ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第174話 オペレーション・メビウス

 

 

「ジェネシスとザフト、戦いながらどっちも防げったってさぁ」

 

アプリリウス市の港口に集結したガルーダ隊とアンタレス隊。

 

補給を受けたM1アストレイや、サザーランド艦隊から離脱した船からもたらされたダガーへ乗り換えたパイロットもいる。

 

いよいよツギハギ部隊となってきた中で、屈んでいた姿勢から立ち上がるバスターのコクピットでディアッカが困ったような口調でそう吐いた。

 

「やることは山積みですよ、ディアッカ」

 

「ったく、わかってるよ」

 

その隣にいるのは、大型火器が弾切れとなって、片手にビームライフル、背部にソードストライカーのマイダスメッサーと、シュベルトゲベールを装備したニコルのブリッツが立ち上がる。

 

混戦になる以上、後方支援はディアッカのバスターに任せて、突破口を開く役目をニコルが買って出たのだ。ニコルもディアッカも、評議会に親が関わっている身だ。思うところはイザークと同じなのだろう。

 

「各員いくぞ、俺たちの使命を果たすためにな!」

 

ガルーダ隊と、隊長を失ったアンタレス隊を率いるイザークは、バイザーを下ろしながら背後に立つ部隊の全員へ語りかける。イザークのデュエルも、各部装甲に損傷を受けており、デュエルの素体が露出している部分もあった。

 

そんな状態でも、イザークは向かうことをやめなかった。

 

「了解!」

 

そう答える隊員たちも同じだ。

 

まだ動かせる手足がある。まだ動かせる武器がある。武器を手に持って戦うことができる。ならば、果たさなければならない。友がそうしたようにーー命を賭して国と市民を守った彼らから受け取ったものに、答えるために。

 

「イザーク・ジュール!…シエラアンタレス隊、発進する!」

 

失ったアンタレスの光を途絶えさせないため。その星光を翼で包む鷲。イザークはPJの意思を継ぎ、この戦いを終わらせるために灯火を連れて宇宙へと飛び立ってゆくーー。

 

 

////

 

 

「メビウスには残りのファストパック、全部載せたから!」

 

アークエンジェルの中では、フレイが調整したファストパックが詰め込まれたメビウスだ。ハイブラストとは言えないものであったが、携行火器でいえば、ビームライフル4基、対空ミサイル8基、小型ミサイルポッド4基、近接用ビームサーベルが翼端に、そして機体下部には最後のシュベルトゲベールが装備されている。

 

「ありがとう、フレイ」

 

コクピットの入り口で腰掛けながら、機体のフィッティングを確認しながらそう答えるトールのヘルメットを、フレイは手に持っていたレンチで軽く小突いた。

 

「帰ってきなさいよ。ミリィを泣かせたらただじゃおかないんだからね!」

 

当然だよ、そう答えたトールに満足したように、フレイがメビウスから離れると、トールはコクピットハッチを閉めた。

 

《トール!》

 

起動したモニターに、すぐさまミリアリアの顔が映る。その表情は今にも泣き出してしまいそうで、トールはらしくないやと小さく笑って見せた。

 

「ミリィ、大丈夫。帰ってくるよ、俺は…必ず」

 

《どうか、気を付けて…》

 

エアロックが解放されて、射出デッキへと運搬されて行くトールのメビウス。開いた発艦デッキから見つめる宇宙。まだ穏やかさがあるその光景を見つめながら、トールは遠くにいる誰かに向かって口を開いた。

 

「ボルドマン大尉ーー俺は、やります。生きて、貴方から渡してもらったものを受け継ぐ」

 

《メビウス、ケーニヒ機、発進どうぞ!》

 

ミリアリアの声を受けて、トールはグッと力を込めてスロットルを引き絞った。

 

「ーーライトニング3、トール・ケーニヒ、メビウス、行きます!!」

 

 

////

 

 

ドミニオン。モビルスーツハンガー。

 

普段は袖を通すことのないノーマルスーツに身を包んだアズラエルは、前に整列するリークやオルガたちから、困惑したような目を向けられていて、困ったように眉をひそめる。

 

「アズラエル理事」

 

「いや、まぁアレですよ。出撃前の激励ってやつです」

 

リークの声にアズラエルは、いつものように手をひらひらさせて答える。そんなアズラエルの隣にいるバーフォードが、敬礼を打ってメビウス隊へ言葉を紡ぐ。

 

「メビウス隊、君たちは目覚ましい力を持って多くの危機的状況を打開してきてくれた。だから、俺は信じている。君たちなら為してくれると」

 

「僕からは一言。死ぬことは許しません。あなた方には金をかけてますからね。必ず僕の元へ帰ってきなさい。いいですね?」

 

そう付け加えたアズラエルの言葉に、オルガたちは互いの顔を見合わせて、おかしそうに笑った。

 

「へ、アズラエルさんらしいや」

 

「図太く、長く太く、生きてみようかね!」

 

「好きなアーティストのライブもあるし」

 

「あ、ズリーぞ!俺だって新作のゲームがなぁ!」

 

「はいはい、やめやめ」

 

そうやっていつものように言い合いをして、いつものようにリークが仲裁して、そしてなんだかんだ言って仲のいい姿を見せてくれる彼ら。どうか、無事で帰ってきてくれ。アズラエルは口には出さないが、確かな思いを持ってメビウス隊を見つめていた。

 

「じゃ、行こうか。みんな」

 

ピリッとした空気に切り替え、二人に敬礼を打って踵を返したリーク。

 

「 「 「了解!!」 」 」

 

そんな隊長に従って、オルガたちもそれぞれの機体へと歩み出していった。

 

 

////

 

 

トールが出撃したあと、反対側のモビルスーツハンガーでは、裏方から引っ張り出してきた機体にマードックは目を剥いて、それに乗り込もうとするムウを引き止めていた。

 

「少佐!無茶ですって!これで出るなんて!」

 

「しょうがないじゃないの。ストライクはああなっちゃったんだからさ」

 

ムウが出してきたのは、低軌道会戦から使用していなかったメビウス・ゼロだ。

 

機体はハリーやフレイによって修復、整備ーーそして動力源をパワーエクステンダーに交換されたことにより、有線式ではあるがガンバレルがビーム兵器に換装されており、動力部分やコクピットモジュールもモビルスーツと同規格にするなど、大幅に手を加えられている魔改造品となっていた。

 

しかし、あくまで二人が手を加えただけであり、ろくな運用テストもしていない上に、ついさっきまで倉庫で埃をかぶっていた代物だ。

 

こんな戦いにそんなもので出るとは、正気の沙汰とは思えなかった。

 

「ラミアス艦長!」

 

そんな機体で出撃準備をするムウの元へ、ノーマルスーツに身を包んだマリューが近づいてくる。マリューが来ようとも、ムウはセッティングする手を止めようとはしなかった。

 

「行くのね、ムウ」

 

マリューの静かな声に、ムウの手が止まった。だがすぐに動き出す。

 

「悪りぃな。モビルアーマー乗りに戻っちまって」

 

「戻ってきてくれるんでしょ?」

 

文句や止める言葉が出るかと思っていたムウは、そう言ったマリューの方へ今度こそ視線を向けた。マリューの顔は微笑んでいたが、その表情の裏側にはムウを失ってしまうかもしれない恐怖がべったりと張り付いているのが見える。

 

ムウはメビウスゼロから降りて、マリューをそっと抱きしめた。

 

「任せとけ。俺は直ぐに戻って来るさ。勝利と共にね」

 

そうウインクをして浮かび上がるムウ。そんな二人のやり取りを見ていたマードックや整備士たちは、口々に「いいな…」や「爆発すればいいのに…」と呟きながらも、ムウのメビウスゼロ改を発進できるように調整して行く。

 

《フラガ機、発進位置へ!》

 

モビルスーツ発艦位置へ搬送されて行くメビウスゼロを、モニター越しに眺めながらマリューは胸元で祈るように手を合わせた。

 

(待ってるわ、ムウ)

 

《進路クリアー、フラガ機、どうぞ!》

 

「よっしゃあ!グリフィス1、ムウ・ラ・フラガ、メビウス・ゼロ、出るぞ!」

 

慣れ親しんだメビウスゼロを駆って、ムウは宇宙へと飛び出して行く。

 

 

////

 

 

「照準ミラーブロック換装、0100には終了します」

 

ヤキンドゥーエの司令室も慌ただしくなっていく。ジェネシス二射目。そのミラーブロックの換装が、残り30分へ差し迫ろうとしていた。

 

「目標点入力。月面プトレマイオスクレーター、地球軍基地!」

 

パトリックから発せられた命令に、司令部は一時、しんと静まり返る。だが、誰もが予想できたことだった。

 

「目標点入力開始、座標、月面プトレマイオスクレーター、地球軍基地」

 

入力されたデータを再確認し、正面のモニターにはジェネシスから発せられる閃光の軌道が表示されていた。打たれれば、間違いなく月の司令部は崩壊する。

 

「ーー奴等の増援艦隊の位置は?」

 

「グリーンアルファ5、マーク3であります!」

 

新たに追加された反応。今は亡きサザーランドから要請された月からの援軍は、見事なまでにジェネシスの軌道上に乗ってくれている。その真実を目にして、パトリックは小さく笑みを浮かべた。

 

(我等の勝ちだな、ナチュラル共)

 

ヤキンドゥーエ付近に下がった地球軍の残存部隊やクライン派の部隊が気がかりではあるが、あの程度の戦力でヤキンドゥーエの防衛網を抜けられるとは考えにくい。

 

「あと僅かだ。持ち堪えさせろ」

 

そう命令を下すパトリックの横にいたクルーゼが、ついに動き出した。

 

「ーーでは私も出ましょう」

 

そう告げてパトリックに敬礼を打つクルーゼ。

 

「ああ。クルーゼ。これ以上の失態、許さんぞ?エターナルを討てなかった貴様の責任においても、奴等にプラントを討たせるな!」

 

「アスランを討つことになってもよろしいので?」

 

「ーー構わん!」

 

一瞬、わずかな迷いが垣間見えたが、パトリックは自らの恨みと怒りに任せて息子を切り捨てた。その事実を見つめて、クルーゼは内心でパトリックを切り捨てる。

 

こいつにはもう用はない。

 

せいぜい、私の邪魔をしないことだ。

 

仮面の下で鋭く侮蔑するような眼光を光らせながら、それを悟らせないようにクルーゼは笑みという仮面を更に被る。

 

「了解しました。では」

 

それだけ言って、彼は足早に司令部を後にする。技術士官が満を侍して取り付けた装備。プロヴィデンスの完成形とも言える姿を目にするために。

 

ああ、ついにだ。クルーゼは通路の中で震える手を握りしめる。これが体の老いからくる震えなのか、それとも武者震いなのか、そんなものどうでもいい。

 

ついに決着がつく。

 

クルーゼとラリー。どちらが強いか。

 

はっきりさせようじゃないか。

 

 

////

 

 

《ジャスティス、フリーダム、出撃スタンバイ》

 

エターナルは忙しなく発進準備が進められていた。クサナギから搬送されてきたストライクルージュの中で、カガリは技師からの説明を受けながら機体をマッチングさせていく。

 

《ストライクルージュ、パワーエクステンダー、フロー正常です。支援AIの確認願います》

 

「オレンジ25、マーク12、アルファにザフト軍艦隊です!」

 

ついにきたか!バルドフェルドは総員に戦闘態勢を発令する。アイシャやダコスタもすぐさま持ち場へと着いた。後方にいるアークエンジェルやドミニオン艦隊も敵反応を捕らえたようで、迎撃武装を展開していく。

 

「モビルスーツ、発進して下さい」

 

「全艦、モビルスーツ、モビルアーマー部隊、発進!」

 

クサナギのハッチが開くと、整備を終えたアストレイ・タイプRが深淵の宇宙を見下ろす。コクピットに座るマユラは深く息を吐いて、操縦桿を握りしめた。

 

「行くわよ!アサギ!」

 

「お先に!」

 

マユラやジュリが先に出ていくのを見つめて、アサギも二人へと続くようにクサナギから飛び立つ。

 

「グリフィス隊、出ます!」

 

その前方に位置するアガメノムン級ケストレルからも、アストレイや加わったダガーが発進していく。

 

「ブラックスワン1、カルロス・バーン、発進する!」

 

《エンジェルハートよりブラックスワン隊へ!トーリャ・アリスタフだ!各機、隊列を組め!先頭にはメビウスライダー隊の二人がいる!》

 

ブラックスワン隊も、ネルソン級サンディエゴから分離し、隊列飛行へと移行していく。先頭を飛ぶのは、ムウのメビウスゼロと、トールのメビウスだ。

 

「ブラックスワン6、スウェン・カル・バヤン、メビウスノワール、出るぞ」

 

「ブラックスワン7、シャムス・コーザ、ベルデメビウス、行くゼェ!」

 

「ブラックスワン8、ミューディー・ホルクロフト、ブルメビウス、行くわよ!」

 

生き残ったブラックスワン隊も発進し、モビルスーツとモビルアーマーの混成部隊は向かいくるザフト艦隊へ進路を取った。

 

「軍隊らしくなってきたな!」

 

「ここからがペイバックタイムだ!」

 

そう各々が声を上げる光景を目にして、ムウは低軌道会戦の時を思い返す。あの時はいいようにやられたが、今回は違う。必ず止めてみせる!その思いは誰もが同じだ。

 

「メビウスリーダー、リーク・ベルモンド、リベリオン、発艦します!」

 

開かれたドミニオンのモビルスーツハンガーから発艦するリークのリベリオン。ビームランチャーと対ビームコーティングが施されたシールド、そしてビームカービンを手に持って宙を飛んでいく。

 

「メビウス1、オルガ・サブナック、カラミティ、行くぜ!!」

 

「メビウス2、クロト・ブエル、レイダー、行くよ!!」

 

「メビウス3、シャニ・アンドラス、フォビドゥンリペア、出るよ」

 

その背後にはオルガのカラミティ、クロトのレイダー、そして背部武装へリベリオンの予備パーツを取り付けたシャニのフォビドゥンがいた。

 

本来は手を取り合うことなかった力がここに集う。打つは憎しみ。殺すは怨念。彼らの行く先には、それを象徴する権化が立ちふさがる。

 

《進路クリア!ストライクルージュ、発進どうぞ!ハウメアの加護があらんことを!》

 

「オメガ1、カガリ・ユラ・アスハ、ストライクルージュ、いくぞ!」

 

赤く染められたストライクが発艦する。それに続いてアスランたちも電磁カタパルトへ足を預けた。

 

「ライトニング4、アスラン・ザラ、ジャスティス、出る!」

 

「ライトニング2、キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」

 

「ライトニング1、ラリー・レイレナード、ホワイトグリント、出るぞ!!」

 

 

 

 

 

 

《カウントダウン開始。射線上の全軍に退避勧告!》

 

残された時間はあとわずか。

 

これが最後の戦い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クルーゼ隊長、理論はお解りと思いますが」

 

ヤキンドゥーエのモビルスーツハンガーで、慣れ親しんだ技師から説明を受けながら、クルーゼはプロヴィデンスのコクピットへと滑り込んでいく。

 

「ああ。使ってみせるさ。それでこそ、戦う価値がある」

 

そう答えたクルーゼに、技師は不安げに瞳を潤ませてから敬礼を打って離れていく。プロヴィデンスに装備された兵装。ーーあの男が扱えたのだ。ならば、やってみせるさ。

 

(ラリー、これが最後だ。存分に戦おう)

 

スロットルを緩やかに上げつつ、プロヴィデンス・セラフは高機動形態に変形した姿のまま、出力を上げていきーー臨界を迎える。

 

「ラウ・ル・クルーゼだ!プロヴィデンス・セラフ、出るぞ!」

 

向かいくる勇者たちに応じるよう、その行手を遮ることを決めた黒い翼は、大きく光を放ってヤキンドゥーエの要塞から飛び立っていく。

 

 

 

ジェネシス発射まで

 

残りーーー30分。

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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