ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第175話 ある記者が見た光景

 

C.E.71年9月26日。

 

その演説はプラント国民全員に向けて発信された。

 

《私は地球連合軍、第八艦隊司令官、デュエイン・ハルバートンです》

 

当時、地球からプラントへ訪れていた私は、広域映像通信越しに映る、デュエイン・ハルバートン提督の姿を初めて目にすることになった。

 

第八艦隊提督。宇宙の司令官。さまざまな異名を持つ彼が、このプラント国内にて、異例の演説を行ったことを、私は今でもはっきりと覚えている。

 

ふと、曾祖父から受け継がれてきたカメラを、私はモニターに向けて構えた。今時、高精度カメラなど出回っているのだが、写真に現像するなら曾祖父から受け継がれてきたカメラでも問題なく現像できる。それどころか、フィルムデータだからこそ、その色あせない光景を切り抜けることもあったのだろう。

 

《戦場にいる両軍将兵の皆さん。銃を置いて戦場を後にしましょう》

 

はっきりとした口調でそういうハルバートン提督。おそらく通信は、今騒がしいヤキンドゥーエ宙域に向けても流されているだろう。

 

地球軍が核を持ち出したという事実。それに怒りを覚えるプラント国民は多い。だが同時に、それを食い止めるために立ち上がった勢力のことを、我々はよく知っていた。

 

戦場カメラマンや、クライン派に属する通信機関が、ザラ派や保安部の目を掻い潜り戦場の映像をプラントへ発信した。

 

多くの人が、混迷した戦場を目にしていた。

 

私もその一人だ。

 

《地球連合軍の大きな権力、そして軍事力を専断し、核を持ち出した者たちから、本来我らが指針としてきた地球連合軍は解放されました》

 

彼は言う。私は壮麗に語るハルバートン提督の姿を再びカメラに捉えた。

 

《コーディネーター、ナチュラル。我々は種族という壁に大きく惑わされ、時代もその奔流の中に飲まれ、深く傷つきました。このまま戦い続ければ、互いに認め合えずに、人という存在はこの世から消え去ることになるでしょう》

 

核によるプラントへの攻撃。

 

血のバレンタイン事件。

 

あれから戦争は泥沼化の道へと転がり落ちていった。エイプリルフールクライシスで約10億人の犠牲者を出しながらも、戦いは激化する一方だった。

 

誰もが疲れ切っていた。殺し殺され、憎しみに憎しみを重ねて戦い続ける日々に。

 

思考は停滞し、感覚は鈍り、倫理も無くなっていく日常の中ーーー映像に映った彼は、勇敢に戦い、そして散って行った。

 

《それを阻止するため、人としての自由と正しいことを伝えるために、今こうして私は初代プラント最高評議会議長、シーゲル・クライン閣下と、オーブ首長国連邦首相、ウズミ・ナラ・アスハ様と共にあります》

 

そう言ってハルバートン提督は、両側に立つ人物と肩を寄せ合い、笑顔で握手を交わした。その姿を見て、多くの人が驚く。

 

パトリック・ザラが反逆罪で処刑したと発表したシーゲル・クラインと、地球軍の攻撃により行方不明となっていたはずのオーブ代表のウズミ・ナラ・アスハがハルバートン提督と肩を並べて立っていたからだ。

 

私は再びカメラを構えて、その光景を切り抜いていく。

 

《我々はまた、道を踏み誤ろうとしていました。ですが、暗黒の時代は人の手で終えることができるのです》

 

そうハルバートン提督が声をくぎると、今度はシーゲル・クラインが壇上の前へと歩み出してくる。

 

《私は初代プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインです。戦場にいる両軍将兵の皆さん、ハルバートン提督と、アスハ首相と、私とが、肩を並べ手を取り合う姿をご覧いただきたい》

 

光が瞬き、その中で三人は硬く手を取り合っている。歴史的な瞬間だった。今までいがみ合っていたはずの、地球勢力、プラント、そしてオーブの権力者たちが、互いを戒め合うわけもなく笑みを浮かべて手を取り合っているのだ。

 

《ハルバートン提督の今の言葉は真実です。私もまた、プラントの勢力によって身を追われました。だが、我々にはなさなければならない戦いがある》

 

そう言った瞬間、モニターには一つの大きな建造物が表示される。近くに映る要塞、ヤキンドゥーエが小さく見えるほどの大きさ。その兵器を見つめる誰もの心に、黒い何かがスゥと入り込んできたような気がした。

 

《そのとおりです。我々の間に憎しみを駆り立てた者たちは食い止めることができました。ですが、我々のゆりかごでもある地球すらも破壊しうる力を持った兵器を用意しつつあるといいます》

 

核を身を呈して止めた彼ら。そんな彼らの戦いすらも無に帰そうとする兵器。それがどんなものかーー少なくとも私には、その映像に映る兵器の姿が核よりも恐ろしいものに見えた。

 

《しかし、我々の友人たちが今その大量破壊の使用を阻止するための、少ない戦力の中、行動を始めています》

 

ハルバートン提督は、真っ直ぐとした目でプラント国民やヤキンドゥーエ宙域にいる全ての人へ声を紡ぐ。

 

《もし地球が焼かれることになれば、ナチュラルもコーディネーターも関わりなく被害を被ることになる。種族の壁はもう重要ではない。どちらの勢力が被る被害も共通の大きな痛手となる》

 

アスハ代表が言うように、プラントも地球からの恩恵に頼る部分がある。鉄など資源を失うことになればーー数年も持たずにプラントは死の国となってしまうだろう。

 

《ーー両国将兵の皆さん。どうか心あらば、あなたがたの持てる道具を持って彼らを手助けしてやって欲しい》

 

そう言って、ハルバートン提督はどこか遠くを見つめる。彼の見る先に「戦いを止めようとする者たち」がいるのだろうか?

 

《ーー彼らは今、ザフトの要塞、ヤキンドゥーエに向けて飛んでいる》

 

私はカメラを構えながらその映像を食い入るように見つめた。どこかで風を切る音が聞こえる。多くの戦列が並び、少ない力を持ってして巨大な力に挑もうとする彼らーー。

 

《尚も、まがまがしい武器の力を使い、己が私欲に邁進しようとする者たちよ!》

 

シーゲルの力強い声が、プラントに響いた。

 

《平和と融和の光の下に、ひれ伏したまえ!》

 

 

 

 

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