ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第40話 秘密の出撃作戦

 

「マイド、マイド!」

 

「しーっ、ハロ」

 

手筈通り、開けっ放しにしていた側面のドッキングベイに接続した連絡船から降りたキラとラクスは、何も知らない下士官たちが眠っている中、ひっそりとストライクがある格納庫へ向かっていた。

 

「なぜこんなに忍足ですの?」

 

「テヤンデイ!」

 

「と、とにかく黙って、一緒に来て下さい。…静かに…」

 

シッと口に指を立てるキラに倣って、ラクスも小さく手で口を塞ぎ、もう片方の手でハロを抱えた。

 

本当なら、あのまま連絡船でザフトへラクスを渡しに行ければ良かったのだが、あくまで相手は敵。もし攻撃を受ければ、連絡船ではひとたまりもない。

 

かと言って、居住性が最悪の一言では済まないメビウスのコクピットに、ラクスを乗せようものなら、彼女を乗せたラリーかリークが、クラックスクルー全員からのブーイングを受け、もしザフトにバレようものなら破廉恥の罪でその場で銃殺されても文句は言えないほど狭いのだ。

 

敵が反撃してきても応戦できる戦力を持ちながら、ラクスを乗せても大丈夫な機体となると、アークエンジェルで鎮座するストライクしか思いつかなかった。

 

しばらくラクスと通路を進んでいると、行く先にある食堂に明かりが灯っているのが見えた。消灯時間はとっくに過ぎてるはずなのにと思いながら近づいていくと、食堂から二人の話し声が聞こえてきた。

 

////

 

 

深い深いため息。サイはそのため息の主の話に耳を傾けていた。

 

「ねぇ、サイ…私どうしたらいいんだろ」

 

何度目か忘れた同じ言葉に、サイは机にだらしなく頬杖しながら唸る。

 

「どうしたらって…」

 

そう答えると、その問いを投げかけたフレイが困惑するように顔をしかめた。

 

「だって、パパが言ってることが…昔みたいに、スッて心に入ってこなくなっちゃったんだもん」

 

キラとの一件があって、あれからフレイは自分の父と話した。ここまでたどり着く道中で何があったのかを。しかし、彼女はあえてラクスのことは口にしなかった。

 

当然だろう。もし父にラクスのことを話せば、彼は真っ先に彼女を拘束するに決まっている。ただのコーディネーターではなく、プラントの要人の娘となれば、バカでも少し考えればどうなるか分かるものだ。

 

その思いを胸に隠して、フレイは極力笑顔を絶やさないように父の言葉に耳を傾けていた。だがーーー。

 

「パパが言ってることが間違ってるように思えて…コーディネーターだって、キラやラクスみたいな人もいるのに…そもそも、パパを助けてくれたのはキラたちなのに…」

 

そうポツリポツリと呟くフレイの手は目に見えて震えていた。なにが『コーディネーターは危険』だ。危険だと非難しているくせに、助けられたお礼の言葉も言えないのかと。

 

「フ、フレイ?落ち着いて?」

 

フレイの気性の荒さを知っているサイは、今まで見たことがない苛立ちを見せる彼女を宥めようと肩に手を置いたが、全くの無駄だった。フレイはダンっと机を叩いて苛立ちで燃え上がった感情を外に吐き出す。

 

「考えたらだんだんムカムカしてきたわ…もうっ、本当になんなのよっ、まったく…!」

 

自分自身のためではなく、キラやラクスを思って怒りを露わにするフレイを、変わったなーと思う反面、やはり怖いものは怖いと思うサイだった。

 

「あ…?キラ?」

 

「え?」

 

対するキラは、「ここだ」と見計らって、閉まっていた食堂の扉を横切ろうとしたのだが、扉のセンサーが予想外のものをーーー突然迫った球体状の物体を感知して、扉が開いてしまった。

 

「マイド!」

 

「げっ!!」

 

羽のようなパーツをパタパタとはためかせながら、ハロは元気よく電子音を流しながら食堂の中へと入っていく。完全に姿が丸見えになったキラは、今まで出したことがないような声を上げて、その後ろでーーー

 

「あらごきげんよう、フレイさん」

 

ノーマルスーツに身を包んだラクスが、呆けたまま彼女を見つめるフレイに手を振っていた。

 

あちゃーとキラは手で顔を覆って、二人の反応を窺うように顔を上げた。すると、キラの予想通り、サイもフレイも「何やってんだこいつ」と言いたげに顔をしかめている。

 

「な、何やってんだ?お前」

 

いや、サイに至っては直接そう聞いてきた。フレイも、頭痛を労わるように額に指を添える。

 

「ラクスを、どうするつもり?」

 

フレイには、なんとなく、キラが今からやろうとしていることの想像はついた。自分の父の浅ましい考えを、笑顔の仮面をかぶって聞いていたのだから、その迫り来る魔の手を、何もせずに黙って見ているわけはないだろう。特にクラックスのクルーがキラの味方をしているなら尚更だ。

 

「えっと、機密事項で…」

 

案の定の答えに、フレイはやっぱりと呆れたようにつぶやく。そのやり取りを見ていたサイも、ようやく合点がいったのか、驚いた様子でキラを見た。

 

「まさか!」

 

「黙って行かせてくれ。ーーフレイのお父さんに気づかれると不味いんだ。サイ達を巻き込みたくない。…ごめんね」

 

サイの声を遮って、キラは真面目な口調で二人にそれだけを伝えた。フレイの父を知る二人にとって、キラのこれからの行動に対する感情はあまり良いものではないーーと思っていたが。

 

「まぁ…女の子を人質に取るなんて、本来、悪役のやるこったしな」

 

サイは少し、間をおいてから「手伝うよ」と、キラに笑顔を向けた。フレイも、キラの予想とは裏腹に優しい手でキラの肩にそっと手を置いて、悲しそうに目を細めた。

 

「ごめんね、キラ。アンタを庇ってあげられなくて」

 

フレイの言葉は、まっすぐだった。それを聞いたキラの胸の中に、熱がともってくる。コーディネーターであることに、自分とサイ達はどこかが確実に違うということに、どこか後ろ指を指されている感覚が、無くなったような気がした。

 

フレイはそれからいつものような花を咲かせたような笑顔に変わって、キラの背中をバンッと叩いた。

 

「さぁっ!さっさとラクスを送るわよ!サイとも話はしていたんだけどーーやっぱり、こんなの間違ってるもん」

 

「サイ…フレイ…ありがとう」

 

そう言ってくれる二人に、キラはただ深く頭を下げて感謝した。頭を下げてからしばらくそのままだったのは、瞳から溢れたものを抑えるのに必死だったからだ。

 

そんな様子を後ろから見ていたラクスは、ただ優しく、その理想のあり方に美しさと尊さを感じ、微笑むのだった。

 

 

////

 

 

格納庫に着いてからは、先に準備をしていたマードック指揮の下、オフラインでのストライクの発進準備が進められていく。キラもヘルメットを被って出撃準備を整えている中で、サイのエスコートを受けてラクスがストライクのコクピットへ乗り込んだ。

 

「ありがとう」

 

手を離して、ラクスはサイに感謝の言葉を送る。そのラクスの容姿に魅入られたのか、サイはしばらく惚けてからハッと我に帰った。

 

「あ…いえ、痛っ!!」

 

突然跳ね上がったサイの腰あたりを、フレイがつねっている様子が見えて、ラクスは小さく笑った。

 

「またお会いしましょうね。フレイさん、サイ様」

 

「はっはっは…それはどうかな?」

 

腰あたりをさすりながら困ったように笑うサイに、ラクスも「まぁ」と言って笑顔を返した。すると、彼女は思い出したかのように肩にかけていたバッグの口を上げて、一枚の写真をフレイに差し出す。

 

「フレイさんに、これを」

 

「何よ、これ」

 

「私と貴女の思い出ですよ」

 

フレイが受け取って見ると、それは最初にフレイとラクスがクラックスに乗艦したときの写真で、自由に歌うラクスに振り回されるフレイといった様子だった。

 

ラクスが言うには、クラックスのクルーが隠れて写真を撮っていたらしい。ちなみに他の写真は、ハリーやドレイクによって押収、処分されることとなった。

 

「ありがとう、大事にするわ」

 

フレイは、その写真とラクスを交互に見てから彼女に微笑む。

 

「キラ、ちゃんと帰って来るよな?」

 

「うん、帰ってくるよ。僕は」

 

そう言って、キラはサイと拳をぶつけ合って挨拶を交わす。その様子を、フレイはどこか羨ましそうに眺めていた。

 

「いいわねぇ、男の子って」

 

すると、フレイの体が突如としてひきよせられた。視線を動かす前に、フレイの頬に柔らかい何かが当たる。見てみれば、バイザーが上がったノーマルスーツに包まれたラクスが笑みを浮かべている。

 

「ら、ラクス!?」

 

すぐに離れようとしたが、頭をラクスのノーマルスーツにぶつけてしまって、コツンと音が響く。恥ずかしさからか、フレイの頬は真っ赤に染まっていた。

 

「私たちも、また会いましょう。今度もまた、友達として」

 

そんなフレイに、ラクスは改めて握手の手を差し出した。少しだけ惚けていたフレイは、気を取り直すと差し出された手をしっかりと握り返す。今度は純粋に、解り合うために。

 

「うんーー約束するわ、ラクス」

 

「さようなら、ありがとう…」

 

手が離れ、ストライクのハッチが閉まっていく。その間も、ラクスはフレイとサイが見えなくなるまで手を振り続けていた。

 

「おい!さっさとしろ!モントゴメリに気づかれるぞ!」

 

マードックの怒声が響き渡り、ストライクはゆっくりとエアロックされたカタパルトゲージに入っていく。サイとフレイは、安全な通路まで下がってからも、ストライクの行く先を見つめていた。

 

「ちゃんと帰ってこいよな!!俺達んところに!」

 

サイが叫んだ。聞こえているかもわからない。しかし、それでもサイは放った。心が思う、キラへの言葉を。

 

「ハッチ開放すっぞ!!」

 

「きっとだぞ!キラ!俺はお前を信じてる!」

 

真空の海へと飛び出していくストライクを、サイとフレイはただ見送るのだった。

 

 

 

 

 


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