ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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ラクス・クライン編
第30話 拾い物と探し物


 

「ポッドを拾っていただいて、ありがとうございました。私はラクス・クラインです」

 

キラが拾ってきた救命ポッドに乗っていたピンクの髪を揺らす少女、ラクス・クライン。

 

彼女は救命ポッドが置かれたハンガーから、マリューやムウに連れられて艦長室へと通されていた。ラクスの周りでは、手に収まるほどの丸い形をした自立型ロボットが、両耳のように付いた羽をパタパタと動かしている。

 

「ハロ!ラクス、ハロー」

 

「これは、お友達のハロです」

 

「ハロハロ。オマエモナー。ハロハロ?」

 

戦場ではかけ離れ過ぎた、その危機感と緊張感の無さに、マリューもムウも、地に着きそうなため息を漏らした。

 

「頭痛薬を貰っても?」

 

ナタルに至っては、どうやら致命傷だったようだ。

 

 

////

 

 

そんな艦長室の前では、ブリッジの非戦闘員である下士官や、氷回収作業に従事していたサイやトールが、中の様子を窺おうと奮戦していた。

 

「なんて言ってる?」

 

「聞こえない。黙ってよトール」

 

扉に聞き耳を立てるサイに、トールが問いかけ、ミリアリアが静かにと宥める。その三人の下あたりには、アークエンジェルのオペレーターや操舵手まで、中の様子を窺おうと必死だった。

 

「おーい、お前ら何してんの…」

 

その様子を呆れた風に見ながら、ラリーが呟く。彼の肩を借りているカズイは完全にグロッキー状態で、そんな友人を気遣うキラがあわあわしていた。

 

「カズイ?大丈夫?」

 

「か、身体中が死にそう…」

 

カズイはそれだけ言い残すと、がくりと再び意識を失くす。

 

「どういうことなのそれ…」

 

表情を引きつらせるキラはさておき、死に体のカズイを支え直しながら、ラリーは呆れ顔で呟いた。

 

「まったく、あれくらいで情けない」

 

「それはラリーだけが言っていいセリフだからね?」

 

キラの後ろにいたリークが、なんとも言えない表情で窘めた。

 

ラリーの急制動は、言ってみればゼロから100近くへ出力が全開で上がる。その負荷を生身で味わう感想を言うなら、見えない力で身体中のありとあらゆる臓器が真横へ押し込められるような苦痛を受けるのだ。

 

訓練を受けているリークや、コーディネーターであるキラなら耐える事もできるが、なんら訓練を受けてないカズイにしてみれば、それはまさに地獄のような苦しみだったに違いない。

 

「おいお前ら、静かにーー」

 

そんなラリーたちのやり取りを注意しようとしたノイマンだったが、体を預けていた扉が開き、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。

 

「うわぁああ!」

 

扉が開いたことで、盗み聞こうとしていたサイたちは雪崩のように艦長室に倒れこむことになった。もちろん、その先には扉を開けた張本人がいるわけで、サイたちが油の切れた歯車のように上を見上げると、仁王立ちしたナタルが帽子の下から鋭い眼光を向けていた。

 

リークやキラは苦笑し、ラリーは言わんこっちゃないと顔を手で覆って天を仰いだ。

 

「まったく…お前達にはまだ、積み込み作業が残っているだろう!さっさと仕事に戻れ!」

 

その一喝に、雪崩れ込んだ下士官たちは即座に飛び起きると、我先にと艦長室を後にしていく。ナタルがため息をつきながら扉を閉める直前、ラリーは保護された少女と目があった。

 

彼女は人懐っこい笑顔を浮かべ、手を振りながら扉の向こうへ消えていく。

 

ラクス・クライン。

 

後のSEEDの世界で絶大な力を持つことになる少女。

 

そしてキラの思いと運命を決定づけた人物でもある。

 

前世では、賛否両論だった彼女の所業であるが、劇中で彼女がなぜ、そんな道を選んだのかという根本的な答えは語られていない。

 

故に、ラリーは気になっていた。だから、キラが救命ポッドを見つけた時もあえて何も言わずに、船に運び込ませた。

 

確かめなければならない。

彼女がターニングポイントだ。

 

もし、彼女が単なる戦争嫌いという理由だけで、戦場をかき乱す厄災であるならばーー、その時は。

 

ラリーはそんな思いを一旦仕舞い込んで、肩に担ぐカズイを支える。

 

今はとにかく、彼を医務室に運ぶことだ。

 

 

 

////

 

 

 

「クラインねぇ~。彼の、プラント現最高評議会議長も、シーゲル・クラインといったが…」

 

それぞれの自己紹介を終えたところで、行儀悪く艦長席の机の上に腰掛けるムウは、自分のおぼろげな記憶をたどってそう言った。

 

その瞬間、ラクスの顔が「まぁ!」と言わんばかりに華やぐ。

 

「シーゲル・クラインは父ですわぁ。御存知ですの?」

 

ラクスの爆弾発言に、ムウはやっちまったと天を仰ぐ。通信機越しに話を聞くドレイクも、同じように深いため息をついた。

 

「そんな方が、どうしてこんなところに?」

 

気を取り直したマリューが、ラクスに問うと、彼女の表情に陰が差していく。

 

「私、ユニウス7の追悼慰霊の為の事前調査に来ておりましたの。そうしましたら、地球軍の船と、私共の船が出会ってしまいまして…」

 

そう、それはとても不運なことと言いたげに、ラクスの表情は曇っていく。

 

「臨検するとおっしゃるので、お受けしたのですが……地球軍の方々には、私共の船の目的が、どうやらお気に障られたようで…些細ないさかいから、船内は酷い揉め事になってしまいましたの。そうしましたら、私は、周りの者達に、ポッドで脱出させられたのですわ」

 

「なんてことを…」

 

マリューの落胆した声が響く。ドレイクは通信機の前で顎に手を添えて思考を深める。地球軍が何ら事前連絡もなく民間船を臨検するなど、異例だ。少なくとも、臨検を実行する宙域の連絡くらいはするはずだろう。

 

と、なれば。その臨検は仕組まれたもの。その民間船にラクス・クラインが乗っていると知って過激な手段に出たのかもしれない。

 

問題は、地球軍がそれをどこで知ったかだ。

 

「それでー、貴方の船は?」

 

「分かりません。あの後、地球軍の方々も、お気を静めて下さっていれば良いのですが…」

 

ラクスの悲壮な声に、誰も答えることはできなかった。

 

なんて言っても、その民間船は撃沈されている。そこに残っている資材や食料を回収する作業を行なっていた時に、キラがポッドを見つけたのだから。

 

 

////

 

 

《ヴェサリウス発進は、定刻通り。搭乗員は12番ゲートより、速やかに乗艦》

 

プラントの艦船用ターミナルの放送を聴きながら、アスランは心に焦りを抱いていた。

 

自分の婚約相手であるラクスが、行方不明。

 

そして自分の親友が、地球軍でモビルスーツを動かしている。

 

頭がどうにかなりそうだった。

 

アスランは、感情の螺旋の中で揺れ動いていた。

 

ふと、顔を上げると、ターミナルの入り口からクルーゼと、パトリック・ザラーー自分の父親が現れたのが見えた。

 

「アスラン。ラクス嬢のことは聞いておろうな」

 

「はい。しかし隊長…まさかヴェサリウスが?」

 

アスランの問いに、クルーゼはいつものように表情が見えないマスクの下で笑みを浮かべた。

 

「おいおい、冷たい男だな君は。無論我々は、彼女の捜索に向かうのさ」

 

「でも、まだ何かあったと決まったわけでは……民間船ですし…」

 

流石の地球軍も、そこまで手荒な真似はしないであろうーーとアスランは信じたかった。しかし、現実は残酷であった。

 

「公表はされてないが、既に捜索に向かった、ユン・ロー隊の偵察型ジンも戻らんのだ」

 

えっ、とアスランは溢れるように声を漏らした。偵察型とは言え、モビルスーツだ。相当な熟練度がなければ撃ち落とすのは容易ではない。故に、誰が落としたのかーーその推測は簡単であった。

 

「ユニウス7は地球の引力に引かれ、今はデブリ帯の中にある。嫌な位置なのだよ。ガモフはアルテミスで足つきをロストしたままだ」

 

まさか!キラが?

その思考で、アスランは顔をしかめる。

そんな様子に気づきもしないで、パトリックは不安に揺れる息子の肩へ手を置いた。

 

「ラクス嬢とお前が、定められた者同士ということは、プラント中が知っておる。なのに、お前の居るクルーゼ隊がここで休暇という訳にもいくまい。彼女はアイドルなんだ。頼むぞ、クルーゼ、アスラン」

 

「は!」

 

クルーゼの敬礼と、ぎこちないアスランの敬礼に満足したのか、パトリックは悠々とターミナルを後にしていく。

 

「ーー彼女を助けてヒーローの様に戻れと言うことですか?」

 

父がいなくなったことで、仮面を外したようにアスランの表情に不安が現れる。そんなアスランの言葉に、クルーゼはふむと考えた。

 

「もしくはその亡骸を号泣しながら抱いて戻れ、かな」

 

その言葉に、アスランの肩が震える。母をユニウスセブンで失ったアスランには酷な言い方だっただろうか。しかし、クルーゼにはどうでもいい話だ。ラクス・クラインが生きていようが、死んでいようが、この戦争が終わることはない。

 

この戦争が終わらない限り、自分は希望を見ていられる。クルーゼの本質的な興味はそこにしかなかった。

 

「どちらにしろ、君が行かなくては話にならないとお考えなのさ、ザラ委員長は」

 

故に、今は与えられた役割に徹する。

クルーゼはそう言葉を締めくくると、一足先にヴェサリウスへ乗艦するのだった。

 

 

 

 

 

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