ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第154話 The Unsung War 4

 

 

 

 

「そらあ゛ぁ!!滅殺!!」

 

キラはフリーダムのコクピットの中で神経を研ぎ澄まし、呼吸を忘れてしまいそうなほどの集中力を絞り出していた。

 

相対する2機のモビルスーツ。リークが隊長を務めるという地球軍のモビルスーツだが、今まで見てきたザフトや、地球軍の量産型モビルスーツの動きとは別格に鋭く、機敏に動きまわりながら、確かな命中率でこちらを削り取ってくる。

 

各機の対応ならば点での攻撃で回避はしやすいが、相手は2機でまるで一つの生き物のような動きをするのだ。どちらかに集中した途端に片側に食いちぎられかねない。

 

「オラオラオラァ!!オーブでの威勢はどうした!!」

 

オルガの咆哮が轟く。鉄球を避けた先に張り巡らされたカラミティによる面制圧のビーム砲をかいくぐりながらキラはヘルメットのバイザーの中に浮かぶ汗を外へと追いやった。

 

「うぐうう!!くっそーー!!」

 

「キラ!このおお!!」

 

「はっ!あまいね、そんな攻撃」

 

手強いなんてものじゃない。

 

均衡を保っていられるのはアスランとキラで三人を手分けして相手取っているからだ。アスランもアスランで、キラの援護に向かおうとするが、シャニの駆るフォビドゥンによって行く手を遮られていた。汎用性よりも格闘戦、近中距離を想定した武装が豊富なジャスティス相手に、シャニもまた近過ぎず、離れ過ぎずと言った間合いで牽制と攻撃を織り交ぜている。

 

上手い。まるでまだ地球に降りる前のリークやラリーを相手にしているような。まるで相手の掌の上で踊らされているような圧迫感があった。

 

「ちぃいい!!」

 

「上手く躱すもんだな!!クロト!右側から回り込むぞ!」

 

「今度こそぉ!!」

 

手足は破壊してもいい。オルガたちはアズラエルからそうオーダーを貰っている。

 

アズラエル自身も、フリーダムとジャスティス、メビウスライダー隊が抱える部隊の戦力を明確に知る必要もあったしーーー何より、リークが育てた三人の本当の力量を知りたいという欲もあった。

 

故にコクピットは狙わない、リークが模擬戦時に敷いているルールに則った原則の中、三人のパイロットを好きに動かしているのだ。

 

そんなオルガとクロトの連携が冴える。レイダーの頭部に備わる収束砲を避けたキラは、頭上からレイダーの前へと割り込んできたカラミティに目を見開く。

 

カラミティに備わるいくつものビーム砲がフリーダムへ銃口を向けていた。

 

「キラ…!!」

 

フォビドゥンを相手取りながら、その光景を目撃したアスランの中で、さまざまな思いがよぎる。

 

ヘリオポリスのこと。

 

ユニウスセブンのこと。

 

オーブでのこと。

 

そして父ーーラクス。

 

〝自分の心に従いなさい。アスラン〟

 

その声が胸の奥で響いた瞬間、陰っていた視界が弾けたように広がった。

 

「うおぉおお!!」

 

アスランは今までに無いような反応を見せ、距離を詰めようとしていたフォビドゥンへ、背に備わっているファトゥム00を迫っていたフォビドゥンめがけて射出する。

 

「なにぃ!?うわぁああ!!」

 

「シャニ!!」

 

質量兵器とかしたファトゥムの突貫に虚を突かれたシャニは、受け身を取る間も無く宇宙に機体をぐるりと舞いさせることになる。

 

その攻撃に驚いたオルガが気を緩ませたのか、息のあった連携に綻びが生じ、その隙にアスランのジャスティスがフリーダムの前へと躍り出て、クロトのレイダーへビームの閃光を走らせた。

 

「アスラン!!」

 

「大丈夫だ!!蹴散らすぞ!」

 

ファトゥムとドッキングしたジャスティスは、態勢を立て直したフリーダムと共に再び三機の相手へと立ち向かっていく。

 

 

////

 

 

「ああ惜しい!!」

 

その光景の一部始終を見ていたアズラエルは、まるでスポーツ観戦をしている熱狂的なファンのように残念そうにシートの肘掛を叩いた。

 

「相手のモビルスーツもやるようですね」

 

そう答えるバーフォードに、アズラエルも納得したように頷く。その表情には悔しさや憎しみは一切なく、互いに闘う二つの流星を賞賛しているようにも見えた。

 

「ええ、あの3人の連携を2機で凌ぐとは……正直、甘く見ていたようだ」

 

「どうします?アズラエル理事」

 

まぁ手こずるのは想定の範囲内だ。そう言ってアズラエルはシートに座り直すと、興奮して地につけていた両足を組み直しながら、考えるように指先で前髪をいじる。

 

「とにかく仕掛けるしかないでしょう。あちらも黙ってるようには思えませんし」

 

そう言って目を向ける先には、先制攻撃を掻い潜ったアークエンジェルの姿だ。

 

「アークエンジェル接近!」

 

見ればわかりますよ、とアズラエルは苦笑気味に呟く。向こうもこちらの目的を弁えているようだ。こちらの攻撃も、あちらの攻撃も、致命打にはならないが、迎撃しなければならない攻撃に留めている。まるで絵に書いた模擬戦とも言える。

 

「ゴットフリート照準、てぇ!」

 

アークエンジェルの中でナタルが檄を飛ばし、その砲塔から放たれる緑色の極光はドミニオンの脇を綺麗に逸れて通過していく。

 

「ランダム回避運動!バリアント、てぇ!!ミサイル信管、斉射〝サルボー〟!」

 

こちらも呼応するように、わざわざ曲線を描くような軌道を入力した対艦ミサイルを放ち、アークエンジェルは見事にそのミサイルのことごとくを撃ち落としていく。

 

「ちぃい!!」

 

いいようにあしらわれている…!マリューは実弾を使った演習と化した今の戦いを見つめながら、バーフォードの戦局運びの巧さを肌で感じていた。デブリから現れたドミニオンの奇襲を潜り、背後に付こうとしているが、優勢は一向にこちらに向かない。

 

ここぞというタイミングで上手く抜かれ、そして思わぬところから反撃がくる。

 

巧い。その全てが相手を翻弄する。故にマリューも食らいつく。艦船だろうが、戦闘機だろうが、モビルスーツだろうが、巴戦になれば根負けしたほうが勝ち星を失う。

 

「バリアント、照準!!ここで振り切られるな!!ヘルダート、てぇ!!」

 

ナタルもそれを重々承知しているようだ。矢継ぎ早に指示を出して、逃げ果せようとしているドミニオンの背後に何としてもかじり付こうとしている。

 

何としても離れない。必ず一矢をーー来ると分かれど避けられぬサジタリウスの矢を打ち込む!!

 

マリューにとっても、ナタルにとっても、アークエンジェルを動かす全てのクルーにとって、ここが今まで培ったものを吐き出し、自分たちの指針を決める分水嶺となっていた。

 

 

////

 

 

《ザフトが居るって言うんだ!グリフィス1が!マジだったらヤバい!》

 

そう言ってエターナルに通信を入れたディアッカに、バルトフェルドは仕掛けてくる相手のタイミングに顔をしかめる。

 

「ザフトに地球軍…!三つ巴か!」

 

ただでさえ、地球軍の相手にいっぱいだと言うのにーーそれに、この混乱状態の中、的確に自分たちがここにいることを割り出し、追ってきているとなると、考えられる相手は一人しかいない。

 

「エターナルは兎に角発進を急いで下さい。騒いでいたって動けないのでは、お任せするしかありませんわ」

 

「ごもっとも。ダコスタ!」

 

ラクスの言葉に頷きながら、バルトフェルドは丁度エンジンブロックの点検を行なっているエリアへ通信をつなぐ。

 

《わかってますよ!》

 

《急かすもんじゃないですよ!これでもいっぱいいっぱい!!》

 

通信の先では、作業着姿のダコスタと、身の丈ほどある工具を点検口に突っ込みながら作業をするフレイが大声で叫んでいた。

 

 

////

 

 

研ぎ澄ました感覚に従ってメンデルの反対側の港口付近に来たムウと、それに追従してきたイザークは、深淵の宇宙の中で光天を瞬かせながら辺りを索敵していた。

 

「グリフィス1!本当にザフトが来るのか!?」

 

いまだ反応を感知しないことに徐々に懐疑的になってきたイザークは同じく索敵を行うムウのランチャーストライクに通信を投げる。

 

「ああ、間違いない…はっ!来た!!」

 

二時の方向!!二つ!!ボギー〝敵機〟だ!!

 

ムウの言葉にイザークも彼が示した方へと視線を向けると、レーダーに反応がない中で、確かな光がこちらに向かって近づいてきているのが見えた。

 

あの機影、あの光ーーー間違いない。あれはモビルスーツだ。

 

『ストライク!それに、デュエルも…!ジュール様の機体…!!』

 

蒼いゲイツのコクピットで、シホ・ハーネンフースは驚いたように目を見開いた。こちらはNジャマーの影響下の中、戦闘が行われている港からわざわざ反対側まで来たというのに、まるで待ち構えていたかのようにストライクとデュエルがいたのだ。

 

それも、訓練学校時代に多くの恩を与えてくれた人が駆っていたモビルスーツ。なにも思わないはずもなく、無意識に握っている操縦桿に力がこもった。

 

『ほぉ、今度は貴様がそれのパイロットか。ムウ・ラ・フラガ!』

 

怒りに震えるシホの隣で、蝙蝠のような大きな翼を広げるプロヴィデンス・セラフ・ヴィクトリアを操るクルーゼは、自身の存在を敏感に察していたムウの存在に頬を歪める。

 

あの機体に誰が乗っているかは、クルーゼには見えない。だが、確かに感じられる。ラリーほどではないが、あの機体には確実に自分の知る存在が乗り込んでいるのだ。

 

「クルーゼ!ちぃ!例の新型か!!」

 

大きな翼を広げ迫る新型機。

 

ラリーが死ぬ気で挑んでも落とせなかった機体ーーー果たして自分がどうやって戦えるのか。そんな不安を拭い去るかのように、今までイザークの声が響いていたはずの通信回線に、一人の男が割り込んでくる。

 

まるでいつも気軽に話しかけている相手からのように、クルーゼは流星の通信へ割り込んできたのだ。

 

《ムウ・ラ・フラガ。貴様の相手も悪くはないが…果たして務まるかな?このセラフ・ヴィクトリアの相手を!!》

 

大きな翼に見えていたそれがムウの目に鮮明に映った。あれは翼ではない。あれはーーー背中に施された巨大な武器だ。

 

「このぉおお!!」

 

腕に装備された極光のビームブレードを振りかざしながら距離を詰めてくるクルーゼのプロヴィデンス・セラフにムウも覚悟を決めてアグニを構えて咆哮を轟かせた。

 

 

////

 

 

「シャニ!!無事か!?」

 

フリーダムとジャスティスから一度距離を取ったオルガとクロトは、ファトゥムの突撃を受けて宇宙を舞ったシャニを気遣うように態勢を整える。

 

「…まだいけるよ、アイツぅ!」

 

「感情的になるなよ!理詰めでいかねぇとやられるのはこっちだ!!クロト!!」

 

アスランの行為に怒りを覚えているシャニをなだめながら、オルガはクロトヘ指示を出した。ここで感情的になれば、あの高機動性を持つ二機にこちらは対応できなくなることは明白だ。

 

今こそは点ではなく、面で制圧しようとしてるが故に2機の動きを封じられているものの、ここで足並みが乱れれば、即座に突破されることになる。

 

「わかってるよ!!てぇりゃあああ!!」

 

そうはさせまいと、場をかき乱すことを担当するクロトが高初速弾頭を並んでいるフリーダムとジャスティス目掛けて吐き出した。

 

「キラ!」

 

「うん!アスランーーー新しい反応!?上!!」

 

レイダーを相手取ろうとした時だった。キラの高濃度レーザーレーダーが、頭上から迫ってくる新たな機影を捕捉していた。咄嗟にアスランも、それを攻めようとしていたオルガたちも、上から迫ってくる反応に視線を向ける

 

「なにぃ!?」

 

そこに居たのは見たこともないフォルムをした機体だった。一機は暗い群青色に染め上げられた機体であり、メインブースターに牽制用の小型マシンガン、相手の目を奪うフラッシュロケットとビームキャノン、そしてその機体を象徴するかのように、腕には大型のビームブレードを装備した近接戦闘特化型の機体だ。

 

『奇襲にはなるが致し方ない…!貴様らが流星……できると聞いている、いくぞ!』

 

『気を付けろよ、オルレア。メビウスライダー隊のモビルアーマー乗り達。伊達ではないぞ』

 

そう言ってオルレアを諫めるシュープリス……別名、ベリルオーズの機体はフォーミュラマシンを思わせる曲線主体、かつ鋭角・シャープなフォルムと、 特注で作られた複眼のようにカメラアイが集合して列をなしているという独特の頭部を有する。

 

ベースは漆黒のダガー系だが、その武装は凄まじく、中距離用の通常型ライフル、近距離用の突撃型ライフル、高火力のグレネードキャノン、対ミサイル兵装のフレアを装備し、対応力が高い。

 

その2機はこちらの都合など知ったものかと言わんばかりに膠着していたキラとオルガたちのもとへと突っ込んでくる。

 

「新型!?おい、アズラエルのおっさん!」

 

《スカイキーパーよりメビウス隊へ!情報には無い機体だ!作戦は中断!作戦中止!!各機、迎撃に当たれ!》

 

「んなこと言ったって!!」

 

2機からの先制攻撃を躱しながらクロトは突然の横槍に苛立ったように声をくぐもらせる。

 

この戦闘は前哨戦でしかなかった。

 

アズラエルーーひいては、ハルバートン提督たちの思惑とは別に、さまざまな思惑が混ざっては溶け合う世界は大きく動き出そうとしていた。

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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