ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第15話 エースの真髄(中)

メビウスライダー隊が、G兵器2機を相手取っている間に、ストライクに乗るキラも苛烈な戦いを繰り広げていた。

 

「チィ…ちょこまかと…!逃げの一手かよ!」

 

デュエルが放つビームライフルの閃光を、エールストライカーの出力を駆使して避けるが、追い詰められている事実に変わりはない。

 

「逃げ回っていれば…けど!!」

 

キラは遠くで戦っているメビウスライダー隊の動きを見た。

 

彼らはモビルアーマーで、モビルスーツそれも新兵器であるG兵器から逃げ回るどころか、ほぼ互角に渡り合っている。

 

その光景が、無意識にキラの心を鼓舞した。

 

今、アークエンジェルを、仲間を、友達を守れるのは自分しかいないんだ…!デュエルの猛攻を避け、キラも負けじとトリガーを引く。

 

「そんな戦い方で!!」

 

しかし、おぼつかない照準でやられる敵ではない。デュエルは鮮やかに攻撃を避けていく。明らかに消耗させられている…しかし、戦いに必死なキラには、その戦略を理解することはできなかった。

 

「くそ!くそ!ハッ!?」

 

無作為にビームを乱射していたキラのストライクの死角から、イージスが盾を構えて突貫した。押し出されるように衝突した2機は、宇宙の中でクルクルと舞った。

 

「ぐぅうう…!!イ、イージス…!」

 

《接触回線で聞こえているな?ストライクのパイロット…》

 

衝撃の中にあったキラは、回線で聞こえた声に硬直する。この声は自分の知っているものだ…。

 

《答えてくれ。君は、キラ・ヤマトなのか…?》

 

イージスのパイロット、アスランは震える声でそう言った。

 

「アスラン…!アスラン・ザラ!!」

 

《キラ、本当に君なのか!?ならばやめろ!銃をおろせ》

 

アスランは信じたくなかった。

 

どうか知らない誰かであってほしい。どうか憎いナチュラルの誰かであってほしかった。それならば、ためらいなく討てるというのに。

 

なぜだ。なぜ、自分の親友が、討たなければならないモビルスーツに乗っているんだ。

 

《僕達は敵じゃない、そうだろ?何故僕達が戦わなくちゃならない!》

 

アスランは叫んだ。恥も外聞もない。ただ、親友を討ちたくない一心で叫んだ。

 

《同じコーディネイターのお前が、何故僕達と戦わなくちゃならないんだ!?お前が何故地球軍に居る?何故ナチュラルの味方をするんだ!?》

 

「僕は…地球軍じゃない!」

 

そう叫んだキラは、何故か自分自身を嫌悪する。引き金を引いて、戦って、誰かを傷つけ、殺しておいて、なにを都合の良いことを…そして、そんなことしか言えない自分の情けなさを嫌悪した。それを振り払うようにキラはかぶりを振って叫ぶ。

 

「けど、あの船には仲間が…友達が乗ってるんだ!君こそ!なんでザフトになんか!?なんで戦争したりするんだ!戦争なんか嫌だって、君だって言ってたじゃないか!その君がどうしてヘリオポリスを…!」

 

《状況も分からぬナチュラル共が…こんなものを造るから…》

 

「ヘリオポリスは中立だ!僕だって!…なのに…あっ!」

 

絡み合ってるストライクとイージスを引き裂くように、デュエルがビームサーベルを振りかざす。キラもアスランも咄嗟に避けるが、二人の会話もそこで途切れてしまう。

 

《何をモタモタやっている!アスラン!》

 

《イザーク…!》

 

「X-102、デュエル!くそー!!」

 

ストライクを討たんとするイザーク。

親友を助けたいアスラン。

そして、大切なものを守るために戦うキラ。

 

三機のモビルスーツの戦いはさらに混迷の中へと突入してゆく。

 

 

////

 

 

「敵、戦艦、距離740に接近!ガモフより入電。本艦においても確認される敵戦力は、モビルアーマー2機と、モビルスーツ1機のみとのことです」

 

アークエンジェルの前方にいるナスカ級高速戦闘艦ヴェサリウスの艦長を務めるアデスは、オペレーターからの報告を受けて、ふむと顎に手を添えた。

 

「出ているモビルアーマーは2機か。では、オレンジ色のモビルアーマーはまだ出られんということか」

 

アデスはちらりと横に座るクルーゼを見た。

 

いつもは戦闘中でも仮面越しに余裕そうな雰囲気をしているというのに、今の彼は4機のG兵器から送られてくる映像を食い入るように見つめている。いや、4機というより、バスターとブリッツから送られてくる映像をだ。

 

誰かに話しかけられることすら拒むように、クルーゼはその映像に見入っていた。

 

アデスもその映像を眺めている。たかがモビルアーマー2機に、何を手間取っているのだとも思ったが、その2機を見ていて、その考えは宇宙のどこかへ消えてしまっていた。

 

2機のモビルアーマー、特にその内の1機である純白のメビウスの動きが、アデスやヴェサリウスのクルー達の想像をはるかに超えていたのだ。

 

はっきりいって、常軌を逸している。

 

ニコルから見た映像でも、ディアッカから見た映像でも、2機のモビルアーマーをターゲットに捉えることが叶わずに、画面の端から端へ横切っていくだけだ。映像から見ても、ニコルとディアッカが手玉に取られているのがわかる。

 

こんなことができるナチュラルがいるのか?

 

アデスは2機のモビルアーマーに乗るパイロットがコーディネイターではないかと疑うほどだった。むしろそう願っている自分もいた。あれがナチュラルの真の力だというなら、ナチュラルより優れるために人工的に作られたコーディネイターは一体…なんだというのだろうか。

 

クルーゼはその映像を誰にも見えない仮面の下で歓喜の瞳で眺めていた。

 

もっとだ。もっと私に見せてくれ。私が絶望した世界を覆すその力を…。私の絶望を拭い去るまでどうか落ちてくれるなよ。

 

 

////

 

 

《くそー!!いい加減にしつこいんだよ!落ちろよ!》

 

「しつこいのはお互い様だろグレイト野郎!!」

 

俺はバスターの攻撃を避けて、股下を通り抜けるが、バスターも負けじとAMBACで人型ならではの旋回を行い、俺の背後を取ろうとする。

 

機体制動を目一杯かけて機体を反転させて、バスターが放ったビーム砲を避けて、敵機の頭上を抜き去る。

 

《避けるのかよ!今のを!》

 

俺は堪えていた息を吐き出して、わずかに体を労った。こんなハイGターンを何度も繰り返しているため、身体中が悲鳴を上げている。けど、ここで苦しみに負けたら絶対的な死があるのもわかっていた。

 

「ライトニング1!!このままでは、ライトニング3のエネルギーが!!」

 

同じくとは言わなくても、リークも類を見ない軌道を描き、ニコルのブリッツを翻弄していた。彼はそんな中でも、デュエルとイージスに弄ばれているストライクの心配をしていた。

 

「わかってる!!ライトニング3の位置は…そこっ!!」

 

俺は位置を確認する最中で、バルカン砲の射線がブリッツと交差した瞬間に引き金を引いた。豆鉄砲とは言え、高軌道戦をしてる最中で食らえば意識は揺らぐ。

 

そしてその影響を受けて、ブリッツの軌道が乱れた瞬間に、リークがブリッツへ迫った。

 

「当たれー!!」

「しまった!?うわぁあああ!!」

 

レール砲から射出されたHEIAP弾がブリッツに直撃し、機体に閃光がほとばしる。真っ赤に染まったブリッツは、衝撃と高温に晒されて無防備に宙に舞った。

 

《ニコル!?ええい!!》

 

身動きできないブリッツを庇うようにバスターが前に出る。その攻撃を掻い潜り、俺たちは苦戦するストライクの元へ急ぐ。

 

「そこをどけぇー!!」

 

 

////

 

 

 

(…まだか…)

 

ムウは暗礁宙域を低出力モードで飛行しながら、焦れる心をじっと堪えていた。自分が強襲できなければ、持久戦になる。そうなれば、物資が少なく、戦力も少ないこちらはジリ貧になる。

 

この戦いを潜り抜けるには、自分がザフト艦を叩くことが絶対だ。故にムウは焦れる心を必死に静めた。

 

(なんとか耐えてくれよ…ラリー…!)

 

 

////

 

 

「前方ナスカ級より、レーザー照射感あり!本艦に照準!ロックされます!!」

 

ムウやドレイクの予想通り、前を抑えたザフト艦が、アークエンジェルを迎撃する位置に着いた。オペレーターの声で、マリューはぎりっと歯を食いしばる。

 

「艦長!」

 

ナタルの叫びにもじっと耐えた。が、ナタル自身の自制が利かない。

 

「ローエングリン、発射準備!」

 

ドレイクの言った作戦を無視して、ナタルは敵艦の攻撃準備をしろと命じたのだ。

 

「待って!大尉のゼロが接近中です!回避行動を!」

 

「危険です!撃たなければ撃たれる!」

 

「後方!ローラシア級!急速接近!」

 

こちらが手をこまねいてる間に、相手は確実に手駒を進めている。ナタルの言う通り、敵艦に攻撃をするべきなのか…マリューがそう思った瞬間、アークエンジェルの目の前に一隻の影が現れた。

 

《アンチビーム爆雷を継続展開!弾幕絶やすな!ラミアス艦長、本艦が盾になる!!》

 

「バーフォード艦長!?」

 

護衛艦クラックスは、ナスカ艦の砲撃から守るように、アークエンジェルの前に躍り出た。アンチビーム爆雷を辺りに散らしながら、悠然とナスカ級から放たれる砲撃の中を突き進んで行く。

 

《バジルール少尉、貴女にひとつ大切なことを教えておきたい》

 

モニターに映ったドレイクからの言葉に、ナタルは何も言わずに深くかぶった帽子の下でモニターを見据えた。

 

《艦に乗る部隊は、その艦の剣であり、艦は剣の鞘だ。鞘が剣を折る道理がどこにある?》

 

「し、しかし!今反撃せねば…」

 

《仲間を信じられない船乗りなど、そこいらの魚に食わせたほうがマシだ!!》

 

ドレイクの怒号に、アークエンジェルのブリッジが静まり返る。ドレイクはくたびれた帽子を深くかぶり直して、優しげな口調で続ける。

 

《我々船乗りは、できうる最大限の敬意と尊重の心を持って船を発つパイロットを送り出してきた。その敬意に彼らは応えてくれた。だから、私も彼らを信じるのですよ》

 

「…バーフォード艦長」

 

《進路維持!加速最大!弾幕絶やすなよ!6番から12番のスレッジハマーは自動発射にセットしろ!ここが山場だ!敵を寄せ付けるな!!》

 

 

////

 

 

 

(…捕まえた!)

 

同時刻、ついにムウは眼前にザフトのナスカ級を捉えた。低出力モードを解除し、4基のガンバレルからなるエネルギーを全開放し、一気に目標へ迫る。

 

「うおりゃぁぁ!!」

 

ムウの接近は直前まで成功していた。

だが、彼を感知する者がその船には乗っていた。メビウスライダー隊の戦いに夢中になっていたクルーゼは、寸前のところで突貫するムゥの気配を察したのだ。

 

「機関最大!艦首下げ!ピッチ角60!」

 

「は!?」

 

「本艦底部より接近する熱源、モビルアーマーです!」

 

クルーゼの突然の言葉と、オペレーターが報告した情報が完全に一致した。真下から迫ってくるモビルアーマーと言うなら、出てないと思い込んでいたオレンジ色のモビルアーマー…メビウス・ゼロだ。アデスの顔色が青くなっていく。

 

「ええい!CU作動!機関最大!艦首下げ!ピッチ角60!」

 

だが、時は遅かった。ムウの操るガンバレルから放たれた弾頭は、ヴェサリウスのエンジンを完全に捉えた。感じたことのない強い振動に、ブリッジにいた誰もが何もできずにシートにしがみついた。

 

「いーよっしゃぁぁ!!」

 

ムウの機体はヴェサリウスの装甲にアンカーを打ち込み、スイングバイで宙域を離脱していく。

 

「機関損傷大!艦の推力低下!敵モビルアーマー離脱!第5ナトリウム壁損傷、火災発生、ダメージコントロール、隔壁閉鎖!」

 

(…ムウめぇ!)

 

推力を奪われた艦は的に過ぎない。

クルーゼは苦虫を噛み潰しながら、撤退命令を出すのだった。

 

 

 


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