ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第72話 戦闘休題

 

 

 

「気をつけろよ?この辺りは、廃坑の空洞だらけだ」

 

アークエンジェルのモニターに表示された地図の赤い光点で場所を示すサイーブの言葉を、マリューやムウ、ナタルは静かに聞いていた。

 

サイーブ含めたレジスタンス協力のもと、補給を終えたアークエンジェルは次なる目的地を目指すことになった。まずはアフリカからの脱出。そして紅海を抜けて、アラスカへ向かう旅路が待ち受けている。

 

最初の目的地は、タルパディア工場区跡地。

 

立ちふさがるであろう砂漠の虎を相手にするには絶好の場所だ。それに、レジスタンスにとってもそこは重要な拠点でもある。

 

「こっちには俺達が仕掛けた地雷原がある。戦場にしようってんならこの辺だろう。向こうもそう考えてくるだろうし。せっかく仕掛けた地雷を使わねぇって手はねぇ」

 

地走するバクゥやレセップスに対して、地雷というのは割と効果的だ。うまくハマってくれれば撃破することも可能な炸裂爆薬を多く埋めてある場所なので、迎え撃つにしても理想的な立地だ。

 

「アンタたちは、この先の難民キャンプで下ろす手筈になってるが…サイーブ、アンタは本当にそれでいいのか?俺達はともかく、あんたらの装備じゃ、被害はかなり出るぞ」

 

タルパディア工場区跡地の手前には、連合軍が支援する中規模の難民キャンプがある。そこにいけば、物資と引き換えにタッシルの住人を受け入れてもらう手筈にはなっているが、サイーブたちはあくまで砂漠の虎と戦う覚悟を持っていた。

 

「始めたからには、それにケジメをつける責任が俺にはある。本当なら、虎に従い、奴の下で、奴等のために働けば、確かに俺達にも平穏な暮らしは約束されるんだろうよ。バナディーヤのように」

 

サイーブが目を細めながら言う。たしかに、権力のある者にひれ伏せば、安全と豊かな暮らしを得られることだろう。しかし、そこに自由は無い。抑圧されて軍の思惑に踊らされ、戦火が広がれば焼かれるのは一時の平穏にあやかっていた住人たちだ。

 

「女達からはそうしようって声も聞こえる。だが、支配者はきまぐれだ。何百年、俺達の一族がそれに泣いてきたと思う?」

 

奴隷、植民地、解放からの民族紛争、それに見せかけた国家間の代理戦争、そして資源の争い。

 

アフリカという地は、戦争の遊技盤として扱われてきた。その地に住む全ての人々の命や人生を犠牲にして、海の向こう側、大陸の向こう側にいる者共の良いように扱われてきた。

 

そんなのはもうゴメンだと言う事に、なんの罪があるのか。ただ間違っていることを間違っていると言うだけで、どれだけの同胞が死んでいったのか。サイーブの手には無意識に力がこもっていた。

 

「支配はされない、そしてしない。俺達が望むのはただ自由に、誰かの力に怯えずに暮らす生き方それだけだ」

 

それに、虎に押さえられた鉱区を取り戻せば、こんな生活も少しはマシになるだろう、とサイーブは小さく笑う。

 

難民キャンプとはいえ、いつかはタッシルに帰りたいと願う住人もいるだろう。そんな彼らの資金源として鉱区が解放できれば、自分たちのやってきた事にも少しは意味が出てくるだろう。

 

「俺たちはアンタらがこの地を抜けるタイミングで最後の攻勢に出る。難民キャンプまでの移送とか、今まで世話になったな」

 

ぎこちなく握手を求めるサイーブの覚悟が決まった目を見て、ムウは小さく息を吐いた。そんな目をされるのは堪える、と心の中で毒づく。宇宙で見たその目をした奴らはみんな死んでいったのだから。

 

ムウもサイーブの手を握り返して、肩を叩いた。

 

「こちらこそだよ。なぁ艦長?」

 

ムウのアイコンタクトを受けて、渋っていたマリューも悲しげな目でサイーブを見つめて、頭を下げた。

 

「分かりました。では、レセップス突破作戦へのご協力、喜んでお受け致します」

 

 

 

////

 

 

そのころ、アークエンジェルの格納庫では壁際に設置された戦闘機のトレーニングマシンの前で何人かの人だかりができていた。

 

「おっと!」

 

仮想空間の戦闘機を飛ばすのはカガリだ。彼女の操るスピアヘッドは空中に弧を描きながらシミュレーターの空に飛行機雲を描く。

 

「何やってんの?」

 

「あ、トール。今日のトレーニング終わったの?」

 

マシンの前に居たミリアリアとカズイに声をかけたトールの姿は、いつもの地球軍の制服ではなくトレーニングウェアだった。

 

ラリーとの相乗りの後、今後のマッピングのために複座に乗る機会が増えるだろうとのことで、トールはラリー監修のアイザック編集により考案されたパイロット用のトレーニングをこなすようになっていた。

 

「今夜の当直はケーニヒだぞ?」

 

もちろん、ノイマンの操舵補佐をしながら。その激務にトールは思わず顔をしかめながらため息をついた。

 

「筋トレにランニングに…体力作りって大変なんだなぁ」

 

「なんだ?楽しそうなことをしてるじゃないか」

 

ぼやいたトールの後ろから今度はアイクがトレーニングマシンへ歩み寄ってくる。いつもの鬼教官の影響か、気だるげにしていたトールの姿勢が自然と伸びて、ピシリと敬礼を行う。

 

「ボルドマン大尉!」

 

気を使いすぎだと敬礼するトールを小突くと、アイクもカガリの空戦を眺める。

 

「確かにやるな。カガリ・ユラか?実戦経験あるのか?空中戦」

 

「何度かはな、よっと」

 

そう言ってカガリの機体は宙返りを打って、敵からのミサイル群を鮮やかに躱していく。思わず、それを見ていたアイクを除く全員から「おおぉ~」と感心する声が上がる。

 

「二発喰らっちゃったかな」

 

シミュレーターを終了して肩を回しながら降りるカガリは、どこか不機嫌そうにそう呟く。

 

「でもすごいじゃん、俺なんか戦場に入った途端落とされたもん」

 

「あたしも」

 

「なになに?もうみんなやったの?」

 

まるで学生のようにはしゃぐミリアリアたちを見て、カガリは呆れたように息をついた。

 

「戦える力があって困ることは無いからな。んなこっちゃ死ぬよ?」

 

〝向こうはゲームでも、勇敢な勝敗を決める戦いをしてるわけじゃない。戦争をしてるんだ。わかるか?戦争をだ〟

 

〝お前たちは、砂漠の虎と戦う相手として、同じ土俵にも上がれていないんだよ!戦争はヒーローごっこなんかじゃない!〟

 

カガリの頭の中で、ラリーに怒鳴られた声が反復する。サイーブがレジスタンス活動を諦めたのも、アフメドが大怪我をしたのも、きっと戦えば良い方向に向かっていくと盲信した自分にも責任がある。

 

戦う力がなければ、死ぬ。戦場で見た現実は、単純な原則だった。

 

「ーー戦争してんだろ?」

 

そう言って、カガリはミリアリアたちの元を後にした。ほんのわずかに空気が悪くなった中で、ノイマンが両手を後頭部に回して上を向いて呟いた。

 

「確かに」

 

「ふん!なによ、威張れるようなことじゃないわよぉ」

 

「軍人なのに銃を撃ったことないってのも、威張れることじゃぁないぞ?」

 

「俺やってもいい?ねぇやらせて」

 

お願いします!と両手を合わせるトールに、ノイマンは頬杖をついて答えた。

 

「あのなぁ、ゲーム機じゃないんだぞ?」

 

「は!分かっております!訓練と思い、真剣にやらせていただきます!」

 

「そんならよーし!撃墜されたら飯抜き!」

 

「えーーー」

 

「じゃあ被弾したらトレーニングメニュー追加も乗せようか」

 

「ウゲェ。勘弁してくださいぃ」

 

ノイマンとトールのやり取りに悪ノリしだしたアイクの言葉に、悪くなっていた空気は吹き飛び、みんなで笑い声を上げた。

 

「教えた通りにやれば大丈夫だ。彼女の前だろ?いい格好を見せてみろ」

 

「大丈夫だって、がんばれ!」

 

よーし!と操縦桿を握って意気込むトール。アイクは、彼に意識させずに地球での空戦に必要な筋肉や技術を教えていた。マッピングで複座に乗るくらいなら必要は無いが、ラリーが言った「こいつにはセンスがある」という言葉を信じてみたくなったのだ。

 

かの流星が認めた訓練生。しごくには申し分ない。

 

アイクは教え子の空戦を見ながら、ハンガーの隅で腰を下ろしたカガリを見た。彼女の瞳に揺らめくものも、どこか危険なものだとアイクは直感していたのだった。

 

 

 

////

 

 

 

「なんでザウートなんて寄こすかねぇ、ジブラルタルの連中は。バクゥは品切れか?」

 

レセップスの司令室で、バルトフェルドは搬入された補給物資のリストに目を走らせながら顔をしかめる。

 

ストライクにバクゥを撃破されたのは痛いが、その代わりが足の遅いザウートとなると敵を仕留め切れるか怪しいものだ。

 

「これ以上は回せないと言うことで…。その埋め合わせのつもりですかねぇ。あの二人は…」

 

部下のダコスタが見るリストには、デュエルとバスターの欄がある。アークエンジェルを追って地球に降りたクルーゼ隊だろうが、彼らが増援にきたところでーーというのがバルトフェルドの感想だった。

 

「かえって邪魔なだけのような気がするけどなぁ、宇宙戦の経験しかないんじゃぁ」

 

「エリート部隊ですからねぇ」

 

「大体クルーゼ隊ってのが気に入らん。僕はあいつが嫌いでね」

 

建前で敬意は払ってはいるが、あの底の見えないマスクや言動に、バルトフェルドは名状しがたい不信感を感じていた。

 

 

////

 

 

「うわっ!」

 

「なんだよこりゃ…酷えとこだなぁ」

 

輸送機から降りてきたイザークとディアッカを出迎えたのは、地球の環境だった、ノーマルスーツで地に足を踏み出せば、砂漠に足を取られてすぐに体勢を崩してしまう。

 

そんな二人のおぼつかない足取りを見て、バルトフェルドは可笑しそうに笑った。

 

「砂漠はその身で知ってこそってねぇ。ようこそレセップスへ。指揮官のアンドリュー・バルトフェルドだ」

 

「クルーゼ隊、イザーク・ジュールです」

 

「同じく、ディアッカ・エルスマンです」

 

「宇宙から大変だったなぁ。歓迎するよ」

 

「ありがとうございます」

 

形だけの挨拶を済ませて、バルトフェルドはさっそく気になる事を尋ねてみた。

 

「で?肝心の隊長どのは?」

 

共に来ると聞いていたが、輸送機からはあの気にくわないマスクをした男は降りてこなかった。大気圏の熱に晒されたとは聞いたが、まさかそれで重傷を?と、考えているとイザークの隣にいたディアッカが答えた。

 

「機体の調整が済んでないので、後日にこちらにくると…」

 

「機体?ディンか、ジンか?」

 

「いえ、それが…」

 

そう口ごもるディアッカがバルトフェルドへデータシートを渡す。それを見て、バルトフェルドも感慨深いような声を出した。

 

「ほう、なるほどねぇ。考えたもんだ」

 

「そんなことより、足つきの動きは?」

 

データシートを見つめるバルトフェルドへ、イザークが眉間に皺を寄せて詰め寄るように言う。せっかちだなぁとバルトフェルドも受け流して、地図を広げてアークエンジェルがいる場所に指をさした。

 

「ここから南東へ180kmの地点、レジスタンスの基地にいるよ。無人偵察機を飛ばしてある。映像を見るかね?」

 

それから、バルトフェルドはレセップスの艦内やアークエンジェルの映像を見せて回っていると、搬入されてくるデュエルとバスターの姿が目に入った。

 

「なるほど、同系統の機体だな。あいつとよく似ている」

 

「バルトフェルド隊長は、既に連合のモビルスーツと交戦されたと聞きましたが」

 

そういうディアッカの言葉に、バルトフェルドの顔はやや曇った。

 

「ああそうだな。僕もクルーゼ隊を笑えんよ」

 

あの鬼神のようなストライク。

 

そして流星相手には、ね。

 

 

 

 

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