ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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誤字指摘や、感想ありがとうございます。
今日にはラクス編を終わらせたい…。



第41話 接触

モントゴメリの第2管制室では、艦長であるコープマンからブリッジを降ろされたブルーコスモス派の士官達が、アークエンジェルとクラックスの動向に目を光らせていた。

 

コープマンもそうなることを予想していたし、案の定、彼らはバーフォードたちが講じた策に反応を示した。

 

「なんだ、どうした?」

 

ブルーコスモス派の中でも1番の地位を持つ大尉が、反応を検知したオペレーターに問いかける。

 

「ストライク!何をしている!?アークエンジェル!応答しろ!」

 

「事前通告なしに、ストライクが発艦を…あっ、メビウスライダー隊も発艦するようです!!」

 

「なんだと…?」

 

ちなみに、彼らの発する通信に軍事的な拘束力は一切ないと、この作戦を立案した時にコープマンが宣言している。ブルーコスモスとは言え、彼らは軍属。そういった権限を許可するのも、行使するのもコープマンの一存であった故だ。彼が関知しない命令など、今はなんの役にも立たない。

 

彼らがアークエンジェルに通信を試みる中、コープマンは締め切った艦長室でバーフォードとの昔話に花を咲かせているのだった。

 

 

////

 

 

《こちら宇宙護衛艦ローの管制官、トーリャ・アリスタルフだ。メビウスライダー隊、貴殿らの出撃任務について問いたい》

 

おいでなすったな、とメビウス・インターセプターのコクピット中で、ラリーは顔を強張らせる。

 

モントゴメリの第1管制室は、ブルーコスモス派の手の及ばない区域だ。第2管制室は、船の異常事態と当直の後方警備のために、最低限の設備しか積まれておらず、こうやってモビルアーマーとの直接的なやり取りは出来ない。

 

となると、こういったことで探りを入れてくるのは、コープマンの手が及ばないローに限られてくる。

 

「こちらメビウスライダー隊、ライトニング1のラリー・レイレナード中尉だ」

 

ラリーは硬い口調でローからの通信に応じた。

 

この作戦で、キラのストライクを移送手段として採用したのも、理由がある。

 

メビウスライダー隊の現有戦力として、ストライクの存在を地球軍に認知させること。

 

ーーー軍属ではないキラにとっては災難だろうが、第八艦隊にさえ合流できれば、厄介な機密保持の手続きなどは必要だろうが、キラを避難民として・・・協力していた民間人として軍から離すことも可能になる。

 

要は、第八艦隊に合流するまで、キラをメビウスライダー隊の一員として認めさせることが重要であった。

 

そうすれば、キラを拘束しようとしてもバーフォード艦長、そしてそれを容認したコープマン艦長から抗議を申し入れることができるし、強行しようものなら、民間人協力者への不当な拘束として、軍事的な方法を取ることも可能になる。いくら事務次官とは言え、簡単にキラに手出しはできなくなるだろう。

 

だからこそ、ラリーはここで強気にでる必要があった。ここで弱みを見せれば、相手は増長するからだ。

 

「これより我々は後方から追跡してくるザフト、ナスカ級戦艦に威力偵察を行う。これは宇宙護衛艦クラックス艦長、ドレイク・バーフォード少佐の決定事項でーー」

 

《ああ、そこまで警戒しなくても大丈夫だ。ここにブルーコスモス派の者はいない》

 

ローの管制官、トーリャのあっけらかんとした言葉に、ラリーは強張っていた身体を思わず傾けた。彼はゴホンとわざとらしく咳をして、人のいい声で言葉を続けた。

 

《一応、これも形式だからな。形に残る証拠も必要だろう?》

 

トーリャの言い分に、ラリーは言葉にせず納得した。ローの艦長もコープマンと同じような人物であるということに安堵する。するとトーリャは真面目な口調で告げる。

 

《君たちに、先ほどの救助、ローのクルーを代表して礼を言いたい。威力偵察の件、了解した。我々はローのクルーとして全霊を以て返礼し、メビウスライダー隊の無事を祈っている》

 

音声通信であったが、彼がマイクの向こうで敬礼しているように感じられた。ラリーは毒気を抜かれた様子で頬をかき、気さくな同僚へ小さく笑った。

 

「了解。ーー恩にきるよ、トーリャ」

 

《なに、気にするな。戻ってきたら一杯奢らせてくれ。最高のワインを用意してある》

 

その言葉への返事を聞かずに、彼は通信を切るのだった。せっかちな奴だとラリーは思いながら、帰還したらとびきりのつまみを持って、ローに会いにいこうと決めるのだった。

 

 

///

 

 

ローとの通信後、発進したストライクが、慣性飛行に入ろうとしていたメビウスライダー隊へ合流した。キラの映像通信が入ると、ラリーとリークは、キラと、彼の膝の上に乗るラクスへ敬礼をする。

 

「キラ、時間通りだな」

 

「ええ、友達が手伝ってくれましたから」

 

嬉しそうに言うキラに、ラリーも自然と笑顔になる。

 

「そうか、良かったな」

 

《こちらAWACS、オービット。ザフト側も我々の存在は既に察知してるだろう。いいか?慎重に行くんだ。無意味な戦闘に価値はないからな》

 

「了解!メビウスライダー隊、出撃する!」

 

オービットからの通信後、ラリーとリークはメインエンジンの出力を緩やかに上昇させていく。

 

「行きます。掴まってて下さい」

 

「オマエモナー」

 

キラもそれに続くように、エールストライクの出力を緩やかに上げ、アークエンジェルから離れていった。

 

 

 

////

 

 

 

『足つきからの、モビルスーツ、モビルアーマーの発進を確認!』

 

『ちぃ!やはり潰しにきたか!対空迎撃用意!』

 

『第一戦闘配備発令!モビルスーツ搭乗員は、直ちに発進準備!繰り返す!モビルスーツ搭乗員は…』

 

徐々に見えてきたナスカ級から、ラリーにしか聞こえない声が聞こえてくる。メビウスライダー隊は速力を落としていくと、作戦の準備を始めた。

 

「よーし、キラ!準備オーケーだ!」

 

ラリーとリークのメビウスに積まれた電波中継器は、ナスカ級の周波チャンネルに入り込んで、ブリッジや艦内放送に繋がるよう周波数を調整していく。

 

本来は、敵の通信の傍受を目的にハリーが作った代物だったが、敵の暗号回線の解読には一定時間レーザーを照射しなければならないため、実戦には不向きだった。しかしこんな状況には持ってこいの代物だ。

 

「あとは頼むよ、キラ君!」

 

リークの声にキラは頷いて、ストライクの全チャンネルをオープンにした。

 

《こちら地球連合軍、アークエンジェル所属のモビルスーツ、ストライク!》

 

キラのその一声に、騒めき立っていたナスカ級の声が消えた。

 

《我々は今、プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの娘であるラクス・クラインを保護している!》

 

『ーーなにぃ!?』

 

誰が言ったのかわからなかったが、その言葉を皮切りに、ナスカ級の声が混乱した様相を見せ始めていた。しかし、キラには聞こえるわけもなく、そのまま言葉を続けていく。

 

《我々は彼女の保護を貴艦へ要請する!応じる場合はナスカ級は艦を停止して下さい!それと…イージスのパイロットが受け取りに来ることが条件だ。この条件が破られた場合、我々は…彼女に相応の対応をするつもりだ》

 

そんな気はないのにな、とラリーはリークの顔を見ると、リークもわかってますよと言わんばかりに肩をすくめた。

 

『…キラ?』

 

その呟くような声が、ラリーにはハッキリと聞こえた。そうか、この声がアスランか。ラリーは意識を集中して、ナスカ級から小さく聞こえる声に耳を傾けた。

 

『どういうつもりだ、足つきめ!』

 

『隊長…行かせて下さい…』

 

喚く声を遮って、アスランがそう言う。しかし、他の声がアスランの申し出を許そうとはしなかった。

 

『敵の真意がまだ分からん!本当にラクス様が乗っているかどうかも…罠かもしれないんだぞ!?』

 

『隊長!』

 

隊長ーーその言葉を聞いて、ラリーは固唾を飲んだ。しばらくの沈黙の後に、自身の宿敵の声が聞こえる。

 

『分かった。許可する』

 

透き通るように聞こえた声に、ラリーは無意識に操縦桿を握る手に力を込めた。

 

 

 

////

 

 

「よろしいのですか?」

 

さっきまで喚いていたナスカ級、ヴェサリウスの艦長であるアデスは部下の進言を認めたクルーゼに問いかけた。クルーゼはいつものように冷静な表情と声で、アデスに答えた。

 

「これがストライク1機なら考え様はあったがね。周りを見てみろ。2機のモビルアーマーがストライクを護衛している。どうやら本気のようだ」

 

見てみろ、と言われ、アデスはクルーゼが指差す望遠映像を見つめると、ストライクの後方に武装を施したメビウスと、純白と紫色のつぎはぎ装甲が目立つメビウスが、護衛するように行く末を見守っている。

 

「ここで勘ぐって、下手に抵抗すれば…」

 

「向こうはこちらを沈めに来るだろうな」

 

目の前にいる相当な手練れとして名高いクルーゼでも仕留めきれないモビルアーマー部隊。そこにストライクと考えるとーーアデスの背中に嫌な寒気が走った。

 

「…たかが2機のモビルアーマーだと、普段の私なら鼻で笑うでしょう。しかし今は、あの2機のモビルアーマーが酷く恐ろしい化け物に見えますよ」

 

アデスの本心からの言葉に、クルーゼは満足したように微笑むと、出ていったアスランに続くようにブリッジの床を蹴った。

 

「ふっ、違いないな。艦を停め、イージスの発艦準備を!私もシグーで出る」

 

「隊長も出るのですか?」

 

ブリッジを後にしようとするクルーゼの背中にそう問いかけると、彼は振り向きざま、わずかに高揚したような表情を見せた。

 

「向こうは受け渡し役にアスランを指名してきたんだ。なら、護衛役に私が付いていっても差し支えあるまい?」

 

 

 

 

 

 

 

 


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