ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第50話 低軌道の戦い 3

地球を眼下に見下ろす激戦の戦場。

戦況はモビルスーツを多数有するザフトの優位に見えたーー。

 

だが、彼らの目算は甘かった。

 

地球というゆりかごが持つ重力に引かれ、自由に空を舞っていた機体は鎖に繋がれたように重くなっていく。

 

そして、その鎖に囚われた彼らを、ゆりかごを背に現れた流星が食らっていく。

 

『今、俺を撃った奴を確認してくれ!』

 

『あれは、流星のマークだ!』

 

火を上げたザフトのモビルスーツ、ジンの横を鮮やかに過ぎ去る。光が尾を引いて宙を切り裂き、動きが鈍るジンを食らう。足のつま先からゆっくりと、咀嚼していくように。

 

『1機相手に何をてこずっているんだ?! 』

 

『なんて動きをしやがる…あれは人間ができる動きか!?当たらない!』

 

僚機がタングステン製の弾丸に貫かれるのを目の当たりにしながら、宇宙が自分たちの庭だと自負していた彼らは成す術もなく落ちていく。

 

光は急制動をかけ、捻り、回り、人型の軌道に慣れ親しんだ彼らの視界から光の瞬きのように消えては、現れる。

 

『くそ、こっちは5機以上のモビルスーツが出てるんだぞ!?戦局があの1機に塗り変えられるのか!? 』

 

『あれはただのモビルアーマーだ!撃てば落ちるモビルアーマーのはーーー』

 

わめいていたパイロットの音声が、くぐもった声と共に途切れ、胴を貫かれたジンが宇宙を力なく漂っていく。ある機体は制御を失い地球の重力圏に引かれて、青い星へと落ちていく。

 

『撃っても当たらない!やっぱり奴は…』

 

流星ーー自分たちが散々落とし、バカにしてきたモビルアーマーの動きがつい先日、ザフトの名将の一人であるラウ・ル・クルーゼによって公開された。彼の壮絶な戦闘記録とともに、だ。

 

その動きと軌跡は、ザフトの技術者でも理解できない軌道を描いており、彼らの計算上、中に人がいるなら、それはもう人ではないと断言するほどの異常性があった。

 

その映像を見ながら、誰かが呟いた。

 

〝人に、流れ星を撃てるか?〟

 

『黙れ!そんなはずは…そんなはずがあるか!そんなはずはーーー』

 

その言葉を否定しながらも、目の前に描かれる軌跡に魅せられ、ザフトの名もなきパイロットは打ち込まれたタングステン製の弾丸によって、その短い生涯に終止符を打つのだった。

 

 

 

////

 

 

 

「このぉ!!!」

 

メネラオスを目前にしたディアッカとニコル、アスランは、その前に立ち塞がったキラとリークのメビウスライダー隊によって、釘付けにされていた。

 

《メビウスライダー隊の任務は、第八艦隊の護衛と、アークエンジェルと共に地球へ降下し、アラスカまでの道のりを護衛することだ。お前たちの使命を果たせ》

 

クラックス中破の一報にどよめいたキラとリークだったが、ドレイクから届いた電文命令を読み、二人は覚悟を決めていた。

 

故に、今の二人は強い。G兵器の足止め?そんな優しい表現で済むものではない。

 

『ストライク…前より出来るようになってる!!』

 

ニコルが悲鳴のような声を上げながら、回避運動を繰り返している。一切攻撃に転じるチャンスが無いのだ。アスランも何度かストライクに取り付こうと試みるが、信じられない反応速度で振り切られてしまう。

 

そして、問題はモビルスーツとモビルアーマーの連携の良さだ。

 

ストライクの隙を狙おうとしたらメビウスが。

メビウスを落とそうとすればストライクが。

 

そうやって絶妙な連携のバランスを保ちながら、メビウスライダー隊は迫るG兵器と大立ち回りを演じている。

 

「こっちも忘れてもらっちゃ困るよ!」

 

機動がわずかにでも緩めば、HEIAP弾を搭載したメビウスからの銃撃が飛んでくる。しかも、相手が装備しているのは、ザフトのジンが有するはずのライフルだ。

 

どこであんなものを手に入れたーー!!

 

『この、今日こそ撃ち落としてやる!ネメシスめ!!』

 

しびれを切らしたディアッカが、急制動をかけてリークの機体の真上を捉えた。ストライクはニコルとアスランが釘付けにしている。しとめるなら今しかない。

 

ディアッカは「落ちろぉ!」と叫んで、腰に構えた砲身の火をリークのメビウスへ放った。

 

『よっしゃあ!直撃コースーー!?』

 

リークのメビウスに直撃する瞬間、メインエンジンのサイドに備えられた四角いモールドが施されたシールドのようなものから閃光が瞬き、ディアッカの放ったビームは、宇宙の霧へと消えた。

 

『ビームが拡散した!?』

 

炸裂装甲ーーまたの名を、リアクティブアーマー。

 

旧世紀から実在し、戦車などの補助装甲として使用される装甲板。

 

リークのメビウスのメインエンジンを囲うように取り付けられた2枚の鋼板は、その間に爆発性の物質を挟んだ構造になっている。

 

具体的には、リアクティブアーマーに敵弾が命中すると、爆発反応により弾頭が浮き上がり、爆発が分散され、本体の装甲には傷が付く程度にダメージを下げる物である。

 

本来ならば、実弾運用を想定しており、ジンの携行火器であるライフルなどには全くの無力として誰も見向きしなかった代物だが、ハリーは着弾時の爆発反応により、高威力レーザーの収束体であるビームを霧散させる特性に目をつけたのだ。

 

ただし、装甲にも限りがあり何度も受けることは出来ないため、リアクティブアーマー機能が限界に達した場合、自動的にパージされる。また、パイロットが任意でパージすることも可能だ。

 

『ちぃ!!モビルアーマーごときが味な真似を!!』

 

再び乱戦に戻っていく中で、ディアッカは悠然と飛び立つリークの機体を睨みつけながら呟く。

 

「まだまだぁ!!」

 

ここが正念場だ。味方を鼓舞しながら踏ん張るムウや、メネラオスのメビウスパイロットたちと同じく、キラもリークも戦闘に集中していく。

 

 

////

 

 

予定より早い大気圏への降下準備。その報は、ブリッジにいる者たち以外にとっては突然の出来事だった。

 

《総員、大気圏突入準備作業を開始せよ》

 

「降りるぅ?この状況でか!?」

 

重力に備えて、工具や作業道具の固定や配置の変更をしていたマードックは、艦内放送で流れた情報に悲鳴をあげた。

 

降下するにしろ、大気圏内用の装備や機器の調整が全くできてないと言うのに。

 

「とにかく準備するしかないでしょ!」

 

なり振り構ってる暇も猶予もない。ハリーたちも人海戦術で大急ぎで準備を整えていく。

 

「重いぃいい!!」

 

そういうフレイは、まだ無重力であるが、運搬を頼まれた部材をコンテナに運び込むのに四苦八苦している。

 

ブリッジも、担当する下士官のほぼ全てが大気圏突入シークエンスは初めて扱うことになるため、はっきり言えばぶっつけ本番も良いところだ。

 

「降下シークエンス、再確認。融除剤ジェル、噴出口、テスト」

 

「降下シークエンス、チェック終了。システム、オールグリーン。修正軌道、降下角、6,1、シータ、プラス3!」

 

いつでも行けます!というノイマンたちの声に頷いて、マリューは再びメネラオスとの回線を繋いだ。

 

「閣下!」

 

《うむ。頃合いだな。アークエンジェル、降下開始!無事に降りろ!これは命令だ!また宇宙で会おう!》

 

「降下開始!機関40%。微速前進。4秒後に、姿勢制御」

 

アークエンジェルはメネラオス旗下の艦隊から離れ、徐々に地球へとその艦体を下ろしていく。

 

《メネラオスより、各艦コントロール。ハルバートンだ!》

 

残存する各艦へ向けて、ハルバートン提督は声を荒らげた。

 

《本艦隊はこれより、降下限界点までの、アークエンジェル援護防衛戦に移行する。厳しい戦闘であるとは思うが、彼の艦は、明日の戦局の為に決して失ってならぬ艦である!》

 

ザフトとのくだらない戦争を終わらせるため。軍の上層部の腐敗を食い止めるため。そして、明日に繋ぐ命を守るため。アークエンジェルが降りることは提督にとって何よりも重要な事だった。

 

《戦える艦は陣形を立て直せ!第八艦隊の意地に懸けて、1機たりとも我らの後ろに敵を通すな!地球軍の底力を見せてやれ!》

 

 

////

 

 

 

「足つきが動く!?チィ!ハルバートンめ!艦隊を盾にしてでも、足つきを降ろすつもりか!追い込め!降下する前に、なんとしても仕留めるんだ!」

 

メネラオスが自ら最終防衛線を張る中で、ネルソン級のプトレマイオス、ドレイク級の三隻が援護に回るも、ヴェサリウスを含めたザフト艦三隻は釘付けにされていて、取りつく島もない。

 

「し、しかしーー」

 

オペレーターが弱音を吐こうとした瞬間、ディアッカたちの母艦たるローラシア級ガモフのブリッジが、突然燃え上がるように爆発した。

 

トドメと言わんばかりに機関部にも弾丸が打ち込まれ、ガモフは完全に沈黙することになる。

 

クルーが最後に見たのは、船の横側から現れた閃光が、ビームサーベルを輝かせてブリッジ側面に突撃してきた光景だった。

 

ブリッジを引き裂いた閃光は、散らばった地球軍艦の瓦礫の間を凄まじい速さで潜り抜け、同じローラシア級のツィーグラーに接敵していくと、間髪を入れず機体の下部に設けられたレールガンを撃ち放った。

 

「ツィーグラー被弾!機関停止!航行不能!」

 

恐ろしい速さ。その光は尾を引いて、さらにヴェサリウスに接近してくる。瓦礫とNジャマーが作用し、レーダーを見ているオペレーターには、敵がワープしながらこちらに近づいてくるように見えた。

 

「りゅ…流星…!!」

 

アデスが顔を真っ青にしながら呟く。あの尾を引いて近づいてくる光はーー純白の装甲を魅せる機体はーー間違いなく、流星だ。

 

その瞬間、ラリーの駆るメビウスの行く手を遮るように、頭上からいくつもの弾丸が降り注いだ。

 

《ようやく見つけたぞ、ラリー・レイレナード》

 

急制動で姿勢を立て直すラリーの前に現れたのは、同じく純白に塗装されたシグー・ハイマニューバを駆るクルーゼと、彼と共に流星を追っていたイザークのデュエルだ。

 

「クルーゼ…!」

 

《無駄弾は使って無いだろうな…》

 

普段から聞こえる敵の声ではない。クルーゼはわざわざ周波数をこちらに合わせて語りかけている。ラリーはぐっと操縦桿を握る手に力を込めた。

 

「ここでケリをつける…!!」

 

彼らの背後では、煙を上げたガモフがゆっくりと地球圏へと落ちていき、そして火が機関部に達したのか、爆発し、光が瞬いた。

 

《さぁ、行くぞぉ!!ラリィィイイーー!!!!》

 

それを合図にするように、クルーゼが流星へ飛びかかるように襲いかかった。

 

「来い!!クルーゼェェエエーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 





推奨BGMは、アーマードコアfor ANSERのお好きなものを。

この時のラリーの動きは、ホワイトグリント並みです笑

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