ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第19話 爪弾き部隊

「いくら不明艦といっても、この扱いは不当です!」

 

部屋をあてがうと言われたが、どう考えても幽閉されてるとしか思えんな。ドレイクは部屋の前に居るであろう武装兵のことを考えながら、アルテミスの外を一望できる窓を眺めていた。

 

大きな一室の片割れでは、不満を爆発させて折り目正しく被っていた帽子を握り潰すナタルが喚いている。

 

「仕方ないだろー?連中は今、我々を艦に帰したくないんだからさ」

 

めんどくさそうに、ベッドにだらし無く寝っ転がるムウは、怒り心頭なナタルにそう言ってあくびをかいた。なんと緊張感がないのか、マリューが視界の端で額に手を当てているのが見える。

 

だが、ここに閉じ込められている以上、自分たちにはどうすることもできないというのは、ドレイクも同意だった。

 

「おそらく、彼らは今はストライクやアークエンジェルの技術の盗用に躍起になってることだろう。ユーラシアにとってはまたと無い機会なのだからな」

 

「そんな!軍法会議ものですよ!?」

 

ナタルが驚いたように言う。たしかに、大西洋連邦とユーラシアは友好国ではあるが、完全に味方という訳ではない。大金を投じた機密技術を横取りされれば、大西洋連邦も黙ってはいない。

 

しかしだ。

 

「現場にはそんな書類めいた事は通用しないぞ、バジルール少尉。要は手に入れたものが勝者だ。あとはいくらでも誤魔化しは利く。宇宙に瞬く星が一つ増えようが誰も騒ぎしないだろう?そんなものさ」

 

ここは、ユーラシアの掌中だ。

 

大西洋連邦側の人間は居ない。つまり、自分たちの口さえ封じてしまえば、どうにでもなるという魂胆だろう。

 

そこに軍法会議もへったくれもない。

 

アルテミスに入った以上、こうなることを予測できなかった訳ではないが、ここまで強引だとは…自分の考えの甘さにドレイクは我ながら呆れた。

 

「だが、我々は敗北してはいない」

 

ドレイクはニヤリとくたびれた帽子の下でほくそ笑む。

 

自分の部隊の人間が、機密を横取りしようとするハイエナを、はいそうですかと言って見過ごす訳がない。相手が軍法会議も厭わないと言うならば、こちらも同じ手段を取るまでの話だ。

 

「そんなことよりもザフトの動向が気になるところだな」

 

ドレイクの呟きに、ムウは起き上がって頷く。

 

「ええ、ドレイク艦長。俺が気になるのは、連中がこのアルテミスだけは、絶対に安全だと思いこんじまってるってことです」

 

「全く同感だな。歴史上、難攻不落の城など戦争が作り出した与太話に過ぎないというのに。足をすくわれなければ良いのだがな…」

 

ドレイクの予見は漆黒の宇宙に溶けていく。遠からずして、この嫌な予感は当たるだろう。

 

こんな感覚を覚えた日は特に。

 

 

////

 

 

ザフト艦ガモフの艦長、ゼルマンは、プラント評議会に呼び戻されたクルーゼとアスランに代わって、イザークたちの指揮を取っていた。

 

目標は、望遠カメラに映る傘を展開したアルテミスだ。

 

「傘は、レーザーも実体弾も通さない。ま、向こうからも同じことだがな」

 

まさに強力な防壁だ。ザフト艦が幾度となく攻撃をしかけても落ちなかった地球軍の難攻不落の要塞。ゼルマンには、アルテミスがザフトのテリトリーである宇宙で、そのテリトリーを蝕む害虫の巣のように感じられた。

 

「だから攻撃もしてこないってこと?バカみたいな話だな」

 

「だが防御兵器としては一級だぞ。そして重要な拠点でもない為、我が軍もこれまで手出しせずに来たが、あの傘を突破する手立ては、今のところない。やっかいなところに入り込まれたな」

 

イザークの苛立つ声に、ゼルマンもまるで打つ手がないように顔をしかめる。

 

「じゃぁどうするの?出てくるまで待つ?」

 

「ふざけるなよディアッカ!お前は戻られた隊長に、何も出来ませんでしたと報告したいのか?」

 

それにーーとイザークの顔が苛立ちから、明確な怒りに変わる。いや、怒りというより悔しさを孕んだ表情と言えた。

 

「凶星"ネメシス"を目の前にして、指をくわえて見ているだと?それこそいい恥さらしだ!」

 

今の自分たちは、モビルアーマー1機に手間取る程度の赤服と言われている。ガモフもヴェサリウスも、流星の異常な機動性を観測していたので、誰もイザークたちを中傷したりはしないが、イザークにとってモビルアーマー1機に手玉に取られたことが、何よりの屈辱だった。

 

「ふん」

 

それはディアッカも同じだ。ここにいる赤服三人は、流星にきっちり煮え湯を飲まされている。

 

「傘は、常に開いてるわけではないんですよね?」

 

「ああ、周辺に敵のない時まで展開させてはおらん。だが閉じているところを近づいても、こちらが要塞を射程に入れる前に察知され、展開されてしまう」

 

ふむと、話を聞いたニコルは暫く考え込むと、やがてモニターに照らされた顔に、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「僕の機体、…あのブリッツなら上手くやれるかもしれません。あれにはフェイズシフトの他にもう一つ、ちょっと面白い機能があるんです」

 

 

////

 

 

アルテミス近域を漂っていたローラシア級を見送ったヒダルフ中佐の元に、部下が無重力を漂いながら近づいていく。

 

「どうだ?」

 

嫌らしく笑うヒダルフは、部下が伝えに来た情報を心待ちにしていた。アルテミスに逃げ込んできたアークエンジェルとG兵器は、まさに宝。ガルシア少将と同じく、彼もまた転がり込んできた好機に舌なめずりしながら集ろうとしているハイエナだ。

 

しかし、部下の報告はヒダルフが待ち望んだものとは違っていた。

 

「それが…艦の方の調査は順調なのですが、モビルスーツの方が、OSに解析不可能なロックがかけられていて、未だに起動すら出来ないということで…」

 

「なに?」

 

ヒダルフの表情が、笑みから苛立ちに変わる。

 

「今、技術者全員で解除に全力を挙げているところなんですが…」

 

「チィ!小癪な真似を…」

 

あともう一歩のところまで来ているのだ。こうなれば、乗組員たちに吐かせるしかない。ヒダルフは武装した部下を引き連れ、急ぎ足でアークエンジェルのクルーが居る場所へ向かう。

 

 

////

 

 

「アルテミスとの距離、3500。光波防御帯、依然変化なし、か」

 

ニコルは、ブリッツのコクピットで静かにつぶやく。今のブリッツは、漆黒の機体色が鏡のように変化し、機体の全てを宇宙の闇に溶け込ませている。

 

「ミラージュコロイド、電磁圧チェック、システムオールグリーン。…ハァ…テストもなしの一発勝負か…大丈夫かな…」

 

不安げな声とは裏腹に、彼は低出力でグングンとアルテミスへ接近する。ニコルは感情をあまり表には出さないが、イザークと同じく苦汁を飲まされたモビルアーマーには、苛立ちを覚えていた。

 

リベンジできるのなら、あの雪辱を果たしたい。優しげな表情の裏側で、ニコルの闘争本能はギラギラと燃えていた。

 

 

////

 

 

ヒダルフが到着したとき、アルテミスの港の一部はメビウスのメンテナンススペースと化していた。メビウス・インターセプターは、早々に修理が諦められて片隅に寄せられて、今はリークのメビウスに、アークエンジェルのクルーと、クラックスのクルーで運んできた複座ユニットが着々と取り付けられている。

 

最初は怯えていたはずの避難民や、アークエンジェルのクルーたちも、クラックスのクルーや技師たちとの交流でどこか明るさを取り戻しているようだった。

 

「この艦に積んであるモビルスーツのパイロットと技術者は、どこだね?」

 

ごほんと咳払いをして、ヒダルフは高慢な声を轟かせる。

 

「パイロットと技術者だ!この中に居るだろ!」

 

誰も答えずに、じっとヒダルフを見ている状況が気にくわないのか、ヒダルフの副官が怒鳴り声を上げる。

 

「何故我々に聞くんです?」

 

最初に声を出したのは、アークエンジェルの操舵を担当するノイマンだった。

 

「なにぃ?」

 

「艦長達が言わなかったからですか?それともーー聞けなかったからですか?」

 

苛立つヒダルフの声に、今度はハリーがそう呟く。クラックスのクルーが、自然とキラをヒダルフから隠すように移動していく。

 

キラが声を出そうとしたが、横からきたラリーがシッ、と口元に指を立ててキラを黙らせた。

 

 

 

「キラくん、ストライクの、起動プログラムをロックしておくんだ。君以外、誰も動かすことが出来ないようにな」

 

「なんでそんなことを?ドレイク艦長」

 

「なに…何か嫌な予感がしてな」

 

 

 

アルテミス入港前に、メビウスライダー隊と食事を摂っていたキラは、やってきたドレイクにそう言われ、ストライクにロックを掛けたのだ。

 

キラは気づく。

 

ドレイク艦長が言った嫌な予感とはこの事だったと。

 

「なるほど。そうか!君達は大西洋連邦でも、極秘の軍事計画に選ばれた、優秀な兵士諸君だったな」

 

「ストライクをどうしようってんです?」

 

「別にどうもしやしないさ。ただ、せっかく公式発表より先に見せていただける機会に恵まれたんでね。で、パイロットは?」

 

「チッ…白々しい言い訳だぜ…」

 

誰かが言った言葉に、副官が目をギラつかせるが、クラックスのクルーは皆そっぽを向いてごまかす。

 

「パイロットはーー」

 

そう言いかけたマードックを押しのけて、ラリーがヒダルフの前に出た。

 

「俺ですよ。お聞きになりたいことがあるならどうぞ」

 

キラは、前に出たラリーを固唾を飲んで見守る。ヒダルフは値踏みするようにラリーを見て、ハッと鼻で笑った。

 

「先ほどの戦闘はこちらでもモニターしていた。あれほどのメビウスの軌道を実現できるのは、流星と名高い君くらいだ。もう一人のメビウスライダー隊のメンバーもな。それにメビウス・ゼロを操縦できるのもフラガ大尉に限られるくらい、私でも知っているよ」

 

「チッ」

 

どうやら騙し合いはアルテミス側の方が上手のようだった。ヒダルフは再び卑しい笑みを浮かべる。

 

「ふむ、答えないならこちらにも考えはある」

 

彼が目配せをすると、周りにいる武装兵の一人がアークエンジェルのクルーであるミリアリアの腕を掴み上げた。

 

「ミリアリア!」

 

ボーイフレンドであるトールが駆け寄ろうとするが、すぐさま別の武装兵に阻まれてしまう。

 

「女性がパイロットということもないと思うが…この艦は艦長も女性ということだしな…」

 

ヒダルフのその下劣な言葉に、ラリーは…

 

「おい、それ以上するならこちらにも考えはあるぞ…!」

 

いつもの人当たりの良さそうな顔を豹変させ、鋭い眼差しでヒダルフを睨みつけていた。

 

「何をするつもりかね?メビウスライダー隊ともてはやされてはいるが、所詮、君達は爪弾き者の寄せ集めに等しい部隊だろう?」

 

ドガっと音が響く。キラが音がした方を向くと、作業服姿のリークが工具でミリアリアを掴んでいた武装兵のヘルメットを思いっきりぶん殴ったのだ。

 

「ほほう、言ったな?じゃあこっちも御構い無しだ」

 

リークの言葉を皮切りに、クラックスのクルー全員が制服の袖をまくったり、拳を握りしめて臨戦態勢に入っていく。まさに一触即発だ。

 

「それが本性か。野蛮だな。出世したいなら利口であるべきだぞ、貴様。軍法会議ものだぞ?」

 

ヒダルフの言葉を、ラリーはくだらないと吐き捨てた。

 

「あいにく俺たちは出世に興味は無いもんで!」

 

それを合図に、アルテミスの武装兵とクラックスのクルーの乱闘が始まった。彼らも同胞に銃を撃つ気は無かったようで、突然襲いかかってきたクラックスのクルーたちに泡を食ったようだった。無重力の中に鈍い音が響く。

 

たじたじになる部下を使えないと一瞥すると、ヒダルフはラリーに懐から取り出した拳銃を向けた。

 

「ならば、ここでーー」

 

「止めて下さい!」

 

港に、声が響く。

 

乱闘騒ぎになっていたメンバーも、ヒダルフも、ラリーも、その声の発生元に目をやった。

 

「ボウズ…!」

 

声をあげたのは、キラだった。

自分を守るために、多くの人が危険な目にあったり、傷ついたりいく様を見ることを、キラは我慢できなかった。

 

「キラ!お前は良いんだ!」

 

「あれに乗っているのは僕ですよ!」

 

あちゃーとラリーが顔を手で覆って、ヒダルフは笑みをうかべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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