ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第23話 アルテミスを穿て

アルテミス内部に張り巡らされた物資搬送用の通路は、無重力下で効率よく物資を運搬するため、作業用ポッドがコンテナを引き連れて移動したり、自動走行の運搬車が通ったり、果ては下士官が移動するための交通網まで兼ねている。

 

つまり、それがどういうことかと言うとーー

 

「狭ぇえええ!!!」

 

そう。クラックスのブリーフィングで伝えられた通路幅より圧倒的に狭いのだ。いや、狭いだけならまだいい。それは許せる。問題はもっと他にある。

 

「ライトニング1!前方右側に作業ポッドあり!!」

 

目の前に固定も何もされずに浮遊しているコンテナが迫ってくる。ブリッツの攻撃により、作業員が持ち場を離れ、物資搬入通路の有様は、まさに散らかり放題だった。

 

「どりゃああああ!!」

 

「ひぃいいいい!!」

 

固定されてる突起物を避けるならまだしも、無重力に浮かぶコンテナとなると難易度は跳ね上がる。しかも回転などしていたら目も当てられない。ラリーは卓越した操縦技術で通路内デブリと化したコンテナを避けては、スラスターを吹かして、とてつもなく狭い通路を突き進む。

 

「擦れる!!擦れる!!」

 

リークは迫る壁を見ながらギョッとした様子で喚いた。作業員が置き忘れた工具が装甲に当たり、甲高い音を奏でる。すぐ横を見れば通路の壁が凄まじい速さで後ろへ流れていくのが見えた。

 

「うぐぁあ…!!作業ポッド前方に機影2!距離350!続いて物資コンテナ!!」

 

「ふぬぐうううう!!」

 

腹の底から出す踏ん張り声と共に、ラリーが操るメビウスは常軌を逸した軌道を描き、迫り来る障害物の全てを紙一重で避けていく。リークに至っては、ぶつかるだとかそんな心配をするのをやめている。とにかくラリーの軌道にどう耐え忍ぶか、それしか頭になかった。

 

《AWACS、オービットよりライトニング2!生きてるか?》

 

「身体中のあらゆるものが口から飛び出しそうです!!」

 

《無駄口を叩けるなら大丈夫そうだな。今で丁度3分の1の工程をクリアしている!そのままのペースで進め!》

 

「まじかよ、パーティには間に合いそうだな!」

 

オービットの軽口に軽口で返すラリー。だが、その前方にはコンテナが3〜4つ入り乱れた区間が見えてきていた。

 

「ライトニング1!ラリー!前!前!」

 

「見えてるヨォ!!」

 

がくんと体を押さえつける重みが、前から横、後ろ、真上、真下と目まぐるしく入れ替わり、視界がひっくり返り、胃がひっくり返った。

 

「ひょああああああ!!」

 

ラリーがどんな操縦をしたのか、リークには一切理解できなかったが、かすかに開いた視界が捉えたのは、入り乱れたコンテナ群を通り過ぎた光景だった。

 

《そこから先は分岐がある。進路を間違えるなよ!少しでもそれたら外に飛び出すことになる!》

 

了解!とラリーは叫んで更にスピードを上げていく。リークは恐怖を覚える思考を止めて、ただいく先にある障害物をラリーに伝える機械になろうと心に決めたのだった。

 

「うお!!」

 

「なんだ!!?」

 

通路を飛んでいくメビウスを、たまたま目撃したアルテミスの作業員がいた。救命ポッドに乗り込む直前、彼らの頭上を一機のモビルアーマーが軽やかに飛び去っていったのだ。

 

「あれ、モビルアーマー?」

 

そう言って二人は顔を見合わせた。仮にモビルアーマーだったとしても、この狭い通路で出す速度とは思えない速さだった。

 

「信じられねぇ…こんな場所を、アレで通れるのか?」

 

もう一人の作業員がぼやく中、呆然とモビルアーマーが飛び去っていった先を見つめる片割れは、ただ頷くことしかできなかった。

 

 

////

 

 

ラリーたちがアークエンジェルに急ぐ最中、キラもまた懸命に戦っていた。ブリッツの変則的な攻撃を避けながら、キラも負けじと応戦する。

 

「ええい!」

 

オービットから伝えられたキラのミッションは単純に一つ。アークエンジェルとクラックスがアルテミスから発艦できるようになるまでの時間稼ぎだ。ブリッツを撃破する必要はないとオービットやラリーからも釘を刺されている。

 

逃げ回っていれば死にはしない。とにかく敵を港に近づけず、こちらに引きつけることだけに神経を研ぎ澄ましていく。

 

『この…!前に戦った時よりも最適化されてる…!?』

 

ブリッツを操るニコルは、ストライクと相対して戦慄していた。

 

前回戦った時は、ただがむしゃらに戦っているようにしか見えなかったが、今の相手は攻守を適切に選び、臨機応変に戦闘に順応しているではないか。

 

「くそー!4機もG兵器を手に入れれば満足だろ!?もう僕たちを放っておいてくれー!!」

 

ストライクのビームライフルの閃光が、ブリッツの脇をかすめる。射撃精度も上がっているように思える。

 

恐ろしい成長スピードだ。

 

《ライトニング3!聞こえるか!こちらもミッションを継続している!もう少しだ!持ちこたえてくれ!》

 

「ハァ…ハァ…了解…!」

 

キラは途切れそうになる集中力を何とか繋ぎ止めて、スロットルを操る。キラをそこまで持ちこたえさせていたのは、自分の後方にいる仲間たちの存在だった。

 

後方には次なる一手を打つために仲間が、自分と同じように戦っている。そう思うだけで、不思議と力が湧いた。戦う気力が、キラに操縦桿を握らせて行くーー。

 

 

////

 

 

ラリーたちの飛行も残り工程を3分の1としていた。そこで、前方をマッピングしていたリークが、通り抜けてきた通路の先の異変に気付く。

 

「ラリー!前方が!」

 

最後の難関であり、出口でもある南側の港だが、出口付近がコンテナと乗り捨てられた作業用ポッドによって塞がれていた。今までは針の穴を通すように僅かな隙間をくぐり抜けてきたが、今回ばかりはくぐり抜ける余地がない。

 

「どうやら回り道をしている暇はなさそうだ」

 

ラリーはそう言うと、メビウス下部に抱えたレール砲の照準を合わせに入る。今回の弾頭は、ボーディングブリッジなどの構造物を破壊するため貫通性の高い弾頭を選択した。

 

しかし、弾頭の搭載数は少なく、目標であるボーディングブリッジやビットの耐久性も未知数だ。目標にたどり着くまでは、武器弾薬の使用は最低限に留めたい。

 

つまり、チャンスは一度きりだ。

 

「開口部として最も機能する着弾位置を計算…ラリー!あとは頼みます!!」

 

「どりゃあああ!!」

 

リークが解析した弾着位置へ、ラリーは寸分の狂いもなく命中させる。そして躊躇いなく、メビウスは穿って出来た穴へ突入した。

 

一際大きい振動が、二人を襲った。暗闇の中、突如として、メビウスは広い空間へ飛び出した。目の前には、白き戦艦がそびえている。

 

「抜けた!!」

 

《来た!ライトニング1!!》

 

ラリーは操縦桿を傾けて、停泊しているアークエンジェルの周りを旋回した。港の状況は思っていたよりもひどい。司令部が混乱しているためか、持ち場を放棄している兵士が多々見受けられる。集約機があろう場所は兵士でごった返している。

 

ラリーの判断は早かった。

 

「ボーディングブリッジとビットを破壊する!!」

 

機体をするりとアークエンジェルの下部へ潜り込ませると同時に、ミサイルとレール砲の照準を合わせていく。

 

《総員!対ショック姿勢!!》

 

マリューの言葉の直後、アークエンジェルの真下が燃え上がった。通り抜け様に船を固定するビットを次々とミサイルで爆破し、船底を抜けると、軽やかに反転してボーディングブリッジをレール砲で撃ち抜いた。

 

「イヤッホゥウウウ!!!」

 

砕け散ったボーディングブリッジの間を通り抜けて、ラリーが歓声を上げる。

 

《ボーディングブリッジ、およびビット大破!これなら行けます!》

 

《アークエンジェル発進!!対空戦闘用意!ストライクの援護に向かいます!反対側の港にいるクラックスと合流後、全速力でこの宙域を離脱!》

 

枷を引きちぎったアークエンジェルは、宇宙へと飛び立つ。その戦艦を追い越して、ラリーは一足先にストライクの元へ急ぐ。

 

彼らの作戦はまだ終わっていないーー。

 

 


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