込みながら声を響かせる。
『まさか、こうも立ち回りが変わるとはな』
長い黒髪をヘルメットにしまい込んで、バイザーを下げる女性パイロットは混戦している戦場を見つめながら憂いるように呟いた。まさかアズラエルの船が先にたどり着くとはーーー期待していた一対一での戦いは叶いそうにない。
『敵機の数は多いが、こちらは足で翻弄する』
そんな女性パイロットに、後方で準備をする黒いダガー系の機体に乗る男性パイロットが諌めるように指示を出した。女性は短く「了解している」と答えて、電磁レールのカタパルトに機体が乗せられる感覚を歯で噛み殺した。
《進路クリアー!黄色部隊、発進!青き清浄なる世界のために!!》
『カテゴリー3、オルレア、発進するぞ』
『カテゴリー1、シュープリス、出る』
オルレアとシュープリス。黄色部隊が誇る虎の子のトップランカーたち。オーブで散った黄色のパイロットは、遊戯に等しいほど貧弱で、惰弱で、見るに耐えない無様さでモビルスーツを動かしていたが、彼らはそれを遥かに上回る別格の強さを有していた。
『さて、黄色部隊でのトップランカーたち、実力を拝見するとしよう』
そう言って2機のモビルスーツの光を見つめる同じ部隊のパイロットたち。彼らもまた居残り組ではあるが、ザフトの歴戦の猛者と大差ない実力を有しているのだった。
////
リークが持ち出したビーム兵器は、言わば拡散型のビーム弾頭砲だ。
楕円状のビーム球が連続して放たれるビーム砲だが、これが如何に厄介か、ラリーは戦闘を継続しながらその厄介さに冷や汗を流していた。
通常、ビーム砲とは直線的な射撃であり、装甲を融解させ、相手の装甲概念を無視した打撃力を有する光学兵器だ。ただし、それは当たればの話。掠めたビーム砲は終息するまで直線上を走り続ける一本の線でしかない。
たが、リークの武器はビームには無かった概念を取り入れていた。
それは信管だ。
いや、正確には機体の熱エネルギーに応じて臨界点が変わる反応をビームに持たせているだけなのだろうが、それがこの上なく厄介なのだ。
楕円状のビームを紙一重で避けようとしたら、ビームが突如として炸裂したのだ。楕円状のビームは細かい花火のように辺りに散らばり、紙一重で避けていたホワイトグリントの装甲に降り注ぐ。
微量とは言えビーム兵器。降り注いだ光はホワイトグリントの装甲を赤く染め上げるには充分な力を有していた。
リークが持ち出してきたこれは対空用のビーム兵器。近くで避ければ炸裂し、その余波でこちらを捕まえる。機動力を生かすホワイトグリントにとっては最悪の組み合わせだった。
『今度こそ勝ちを貰った!!』
そう言ってビーム砲を連射するリークのリベリオン。ラリーは早々に最短距離で詰めることを諦めて、ビーム兵器から距離を取れる位置へと旋回して避ける。
なんとも厄介な兵器ではあるが、対策がないわけではない。こうやって距離を取れば単なるビームの嵐でしかない。それにあの弾頭構造、消費するエネルギーに限りはあるはずだ。
「まだまだぁあああ!!」
ラリーは叫びながら、楕円状のビーム網を駆け抜ける。ビームの連射間隔、斜軸の修正速度、連射のタイムロス、信管の役割を果たす作用の許容範囲を見極めながら。
そうはさせまいとリークもビームを打ち止めて、サーベルを引き抜き向かってくるホワイトグリントとぶつかり合う。
「リークゥウウ!!」
《ラリィイー!!》
互いに雄叫びを上げながら機体は前進と後退を繰り返し、薙ぎ、叩きつけ、袈裟斬り、突き、様々な攻防をシールドとビームサーベルを駆使して激闘を繰り広げる。
長く共に歩んだ戦友である二人の戦士。彼らの1個人、戦士としての戦いは、稲妻を轟かせながら佳境を迎えようとしていた。
////
「いいかな、ハーネンフース。あくまで偵察だ。無理について来なくていい」
「はっ!」
そういうクルーゼに、青く染め上げられた最新型量産機「ゲイツ」に乗るザフトの赤服の一人、シホ・ハーネンフースが規律正しい返事を返した。
ゲイツは、ザフトの主力モビルスーツであるジンの後継主力機として開発された機体で、クルーゼ隊が地球連合軍から鹵獲したGAT-Xシリーズによって、連合の本格的なMS配備を想定する必要性に迫られ、奪取した技術も導入し、量産化されようとしているモビルスーツだ。
だが、その技術導入と地球軍が製造したダガー系のモビルスーツに対応するために、設計局から急遽スペックの見直しが入り、量産機の配備は遅れる一方で、シホが乗るゲイツもまた、先行して開発されたゲイツの試験運用機を急拵えで彼女用に調整したものだった。
この偵察は、ゲイツの運用データ取りも含め、クルーゼの操るプロヴィデンス・セラフのオプション装備のテストも兼ねている。
「ラウ・ル・クルーゼ、プロヴィデンス・セラフ・ヴィクトリア、発進するぞ」
補助スラスターユニットを取り外し、特殊な大型翼を追加したプロヴィデンス・セラフは、電磁射出機内で圧力を上げて大海へと飛び立っていく。
そう、あくまでこれは偵察。無用な戦闘は行うべきではない。そう口ずさみながらも、クルーゼの目は鋭い光を帯びて、交差し合う閃光の彼方を見据えていた。
そしてその感覚は思わぬ相手にも届くことになる。
「この感じ!?まさか!?」
ランチャーストライクを操るムウも、この戦場に近づいてくる親しくありながら不愉快な感覚を、鋭敏に感じ取っていた。
ドミニオンからの対空ミサイルを払いのけながら、デブリを処理していたムウは、同じく防衛していたイザークとディアッカを尻目に、役立たずなレーダーを捨て置き、あさっての方向へ飛翔した。
「な…おい!おっさん!」
思わずディアッカが呼び止めると、ムウは振り向きもしないで怒号のような声を上げた。
「おっさんじゃない!ザフトが居る!」
「え!?」
その言葉は確かか?そんなことを問う以前の問題だ。ここはドミニオンによってチャフが撒き散らされており、レーダー網なんて既に無いものと同義だった。
そんな状況下でザフトのモビルスーツを感じられるのか?ディアッカの疑問を、隣からムウを追うように飛び立ったイザークが吹き飛ばした。
「ディアッカ!」
イザークの声には焦りがある。
理由はどうあれ、ここでザフトに見つかれば不味いことになるのは間違いない。エターナルはまだ調整中、ヒメラギもまた物資の搬入で動けない。
アークエンジェルの後ろ側からザフトに撃たれればアウトだ。
「くっそー!見つかったらマジでヤバイぜ!」
そう言ってアークエンジェルへ通信を入れると、ディアッカは一人アークエンジェルの側に残り、ドミニオンとの攻防の補佐に集中していくのだった。
クルーゼ「ところでハーネンフース。つまみ食いという言葉を知っているかな?」
シホ「はい?」
キャラデザイン
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他キャラも見たい
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キャラは脳内イメージするので不要