ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第47話 戦いの幕開け

 

 

 

「ナスカ級1、ローラシア級2、グリーン18、距離500。予測、15分後!!」

 

ザフトの動きを真っ先に探知したのは、クラックスだった。艦隊の後方に位置するアークエンジェルへの人員移動の最中でも、ドレイクは周辺警戒を怠っていなかった。

 

「クルーゼ、やはりここで仕掛けてきたか!」

 

「通達!第一戦闘配備!各艦の担当官を叩き起こせ!!対空戦用意!」

 

そして、その一報はアークエンジェルにも届いていた。

 

「搬入中止、ベイ閉鎖!メネラオスのランチは?」

 

マリューの問いかけに、オペレーターは首を横に振って応えた。

 

「まだです!」

 

その答えにマリューは落ち着いた様子で次の指示を出していく。

 

「急がせて!総員!第一戦闘配備!対空戦用意!ゴットフリート1番2番、起動!ミサイル信管、6番から13番へヘルダート装填!バリアント展開させて!アンチビーム爆雷の準備を!」

 

マリューの指示に、ナタルも特に何も言わずに従っていく。歴戦のクラックスを見て、マリューもアークエンジェルのクルーもまた、成長を遂げていた。

 

「了解!各CIC接続完了、フィールドネットワークコンタクト可能です!」

 

アークエンジェルが構築したのは、クラックスと連携を密に取るための戦術データリンクだ。すぐにそのデータを旗艦であるメネラオスにも送信する。

 

すると、ハルバートン提督から電子文書でこう届いた。

 

《奴らに宇宙艦隊の戦い方を見せてやろう》

 

 

 

////

 

 

 

 

「キラ!」

 

ランチを後にしたキラは、ハンガーに集まっていた友人たちとばったり出くわしていた。

 

「みんな!なにをやってるんだ!早くしないとランチが…」

 

「俺達さ、残ることにしたからさ」

 

ランチが出てしまうと言うつもりだったが、サイの放った言葉でキラの思考は停止した。

 

「え?」

 

「だから残るんだよ。アークエンジェル、軍にさ」

 

サイに続いたトールの言葉も、キラは理解できていないようで、その様子がおかしかったのか、みんな困ったように笑っていた。

 

「残るって…どういう…」

 

「フレイが残るって。キラを置いていけないからって」

 

「ええ!?フ、フレイ…なんで…?」

 

ミリアリアの言葉に、キラは反射的にフレイの方へ顔を向けると、彼女は照れるように顔をうつむかせながら、キラと向き合った。

 

「キラは残って戦ってるのに…私だけまたコーディネーターを差別するような世界には、もう戻りたくないのよ」

 

命をかけて戦っているキラの姿を知ってるのに、それを忘れてヘリオポリスと同じ感覚で、同じ生活になんて、戻れる気がしなかった。その言葉に、サイたちも頷く。

 

「それで…俺達も…な」

 

《総員、第一戦闘配備!繰り返す!総員、第一戦闘配備!》

 

そんな空気を引き裂くように、アークエンジェルの艦内に音声放送が流れ始めた。

 

来たっーー。

 

キラは直感的にそう感じた。敵がくる。この船や艦隊を落とすためにーー。

 

「キラ!」

 

そんなキラの肩を掴んだトールに、彼は笑みを送った。真剣な眼差しに光を灯して。

 

「ストライクには僕が乗る。みんなを守る。そのために戦うから」

 

もう、逃げない。決めたんだ。大切なものを守るって。この戦争を終わらせなきゃって!だから。

 

「なら…私たちの想いは…貴方を守るわ」

 

その心の声を汲み取ってくれたように、フレイが優しい声でそう言ってくれた。みんなが、キラを信用して、信頼してくれてる。そんなみんなを守るためにーー僕はーー。

 

「とにかく、みんなはブリッジに!僕はーー行ってくるよ!!」

 

キラは走り出した。振り返らない。ただ前を向いて走り出す。自分の背中を見てくれる友達を守るために。

 

 

 

////

 

 

 

アークエンジェルのハンガーは各モビルアーマーの出撃準備に向けて慌ただしく動き始めていた。

 

「フラガ大尉はゼロで出るんだよ!大丈夫だ!準備は終わってる!」

 

マードックが激励の言葉を飛ばしながら指示をする中で、ハリーたちは使い終わった資材をバンド固定機で壁に固定したりと片付けに奔走している。

 

「もう!こっちはまだ準備してるってのに!」

 

「ハリーたちはこのままアークエンジェルに!どうせあとでみんな来るんだ!留守番してろ!」

 

作業服からノーマルスーツに着替えたラリーは、純白に塗装し直されたメビウスのコクピットハッチを開いて中に潜り込もうとした。

 

「レイレナード中尉!」

 

そんな彼を、上から降りてくるキラが呼び止めた。ラリーたちは唖然とした。降りてきたキラが、艦を降りる格好ではなく、ノーマルスーツだったことに。

 

「キラ!?」

 

「なんで!?」

 

驚くリークやハリーに、キラはヘルメットを脇に抱えたままで照れたように笑って言った。

 

「僕も、メビウスライダー隊の一員ですから」

 

その言葉に一同がぽかんと呆けたが、いち早く反応を示したのはラリーだった。

 

「この…ばかやろう!」

 

メビウスから降りて、やってきたキラの首へ手を回して脇に抱えると、乱雑にノーマルスーツのごつい手袋でキラの頭をわしゃわしゃと撫で回した。抵抗することなくそうされていると、ラリーはキラを離して、ストライクの方へと送り出した。

 

その先には、同じくノーマルスーツ姿のリークがいた。

 

「ストライク、システムチェックは終わってるよ」

 

「ありがとうございます、ベルモンド少尉」

 

コクピットに乗り込んだキラを覗き込みながら、リークは本当に嬉しそうに笑っている。

 

「地球に降りたらキラくんの歓迎会だね」

 

秘蔵のお酒を準備しとかないとと、リークは告げて、ストライクから降りた。ハッチを閉めて、キラは深く息を落とす。

 

「とにかく、無事に降りることだけを考えろよ!生きて帰るぞ!みんな作業しながら聞いてくれ!ブリーフィングをはじめる!!」

 

 

 

////

 

 

 

緊急事態だ。

 

現在、第八艦隊は地球圏の低軌道上に位置している。本来ならば、このまま第八艦隊はアークエンジェル、そしてヘリオポリス避難民を乗せたシャトルが地球へ降りるのを確認してから離脱する予定だったが、我々はザフトのローラシア級二隻とナスカ級一隻に捕捉されてしまった。

 

敵艦からはモビルスーツが発進したという情報も入った。おそらく、地球圏の軌道上ギリギリでの戦闘になるだろう。史上類を見ない特殊な作戦だ。

 

メビウスライダー隊は、メネラオスから発進したモビルアーマー部隊と合流し、第八艦隊の防衛任務を遂行する。

 

低軌道上の戦いとなるため、地球圏への高度には充分留意せよ。メビウスに大気圏突入能力は無い。重力に捕まれば大気の摩擦で燃え尽きることになる。

 

メビウスライダー隊は、低軌道ギリギリになった頃合いを見て、アークエンジェルに帰投。アークエンジェルと共に地球へ降下してもらう。

 

クラックスからアークエンジェルへの人員移動は済んでいないが、可及的速やかな地球降下が求められている。メビウスライダー隊の力に誰もが期待している。

 

各員、無事の帰還を祈る。メビウスライダー隊、発艦せよ!

 

 

////

 

 

「フラガ大尉!」

 

「ああ、分かってる!バジルール少尉!ここから出て何分ある?!」

 

《フェイズスリーまでに戻れ!ストライクはスペック上大気圏へ突入はできるが、やった人間は居ないんだ!中がどうなるかは知らないぞ!メビウスライダー隊、各員も高度とタイムは常に注意しろ!》

 

「了解!!」

 

《進路クリア!メビウスライダー隊、発艦どうぞ!》

 

ラリーはコクピットでこれから向かう先を見据える。クルーゼもこの戦場にいるのか。だとするならーー今日が約束の日だ。ぐっとラリーはメビウスの操縦桿を固く握りしめる。

 

「ラリー・レイレナード。メビウス・インターセプター。ライトニング1、発進する!」

 

「リーク・ベルモンド。メビウス、ライトニング2、発艦します!」

 

2機のメビウスがアークエンジェルから飛び立つと、間髪を入れずにミリアリアが次のシークエンスへ移っていく。

 

《続いてメビウスゼロ、フラガ機、リニアカタパルトへ!》

 

「こんな状況で出るなんて、俺だって初めてだぜ…!ムウ・ラ・フラガ、ライトニングリーダー、出るぞ!」

 

解放されたハッチから、ムウの駆るメビウス・ゼロが閃光のように飛び出した。残るはキラのストライクだけだ。

 

《オービットよりメビウスライダー隊へ。敵は、ナスカ級一隻にローラシア級が二隻。すでに10機のモビルスーツの反応が確認されている。これは艦隊戦になるぞ!》

 

《カタパルト、接続!エールストライカー、スタンバイ!システム、オールグリーン!》

 

メビウス・ゼロに続いてキラのストライクもカタパルトへと運ばれた。ハッチからは眼下に青い地球が広がっているのが見える。

 

《進路クリア!ストライク、どうぞ!》

 

「キラ・ヤマト、ストライク、ライトニング3、行きます!!」

 

 

 


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