すべて読ませていただいてますが、仕事もあるので返事ができなくて申し訳ありません。とても励みになってますし、細かい修復の材料にも使わせてもらってます。
とりあえず、シードの終わりまでは構想は練れてるので、ぽちぽち書き上げていくつもりです。ウチのクルーゼさんはキマってますよ笑
ラリーさんの機動力は、エースコンバットのフギムニにアーマードコアネクストのクイックブースト使ってるイメージをしてもらったら有難いです。エンジン壊れちゃうぅうってなってる。
「どういうことか、説明してもらえるかな?」
アークエンジェル護衛艦クラックス。
その艦の指揮を執るドレイク・バーフォードは抱えた苛立ちを表すように深く帽子を被り、ツバの下から鋭い眼光を放って、モニターに映る弁明者を見つめていた。
《すまない、我々の管理不足だ》
その視線の先にいるコープマンも、申し訳なさそうに目を細めては、ドレイクに謝罪の言葉を返す。
事の発端は、コープマンが連れてきたジョージ・アルスター事務次官の独断行動だった。
彼は地球の政治家であると同時に、コーディネーターを忌み嫌う、ナチュラル主義を掲げる組織「ブルーコスモス」のメンバーでもあった。
穏健派として有名であったからこそ、第八艦隊の指揮をするハルバートン提督もコープマンも、彼が先遣隊の船に乗り込むことを承認した。
だが、その判断は間違いだったと思い知らされる結果となった。
「艦長!!」
艦長室で、プライベートチャンネルを使ってコープマンと通信をするドレイクに、ラリーは机を手のひらで叩いて訴えた。彼とリークが、怒り心頭の様子でアークエンジェルからクラックスに戻ってから、こうなるまでは時間はかからなかった。アークエンジェルで伸されたブルーコスモス派の下士官の回収に、モントゴメリのクルーはてんてこ舞いだ。
「落ち着け、ラリー。確かにアルスター事務次官の行動は認められないが、彼の言い分にも一理はある」
故に、ブルーコスモス派の士官も同調したのだろう。ドレイクは呆れたようにため息を吐いた。ここ近年になり、ブルーコスモス上層部の人間と、地球軍の癒着の噂は聞いていたが、ここまで深刻だったとは。コープマンも苦虫を噛みつぶすように、己の人を見る目の無さを呪っていた。
「じゃあ、キラを黙って差し出せと言うのですか!!」
再び、ラリーは机を叩く。一理あるからハイそうですかといって、キラをブルーコスモス派の人間に引き渡すことは、なんとしても認められなかった。
「月にキラが連れていかれたら、俺たちには打つ手が無くなる。軟禁で済めばまだいいが、最悪の場合はーー」
そこから先を言わずとも、ドレイクもコープマンも大方予想はついていた。秘密を知ったコーディネーター。カバーストーリーはいくらでもでっち上げられる。そのまま事が最悪の方に向かえばーースパイ容疑で銃殺刑なんてものもあり得る話だ。
「おそらく、我々が会話していた情報を、アルスター氏は何らかの方法で知ったのでしょうな」
《ああ、いくらハルバートン提督が、反ブルーコスモスとは言え、アルスター氏が乗艦している以上、一定数の配下の人間も紛れ込んでいたんだろう》
モントゴメリの通信は、もう使い物にはならないだろう。グリマルディ戦線から愛用している秘密通信ができる、このプライベートチャンネルしか安心できる通信手段は無いと見た方がいい。唯一の救いは、アークエンジェルの通信網は何とかこちらが押さえることができたくらいだ。
「まったく、政治家というのは愚かな生き物だ…」
《ドレイク…そう言ってやるな。彼らも必死で》
「必死なら、地球のエネルギー供給網があんな馬鹿な事になる前に、誰かが核の発射を止められた筈ですよ、大佐」
プラントが強硬姿勢を見せていたのも原因ではあるが、核は撃つべきではなかったと、ドレイクは今でも思っている。
核が当然の報復であり、プラントを服従させる手段だと言う輩もいるだろう。
しかしだ。
核が撃たれてどうなった?そこから広がったのは、底深い憎しみに駆られて倫理を失った、軍と兵士による虐殺だ。地球をボロボロにされても、その憎しみを原動力に、この殲滅戦争はまだ加速を続けている。
「とにかく、今はキラくんをこちらに置くしかないだろう。秘密裏に、こちらにお越しいただいた姫にもな」
ドレイクは深みに入ろうとした思考を切り替えて、ラリーを見た。キラをこちらに連れてくる時、同時進行でクラックスの整備クルーが引き上げる際に、ブルーコスモスの魔の手からひとりの少女をこちらに保護していたのだ。
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クラックスの物資ハンガーを眺めながら、キラは作業服の上を脱いで、腰に袖をくくった姿で宙を漂っていた。
キラは、ラリーと共に乗り込んだメビウス・インターセプターの格納作業と、他メビウスの弾薬の補給作業を手伝っていたのだ。何もせずに部屋にいるより、手を動かしている方が気分も楽になるだろう、と提案したリークの言った通り、アークエンジェルにいた時よりも、キラの心は少しだけ軽くなっていた。
しかし冷静になる分、考えることも増える。キラは作業を終えた体を漂わせながら、自分のこれから先を考えていた。
「はぁー僕、どうなっちゃうんだろうなぁ…」
ここは軍であり、戦場。このままクラックスに居続けるという訳にもいかないだろう。
考えても、考えても、答えは出ない。
サイからも聞いていたように、フレイの父親がブルーコスモス派だということは分かっていたが、実際にああいうことをされると、堪えるものはあった。
すぐにラリーやリークが庇って助けてくれたものの、キラの中には少なからず、ジョージから発せられた言葉へのしこりがあった。
「マイド!マイド!」
思いにふけってると、キラの横を愉快な電子音を響かせながら球体状の何かが横切っていった。
それにキラは見覚えがある。
続いて、その球体状の何かを追いかけるように、宇宙空間ではナンセンスなヒラヒラした服装をした少女がキラの横に現れた。
「あら、キラ様もここにいらしてたんですのね」
「えっ」
何事もないような風に、ラクスはキラに微笑んだ。あまりの唐突さに、キラは素っ頓狂な声を出してしまう。
「お散歩をしてましたら、こちらからお声が聞こえたものですから」
「ええ…駄目ですよ…勝手に出歩いちゃぁ……スパイだと思われますよ?」
そう言って周りを見渡してみるが、クラックスのクルーはあまり気にしていない様子だった。それどころか、ラクスに向かって手を振ってる者もいる。軍人とは一体…とキラは小さく頭を抱えるのだった。
キラは知らないが、ラクスの件を請け負ったのはドレイク本人だった。
先の戦闘が終わり次第、ラクスをクラックスに移すことを提案したのもドレイクであり、コープマン率いるモントゴメリ艦隊と通信が繋がった際に送った避難民名簿の中から、保護したラクスの名前を消させたのも彼だ。
地球軍内で、AWACSシステムを初めて導入した先見の明は、遺憾無く発揮されていること、キラは後で知ることになる。
「このピンクちゃんは…お散歩が好きで…というか、鍵がかかってると、必ず開けて出てしまいますの」
「ミトメタクナイ!」
ハロの元気な声に、ラクスは微笑むが、その表情から明るさは見えなかった。
「ーー戦いは終わりましたのね」
その言葉に、キラはアスランに銃口を向けたことを思い出して、わずかに息を詰まらせた。
「ええ…まぁ…」
「なのに、悲しそうなお顔をしてらっしゃいますわ」
キラは驚いて目を見開き、ラクスを見た。まるで心のうちを見透かしているような…。ラクスもその言葉の後、悲しそうに目を細めている。
「僕は…僕は、わからないんです。確かに、メビウスライダー隊の皆のように、大切なものを守るためには戦うしかないって、わかってるんです。けれど、それ以前にアスランは…とても仲の良かった友達なんだ…」
気がつくと、キラはそんなことを言い出していた。ラクスに言ってもしょうがないというのに、無意識にアスランへの懺悔が言葉に溢れた気がした。
「アスラン?」
「アスラン・ザラ。彼が…あのモビルスーツの…イージスのパイロットだなんて…」
ラクスの問いにキラはそう返すと、彼女はそうでしたのーーと儚げに顔をうつむかせた。
「彼も貴方もいい人ですもの。それは悲しいことですわね…」
「アスランを…知ってるんですか?」
意外だった。軍人であるアスランと、プラントの歌姫であるラクスが知り合いだったとはーーそんなキラの思いにラクスはさらに情報を上乗せした。
「アスラン・ザラは、私がいずれ結婚する方ですわ」
その言葉に、キラは思わず固まった。
「アスランの…恋人…?」
少しの沈黙の後に、再起動したキラは確認するようにラクスに言葉をつなぐ。彼女は笑顔で頷いた。
「優しいんですけども、とても無口な人」
「ハロ!」
「でも、このハロをくださいましたの!私がとても気に入りましたと申し上げましたら、その次もまたハロを」
お庭にはこの子の兄弟が沢山いますの、とラクスは楽しそうにそう言って笑った。キラもそんなアスランを想像する。彼は褒められたら舞い上がってしまう性格だったからーー、きっとラクスにハロを喜んでもらえて嬉しかったのだろう。
作業机に向かって夜も眠らずにハロ作りに没頭する親友の姿を想像して、キラは小さく笑った。
「そっかぁ、相変わらずなんだな、アスラン。僕のトリィも彼が作ってくれたものなんです」
「まぁ!そうですの?」
では、この子はハロのお兄さんですね。と言って、ラクスはキラの肩にとまっているトリィの頭を優しく撫でた。
「ぁぁ……でも…」
キラの表情に暗い影が差す。自分がここにいる限り、アスランとはまた戦う運命にあるだろう。恋人であるラクスの目の前で、彼と戦うーーーそれがどれほど残酷なことなのか。
「お二人が、戦わないで済むようになれば、いいですわね」
ラクスもそんなキラの考えと同じように、この悲しい戦争の行く先を憂いては、瞳を細めていた。
////
《ラクス・クラインをザフトに返す!?》
「バジルール少尉!しーっ!しーっ!!」
その頃、クラックスの艦長室では、アークエンジェルと、モントゴメリからローに移ったコープマン大佐を交えたプライベートチャンネルの通信が行われていた。
ドレイクが提案した今後の方針に、マリューの横にいたナタルが信じられないような顔つきで頭を抱えた。
《し、しかし、彼女はクラインの娘で…》
そんな彼女の言い分を、ドレイクはくたびれた帽子のツバをいじりながら一睨みして黙らせる。
「我々が迎撃したナスカ級は、すでに死に体に等しい。モビルスーツもイージスと、ラリーが中破させたシグーの二機程度だろう。しかし、なぜ彼らは撤退せずにこちらについて来てると思う?」
バーナードの爆発を至近距離から受けたナスカ級は、外から見てもわかるほどの損害を受けていたはずだ。加えて、先の戦闘で敵は三機のモビルスーツを失っている。
にも関わらず、敵は自分たちの後方をぴったりと付いてきてるーーということは。
《ーー増援を待っているのですか》
マリューの言葉に、ドレイクは頷いた。死に体の船でも、敵さえ観測していれば味方を呼び、挟撃することも追撃することも叶うだろう。
「ハルバートン提督の待つ第八艦隊にたどり着く前に、ザフトの増援が来たら厄介な事になる」
最悪の場合は、ザフトの大軍と第八艦隊との艦隊戦闘に発展しかねない。
「だったら、彼らのアイドルである彼女を保護要請のもと、ザフトに送り届ければいい。そうなれば、彼らも囚われの姫を助け、ザフトに帰還する大義名分と、帰らなければならない理由ができるだろう?帰った後のカバーストーリーは、ザフト側次第だがね」
プラントも一枚岩ではあるまいと、ドレイクは考えていた。要人の娘である彼女を連れたまま、追撃という愚かな真似をすれば、有力派閥からの批判で、ザフト軍の評判も悪くはなるはずだ。
それに、敵はまだ現れていない。引き渡しを申し出ても戦闘を強行してくるならば、死に体の船を沈めるしかあるまい。
《し、しかし、彼女は軍事外交での大きなカードになります!ここでみすみす返還するわけにはーー》
「じゃあどうするね?このまま拉致して拷問してザフトを脅すか?」
ドレイクの冷たい眼差しが、ナタルを貫いた。しばらくの沈黙の後、彼は深く息を吐いて改めてナタルを見つめる。
「ーー恨み辛みで、この戦争は泥沼化している。そんなことをすれば、火に油を注ぐ事態になりかねん。ここは人道的に、彼女をザフトに返し、追ってくるナスカ級を追い払うのが賢明ではないか?」
たしかに、ある程度の損害に目を瞑れば、死に体の船を沈めることはできるだろう。しかし、それでは悪循環を断つことはできない。ドレイクにとって、その悪循環を断つことが何よりも優先だった。
《私も、ドレイクの意見に賛成だ》
コープマンも、ドレイクと同様に頷く。
《我々の戦力は乏しい。できる限り戦闘は避けて、傷を付けずにアークエンジェルを第八艦隊へ合流させたい思いはある。それにこの船に、プラントの要人の娘が乗ってるとブルーコスモスの連中にバレたら、厄介な事になるのは確かだからな》
彼もまた、反ブルーコスモス派の人間だ。自分が指揮する船の中で勝手な真似をされたのだから、少なからず怒りを覚え、納得もしてないのだろう。
《私も、バーフォード艦長とコープマン大佐の意見に賛成です》
続いてそう言ったのは、マリューだった。そんなマリューをナタルは信じられないような目で見つめてる。
《ラミアス艦長!》
《今は一刻を争う事態なの。先の戦略を考えるのはわかるけれど、ここで私たちが落とされたら元も子もないわ》
とにかく、今は戦力を温存したまま第八艦隊に合流することが優先だということは、三人の中でも共通の意識だった。
「俺も艦長の意見に賛成だ。悪役になるよりは正義の側でありたいのが世の常だしな」
ドレイクの隣にいたムウがそう言って締めくくり、三隻の艦長の意思疎通はこれにて終了となった。
次は、どうやって彼女をザフトに保護させるかーー。
「決まりだな。では、作戦を練るとしよう。送り届けるパイロットについてだがーーー」
////
「僕がですか!?」
格納庫でラクスと話をしていたキラを捕まえたドレイク達は、ハンガーでメビウスの修理をしていたラリー達も引き連れて、作戦会議で決まった内容を伝えた。
「そうだ。全会一致でキラに決まった」
ドレイクの言葉に困惑するキラへ、AWACS「オービット」のオペレーターであるニックが肩へ腕を回しながら軽口を叩いた。
「なぁに、安心しろ。部隊運用はメビウスライダー隊でやるし、ストライクの護衛にはラリーとリークが付くしな。」
すると、キラと同じく作業服姿のリークが頷く。
「キラくん、君にはザフト艦へアプローチを取って、クライン嬢を丁重に返還する役目を担ってもらう」
「今作戦は、アークエンジェルとクラックスで敢行する。モントゴメリとローのクルーに気取られるなよ?奴ら何しでかすか分かったもんじゃないからな」
ドレイクの言葉に、ラリーもリークもニックも、うんうんと頷いた。すると、ドレイクは帽子を脱ぐと、キラの隣にいたラクスへ、紳士的に頭を下げた。
「クライン嬢、我々が責任を持って貴方をお送りいたします」
「まぁ、ありがとうございます」
ラクスもそれに答えるように、無重力の中でスカートの両端を掴んで会釈で返す。すると、ニックがラクスへ近づいた。
「だから、その前に」
一枚いいですかとジェスチャーをし、ラクスと共にピースをしたニックが、いつの間にか出したカメラのシャッターを自分たちに向けて押した。
カメラのフラッシュが瞬き、光が冷めてから少し沈黙。
「あーーーー!!!!」
そして周りに人だかりと化していたクラックスのクルー達から、一斉にブーイングの嵐が起こった。
「ニック!ズルイですよ!!写真はダメだって!!」
「うるせー!!今日を逃したらこんな機会無いだろ!?」
「こないだは、思い出は心の中に焼き付けとけとか言ってたくせに!俺我慢してたんスよ!?」
「この人ツーショット撮った!!ラクス・クラインとツーショットだよ!?ツーショット!!」
「まったく、少しは慎みというものを持てんのか、お前たちは…」
ギャーギャーと騒がしては、取っ組み合いに発展するクルーの様子を見て、ドレイクはくたびれた帽子を被りなおして呆れたように呟く。
そんな喧騒をキラの隣で眺めていたラクスは、ふーむと考え込むような顔つきをしてから、思いついたように手を叩いた。
「では、皆さんでお撮りになればよろしいのでは?」
しばらくしてから、ラクスはノーマルスーツに着替えて、キラの操縦するアークエンジェルとの連絡船に乗り込むことになった。
彼女の傍に置かれたバッグには、その後、小さなお別れ会でクラックスのクルーから渡された思い出の品々と、別れ際に撮った、クラックスクルーの集合写真などが詰め込まれていた。