ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第157話 流星群

 

 

レジスタンスと呼ばれたメビウス小隊。

 

十二機の特殊兵装を搭載したMA、メビウスが隊列を組んで星の大海を進む。目の前にはアークエンジェルとドミニオン。さらにその先には敵味方が入り乱れる戦場が光天を瞬かせながら、その戦場の苛烈さを物語っていた。

 

「ブラックスワン1より各機へ!フォーメーションデルタ。各機、戦闘準備!」

 

隊の先頭を飛ぶ小隊長、ファントムペイン所属の地球軍大尉、カルロス・バーンは、元々第八艦隊の旗艦であるメネラオスに乗艦していた、ワルキューレ隊に所属していたパイロットだ。

 

低軌道会戦にて、隊長を失いながらもムウと共に最後まで戦い切ったワルキューレ隊は、そのままハルバートン提督の元でアズラエルと共に立案した流星プロジェクトに参加。

 

リーク監修の特別訓練と、選抜された各隊員に合わせてセッティングされたメビウスを受領し、今この場にいる。

 

《ブラックスワン2、準備よし!》

 

《ブラックスワン3、準備よし!》

 

そう言って返事をする隊員たちも、ハルバートン提督やアズラエルが選抜した選りすぐりのエースパイロットたちであり、機体はメビウス・インターセプターを土台にした標準機でありながら、武装面は隊員それぞれの特性に合わせてチューンアップされている。

 

カルロスの機体も、標準的なリニアキャノンとバルカン砲に加えて、ミサイルポッドや翼端にビーム砲が二門備わる武装となっている。

 

コクピットもストライクダガー用に作られたモジュールを採用しており、居住性が悪かったメビウスの内装から一新。周囲を見渡せる高感度カメラから送られる映像がモニターに写り、索敵性能も向上していた。

 

「よぉし。全機、これより戦場へ突入する!ビビるな!モビルアーマーの特性を最大限に活かして戦え!」

 

そう言って指示を出したカルロスに、各隊員が了解と答えながらアークエンジェルとドミニオンの頭上を通過していく。

 

『隊長!前方よりメビウス小隊が!』

 

『なにぃ!?たかがメビウスでモビルスーツに挑んでくるか!』

 

目の前にいるダガー隊に対して、流星隊は即座に散会。モビルスーツにはないモビルアーマー独自の加速性と旋回性を用いて、ダガー隊を撹乱していく。

 

『しかし動きが!ぐぁっ!?』

 

通常のメビウスの倍以上のレスポンスで飛び回る機影に戸惑っている間に、さっそく一機のダガーのコクピットが赤と白の極光に打ち抜かれ、宇宙のチリへと帰っていく。

 

「普通のメビウスと思うなよ?こちとら流星仕様だ!」

 

ダガー隊を真っ先に打ち抜いたのは、流星隊の中でも最年少を行く三機の小隊の一機。

 

伊達眼鏡をかけた青年は、ヘルメットの中で口笛を吹きながら機体をくるりと旋回させる。

 

その機体は緑と赤を基調にし、翼端には荷電量効率を最適化したアグニの小型版二門を装備している。

 

「スウェン、無理はしないようにね」

 

その隣を飛ぶのは、空色と白で塗装され、小型化された対艦斬刀であるシュベルトゲベールを装備した機体。幼い歳に似合わない派手めの化粧をした少女はヘルメット越しに先頭を飛ぶメビウスへ意識を向けた。

 

その先頭の機体は、黒と灰色を基調にした機体であり、近遠距離をバランスよく対応できるリニアキャノンとバルカン砲、ビームサーベルを翼端に装備し、機体下部に装備したワイヤーアンカーを撃破したダガーに突き刺すと、遠心力を使ったスイングバイで旋回し、次なる目標へ狙いを定めた。

 

「了解。ミューディー、シャムス、訓練通りに。編隊は崩すな」

 

「了解了解!」

 

ブラックスワン6、7、8に当たるスウェン・カル・バヤン、シャムス・コーザ、ミューディー・ホルクロフト。

 

三人は孤児であり、ブルーコスモスの施設にて電極によるバイオフィードバックを用いた洗脳教育や、ある程度の投薬こそ受けてはいるが、原作では、より強力な薬物投与や強化手術を施されることになるブーステッドマン以前に養成された兵士だ。

 

基本的にその身体は普通のナチュラルとほとんど差は無いが、特殊訓練で培ったその実力は弱冠16歳という年齢でありながらも、ナチュラルの一般兵はもちろんのこと、ザフトの一般的なコーディネイターパイロットすら軽く凌ぐ高い戦闘能力を誇る。

 

投薬を辞め、リークによる教導により、潜在的な戦闘能力を開花させたオルガたちの実績から、アズラエルの提案により能力の高いスウェン達が抜擢され、第八艦隊のパイロットと共にリーク監修の流星プロジェクトに参加。

 

今のコールサインを手に入れ、戦列に加わることになったのだ。

 

 

////

 

 

「あの部隊は…」

 

目の前の戦場でこちらの援護に加わっているメビウスの編隊に呆気にとられるマリューのもとへ、ドミニオンとアークエンジェルに向けた広域通信が届いた。眼前のモニターに映るのは、低軌道会戦以来ぶりに顔を見る艦長だ。

 

《こちら第八艦隊、モントゴメリ艦長、トン・コープマン大佐だ》

 

「コープマン大佐!」

 

映像に出たコープマンの姿に、マリューもナタルも敬礼を打つ。バーフォードにとっては月面基地で別れた以来だ。

 

《久しいな、ラミアス艦長、バジルール中尉。無事で何よりだ》

 

「コープマン大佐、彼らは一体」

 

マリューの言葉に、コープマンは自身のドレイク級であるモントゴメリと、メビウス輸送艦隊、護衛艦の指揮を取りながら答えた。

 

《彼らは、我々と目的を共にしてくれる兵士たちだよ。主にアズラエル理事が推薦したパイロットと、第八艦隊からのエースパイロットで構成されているがね》

 

コープマンの言葉を聴きながら、アズラエルが手元に表示した資料は、ハリーが設計局で提言していた軍事開発に関するものだ。

 

「モビルアーマーでの格闘戦術案」、「メビウスの強化プラン案」、果ては「局地戦対応型のマルチタイプメビウスの開発案」。

 

安価なメビウスというモビルアーマーのレスポンスを追求した彼女の論文を目にしたアズラエルは、そこに記されていた文言にとても興味をそそられた。

 

メビウスは、メビウス・ゼロのデチューン機?とんでもない。アズラエルにとって、メビウスは確かに乗り手を選ぶゼロよりも進歩した機体であった。

 

グリマルディ戦線においてメビウス・ゼロが大多数損失した事から、急遽大量生産が行われたのがメビウスだ。その機体コンセプトもモビルスーツを参考にしており、両翼のフレキシブルスラスターは自由度が高く、機動性に関しても扱い方を考えればモビルスーツに匹敵する代物だ。

 

故に、メビウスがデチューンと言われる所以としては、その低コストさにあった。機体コスト自体が低いため、そこに更なる追及をしようとすること自体に関心がいかなかったことが、メビウスの敗因の一つだ。

 

さらに拍車をかけたのは、フレキシブルスラスターを扱い切れるOSが地球軍になかったことにある。自由度が高いはずのスラスターに制限をかけ、単一方向にしか使えないように組み上げていたシステムのせいで、メビウスの強みが消えていたのだ。

 

「月の訓練施設で調整はしていたんですけど、いやはや、サザーランドたちに気付かれないように遠回りをしてしまいましたねぇ。遅れて申し訳ない」

 

そう抑揚の良い声でアズラエルは微笑む。

 

目下の課題であったOSの改善は、リークの戦闘データや、ラリーが乗っていたメビウス・インターセプターのデータから解決策が見出されており、今戦場を飛ぶ流星隊のメビウスには、フレキシブルスラスターを自在に制御する補助システムが組み込まれた専用OSが搭載されていて、戦闘機動を行う際は、半自動的に補助が入ることにより、モビルスーツ以上の機動力を見せたラリーやリークの運動性を再現することができているのだ。

 

ただし、操作性の難易度は上がることになったため、アズラエルやハルバートンが見繕ったエースたちでもモノにするには多くの時間を費やすことになったが、それでも多くの実のなる実績を積むことはできた。

 

そして、ブルーコスモスでもアズラエルに反対する者たちばかりでない。コープマンの隣にいたスーツ姿の男性が、映像通信へと身を映すように乗り出してきた。

 

《大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ》

 

その人物を見て、アークエンジェルとドミニオンのクルーの誰もが目を見開く。

 

「アルスター事務次官…」

 

彼もまた、低軌道会戦にてモントゴメリから降りた人物であり、コーディネーターであるキラを拘束しようと画策し、ラクスを返還したバーフォードたちへ強い反感を抱いていたブルーコスモスのメンバーの一人であった。

 

だが、今映像に映る彼の顔からは侮蔑や怒り、恨みを抱いたような感情は感じられず、かわりに罪悪感や深い悲しみに満ちたような目をして、マリューやバーフォードたちへ一礼した。

 

《アラスカ、パナマのことは私も存じている。ブルーコスモスの一人…いや、あの凶行を止められなかった愚かな政治家の一人として、君たちに謝罪をしたい。そしてキラ・ヤマトくんにもーー娘にも、な》

 

《詳しい話はあとだ。とにかく目の前の敵を蹴散らすぞ!全艦、目標は前方の地球軍艦!攻撃始め!》

 

話を一旦区切ったコープマンの声に頷きながら、マリューたちも大勢が整った艦を敵へと向かわせる。今は何より、この混乱した戦場を打開することが先決であった。

 

 

////

 

 

「メビウス!?こんなにたくさん…増援か!」

 

二機の黄色部隊からの猛攻を凌ぎつつ、トールはメビウス・ハイクロスのエンジンを唸らせながら辺りに現れて、ダガーを追い立てるメビウスを見ながら呟く。

 

接近してきたオレルアから放たれるビームマシンガンを躱して、両翼のフレキシブルスラスターをラリー譲りの操縦で自在にコントロールし、機体を傾かせる。

 

突如としてこちらに砲塔を向けたメビウスを見て、オレルアの女性パイロットは戦慄した。モビルアーマーにこんな動きができるというのか…!?

 

放たれたビーム砲はオレルアの肩装甲を射抜き、マシンガンが備わる腕の肩フレームごと溶解させる。煙を上げて後退したオレルアに代わって、次はシュープリスがトールの元へと突貫してきた。

 

《聞こえるか、流星のパイロットよ…!!》

 

「敵機からの通信!?」

 

何度か交差を繰り返す最中、回線からシュープリスのパイロットであろう男性からの通信が入ったことに、トールは驚愕した表情を浮かべたが、通信先の相手はそんなことお構いなしに言葉を続ける。

 

《強いものだな…さすが伝説、伊達ではない…!!》

 

「だったら諦めて引き上げろよ…!くっそ…!」

 

正確な射撃だ。近中距離を想定した二つのアサルトライフルから放たれる弾丸の軌跡を、トールはバレルロールしながら躱すが、その隙間はまさに紙一重。集中力が途切れれば蜂の巣にされる。

 

ギリギリを通すような防衛をした後に、負けずとトールも打ち返すが、シュープリスはまるで風に乗るかのようにフワリと浮かび上がって、トールの放ったビームの閃光を軽やかに避けた。

 

《そうはいかない。私は倒さなければならない。倒して、帰るのだ。私を待つ者の場所へ!》

 

「くぅぅう!このぉおお!」

 

ならば、と翼端のビームサーベルを起動させてモビルアーマー独特の加速力で一気に距離を詰めるが、これもまた円を描くような鮮やかな軌跡で避けられる。

 

《甘い!その程度の動きでは!》

 

右へ、左へ、上へ、下へ。シュープリスはまるでトールの動きの全てを知っているように動き回る。その動きを見て、トールは嫌に嫌悪感に似た感情を抱いた。

 

《固いな。まるで凝り固まった油のようだ…!》

 

「ちぃいい!!」

 

聞こえてくる通信の声もやけに感に触る。トールはメビウスを振り回しながら、なんとかシュープリスに食らいつき、ついにその胴体をターゲットアイコンに捉えた。

 

その時だった。

 

《ーーもっとスロットルは慎重に、なおかつ大胆に扱え。天使のように優しく、悪魔のように鋭くだ》

 

まるで一陣の風が、コクピットに吹き抜けてきたような感覚をトールは味わった。コクピットのバブルキャノピーが割れて、計器の全てが壊れた中を飛ぶーーーあの時のような感覚を。

 

「くっ…!?」

 

その感覚とともにやってきたシュープリスからの攻撃。なんてことだ、とトールは自身の浅はかさに舌打ちをする。アサルトライフルの弾が掠めたファストパックをパージして旋回しながら、まるで縄張り争いをする獣のように互いを牽制して行く二機。

 

《シンファクシより黄色部隊へ》

 

ふと、シュープリスの機体へ母艦であるシンファクシから通信が入る。一文を聞いたシュープリスは、すぐさまトールとの戦闘機動をやめて、片腕を破損したオルレアの元へと急いだ。

 

『オルレア!一時撤退する!信号弾!』

 

シュープリスの背部と、シンファクシから放たれた色鮮やかな信号弾は、周辺のダガー隊へ撤退の合図を送る。

 

『状況は既にこちらに不利だ。ダガー隊の消耗もある。何より後から出てきた部隊が厄介すぎる。それに、我々の機体のパワーもそろそろ危険だ』

 

シュープリスの通信に、オルレアのパイロットは不承不承ながらも了承し、シュープリスと共に撤退を開始するのだった。

 

 

 

////

 

 

「引いていく…ラリーさんは!?」

 

鮮やかな引き際だ。シンファクシと共々撤退していく黄色部隊を、疲れた体をコクピットシートに埋めながら見送るキラは、思い出したかのように辺りを見渡す。

 

メンデルの外周部付近。そこでは、ダガー隊との戦闘が終わった各機から見守られるような形で、二つの光が交差し、閃光を瞬かせていた、

 

「でやぁああああ!!」

 

《はぁあああああ!!》

 

通信機越しに、ラリーとクルーゼの咆哮が宇宙に響き渡る。ヴィクトリアユニットから放たれる幾十の弾幕を掻い潜ってビームサーベルを叩きつけるホワイトグリントに、クルーゼは笑みを浮かべながら、他連装ビームブレードを翻して対峙する。

 

《邪魔は無くなったな!!…はぁ!!ラリー!!君のために作った装備だ!堪能したまえ!!》

 

数度、シールドとビームブレード、サーベルを用いた斬り合いを繰り返し、距離を置くと容赦無く弾幕を叩きつける。そんなクルーゼの猛攻を驚異的な機動力で避けながら、ラリーもプロヴィデンス・セラフ・ヴィクトリアにシィイイと歯を剥き出し、殺意を込めた目つきで睨みつけながら叫ぶ。

 

「バカスカと打ち込みやがって!!嬉しくねぇーんだよこのやろぉおおお!!」

 

そのやり取りを何度も繰り返しながら円弧を描いて激突する二機を見つめーーーオーブ軍も地球軍もザフト軍も、はっきり言って引いていた。

 

「なぁ、兄貴。あれどうすんの?」

 

「手を出したらどうなると思う?」

 

クロトからの質問に、リークはあえて質問で返した。クロトはすこし考えてから、すぐに考えるのをやめた。

 

「俺はパス。めんどくせぇ」

 

「すり身になるのはゴメンだ」

 

オルガもシャニも同じような意見で、興味なさげにカラミティとフォビドゥンをリベリオンの周囲へと移動させる。

 

途中から参加してきた流星隊も、その異様な戦闘風景に呆気に取られた様子で、シホのゲイツを支えるイザークやディアッカも、戦闘を終えたトールやニコルも、PJやハインズ、アークエンジェルやドミニオンの艦長たちも、それを眺めるアズラエルもーーー最早その場にいる誰もが、その戦闘に口出しできずにいた。

 

「アスラン、僕らも一旦退こう」

 

モビルスーツが出してはいけない凄まじい音をたててぶつかり合う二機を遠い目で見つめながら、キラはフリーダムを反転させてコロニーメンデルの港へと撤退していく。

 

そんなキラの反応に、僚機であるアスランは驚いたように目を剥いた。

 

「お、おい!キラ!いいのか!?」

 

「うん、落ち着いたら戻ってくると思うし」

 

そんな、まるでテンションが上がりすぎて言うことを聞かなくなった飼い犬に対する対応でいいのか…とアスランが半ば呆れた様子でキラを見つめていると、リークが通信機越しに手を叩いて呆けるメンバーに声をかけた。

 

「はぁい!撤退だよ!撤退!あの部隊、まだ諦めて無さそうだ。それに僕らにも積もる話がある」

 

「うぃーす」とそれぞれが艦へと戻っていく中、トールは飛び去っていった黄色部隊の方向を少し見つめた。

 

ふと先程の戦闘の不快感を思い返す。

 

あまりにも似ていたのだ。

 

あまりにもーーー似すぎていたのだ。

 

自分に託してくれた、あの人の戦い方に。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「黄色部隊の補給はあと1時間もあれば完了します。どうしますか?」

 

そう問いかけるブルーコスモス所属の研究員である士官に、シンファクシの艦長であるホアキン中佐はにべもなく答える。

 

「まもなくしてボアズに向けた進行部隊が出撃する。我々はその護衛にとサザーランド大佐から要請を受けている」

 

「ーーよろしいのですか?あの船は」

 

「あとから出てきたメビウス隊。ハルバートンめ、どうやら本格的に我々へ反旗を翻してきたらしい。サザーランド大佐も存じておられる」

 

サザーランドが兼ねてから懸念していたことが表面化してきたということだろう。

 

宇宙を主戦場とする第八艦隊と、地上の地球軍本部との折り合いは兼ねてから悪かったものだし、アークエンジェルが地球に降りてからというもの、第八艦隊の動きはブルーコスモス派であるこちら側にとっては不明瞭なものが多かった。

 

彼らが離反し、勢力図のバランスが変わることを懸念していたが、Nジャマーキャンセラーが手に入った以上、内部勢力図にこだわる必要は無くなったのだ。

 

核さえ使えるようになれば、モビルスーツを手に入れたこちらにはいくらでもやりようがある。あとはどれだけ最短にコーディネーターーーひいてはプラントを根絶やしにできるかが問題だ。

 

「ここは無駄に手をかけずに、我々の真なる目的のためへ行動するべしとのことだ」

 

そう答えるホアキンは、艦内の研究室ブロックへ到達する。一室に入った彼は、椅子に縛られたパイロットの様子を見つめた。

 

「調整はどうか?」

 

「ハッ!しかし、脳波に変動が見られます。それに戦闘中に敵機へ信号を出すなんて…」

 

「構わんよ。何事も最初には不確定要素があるものだ」

 

そうやんわりと答えたホアキンは、椅子に座らされている人物ーーーベリルオーズの前へと歩み寄る。片腕、片足を義手義足になっている彼は、投薬により色素が変化したオッドアイを虚に濁らせながら、まるで微睡の中にいるような表情でホアキンを見つめる。

 

「御加減は如何かな?ベリルオーズ」

 

「お、俺は…俺は…」

 

そう震える口で言う彼は、なにかを思い出そうとするように、戦場で見つけた白とオレンジのメビウスのことを示した。

 

「あの戦闘機に見覚えがあるのか…?」

 

「いや、何もありはしない。君には記憶も、存在する心も無いのだからね」

 

そう答えるホアキンに、ベリルオーズはひどく焦燥した顔で首を横に振った。覚えているーー思い出したのか、それとも思ったのかはわからないが、確かにベリルオーズは覚えていた。

 

「だが、俺は…俺は帰らなければならない…そんな場所があったような…気がする。だからーー」

 

「そうか、わかったよ。とにかく今は休め」

 

そうホアキンがベリルオーズの肩に手を置いて優しく微笑む。それに安心したのか、脱力したベリルオーズ。ホアキンは立ち上がり、後ろに控えていた研究者に小声で言葉を紡ぐ。

 

「ーー記憶のリセットを行え」

 

その言葉に頷いた彼らは、電極が仕込まれたヘッドギアをベリルオーズに取り付け、苦痛を堪えるための猿轡を口に嵌める。

 

エクステンデッド。

 

ブルーコスモスのメンバーであるロード・ジブリールによってもたらされた、ブーステッドマンの発展型である強化人間の試作第一号であるベリルオーズ。

 

ホアキンが部屋から出た瞬間、室内から強烈な叫び声が響き渡る。まだ調整用のゆりかごすらない状況。それに彼は幼少期からの訓練された者ではない。しかし、アズラエルに従う前例があった。やりようはいくらでもあろう。

 

ソロモンで拾ったモノを少しでも使えるようにするために。

 

「君にはまだまだ活躍してもらわなければならないのだよ。ーー元、流星のパイロットくん?」

 

そう言って資料を冷めた目で見つめるホアキン。その資料にはーーーーアイザック・ボルドマンという過去の死人の名が刻まれていた。

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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