Meteor -ミーティア
意味「流星」
第161話 集う勇者たち
「VOB?」
エターナルの格納庫に吊るされるように設置された〝それ〟を見上げたラリーは、隣で手拭で油を拭き取るハリーへそう問いかけた。
「そう、正確にはヴァンガード・オーバー・ブースターね。強襲用追加推進器と言ってもいいわ」
まだホワイトグリントがプラントから地球に来たとき。モビルアーマーの外装を身につけていた際に、地球とプラント間を高速移動するために用いられた補助ブースターもこの理論と同じもので作られていた。
改めて見上げると、ブースターを最大限稼働させるためのプロペラントタンクを4本搭載し、それから伸びる推進剤の供給パイプや配管が剥き出しの状態で敷き詰められ、ホワイトグリントと接続するためのユニットも急拵えで準備されている。
つまりアレだ。剥き出しのブースターとエンジンブロックと言っても差し支えがない。
「要は一回限りの使い捨て装備ってやつね」
「よく再現できたな」
「ハルバートン提督とクラインさんが資材をありったけ用意してくれたからね」
そう目の下にたっぷりのクマを抱えて笑うハリー。オルレアやクルーゼとの戦闘の後、ホワイトグリントの回収から整備、調整。フリーダム、ジャスティスの整備と調整、G兵器の修理と整備と調整。そして必要な機材の整備、調整エトセトラ、エトセトラ…。
ハルバートン提督や各部隊からの要望に加え、資材提供や必要物資の調達に尽力してくれたアズラエル理事に笑顔で馬車馬のように三日三晩働かされたハリーたち技師団は、文字通りすべてを出し尽くしたように真っ白に燃え尽きているように見えた。
奥では、死んだ目をするマードックやフレイが、こちらに気が付いたのかピースサインを無表情で送ってくれていた。
「基本的なメビウスの宇宙用スラスターと、艦船の離脱用ブースターで構成されているわ。ずばり、推進力だけでいえば時速2000キロを優に超える代物よ」
「モビルスーツで時速2000キロかよ…」
「ちなみにトールのメビウスにも同規格の物を取り付ける予定よ?」
なにさも当然のように言ってるの?この子怖い。
説明を聞きにきていたイザークたちは絶句しており、当事者となってしまったトールは何も言わないまま遠い目をしていた。強くなったなトール。あとで祝杯を上げようとラリーは心に固く誓った。
そうしてから、ハリーはVOBからモビルスーツハンガーに収納されたホワイトグリントを見上げた。
機体を覆い隠していた多重装甲の外装は、そのほとんどがクルーゼのセラフとの戦闘で消失し、残った装甲も逆に機動性を妨げる要因となるため、全てラリーの手によってパージされている。
「ホワイトグリントには、もともとビームランチャーや副武装も付いていたみたいだけど、ラリーとクルーゼの戦闘の衝撃でほとんど使い物にならなくなってるわ」
そう言って倉庫の奥を見つめると、ぐしゃぐしゃになって部品取りをされ尽くしたホワイトグリントの〝元パーツ〟たちが瓦礫のように山積みされている。おそらく、汎用性を求めた結果、搭載された武装だろうが、そのほぼ全てが活躍することもなく、セラフのヴィクトリアユニットによる攻撃でひしゃげ、使い物にならなくなっていた。
とは言うものの、とハリーは咳払いをして説明を続けると。
「ラリーは近接戦が得意だから、ビームサーベルと取り回しの良いビームカービンライフル、そして小型のシールドを装備させてる」
腰にマウントされたビームサーベルは、フリーダムやジャスティスと同系列品で、ビームカービンライフルはホワイトグリントの武装の中で唯一生き残っていた小回りの効く代物だ。シールドもフリーダムなどの機体と比べると最低限なサイズ感であるが、高いビームコーティング処置が施されている。
一眼で見る限り、瞬間的ではあるがフリーダムを上回る圧倒的な機動力とジャスティスと同等の格闘性能を持つ機体だ。
多重装甲を身に纏っていた時も相当な速度を有していたが、装甲がパージされたことで覆い隠されてきたスラスターが更に追加されている。暫定的に作成したカタログスペックに虚な目を向けるハリーは、簡潔に注意点をラリーに伝える。
「基本的なスペックは今までと変わりはないでしょうけど、外装が完全に外れた以上、速力は今までの三割増しと覚悟して乗ってね」
「了解した」
ラリーのホワイトグリントを説明し終えると、エターナルの一角に設置されたメビウスの説明へと切り替わる。オレルアとの戦闘でオプションユニットが破壊されたメビウス・ハイクロスであったが、その破損したパーツは別の物へとすげ変わっていた。
「メビウスは破損したハイクロスユニットを改修、加えてVOBとモビルスーツ懸架用のハンドルをつけてるわ。側面に1機ずつ、下側に1機、最大3機まで搭載可能よ。目的地に到着し次第、パージするように設定はされてるわ」
横に膨れるように増築されたブースターユニット。配線や配管が剥き出しの機体の横には、モビルスーツ用のハンドルと片足を乗せれるフラットベースが取り付けられている。
今までは機体下部の武装を外して、専用アームでモビルスーツを固定させていたが、やり方としてはこちらのほうがスマートに見えた。
「まさに合体ってやつだな」
「懸架よ、け・ん・か!」
まったくもう、と言って、ハリーは説明用に操作していた端末を指先で操り、新たなメビウスの機体説明を続ける。
「パージ後の武装面もアグニとビームサーベル、ファストパックに増槽と申し分ないものは詰め込んだつもり。さしずめ、ハイブラスト…最終決戦仕様ね」
ただでさえハリネズミだったメビウス・ハイクロスの武装を強化した上に、長距離巡航用のブースターとモビルスーツを3機を運搬できる能力を与えた代物。
これは最早モビルアーマーと言えるのだろうか?と機体資料を眺めていたイザークたちは頭にクエスチョンマークを浮かべていたが、大丈夫です、ハリー技師がモビルアーマーといえばモビルアーマーなのでと、ハリーと入れ替わるように出てきたフレイが笑顔でそう呟く。
「少佐のストライクも、破損した箇所と脚部をアストレイ・タイプRのものと取り替えてあります。それと面白いものも」
クルーゼとの戦闘で破損した脚部にアストレイ・タイプRの部品を流用した姿。その背部にはグリマルディ戦線からムウと馴染みのある武装が施されたストライカーユニットが装備されている。
「へぇ、ガンバレルストライカーね。提督も粋なことをしてくれるじゃないの」
メビウス・ゼロと同じく有線式ガンバレルを4基装備しているストライカーユニットだ。
パイロットが搭乗することにより独立したMAへの変形機構を持つが、今回は装着後はデッドウェイトとなる為、機首部は切り離されて装備されている。
グリマルディ戦線に参戦したメビウス・ゼロ部隊唯一の生き残り、ムウ・ラ・フラガ専用装備として開発され、ハルバートン提督により裏ルートで入手したユニットを、物資と共に運び込んできたらしい。
「余っているメビウスには残りのVOBを取り付けて、他隊のモビルスーツ運搬用に運用します。操縦権はモビルスーツに持たせますので、目的地に到着したら任意でパージをして下さい」
エターナル周辺では、余剰品で組み上げた簡易的なモビルスーツ2機を搬送できる使い捨てVOBが組み立てられる分だけ用意されており、これから先に展開される作戦に向けて各自が準備に取り掛かっていた。
「私たちの…裏方で出来る仕事は最善を尽くしたわ。あとは、貴方達パイロットに任せます」
そう言ってハリーたちを含める作業員たちは疲れた体の身嗜みを整えて、集まったパイロットたちへ向き直った。先頭に立つ、ハリーとフレイが、不安な瞳を伏せ毅然とした面持ちでラリーたちパイロットを見つめる。
「共に戦場で戦うことができない私たちですが、あえて言いますーーー生きてください。生きて、必ず帰ってきて」
全員がパイロットたちの帰還を願っている。作業員たちが敬礼を打ってその願いを、思いを伝える。ハンガーは少しの静寂に包まれた。
「当然だ」
そう答えたのは、赤いパイロットスーツに着替えたイザークだった。当たり前だと言わんばかりに答えたイザークに、ディアッカやニコルたちも頷く。
「やってやろうぜ!」
「世界を終わらせてたまるかってんだ!」
その言葉に呼応するように、ザフトも、地球軍のパイロットも、同じ思いであると声を揃えた。生き残るーー生きて、この戦いを、このくだらない終末戦争を終わらせよう。
その光景こそが、コーディネーターやナチュラルといった楔を取り払い、互いにやれることに全力を尽くす彼らの姿こそが、ラクスたちが望む〝明日〟そのものだ。
「行こう、みんなで。僕たちが望む明日のために」
キラの言葉に、リークやオルガたち、その場にいる全員が頷く。
守りたい人たちのため。
守りたい世界のためにーー。
「よし!これよりブリーフィングを開始する!!」
////
各員、傾聴。
第八艦隊司令官のデュエイン・ハルバートンだ。これより、我々のミッションの内容を説明する。
世界は、今や窮地に立っている。地球軍が核を持ち出したことで、この戦争は全面的な終局戦争へと転がり落ちることになるだろう。
我々は、その過ちをなんとしても阻止しなければならない。
ミッションは三段構えだ。
まず第一段階は、メビウスライダー隊とメビウス隊が先行してボアズへと進行。後衛にはエターナルが随行する。進行する部隊は地球軍の核保有部隊を迎撃し、これを撃滅する。
プラントへ及ぶ核の被害を何としても食い止める。再びプラントが核の炎に焼かれることになったら、我々はいよいよもって歯止めが効かなくなるだろう。
そして、第二段階は地球軍艦隊の制圧だ。こちらは第八艦隊とザフト有志艦隊の共同戦線を張る。アークエンジェル、ドミニオン、クサナギとヒメラギ、モントゴメリ旗艦の護衛艦隊によって編成された先方艦隊、そしてメネラオスを旗艦とした第八艦隊も作戦に加わる。
第三段階はザフト軍との停戦への呼びかけだ。シーゲル・クライン、オーブ首相のウズミ・ナラ・アスハ、そして私の三名でプラントへ乗り込み、直接的に交渉のテーブルを作る。あとは向こうがそれに乗るかどうかだ。
我々がプラントへ乗り込むには、地球軍を止める必要がある。呼びかけはするが、応じるとは考えづらい。大規模な戦闘になることが予想される。
各員。
ここまでよく我々と共に歩んでくれた。
第八艦隊の司令官として…いや、ひとりの人間として、諸君らの心に礼を言わせてほしい。
我々の信条は「生き残る。生きて使命を果たす」ことにある。生きることを、生き残ることをどうか諦めないでほしい。
たとえ己が使命に殉じることになったとしてもだ。ここにいる全員が共に、この戦争を終わらせるために。
メビウスライダー隊。
諸君らの働きに大きな力が掛かっている。君たちがこの最悪な状況を打開するための切り札となろう。
頼んだぞ、メビウスライダー隊。
全艦、これよりオペレーション「ミーティア」を始動!
出撃せよ!!
////
《私たちは道を踏み違えた場所を歩いています。しかし、今ならまだ引き返せます。今ならまだ、間に合います》
ラクスの清らかな声が、深淵の宇宙に響きわたる。音が無いはずの宇宙でも、その声は水を打ったように響き、その場にいる誰の心にも届くようだった。
《その道を終わらせないため、核を、例え一つでもプラントに落としてはなりません》
血のバレンタイン。エイプリルフールクライシス。人は、多くの血を流した。流しすぎて、もう歯止めが効かなくなりつつある。
そこに、再び核の火が灯ったらーー。
《討たれる謂れ無き人々の上に、その光の刃が突き刺されば、それはまた果てない涙と憎しみを呼ぶでしょう》
終わりのない戦いが始まる。互いを認められず。自己を保てずに。憎しみと種族意識に囚われて、人はこの小さな檻の中で破滅的な最後を迎えるかもしれない。
《私たちはそれを止めるために、ここに集い、剣を手にして立ち上がりました》
ここに集うは、破滅から世界を救うために集った勇者たち。
聖剣も、女神の加護もない。
しかし、ここにいる全員は、紛れもなく勇者達だった。
「進路クリア!各部隊、発進どうぞ!どうかご無事で!」
エターナルのデッキの上で、M1アストレイ隊に接続を補助してもらったホワイトグリントは、大型のVOBを背負って緩やかにエターナルを離れていく。
「ライトニング1、ラリー・レイレナード、ホワイトグリント、出るぞ!」
「ライトニング2、キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
「ライトニング3、トール・ケーニヒ、メビウス・ハイブラスト、発艦します!」
「ライトニング4、アスラン・ザラ、ジャスティス、出る!」
そのホワイトグリントに続いて、キラやトール、アスランがエターナルを飛び立っていく。
その後方では、アークエンジェルとドミニオンが肩を並べながら、モビルスーツの発艦ハッチを開いていた。
「グリフィス隊、ムウ・ラ・フラガ、ガンバレルストライク、出るぞ!」
ムウのストライクに続いて、アサギたちのアストレイ・タイプRも追随して出撃する。
「ベルモンド大尉。貴方には金をかけてますので、死んだら許しませんからね?」
「了解です、必ず戻ります。アズラエル理事」
そう答えるリークに、ドミニオンのブリッジにいるアズラエルは小さく微笑む。
「メビウスリーダーよりスカイキーパーへ、これより発艦準備に入る」
《了解した、メビウス隊は機器のチェックを実施してくれ》
「メビウスリーダーより各機へ!僕らの任務はプラントへ一発たりとも核を降らせないことだ!邪魔をする敵は容赦なく撃滅するぞ!」
「了解!」と、担当するモビルスーツへ乗り込むオルガたちが返事をする。その言葉に呼応するように、AWACSを担当するニックから通信が帰ってきた。
《スカイキーパーよりメビウス隊へ!進路クリアー、メビウス隊、発進!どうぞ!》
「では、行こうか。メビウスリーダー、リーク・ベルモンド、リベリオン、発艦します!!」
「オルガ・サブナック、メビウス1、カラミティ、おらぁ!!行くぜぇ!!」
「クロト・ブエル、メビウス2、レイダー、発進!とりゃああああ!!」
「シャニ・アンドラス、メビウス3、フォビドゥン、出るよ」
アズラエルが育て、アズラエルが手に入れた流星が、ドミニオンから飛び立っていく。
「ガルーダ隊、イザーク・ジュール、デュエル、出るぞ!」
オーブ艦であるヒメラギのハッチからも、イザークのデュエルが射出され、続くようにアストレイ隊も発進していく。
「ガルーダ2、ディアッカ・エルスマン、バスター発進する!」
「ガルーダ3、ニコル・アマルフィ、ブリッツ・アサルトシフト、行きます!」
「アンタレス隊、パトリック・J・ホーク、アストレイ、出るぞ!」
出撃したライトニング、メビウス、グリフィス、ガルーダ、アンタレスの部隊は、それぞれが所定のVOBに近づき、M1アストレイ隊は上下に分かれて簡易VOBへ乗り込み、システムを接続していく。
イザークたちは、トールのメビウスへと近づき、側面に設けられたハンドルを掴み、ブリッツは機体下部の固定ユニットへ接続された。
「ミーティア、リフトオフ!」
「ドッキングシークエンス、システムオールグリーン、エンジンスタート、ゴー!」
分離したミーティアは、母艦であるエターナルによって運用される、ジャスティスやフリーダム専用のアームドモジュールだ。
ミーティアは現行MSの稼働時間・飛行性能・機動力・火力を向上させる武装プラットフォームであり、その基本戦術は大火力によって複数敵を一気に殲滅するというものだ。
戦艦数隻分の火力を有し、高推力エンジンの搭載によって戦艦並の出力と戦闘機並の機動性は得ており、今回の作戦で要となるフリーダムとジャスティスに打ってつけの追加武装であった。
《平和を叫びながら、その手に銃を取る。それもまた悪しき選択なのかも知れません》
ラクスは悲しげに瞳を潤ませる。きっと、全てが正しくはない。間違いだらけの道なのだろう。
けれどーーそれでも。
《でもどうか今、この果てない争いの連鎖を、憎しみの連鎖を、断ち切る力を!》
ーーーメビウスライダー隊、出撃!!
挿入歌
Meteor -ミーティア- - T.M.Revolution
キャラデザイン
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他キャラも見たい
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キャラは脳内イメージするので不要