双子には二重の意味があります故に、ストーリーは大まかに決まってるので安定して書けるかと思います(甘い計画)
というわけで番外編です。
今回の話は、地球ではない場所の物語ーー。
カチリ、カチリと、木製の部屋の中で時計の音が響く。わずかな間ーーとはいえ、すでに一年間も同じジャケットに袖を通している作業も、ずいぶん板に付いたような感覚を味わう。
窓から見える景色。
適切に日光調整されたヘリオポリスの中は、夜空の暗さから朝の清々しい日の中に包まれていた。
《おはよう、ヘリオポリスにお住まいの皆様!日付はC.E.73年5月28日!朝のゴーゴーヘリオポリスのお時間です!時刻は7時30分、本日の設定気温は19度と過ごしやすい気候にーーー》
「貴方ー、朝ごはんですよー」
「すぐ行くよ」
ラウ・ル・クルーゼーーー。
今はクラウド・バーデンラウスと名を変えた彼の1日は、そんな穏やかな言葉で始まりを迎える。
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「今日は学会の先生方との会食なんでしょう?いいの?すっぽかして」
トーストを口に運ぶクラウドに悪戯っぽく微笑むのは、一年前に結婚した妻だ。
リリー・バーデンラウス。
今の名前も、戦争孤児となった彼女の古い家の名から貰ったものだった。彼女はザフト軍内でもメカニックとして一流の腕を持っていたが、作るものがあまりにも特徴的すぎて、多くの部隊で持て余していた異端児だ。
地球に降りたばかりのころ、手持ちぶさだった彼女は熱中症でリハビリ中だったクルーゼにあてがわれ、そこで耳にしたクルーゼと流星との戦いに魅了され、彼自身に直談判し、専属メカニックとして志願。
ーー結果、流星を追い詰めることになったディン・ハイマニューバ・フルジャケットが爆誕するのだった。
「ああ。カレッジのゼミもある。そっちをお座なりにするわけにはいかんさ」
トーストをコーヒーで流し込みながら、クラウドはお気に入りの特製ドレッシングが掛かったサラダを頬張る。メカニックとしての彼女の腕も一流だが、料理の面でも一流だ。この一年ですっかり彼女の料理に胃を鷲掴みにされてしまったらしい。
「今はコンペに向けた駆動部品を作ってる頃ね」
ベーコンを切って食べながら、彼女もカレッジの様子を思い浮かべる。
ギルバートのおかげで、教授としてヘリオポリスに住うことはできたが、人に教えるなどという器用なことを知らなかったクラウドは、右も左もわからないと言った様子を見せてしまい、彼女に少しばかりアドバイスや、手助けをしてもらった。
おかげで、クラウドが受け持つ駆動部門のゼミは他のゼミよりも特色が強く、「合格すれば間違いなし、落ちれば才能なし」と揶揄されるほど、カレッジ内の登竜門として名をはすことになったが、今のクラウドは知る由もなかった。
「新任だがみんな良く私の言葉を聞いて頑張ってくれてるよ」
そう穏やかな口調で言ってはコーヒーを口に運ぶクラウドを見て、彼女はニッコニッコとまるで子供のような笑みを浮かべている。
「何かな?」
「いや、数年前の隊長からは聞けない言葉だなーって」
そう答えたリリーの言葉に、クラウドは頭を抱えるような仕草をして、困ったように笑った。
「ーー隊長はよしてくれ。今の私はしがない教授さ」
隊長という肩書も、クルーゼという名も、流星に負けた時に捨てたのだ。今ここにいるのは、単なる「クラウド・バーデンラウス」でしかない。
いつものように答えたクラウドの言葉に満足したように、彼女は頬杖をついて笑みを浮かべる。
「じゃあ、今晩は教授様がお好きなシチューでも用意しようかしら」
ああ、楽しみにしているよ。そんな言葉を返す今が、昔では信じられないほど幸福だとクラウドは思っていた。今になって、あの殺伐としていた頃のラウ・ル・クルーゼに戻れと言われても、戻れる気はしない。
彼ーー流星が言った言葉の意味を今なら理解できるような気がした。
結局、今の幸せも、彼が自分へ手渡してくれたものなのだから。
「あら、起こしちゃったみたい」
ふと、彼女は立ち上がると奥の部屋でふわふわと泣いている声の方へとパタパタと音を立てて歩いていく。木漏れ日が差し込む部屋の中にある、小さな息吹。彼女が優しげに抱き上げると、聞こえていた泣き声はすぐに聞こえなくなった。
「では、行ってくるよ」
そう言って、クラウドは杖を手に持って立ち上がると玄関へと歩んでいく。
「ええ、いってらっしゃい。ほら、貴女も挨拶しなさい」
玄関へ通じる入り口でリリーを抱きしめたクラウドは、彼女の両手に収まる大事な宝物をそっと撫でた。
「行ってくるよ」
家を出たクラウドは手慣れたようにガレージにある車に乗り込む。カレッジまでは十分ほどの道のりだ。
////
「バーデンラウス教授〜」
覇気のない声が、バーデンラウスゼミの中に響く。論文に目を走らせていたクラウドは見上げると、疲労困憊した女子生徒が、まとめ上げた髪の毛すらぐちゃぐちゃにして教授用のデスクの上に突っ伏す。
「なんだ?回路系の質問ならさっき答えた通りだが?」
「それですよ!何ですか、この回路!こんな回路じゃ駆動系の方が持ちませんよ!」
バッと持ち上がった顔には、明らかな怒りがあった。ふむ、とクラウドは渡したデータと彼女が行き詰まっている耐久性を示した各種オシログラフを見て、簡潔に対策を述べた。
「それは構造フラクタルが合ってないからだろう?もう一度設計から見直してみたまえ」
「ええ…それって徹夜コース…」
顔を青くさせる生徒に、クラウドは重要な数値や構造式に赤線や注釈をつけて、気だるげに肩を落とした彼女を設計室へと送り返した。
「良いものはいい設計からしか生まれない、らしいぞ?」
嫁の受け売りだが、と言葉が出そうになるがすんでのところで飲み込む。彼はゼミ内でも寡黙なイメージを維持していた。
「というか、この資料…本当に実在したんですか?こんな数値で動いて耐えれる駆動制御機構って存在するんですか?」
ペラペラとデータシートをめくる生徒は信じられないような顔をしてこちらを見ているが、事実としてそのデータは存在する。なんて言っても、〝先日〟とってきたばかりのものだ。
「ああ、存在するとも。実体験さ」
その言葉に、生徒たちが信じられないものを目にするような顔をするが、クラウドは気にせずに途中で放置した論文へと視線を戻す。そんな時だ。
「クラウド教授!」
廊下を小走り気味に歩いてきた教授仲間が血相を変えてゼミの扉を開いた。これは…また…。クラウドは小さくため息をつくと、読みかけていた論文データを閉じて、杖を持って席を立つ。
「すまない、席を外すよ」
はーい、と気怠げな返事を背に受けながらクラウドは飛び込んできた教授とともにゼミの部屋を後にする。足音が遠のいていくのを見計らって、設計室や組み立て室にいた生徒たちは1カ所に集まって雑談を開始した。
「ねぇねぇ、バーデンラウス教授がザフトのパイロットって噂、ほんとなのかな?」
「バーカ、知らないのか?ありゃデマだよ」
「えー?」
ロマンがあったのにぃ、と先程まで疲弊した様子だった女子生徒は目をしょんぼりさせて落ち込む。彼女的には、クラウドは歴戦の猛者であり、あの戦争の最終決戦までライバルと凌ぎを削り合い、そして最後には和解して生き残ったというイメージが固まっていたというのに。
そんな幻想を打ち砕くように、飲料水を飲んだ男子生徒が口火を開く。
「ザフト軍ってのも嘘だな。なんでも輸送部隊にいたとかで、オーブと宇宙資源基地の物資を運搬する仕事とかしてたらしい」
「それで、足を?」
「さぁな。大まか戦闘に巻き込まれたとか?」
そう答えてから、部屋の中に嫌な沈黙が降りる。戦いは終わったとはいえ、まだ一年ほどしか経っていない。ヘリオポリスも、地球軍とザフトのイザコザに巻き込まれて大きな痛手を負ったコロニーだ。
あの時の恐怖はまだ彼女たちの心に深い影を落としている。
「なんか、怖いな…」
「もうあんな戦争はごめんだよ、俺も」
故に思うのだ。あんな戦争をもう2度と起こしてはいけない。だから、この中立国コロニーは宇宙の平和の象徴として復興しているのだと。
「さ、切り替えて作業を続けるぞ!いい加減にしないとアーム部門もカトウ教授にドヤされる」
リーダー格の生徒がパンパンと手を叩いて全員に作業を促す。コンペまであと少し。ここからが正念場だった。
////
《I.F.Fに応答は?》
《ありません。おそらく、最近活発になりつつある反政府派のテロリストたちかと》
ヘリオポリスの地下深く。元、ヘリオポリス、モルゲンレーテの秘密港があった場所には、多くの私服姿のオペレーターが集まっており、目まぐるしく情報を処理している様子が写っていた。
「物資欲しさに海賊行為か…全く、目もあてられんな」
無重力空間で、そう言葉を発するのは教授伝にヘリオポリス政府から呼び出されたクラウドだった。
《数は2、港口からブルー25、アルファになります》
「すまんな、助かる」
詳細な情報を貰った彼は、教授の際に着用している私服姿のまま、港のハンガーへと降りていく。靴で降り立った場所から鉄の声が響く。
一機のモビルスーツの上に降りたクラウドに、彼と同じ元ザフト軍の将兵であったヘリオポリスの住人が敬礼を持って彼を見送った。
《ご武運を。隊長》
「隊長はよしてくれ」
さっと乗り込んだコクピットは新品同様。この機体の本来のモニターは、先の大戦でグチャグチャになっていたが、よくここまで修復したものだ。手入れが行き届いたコンソールパネルを立ち上げていくと、通信パネルにリリーの顔が映った。
あきらかに家で洗濯物を畳みながら、まるで帰りに買い物を頼むような仕草で、彼女はコクピットに座るクラウドに話しかけてきた。
《隊長、その機体の整備は万全ですよ》
そう言ってえっへんと張れる胸もない胸元とドヤ顔をしてるのを見て、クラウドは笑みを浮かべた。
「全く、君も変わらんな」
出撃前はこうやって他愛のない話をしたものだ。あの時は、流星との戦いに頭がいっぱいだったため、彼女とのやりとりは適当なところもあったが、今になってからはそれが励みになっていたのだと痛感する。
《ふふ。おかげで隊長と出会えましたもの。そう簡単に手放せませんよ》
彼女も、暇ができればこの機体のメンテナンスや、カレッジで使える機能を使って何かのデータ取りなどをよく手伝ってくれる。彼女も彼女で、この機体に愛着があるのだろうか。
「ふっ…気持ちはわかるがな」
そう言って、クラウドはシートベルトを締める。フットペダルに足を乗せて、スロットルレバーに指をかけた。
《ほら、貴方の娘も、帰りを待ってるわよ?》
彼女が端末を持ち上げると、カメラに向かって嬉しそうに笑う自分の娘の姿がある。驚くだろうなーーいや、信じないか。過去の自分に子供と嫁ができるぞ、なんて伝えても。
まぁいいさ。今この幸せは自分だけのものだ。そう切り替えて、クラウドはモニターに写る妻へ言葉を返す。
「了解した、晩ご飯は用意しておいてくれ。それまでには帰る」
《了解しましたよっと》
通信が切れると同時に、正面の大きなゲートが開いていく。すぐそこには見慣れた宇宙が広がっていた。
《ハッチ解放!バーデンラウス機。発進、どうぞ!》
「クラウド・バーデンラウス。〝ホワイトグリント・リペア〟、発進する!!」
そう答えて、彼は飛び立つ。
白き閃光でも、ザフトのラウ・ル・クルーゼでもなく、一人のーーーパイロットとして。
キャラデザイン
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他キャラも見たい
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キャラは脳内イメージするので不要