ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第87話 紅海の激戦3

 

マルコ・モラシムという男は、軍人と呼ぶには些か人間味が強い人物であった。

 

カーペンタリア基地所属であり、グーン隊やディン隊を擁する隊を率いる彼は、「紅海の鯱(シャチ)」の異名を持つ。

 

開戦当時、モラシムは僚機のジン・ワスプらと共に、珊瑚海海戦にて、地球連合海軍艦隊と交戦。艦隊を構成していた旧式駆逐艦を全て撃沈する戦果を上げている。

 

そして、カーペンタリア基地に対する地球軍による一大反攻作戦では、非人道兵器としてザフト内でも敬遠されていたSWBMをボズゴロフ級潜水母艦に搭載し、向かってくる地球軍航空戦力のほぼ全てを撃墜する作戦を展開。

 

ザフトも地球軍も、その並ならぬ執念から、モラシムを紅海の鯱と恐れるようになった。

 

そんな彼を修羅へ駆り立てる原動力。それは妻子家族の死だ。血のバレンタイン事件で自分の愛する家族を失っており、地球連合への恨みは人一倍強い。

 

そんな彼が、地球軍に容赦なく非人道兵器を使う決断をしたのは必然であった。そもそも、地球降下作戦に参加するコーディネーターには、そういったことに躊躇しない傾向が強い。

 

敵地に攻め入り、憎しみを晴らすために戦う軍人が、あまりにも多いのだ。

 

そんな相手に、世界情勢や、戦争が起こったのはお互いに悪いところがあっただとか、血のバレンタインよりも、その報復と行われたエイプリルフールクライシスの方が、死者が多いだとか、そんな論理めいた言葉が届くか?

 

答えは否だ。

 

彼らにとっては、家族が奪われたことが全てであり、それが答えだ。

 

自分の愛するものを奪った相手に、一矢報えるなら、僅かに見える針の穴のようなチャンスに全身全霊をもって突撃する。憎しみを原動力にした人間の底知れない覚悟とパワーは、時には常識すら吹き飛ばす強さがあった。

 

しかし、今回ばかりはモラシムにとって致命的な誤りがあった。

 

憎しみを原動力にしても勝てない相手を、モラシムはまだ知らない。そして知ったときには、その授業料は高すぎるものになるのだ。

 

そして彼がもっとも犯してはならないミスがもう一つ。

 

ストライクを乗せてふらつくような飛行をする流星を見て、それが流星の実力だと見下してしまったことだ。

 

 

////

 

 

 

《聞こえた!座標計測…距離950、グリーン18アルファ!敵艦、潜航中ーーいえ、浮上します!!》

 

エンジェルハートから待ちわびた言葉が届いた。ラリーは振り向くと、バルトフェルドも頷く。機体を切り返した先には、穏やかだった海が泡立ち、巨大な船影が徐々に海面に上がってくる。

 

《浮上までのカウント合わせ!浮上まで10、9、8ーー》

 

通信から聞こえるカウントダウンに合わせて、ラリーはディンを振り切るために、わざと海面スレスレを行くと、下部に設けられた補助エンジンを全開に吹かして、水柱をディンへさし向ける。

 

大した効果はないだろうが、数秒間こちらの動きを察知させなければ上出来だ。

 

「キラ!カウント合わせておけ!パージする準備だ!」

 

「了解!」

 

キラの返事に、ラリーは船影が浮き出す海域の上へまっすぐ、上へ上へと登っていく。すると、ラリーにしか聞こえない声が聞こえてきた。

 

『よーし!敵は虫の息だ!SWBM発射後、ディン隊出すぞ!浮上!』

 

ここだ。と、ラリーは機体を翻すと登っていた機動から潜水母艦に向けて急降下する形へ入った。

 

『海上レーダーに感!機影1ーーいえ、2!足つきの艦載機です!』

 

『なにぃ!?』

 

潜水母艦の艦長らしき野太い声が、驚愕の色に染まっているが、最早遅い。5、4、3ーーーとエンジェルハートからのカウントがあと僅かになった瞬間に、なす術なく浮き上がってきた潜水母艦が姿をあらわす。

 

「見つけた!うおりゃあああ!!」

 

今だと言わんばかりに、ラリーは速力に難があるスピアヘッド・フローターをフルスロットルで急降下させていく。水柱から逃れたモラシムのディンがこちらを狙ってくるが、腐ってもこちらは戦闘機。爆速で急降下する戦闘機をディンのライフルが捉えることは無かった。

 

「1!ストライクパージ!」

 

「パージ!」

 

バルトフェルドの合図に従って、キラもストライクを固定するカタパルトを解除し、まるで見送るように、ラリーのスピアヘッドから後方へ降りていく。

 

『敵機よりモビルスーツが降下してきます!』

 

エールストライカー・ローニンから得られるホバー機動で、キラは降下しながらも安定した機体制御を手にしていた。

 

シートの側面にあるターゲットスコープを引っ張り出して、キラは冷や汗をかきながらスコープを覗き込んだ。

 

「SWBMのサイロはーーあそこか!チャンスは一度!!」

 

ここで逃せば、潜水母艦はより深い深海に潜り、またどこからSWBMをアークエンジェルに打ち込んでくるだろう。もう一度、ソナーを使って探すことはできるだろうが、その前にアークエンジェルが限界に達してしまう。

 

ミサイルの脅威を排除するには、今しかない。

 

『サイロのハッチを閉めろ!緊急潜航!躱せ!』

 

『間に合いません!』

 

集中力が極地に達した瞬間、キラの中で何かが弾ける。スコープでぶれていた発射口が鮮明に見えて、キラは雄叫びをあげながらバズーカの引き金を引いた。

 

「当たれええ!!」

 

放たれたバズーカは、吸い込まれるようにサイロへ入っていき、その後にトドメと言わんばかりに放った弾頭は潜水空母の表面を蹂躙していく。キラのストライクは一度、浮上した潜水母艦に着地し、すぐに飛び上がる。

 

すると、サイロから大きな煙が立ち上り、潜水母艦各所で小さな爆発と揺れが発生し始める。

 

『SWBM、1番サイロに被弾!続いて右舷にもです!』

 

『くっそー!消火急げ!引火したら最後だ!浮上してディンを出せ!叩き落とすんだ!』

 

艦長の言葉通り、サイロとは別のハッチが開くと、そこから出撃準備をしていたディンが次々と空へと打ち上がってくる。まるで、蜂の巣を突いたようだとキラは思った。

 

しかし、事態はより深刻な方向へ転がっていく。

 

『SWBM発射シークエンスに異常発生!ミサイル…発射されます!』

 

『なんだと!?』

 

キラがサイロを破壊したものの、誘爆を免れたSWBMが誤作動で打ち上げられたのだ。轟音を響かせて、大破したハッチから不規則な機動で打ち上がっていくSWBM。

 

それを見たラリーとバルトフェルドは、不味いと顔をしかめた。

 

SWBMは高度に制御された弾道ミサイル。起爆位置も、範囲も計算された上で運用することが大前提の兵器だ。それが、誤作動、しかも不規則な軌跡で飛び上がっていくSWBMは破裂寸前のポップコーンに等しかった。

 

「キラ!戻れるか!?」

 

焦った様子でホバー移動するキラを迎えに行こうとするラリーの前に、モラシムが駆るディンが立ちふさがった。

 

『させるかよ!!足を奪わせてもらう!』

 

「さっきのディンか!!」

 

『ふん!たかが戦闘機ごときが、ディンに勝てると思うなよ!!』

 

そう言うモラシムは、ヘッドオンしたラリーのスピアヘッド・フローターに向けて両手に持ったライフルの銃口を突きつける。

 

普段なら、マニューバーでライフルを躱すことができるが、今回は機体がコブラやクルビットなどのマニューバーに耐えられるものではない。

 

機体下部に付く補助ブースターにより、フローターのような準ホバークラフトもどきの動きができるものの、大きな空気抵抗を受ける機動をすれば、広げたエールストライカーの大型翼が空中分解する恐れがある。

 

どうする…!

 

そうバルトフェルドが考えていた中で、ラリーは「マニューバーをしない」という選択肢を即座に選んでいた。

 

準ホバークラフトもどきの動きができるならーーそう考えた軌跡を、ラリーの手は何のロスもなく操縦で表し、機体は鋭く反応した。

 

「うおおおお!!」

 

凄まじい横G、コーヒーカップに乗り込んだようーーなんて生易しいものではなく、瞬間的に脱水をする洗濯機に放り込まれたような凄まじい衝撃とGがバルトフェルドに襲いかかる。

 

目を開けることもままならない中で微かに見たのは、両足を翼端に備わるビームサーベルで両断されたディンの哀れな姿だった。

 

『な、なんだ!?その機体の動きは…!!』

 

少しのストールからラリーは何事も無く機体を持ち直し、軽く振り返りながら聞こえないであろう声をかける。

 

「悪いな、先を急いでるんだ!」

 

なんだ?

 

何が起こったんだ?

 

バルトフェルドは急激なG変化に僅かに呆けながらも、ぼやける視界で複座に備わるオペレーションモニターを見た。そこには、翼端の限度値を測定するために表示していたスピアヘッド・フローターの機動モニターがあった。

 

それを見て、バルトフェルドは言葉を失う。

 

この機体は、コブラやクルビットという特殊な機動をしたわけじゃない。動きとしては単純。

 

ラリーは、この流星と呼ばれる男はーー

 

ホバークラフトのように自由機動で、スピアヘッドをその場で旋回させ、その旋回力でモラシムのディンの脚部を両断したのだ。

 

それはまるで、モビルスーツがビームサーベルを横薙ぎに振り回すような動きでーーそんな動きが戦闘機に可能なのかとバルトフェルドは表示された現実を疑うしか無かった。

 

『くそ!脚部が!おのれナチュラルがぁ!!』

 

背面と脚部のスラスターに機体制御を依存しているディンは、両足を失ったことで機体を持ち直すことができなくなっているようだった。

 

喚き散らすモラシムを無視して、ラリーは空中で滞空するキラのストライクの元へと急ぐ。

 

「キラ!!バルトフェルド!いいな!!」

 

チャンスは一度だと言うラリーの声に、呆けていたバルトフェルドは自分のやるべきことへ意識を向け直した。

 

「捉えた!レーザー誘導!!」

 

「相対速度、コンタクト!!決めろよ、キラ!!」

 

脚部からのレーザー誘導に従い、速度を合わせたストライクが再びスピアヘッド・フローターのカタパルトへ足を着地させる。

 

ストライクが着地した瞬間、アラームが忙しく鳴り響いたが、今は構ってる暇はない。

 

「よしっ!受け止めた!下がれ下がれ!!」

 

キラを回収したラリーは、機体を極低空飛行へ移行し、アークエンジェルに逃げるように飛び去っていく。

 

キラが打ち上がったミサイルを見上げた瞬間、不規則な軌跡で打ち上がっていたSWBMは閃光を放ち、大きな音を上げて空に花を咲かせた。

 

「うひょおおおお!!」

 

閃光がストライクのコクピットのモニターを覆い隠し、衝撃波の余波はスピアヘッドを大きく揺さぶる。何度か翼が海面に接触したが、ラリーは類稀なる操縦技術で、なんとかスピアヘッドを海面着水させずに飛ばすことができた。

 

そしてーー

 

『おのれ…こんな奴らに…ぬぁあああ!!?』

 

機体制御を失ったモラシムの機体と、射出されたばかりのディン隊は発進直後に、皮肉にも自らが導入したSWBMの衝撃を、もろに受けることになった。

 

膨大な気化燃料から発せられる衝撃波は、モビルスーツをいともたやすく鉄くずへと変え、潜航が間に合わなかった潜水母艦を撃沈するには十分な威力を誇っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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