ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第166話 いくつもの光を重ねて 2

地球軍艦隊。

 

サザーランドの指揮下にある艦隊は、死に物狂いでボアズーーひいてはプラントへ侵攻しようと躍起になっている様子が窺えた。

 

中には核を搭載したメビウスを無理やり飛ばそうとする艦まであるほどだ。この乱戦の中、護衛もつけず、核という荷物を持ったメビウスが戦線を抜けることなど不可能であり、流れ弾に当たって落ちるか、発見されて撃破されるかの二つだ。

 

それに伴って、艦隊の宙域には臨界に達さず、安全装置が解除されずに核が漂うという一級危険地帯へと陥っていた。

 

幸いなことに、安全装置が解除されない限り、誘爆しても核分裂をしないようセーフティが有効になるので、戦ってる最中に気がついたら核に巻き込まれている…なんてことはないが、それでも核弾頭が何発も漂う宙域で戦闘を継続するなどーー正気の精神力では不可能だ。

 

「このぉおお!!」

 

そんな中を、トールが操るメビウス・ハイブラストが轟沈した船や、取り付こうとするザフトのモビルスーツへ決死の抵抗を見せる船の合間を縫って飛行している。その背後には、武装を展開し、味方の船ごとメビウスを撃ち抜こうと攻撃してくるシュープリスが、ぴったりとその背後に張り付いていた。

 

『この動き…できるな!』

 

ガゴンとライフルの弾倉を入れ替えた隙を突いて、フレキシブルスラスターを逆噴射して方向転換。トールの弾丸が数発シュープリスの装甲を掠める。その絶好のチャンスを、トールは即座に捨てて機体を旋回。さっきまでいた場所にビームの線が描かれる。

 

『行けるぞ、ベリルオーズ』

 

援護にきた黄色部隊の機体、ヒラリエスが必殺の威力を誇る高出力ビームライフルを武器腕として両手に装備した機体で援護に飛び込んでくる。

 

「くぅう!」

 

2対1か…!!トールは現れた援軍をみて苦虫を噛み潰していると、弾倉を交換したシュープリスからの攻撃に晒される。ひらりひらりと弾丸を躱してはみるが、消耗戦になればこちらが不利になるのは明白だ。

 

「トール!このやろう!!」

 

その光景をみたムウが、ガンバレルストライカーから四機の遠隔操作ガンバレルを飛翔させる。有線式ではあるが、四機から生み出されるオールレンジ攻撃に、シュープリスもヒラリエスも後退を余儀なくされた。

 

その脇を、一閃の流星が飛び込んでいく。ヒラリエスをシールドバッシュで殴りつけると、ひらりと宙返りを打ち、距離を離させるように今度は蹴りをヒラリエスの頭部へ叩き込む。

 

「ラリーさん!」

 

『白いモビルスーツか!!』

 

シュープリスから発せられた声に、ホワイトグリントを操るラリーはわずかに指が震える。明らかに知っている声。だがーーその思い浮かんだ人物はすでに死亡しているはずだ。

 

(この声は…!!)

 

その戸惑いを振り払って、ライフルを放ってきたシュープリスに、ラリーは機体を躍動させる。サイドステップを踏むように弾丸を躱して接近しようとするが、吹き飛ばしたヒラリエスが復帰し、ホワイトグリントを背後から押し出した。

 

押し出された場所には、ダガー隊が戦列を組んで向かってきているのが見える。ムウは他のグリフィス隊のメンバーと共に、すでにやってきていたザフトと地球軍のモビルスーツ相手に大立ち回りをしていた。

 

『貴様はあとだ!俺はメビウスをやるぞ!』

 

『悪いがお前の相手は私だよ、白いモビルスーツ!』

 

完全に分断された…!!ラリーは混戦状態となった現状をみて奥歯を噛み締める。ここまで混乱状態となったら、トールやリークたちと合流するにもかなりの時間と手間がかかってしまう。

 

「ちぃ!トールはあの機体を頼む!リークは船を!俺はこいつを蹴散らす!」

 

そう言ってラリーはビームサーベルを引き抜き、ビームカービンライフルを構えた。幸いにもここは敵の後方。正面からはリークたちが乗り込んでいる。ならば、こちらは後ろから食い破るまでだ!

 

「了解!」

 

ラリーの指示を受けたトールは機体を操り、迫ってくるシュープリスと向かい合った。

 

『俺は帰るのだ…俺を待っている人のもとへ!』

 

そこからは苛烈だった。トールが躱せばシュープリスが。シュープリスが隙を見せればトールが。打ち、放ち、斬り抜き、交差して、目を眩ませて、持てる戦術や知識をフルに活用して戦況を目まぐるしく動かし続ける。

 

開いたミサイルハッチを的確に撃ち抜かれたトールは、誘爆の恐れがあるミサイルたちを明後日の方向へ放出していく。

 

「ボルドマン大尉なら…うおおおお!!」

 

まるで自分に喝を入れるように叫んだトールは、今まで見せていた複雑なマニューバをやめて一直線にシュープリスへと向かう。

 

『その程度の攻撃などーー!?』

 

当たるものか、と言葉を続けようとした瞬間、ベルリオーズの肩を大きな力が揺らした。バックモニターを見ると、さっきトールが捨てたと思っていたミサイルが鼻先にまで迫ってきている。

 

まさか、これを狙っていたのか…!?

 

『なにぃ!?』

 

ベルリオーズは驚愕しながら、ライフルでミサイルを撃ち落とそうと試みるが、内数発が肩装甲や脚部に直撃。

 

機体状態は機体制御用のユニットが大きく破損する結果となった。

 

「貴方の飛び方なら、俺はよくわかってますからね!!」

 

そう呟きながら空になったミサイルコンテナをパージするトール。メビウスを眺めているベルリオーズは、片手で顔を追い、いくつもフラッシュバックしてくる痛みに苛まれた。

 

なんだこれは…この光景は…これは!!!

 

『この攻撃…俺の動きを知っているのか…?こいつは…こいつは…なんだ…!?』

 

戸惑うシュープリスの動きは完全に止まっていた。そこでトールは決死の作戦に出る。

 

「引いたら負ける!攻めろ!!釘付けにするんだ!!でやあああああ!!」

 

怖い。怖いさ。けれど、それで臆してしまっては俺は前に進めない!!そう心で声を上げて、トールはメビウスの操縦桿を握りしめて出力を上げていくーー。

 

 

////

 

 

敵核兵器は、アガメノムン級宇宙母艦、ワシントンに有り。その情報がアークエンジェルに届いたのはつい先ほどであった。

 

送り主はガルーダ隊の隊員たちであり、彼らはハリネズミのような対空防御を決死の覚悟で突破し、その情報をマリューたちへ届けたのだ。

 

ーー自分たちの命と引き換えにして。

 

届いた映像も、イーゲルシュテルンに貫かれる間際に撮影されたモニターの映像であり、それが送信されて以降、機体の反応も消失している。

 

「ザフト艦、ローラシア級接近!後方にもナスカ級が二つ!!」

 

「取舵20!回り込んで攻撃を!」

 

「ヘルダート、てぇ!!装填急がせろ!アンチビーム爆雷、チャフ展開!バリアント、排熱時間に留意しろよ!」

 

その情報を入手してからの判断は素早かった。とにかくサザーランド指揮下の艦隊の前衛を突破する他ない。敵の母艦は奥へと引き込んでいるが、前衛を抜ければ射程距離内へ収めることができる。

 

しかし状況は混迷状態だ。ザフト艦も本格的に動き始め、彼らはこちらもサザーランド指揮下の艦隊も容赦なく攻撃してくる。ザフトのモビルスーツも然りだ。

 

「ゴットフリート、てぇ!!」

 

クサナギとヒメラギの援護や、周辺に展開するネルソン級やドレイク級で構成された護衛艦隊も奮闘しているものの、その進みはあまりにも遅い。このままで、核の第二射が始まるのも時間の問題だった。

 

せめて、ローエングリンの射線にワシントンを捉えることができればーー!!

 

「正面にネルソン級2!距離、600!!」

 

抜かった!左右から遊撃してくるザフト艦に気を取られてる間に、目の前に陣取ったサザーランド指揮下のフリゲート艦がこちらに照準を合わせてきていた。

 

「ミサイル来ます!」

 

「回避!弾幕!」

 

「間に合いません!」

 

総員、衝撃に備えよと艦内に声を轟かせた瞬間、アークエンジェルの前に一隻の護衛艦が覆い被さるように進路を取った。

 

「モントゴメリが盾に!?」

 

コープマン指揮のモントゴメリが前方の敵艦との間に割り込み、その身には敵から放たれたミサイルが突き刺さっていく。

 

「コープマン大佐!」

 

悲鳴のようなマリューの声に、通信を繋いでいたコープマンは怒声に似た声で応答する。

 

《護衛艦の役割を全うしたまでだ!損傷は!ダメコン急げ!》

 

そうは言うものの、敵からの攻撃は苛烈だ。飛来するミサイルをなんとか迎撃するものの、ビームの極光が船体をかすめる度に、船は尋常じゃない揺れと衝撃に襲われていく。

 

「第八、第六区画に火災発生!」

 

「推進剤タンクにも被弾!」

 

「ええい!エンジンを切り離せ!」

 

被害は増すばかりだ。前方には密集するように護衛艦が並び、こちらの行手を遮っている。あれを突破するには並大抵の力じゃ無理だ。

 

「ハビルトン、沈黙!バーナードも損傷を受けてます!このままでは…!」

 

護衛艦隊も相手の物量差に押され始めた。このまま時間を費やし、こちらの攻める勢いが無くなれば、敵はすぐにでも核の第二射へ移行する。もう残された時間はないーー!!

 

「コープマン大佐、そろそろ、覚悟をするときかな!」

 

そんな絶望的な状況の中で、コープマンの隣でノーマルスーツを身に纏って座る男性、ジョージ・アルスターが〝笑み〟を浮かべてそう言ったのだ。

 

いつもは悲鳴や情けないことを言っていた彼だったが、再び船に乗り宇宙へと帰ってきてからその姿は見ることがなくなり、フレイと再会してから自身から共に船に乗ることをコープマンに頼んだほどーー彼の姿は〝覚悟を持った大人の姿〟であった。

 

「…アルスター事務次官殿もそうお考えなら!」

 

しばらくの熟考の末、コープマンもジョージが言わんとしていることを察し、頷いて答えるとすぐに艦内放送の端末を起動する。

 

《総員、退艦準備!退艦完了し次第、モントゴメリはこれより守備陣から前へ出るぞ!》

 

その声にモントゴメリで懸命に戦う下士官や、マリューたちも驚きの声を上げた。

 

《コープマン大佐!なにを!?》

 

「退艦した者たちを頼むぞ、ラミアス艦長!ドレイクもな!この戦争は我々老人が始めたことだ。ならば、我々がケジメをつけなければならんではないか?」

 

そう言って通信に答えるコープマンに、マリューもドレイクも、彼らがやろうとしていることを感じたのか、声を失った。

 

その一声で、モントゴメリから下士官たちは速やかに退艦させられていく。あるものはケツを叩かれながら、あるものは涙を堪えながら、あるものはまだ戦えると仲間に引きずられながら船を後にして行った。

 

「若いものは退艦できたか?」

 

コープマンがそう問いかける。そこにいたのは、管制官チーフや、機関長、火器管制責任者など、コープマンと歳が変わらないものや、長く軍属に勤めた者たちだけだ。

 

「ええ、ここにいるのは我々だけです」

 

そこにいる全員が、自分たちがやろうとしていることに覚悟を決めていた。ジョージは全員に見えるようにおぼつかない敬礼をして、言葉を紡ぐ。

 

「良いところ何一つなかった我々だが、ここに来て働きもしなかったらブルーコスモスの一人…いや、一人の大人として、アルスター家の名が泣くものさ」

 

被弾したエンジンを分離して、モントゴメリは護衛艦隊を離れていく。行く先は、前方。立ち塞がるサザーランド指揮下の迎撃陣営。

 

「時代は若者が作っていく物だ。娘のような柔軟な考えを持った若者がね。ーーだからこそ、彼らが生き延びてくれれば、この戦いの記録も、この名前も彼らの中で語り継がれる。今ならそう思える!行っていいぞ!コープマン大佐!」

 

「了解した!奴らに目にもの見せてやれ!」

 

三つの大型ビーム砲とミサイルを射出しながらモントゴメリは傷ついた体を張って悠然と、力強く敵の陣営に向かって突撃を敢行した。

 

『敵艦が一隻!こちらに突っ込んできます!』

 

『ええい!たかが一隻に何を手こずっているか!!落とせ!!』

 

突っ込んでいくモントゴメリに敵からの攻撃が集中する。自ら操舵を担うコープマンの手により、回避運動をする船に敵艦からのビーム砲が掠めるが、それでもモントゴメリは速度を落としはしなかった。

 

「推力最大!全ミサイル信管起動!タイマーは合わせろよ!」

 

しかし、ついに敵の攻撃がモントゴメリの船体を捕らえる。ブリッジは激しく揺れ、船の中に炎が広がっていく。そんな中でも、誰も後悔や恐怖を抱いた表情をしなかった。

 

「くっーーーグリマルディ戦線から逃げ続けの私だったが…今度はもう、どこにも逃げん!!」

 

コープマンの言葉は、自身の後悔だった。グリマルディ戦線、そして先の低軌道会戦でも、自分の船がおめおめと生き残り、そして逃げてしまっていた。故に今度はーー今は逃げない。

 

後に続く者たちの道標となるために。

 

「ダガー隊が突貫するモントゴメリへ接近!」

 

「やらせん!!」

 

突撃するモントゴメリにダガー隊の群れが襲いかかってくる。ブラックスワン隊も応戦するが、敵の物量の方が増している。

 

コープマンは後方にいるドミニオンを指揮する戦友に言葉を紡ぐ。

 

「ドレイク!!あとは任せたぞ!!」

 

《コープマン!!》

 

その刹那、ブリッジの眼前にビームライフルを構えた一機のダガーが現れた。誰もが息を飲む中、コープマンはしてやったりと言った顔つきで叫ぶ。

 

「遅かったな!!!!」

 

閃光。衝撃。モントゴメリのブリッジは吹き飛んだが、コープマンの言葉通り、もう遅い。艦に抱える全てのミサイル信管をタイマーセットしたモントゴメリは、まるで意思を持ったように迎撃するネルソン級へと突っ込んでいく。

 

『ええい!躱せんのか!!躱せぇえー!!』

 

『き、きます!!』

 

敵のネルソン級のブリッジへ激突したモントゴメリの船首。それを皮切りに船の内部から爆散。飛び散った破片やミサイルの生き残りは、逃げ遅れた他の迎撃艦へ襲いかかり、アガメノムン級を守護していた壁が大きく乱れた。

 

「モントゴメリ大破!バーフォード艦長!!」

 

「…ローエングリン照準、目標、敵核搭載のアガメノムン級!!」

 

大破し、破片と戦死した乗組員の体が浮かぶブリッジの残骸の中で、ジョージは薄れゆく意識をなんとか繋ぎ止めた。

 

アークエンジェルのハンガーの中で、傷ついたメビウスの修理をするフレイの姿が、ジョージの中にスッと入ってきた。懸命に作業をするフレイの後ろ姿を見て、ジョージは満足そうに微笑む。

 

(幸せになれよ、フレイーーー)

 

父として、何もしてやれなかったかもしれない。そうやって生きていくことを否定した愚かな父ではあるがーーこの思いだけは本物だった。フレイが幸せに生きていけれるなら、ジョージの心には恐怖なんてひとかけらもありはしない。

 

「てぇええーー!!!」

 

悲しみを堪えて慟哭するように叫ぶドレイクの言葉に従い、ドミニオンとアークエンジェルからローエングリンの閃光が宇宙を照らした。

 

「お父さん…?」

 

ふと、フレイは誰かに呼ばれたような気がして振り返る。そこには誰もいない。ただーーージョージの声は、たしかにフレイに届いていた。

 

彼は満足した笑みを浮かべ、光に包み込まれていきーーー神の世界へと旅立っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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