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盟主王を英雄にするかどうか、ゴールは決まってるけど色々と悩み中
はるか遠くまで広がる青空。
そこに悠々と漂う白い雲。
波打つ音と、ほのかな塩と水の香り。
「あーーー!気持ちいいぃ!」
紅海を進むアークエンジェルのデッキの上で、ミリアリアはいつも閉めている胸元のボタンを外して、その陽気と海の恩恵を体いっぱいで味わっていた。
「地球の海ぃ!すんげー久しぶりー!」
そんなミリアリアの隣で、上着を脱いだトールが同じように手を広げて、大海原に叫んだ。敵影なし、影もなし、穏やかな陽気と波。バカンスで来たのなら最高のロケーションだ。
そんなミリアリアとトールの後ろでは、サイとフレイがハンガーに置かれていた長椅子を持ってきて、ぐったりと日陰で微睡んでいる。
アフリカから紅海に出るまで、スピアヘッドのメンテナンスに加えて、ストライクやスカイグラスパーの点検に、弾薬の管理と備品整理まで終えた二人は、叫んでいるミリアリアやトールにも何一つとして反応を示さなかった。
マードックや他の作業員は、デッキで風を感じていたり、どこから持ってきたのか釣竿を垂らしたりと思い思いの休息を取っていた。
ちなみにハリーはハンガーで、ラリーからのヒアリングを元にスーパースピアヘッドの調整とオプションユニットの改造をせっせと行なっている。
「でもやっぱ、なんか変な感じだね」
デッキの手すりから真っ青な海を眺めながら、カズイがポツリと呟く。
「そっか、カズイは海初めてか。ヘリオポリス生まれだったもんなぁ」
コロニーにも、リゾート地区やそういう目的で作られたプラントもあるらしいが、やはり本物のスケールの大きさや、自然の力強さには勝てない。コロニー生まれ、コロニー育ちのカズイにとっては、地球に来てからは驚きの連続だった。
「砂漠にも驚いたけどさぁ、何かこっちのが怖いなぁ。深いとこは凄く深いんだろ?」
「怪獣が居るかもよぉ?」
ふざけた様子で言うミリアリアの言葉に、臆病者気質のカズイは「ええ…」と顔をしかめた。そしてトールも同じような顔をする。意味は違うが。
「何言ってんだよ、ミリィ。そんなこと言うとーー」
「お?興味あるかい?地球の海には多くの怪獣の伝説があってだな」
「ほらぁ!興味満々な人が!ほらぁ!!」
古い日本の特撮映画雑誌を見ながら寛いでいたアイクが立ち上がり、にこやかにトールたちの会話に加わってくる。トールは訓練でも、アイクがそういう類の話が好きなのを知っていたから、ミリアリアの言葉に顔をしかめたのだ。
そして、案の定アイクの話に火がついて、結果カズイは地球の海には入らないと固く心に決めるのだった。
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「で?どうするのさ、この人たち」
ムウとラリーもデッキに上がっていたが、表情はミリアリアたちとは違って、少し疲れた様子だった。その原因が、自分たちの真後ろにいるのだから無理もない。
「んー、良い天気だなぁ。私も海は久々だよ」
「バルトフェルド。それに…」
「ハーイ」
大きめのTシャツを腰あたりで絞るように着流すアイシャと、サングラスをかけて長椅子で寛ぐバルトフェルドに、ラリーは何度目か分からないため息を地の底を突き破る勢いで吐いた。
「引き取ったのはラリーなんだから、監視役はしっかりとな?」
レジスタンスを宥めるためとは言え、しっかりとマリューやナタルに言質を取られてしまっているので、ラリーも文句は言えなかった。
「はいはい」
「レイレナード君、できればコーヒーを貰えないかな?アイスで」
「俺はアンタの召使いじゃないんだけどな!?」
そう言いながらも、ラリーは食堂で準備してきたアイスコーヒーをバルトフェルドとアイシャの分を注ぎ、氷も入れて渡す。アイスコーヒーは軍艦用の徳用品を使っているのがせめてもの抵抗だ。
「だって私は自由に動けないのだから、仕方ないだろう?」
そう言いながら、バルトフェルドはコーヒーを楽しみ、アイシャは日焼け止めクリームを塗って日光浴を楽しんでいる。というか、どこから持ってきたんだろうか…聞かない方が心の平穏になりそうなので、ラリーはあえて無視をした。
「あー、まったくなんでこんなことに…」
そう呟きながら空を見上げるが、答えてくれるものは誰もいなかった。
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バルトフェルド一行をラリーに押し付けたムウがブリッジに帰ってくると、レジスタンスのキサカが、マリューたちと今後の話をしていた。
「しかし呆れたものだな、地球軍も。アラスカまで自力で来いと言っておいて、補給も寄こさないとは…。水や食料ならどうにかなるだろうが、戦闘は極力避けるのが賢明だろうな」
海図を広げながら、キサカは思い悩むように唸る。一介のレジスタンスに過ぎない彼であるが、まぁ言っていることは的を射ているとマリューもナタルも思った。
いくら最新鋭のアークエンジェル級とは言え、アフリカからアラスカへ自力で向かうとなると、一隻で許容できる負荷を容易に越えることとなる。
故に、今ではザフト製だろうが、ジャンク品だろうが、使えるものは使うという方針になっているし、アラスカへたどり着けるならノーサイドで使える情報をかき集めるしかあるまい。
「しかし、インド洋のど真ん中を行くと言うのは、こちらにとっても厳しいぞ。何かあった場合には、逃げ込める場所もない」
ナタルの言葉に、ムウはブリッジの扉を抜けながら「だからだよ」と言って、広げた海図のとある航路を指でなぞった。それは、インド洋を横断し、アラスカへ真っ直ぐと伸びる線だ。
「この航路がアラスカへの最短航路となる」
癪だが、今頃デッキで寛いでいるアンドリュー・バルトフェルドの言った情報は正しかったようだ。アクティブソナーで索敵しても、敵が現れないのは、彼が言った情報の裏付けにもなっている。
「ザフトは領土拡大戦をやっているわけではないんだ。海洋の真ん中は、一番手薄だ。あとは運だな」
「だが、見つかるとちと厄介な相手がいるのも確かだけどねぇ」
そういうと、ムウは端末からとあるデータを読み出す。地上は宇宙と違って地球軍のテリトリーだ。だから、地球で暴れ回れば必然的にその当人の顔は知れ渡ることなる。デッキにいるバルトフェルド然りだ。
ムウが映し出したディスプレイには、髭面で強面の男性が地球軍の潜水艇を撃破した時の写真が写っている。
「紅海の鯱…マルコ・モラシムねぇ…たしかに見つかればややこしそうだ」
そして、そんなムウの言葉は現実のものになるとは、今この場にいる誰も知らなかった。
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《バルトフェルド隊長が行方不明になった報。地球に足つきを降ろしてしまったのは、元より私の失態。複雑な思いです》
そう言って謝辞を述べるクルーゼに、髭面の男は行儀悪くブーツを履いた足を机に投げ出しながら通信音声を聞き、時折苛立ったように鼻を鳴らした。
「ふん!」
《オペレーション・スピットブレイクで、私も近いうちにそちらと合流できるかと。その折りにはどうか、モラシム隊長にも、いろいろとお力をお貸しいただきたく思っております》
そう淡々と告げたクルーゼが通信を切った途端に、髭面の男こと、マルコ・モラシムは苛立ったまま拳で机を叩いた。
「ふんっ!クルーゼめ。こんな通信を送ってくること自体が、下手な挑発だぞ」
クルーゼの言葉を解釈すると、足つきはモラシム隊では厳しいので、クルーゼ隊が合流してから合同で討とうと言うところだ。
たかがナチュラルが作った船がそこまで脅威があるとは、モラシムには考えつかなった。そもそもの話、モラシムはバルトフェルドが苦手だった。妻子の敵であるナチュラルを根絶やしにせずに、理想的な戦闘や戦争を模索する男に、嫌悪感が募る。
ナチュラルは鬼子だ。老若男女構わずに皆殺しにできる核を攻撃手段も、迎撃手段も持たないプラントに撃ち込んだ悪鬼だ。
彼の原動力は、その悪鬼を討ち取ることだけに特化している。そこで、モラシムは卑しく顔をニヤつかせた。
「まぁーよかろう」
かのクルーゼ隊が取り逃がし、やり方はアレだが実力はあった砂漠の虎を撃破して、あの船は紅海に出ている。となるなら、あれを打ち取れば多大な損失を地球側へ与えられるということだ。
「乗ってやろうじゃないか。その流星とやら、足つきと共にインド洋に沈めてやる…!」
そう言って立ち上がるモラシムのことを想像しながら、クルーゼは瞳を閉じた。
彼のことだ。こちらが挑発すれば、事が整う前に撃破して憂さ晴らしと、手柄にしようとでも考えているのだろう。
だが、甘い。
そんな邪心であの流星が落とせるわけがない。
そして、流星を落とせるのも自分だけだ。
その世界に、声だけ大きくて自我で動く兵隊など要らないのだ。クルーゼは笑う。こんな最低最悪で愚かで醜い世界が、あの流星にはどう見えるのだろうか。
一つ言えるのは、モラシム隊が辿る末路がひどい結末ということだけだった。