ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第24話 逃げるは恥だが役に立つ

 

 

アルテミス近域。

 

ブリッツと交戦するキラは、背後から迫ってくる機影に気がついた。

 

ストライクの背後から軽やかに飛び出し、モビルスーツ戦に没頭していたブリッツへ、貫通性の高いレール砲を直撃させる。

 

「無事か!ライトニング3!」

 

交戦宙域にたどり着いたのは、キラも手伝って複座ユニットを取り付けたリーク・ベルモンドが愛用するメビウスだった。

 

「レイレナード中尉!」

 

映像通信で、メビウスのパイロットを務めるのが本来のリークではなく、ラリーであることに気がつく。

 

「僕もいるけどね!ウェップ…喋ると吐き気が」

 

リークは複座ユニットの座席に座りながら、虚ろな目でキラに手を振って答える。どう見てもグロッキーで体調が悪そうだった。

 

「キラ、作戦通りか!?」

 

そんなリークを棚に上げて、ラリーは作戦の進捗をキラに問う。

 

「はい!機体のエネルギーも温存してます!」

 

「バッチリだな!では仕上げと行こう!」

 

ラリーはそう言って、ストライクの脇を追い抜き、攻盾システム「トリケロス」を構えたブリッツへ接敵していく。

 

『アイツ!凶星"ネメシス"!』

 

また新しいあだ名か!?勘弁してくれよ!ニコルの怒気の孕んだ声を聞いて、ラリーはうげぇと声をあげたくなった。だが、そんなことを言ってる場合ではない。

 

トリケロスから放たれたビームライフルの閃光を機敏な動きで避け、真下をくぐり抜けて宙に「O」を描くように舞い上がる。

 

「なぁリーク、知ってるか!?超古い映画なんだけど、『帝国の逆襲』ってやつ!氷の惑星で、ウォーカーにこうやってた!」

 

Gに必死に耐えるリークに、同じGを受けているはずのラリーはそんな軽口を叩く。機体の鼻先が、ブリッツへ向いてゆく。ラリーは狙いを定めた。今回のメビウスには、ミサイルとレール砲、そしてバルカン砲を取り外して「あるもの」が代わりに搭載されていた。

 

バシュっと、メビウスから射出されたそれは、トリケロスの盾に当たる部分に突き刺さった。

 

『なんだこれ…ワイヤー?』

 

ラリーが放ったのは、ムウがヴェサリウス強襲時に、スイングバイで逃げる為に用いたアンカーワイヤーだった。トリケロスに突き刺さったワイヤーの先端は、引っこ抜けないように楔がせり出し、完全に固定される。

 

過去にも、モビルスーツをワイヤーで捉えようという試みが行われたことがある。しかし、結果はAMBACを自在に操るモビルスーツの機動性の前に大敗。ワイヤーは振りほどかれて、試みは失敗に終わった。

 

『この…!振りほどけない!?』

 

しかし、それは一定方向にしか進むことができないメビウスでの話だ。ラリーはオートとマニュアルを巧みに使い分けて、AMBACで振りほどこうとするブリッツの動きに合わせてワイヤーをさらに機体に絡めていく。

 

「リーク!どうだ!!」

 

「あと一周ぅううー!!」

 

強烈な力で挟み込まれているような、そんな苦悶に満ちた声でリークは、ラリーの問いに答える。そして、メビウスはブリッツの周囲を旋回し終えると、ワイヤーが機体を縛り付けるように締め上げていく。

 

「HEIAP弾が証明したからな。フェイズシフト装甲の弱点を!」

 

破壊することは困難を極めるフェイズシフト装甲。

 

その弱点は、装甲の堅牢さを無視できる高温を発揮するビーム兵器。内部への衝撃を伝えることによりパイロットへ直接ダメージを与える手法。

 

そして、マリューやハリーの指摘を元に考案されたもう一つの手法。

 

「バッテリーの3割持ってけ!」

 

ラリーがワイヤーを切り離す寸前に、リークはそう言って、メビウスの動力源であるバッテリーに内蔵された電流をワイヤーへ流し込んだ。

 

ワイヤーは帯電性に特化したものを選んでおり、それは切り離したあとでも流された電流を逃すことなく、ブリッツの装甲に張り付き続けた。

 

『電流!?うわぁあ!!』

 

ニコルはモニターが告げる情報に目を疑った。エネルギーがみるみる減っているのだ。機体の制御システムもその影響が顕著に現れていて、思うように動かすことができない。

 

フェイズシフト装甲は、攻撃を受けた時にエネルギーを流すことで無効化する装甲だ。じゃあ装甲そのものにワイヤーを巻きつけて高圧電流を浴びせ続けたらどうなるか?

 

答えは簡単だ。

 

装甲は高負荷状態に陥り、莫大なエネルギーが供給される。HEIAP弾が着弾した後も、モビルスーツの動きが一瞬怯んだのも、フェイズシフト装甲に過剰なエネルギー供給があった為に、モビルスーツの機能そのものがオーバーヒート気味になる。

 

「この方法は、一対一の中でも、ほんの僅かな隙でしか使えないし、フェイズシフト装甲の利点は消えないが、動きを止めて時間を稼ぐには充分だ!」

 

「レイレナード中尉!どうするんですか!?」

 

未だに帯電する電流によって身動きが取れなくなったブリッツを見て、キラは指示を仰ぐ。

 

ブリッツだけならば良かったが、ラリーたちが到着する前に、デュエルやバスターの反応も確認されている。アルテミスからの援護を期待できない今、ここでG兵器三機と戦う事になれば、ジリ貧になるのはこちらだ。

 

「キラ!メビウスに掴まれ!」

 

ラリーの指示に従って、キラはストライクのマニピュレータでメビウスに掴まる。今回は前のようにエネルギーがギリギリの訳でも無いので、メビウスの加速性を損なうことはないだろう。

 

「策はある!たったひとつだけ策はある!」

 

ラリーが堂々と勇ましくそう言った。

 

「策…ですか?」

 

「あぁ!とっておきのやつだ!」

 

「と、とっておき…!」

 

キラがゴクリと息を呑む。

今までキラが見てきた人とは、一線を画すラリーだ。きっととてつもない作戦に違いない。と、キラは思っていたが、ラリーの機体に同乗するリークは嫌な予感をピリピリ感じていた。

 

「ま、まさか。ラリー」

 

用心深いラリーが自信満々に言う。その状況をリークは体験したことがある。自分が彼らに救われたときや、絶体絶命の局面に陥ったときだ。そんな時、ラリーやクラックスのクルーは自信満々になるときがあるのだ。

 

「いいか!息が止まるまでとことんやるぜ!」

 

「息が止まるまで!?いったいどういう」

 

キラの戸惑いにラリーは、フフフと不敵な笑いを浮かべてーーー機体をグルリと反転させた。

 

ブリッツや迫るG兵器とは逆方向へ

 

「逃げるんだよぉおおぉおーー!!」

 

「うわぁあああ!!やっぱりそうだったぁああああ!!」

 

ラリーは目一杯にフットペダルでスロットルを解放して、メビウスを最大加速させる。彼らが向かう先には、アルテミスから脱したアークエンジェルとクラックスが悠々と宙を突き進んでいる。彼らもまた、G兵器とは逆方向にだが。

 

『ま、待て!!逃げるのかぁ!!』

 

ニコルの怒号が聞こえるが、ラリーは知ったことかという風に速度を上げていく。

 

逃げるが勝ちという言葉がある。ここでG兵器と戦闘を行っても、不利益を被るのはこちらだ。ならば、ブリッツを無力化した今しか離脱のチャンスはない。

 

アークエンジェルやクラックスも、アルテミスを挟んで反対方向に逃げているのだから、それを追うとなると、ザフトは必然的に、ほんの僅かに復活したアルテミスの防御兵器と戦闘を行う羽目になる。

 

せいぜいできたとしても、交戦宙域に到着したデュエルとバスターは、身動きが取れなくなったブリッツを回収することで手一杯だろう。

 

「ふはははは!!逃げるは恥だが役に立つんだよバーカ!!おとといきやがれ!!」

 

ラリーはお行儀悪くふはははと笑い声を上げて、アークエンジェルに逃げ込んで行く。

 

キラはぽかんと呆気に取られるしかなかった。

 

《メビウスとストライク回収確認!アークエンジェル!クラックス!現宙域を全速力で離脱します!》

 

こうして、策謀に塗れたアルテミスから、アークエンジェルとクラックスはまんまと逃れる事に成功するのだったーー。

 

 

 

 

 


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